第5話 幽霊

「うーん、なんか合成感が否めないなぁ……」

 評論家のように福乃さちのちゃん呟いた。

 今、私芥川愛花あくたがわいとはなは同じシェアハウスの住人である十六夜撫子いざよいなでこ花咲福乃はなさきさちのとともにテレビの心霊現象スペシャルをソファーに座り見ていた。撫子と福乃ちゃんは、ホラー系には強いが私はそうでもない。現状、福乃ちゃん曰く合成感が強いという心霊写真から、少し目をそらしている。

「確かに、ちょっと幽霊の顔色が良すぎるわね。もうちょっと白く化粧すればいいのに」

こんな感じに撫子と福乃ちゃんは、紹介される写真を見ながら、ああだこうだ議論している。二人とも、よく冷静に見れるな……。

「そう言えば、なんで女の幽霊って大抵白っぽい服装で髪が長いのかしら?」

 撫子がぽつりと疑問をこぼす。

 言われてみれば、先程までにテレビで紹介された心霊写真や心霊体験で女性の幽霊の大半は、撫子が言ったような白い服に長い髪の人物が多かった。過去に聞いたことのある怪談でも、女の人も似たような特徴だったような気もする。

「なんでって、それが怖いからじゃないの?」

 私は、素直にそう思った。少なくとも、髪が短くて金髪でパーカーとか着ているよりは怖いと思うのだが。

「でも、怖がらせたいなら、もっと怖ろしい格好でもいいんじゃない? もっと血まみれだったりするとか。極論、人間離れした腕が六本あるとかでもいいでしょう?」

 確かに、撫子の説も一理あるかもしれない。もっと刃物を持っていたり、性別を変えて男性にし、屈強な体格にしまった方が命の危機を感じて、怖さは増幅されるだろう。

「でも、それだとリアリティが足りなくないですか? なんか自分の世界とは関係のない、ファンタジーのように感じられるから、かえって怖くないと思うんです」

 なるほど。福乃ちゃんの言うことももっともだ。

 心霊現象が怖く感じるのは、身近で起こりそうだからというのも強いだろう。もしテレビを見ている今まさにこの瞬間、振り向いたら霊がいる……。そんな感覚は、ゾクゾクとした恐怖をもたらす。いや、個人的にはそんなものいらないんだけど。

「でも、映画とかでも幽霊じゃなくて別の怪物が現れて……って作品もあるじゃない」

「ああ、そう言うのもあるわね」

 幽霊が出てくる映画はほとんど見ないが、そのような映画ならいくつか見たことがある。あれもあれで、怖かった。

 あまり思い出すのは気が進まないが、それらの映画を思い出してみる。

「撫子、そういう映画で恐怖を感じるのも、やっぱりリアリティだと思うわ」

「……怪物の設定がよくねられてるからとか?」

「それもないとは言わないけど、怪物が出てくる状況がリアルだと思うの。登場人物がどんな人間で、どんな生活を送っているか。それがリアルだから、『こんなことが本当に起きるかも』って思って、怖いんじゃないかしら」

 ゾンビ映画なども、平凡な日常に突如として現れる怪物が現れる。その日常にリアリティがあり、それが壊れていくのが、怖く感じるのだろう。また、宇宙船などが近未来的な舞台の場合も、その未来に生きる人物のリアリティのある息遣いきづかい。そういう昔からの努力が、より強い恐怖に繋がるのだろう。

「なるほどねぇ。やっぱり面白いものには何かしらの理由があるのね」

 そういいながら、撫子はカシュッと本日三缶目のチューハイを開けた。明日、朝から大学の講義があると言っていたはずだが、大丈夫なのだろうか?

 ホラー映画だけでなく、他にも多種多様にある人を楽しませているもの。それらには、きっと何か理由があるのだろう。それは伝統を守り、昔からの努力を受け継いでいるからかもしれない。もしくは、誰も挑戦したことのない斬新なものだからかもしれない。

 なんにせよ、人を楽しませるものには、作品だけが必要なのではないだ。きっとそこには、誰かを楽しませたいという人の想いだって重要なのではないだろうか。

 ……できれば、怪談の文化はもう少し優しい感じで楽しませてほしいが。

 そんなことを考えていると、玄関の明かりがついた。我が家の玄関のライトは、便利な人感センサー形式だ。人が来れば灯りがつく。誰か帰ってきたのかもしれない。そう思って、玄関に向かってみるが……。

「だ、誰もいない……?」

 ホラーの話をしていただけに、嫌な汗が背中を伝う。まさか、本当に?

「大丈夫よ、愛花いとはなちゃん。人感センサーって虫にも反応するらしいし」

「なんだ、ビックリした」

 ほっと胸をなでおろす。幽霊じゃなくて虫かぁ。

 ……ん?

「「「虫!?」」」

 三人が口をそろえてそう叫んだ途端に、天井からかなり大きな蜘蛛が降ってくる。

 シェアハウスは、心霊番組を見ていた時よりも数倍の恐怖に包まれた。

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