アリスたちがゲンムをいかけ回廊かいろうけているころ、彼女達かのじょたちからげてきた魔女まじょ玉座ぎょくざへとやってる。

「ちょっと油断ゆだんしちゃっただけよ。そうよこのわれはスペードの国一強くにいちつよくてうつくしくかしこ魔女まじょなんだから。とにかくこのままでわるものか。あいつこと女王様じょうおうさまつたえてなんとかしてもらわねば」

かんがえをめぐらせよいこたえにくとにやりとわらう。そして玉座ぎょくざすわ女王じょうおうそばへとっていった。

女王様じょうおうさま

「……」

魔女まじょがすっと敬礼けいれいすると女王じょうおう不機嫌ふきげんそうなかお彼女かのじょやる。

侵入者しんにゅうしゃをここまでむとは、どういうつもりなのかしら」

「これはわれのせいではありません。ドロシーややみアリスが失態しったいおかしたせいです」

りんとした女王じょうおういかけに魔女まじょのがれしようと必死ひっし言葉ことばはっした。

「ほぅ。すべてはドロシーたち失態しったいのせいだとうのね」

「そうです。われはけっして失態しったいおかしてなどおりません」

ほそめてわれた言葉ことば魔女まじょ力強ちからづうなづこたえる。

わたくしかくごとつうじるとでもおもったか。おまえがぶざまにけた姿すがたをこのかがみごしにていたのよ」

「っ! あ、あれはけたわけではございません。そうよけたふりをしただけ。けたようにせかけてあいつわなにはめるんです」

うつくしい眉毛まゆげ苛立いらだちをあらわにした女王じょうおう言葉ことば魔女まじょ一瞬いっしゅんひるむもいわけをつづけた。

「なるほど。そしてわたくし侵入者達しんにゅうしゃたちをどうにかしてもらおうなんてかんがえているだなんて、まったしつけがましいことこのうえないわね」

「じ、女王様じょうおうさま。われに今一度いまいちどチャンスをください。さすればあいつたおしてごらんにれます」

玉座ぎょくざからがった女王じょうおうへと魔女まじょ必死ひっしにチャンスをもらおうとねがう。

「ふん。いまさらそのような言葉ことばいたところでしんじられるか。ゲンム、おまえしたのはわたくしよ。おまえあさはかなかんがえなどすべてお見通みとおしだ。わたくしによりされたのだ、失態しったいおかしたのだからそれそうおうのばつけるがよい」

女王様じょうおうさま! どうか、どうか今一度いまいちど――」

やみそこへとかえれ」

魔女まじょまえへとあゆってきた女王じょうおう言葉ことばにゲンムは必死ひっしいのちごいをする。

しかし女王じょうおうみみもたないといったかんじでつめたくはなつと左手ひだりてした。

「「「「「!?」」」」」

すると魔女まじょ姿すがた跡形あとかたもなくうせせる。玉座ぎょくざへとんできたアリスたちはその光景こうけいおどろあしめた。

魔女まじょが……」

「どうして?」

「あれはわたくしつくしたわたくしかげだ。だから必要ひつようなくなればやみそこかえすこともわたくし自由じゆうなに問題もんだいでもあるか」

時計とけいうさぎがつぶやきをこぼすとなぜそんなひどいことをするのかといたげにアリスがたずねる。それに女王じょうおうはいたって冷静れいせい態度たいどこたえた。

魔女まじょ女王様じょうおうさまかげ? それってどういう意味いみなの」

「お前達まえたちおしえるすじあいはない。それよりよくここまでたどりいたな。それはめてやろう。だが、わたくしところにきたのがお前達まえたちうんきだ。このままだまってかえすことはできない。みなここでつかまるのだ」

アリスがさらにたずねた言葉ことばにはこたえずに、威厳いげんたっぷりにそう宣言せんげんすると右手みぎてす。

「「「「!?」」」」

瞬間しゅんかんアリスたちからだをいばらのつるつるげられる。

「ぼうしいままでご苦労くろうだったな。おまえにはそれそうおうの褒美ほうびをつかわそう」

「ぼうしさん。どういうこと?」

唯一魔法ゆいいつまほうけていないぼうしへと女王じょうおう微笑ほほえはなす。その言葉ことばにアリスは不思議ふしぎそうにたずねた。

「お前達まえたちには関係かんけいのないこと。……だがここまでれたのだからな、褒美ほうびおしえてやろう。ぼうしわたくしまも四天王してんのうのうちの一人ひとり、ルキア・ハット・ジャスティン。わたくし信頼しんらいする忠実ちゅうじつ部下ぶかだ」

「ぼうしさんが……スペードのくに女王じょうおうまも四天王してんのうのうちの一人ひとりだったなんて!?」

俺達おれたちをだましていたのか」

「いかれぼうしのふりをして僕達ぼくたちことをずっと見張みはっていたってことだね」

女王じょうおう言葉ことばにいもむしがおどろきとしんじられないといったかおでぼうしる。

チェシャネコが苛立いらだたしうと時計とけいうさぎがかんがぶかげなかおつぶやく。

「ぼうしさんが……ずっと私達わたしたちことをだましていたなんて。そんなの……」

「ええ、そうね。そんな事信ことしんじられないわよね。でもそれが事実じじつなの。わたくし命令めいれいけたぼうしはハートのくににスパイとしておくまれた。三年問さんねんかんもの時間じかんをついやしたが、ハートのくに女王じょうおうやお前達まえたちからの信頼しんらい油断ゆだんさせ、仲間なかまだとおもわせることに見事成功みごとせいこうした。そして頃合ころあいを見計みはからい今回こんかい計画けいかく実行じっこううつしたの」

アリスはしんじがたい事実じじつ困惑こんわくうつむく。その姿すがた満足まんぞくそうにやり女王じょうおうがそう説明せつめいする。

「ええ、貴女あなたじつかしこく、そしてかりないおかたです。ハートのくににスパイをおく行動こうどう監視かんしさせ、お嬢様達じょうさまたちたびをずっと見張みはらせ情報じょうほうてきました」

ぼうしがにやりとわらうとアリスのまえへとあゆる。

「きゃっ」

そしてアリスのからだくいばらをナイフでくとちてきた彼女かのじょからだささほほにキスをとす。

「ですが……そんな貴女あなた唯一ゆいいつ誤算ごさんは、オレが本気ほんきでお嬢様じょうさまきになってしまったことを見抜みぬけなかったということですかね」

そしてにこりとわら女王じょうおうへとはなった。瞬間時計しゅんかんとけいうさぎたちからだくいばらのつるる。どうやらぼうし魔法まほう効果こうかしたようだ。

「っ!?」

貴女あなたはこの国一強くにいちつよ魔法使まほうつかいですが、オレにてたことはなかったですよね」

女王じょうおうなにかに気付きづくちびるしめにくらしいでぼうしにらむ。静止せいし魔法まほうをいつのにか発動はつどうしていたかれがにこやかな笑顔えがおくずさずにそうった。

「…………」

「おやおや、チェシャネコそんなにこわかおにらまないでくださいよ。オレはてきではないのですから」

するどにらむチェシャネコへとぼうし確信犯かくしんはんかおをしてう。

べつにらんでなどいない。ただアリスからはやはなれろ」

「はいはい。チェシャネコをおこらせないうちにはなれますよ」

いまにもりかからんいきおいのチェシャネコの様子ようすに、これ以上彼いじょうかれ気持きもちをさかなですると本気ほんきられるとおもったぼうし残念ざんねんそうにアリスからはなれる。

「まさか信頼しんらいしていたおまえにまで裏切うらぎられるなんてね」

「おや、それはちがいます。クローバーのくにおうもドロシーもやみアリスもオレもけっしてあなたを裏切うらぎったわけではございません。ただみんな嬢様じょうさまこころうごかされたのです。ですからお嬢様じょうさま協力きょうりょくしたのですよ」

女王じょうおう溜息ためいきった言葉ことばにぼうし否定ひていするとそうこたえた。

「アリス。大丈夫だいじょうぶ?」

「はっ。だ、大丈夫だいじょうぶよ。スペードの女王様じょうおうさま。どうしてハートの女王様じょうおうさまたましいゆめ世界せかいめたりなんかしたの?」

時計とけいうさぎが心配しんぱいそうにたずねた言葉ことばでキスをされた気恥きはずかしさでかたまってしまっていたアリスは現実げんじつへともどるとそうたずねる。

「……わなかったからゆめ世界せかいめた。それじゃいけないかしら」

「っ! そんな身勝手みがって事許ことゆるされるわけない。もうこれ以上いじょうたたかっても無駄むだでしょ。だからいますぐにハートの女王様じょうおうさまにかけたのろいをいて」

皮肉ひにくみをかべてわれた言葉ことばにアリスはいかりをおぼえたが、ここでへたにしてはハートの女王様じょうおうさまたすけられないとおもはないをちかけた。

のろいをかけたのは魔女まじょよ。わたくしがそれをくことはできない。あきらめることね」

「そんな……」

女王じょうおう言葉ことばにアリスは絶句ぜっくする。

「だいいち、どんなにおねがいされたところでハートの女王じょうおうのろいをくつもりなんてないわ。残念ざんねんだったわね」

「っぅ、もうゆるせない。いますぐハートの女王様じょうおうさまにかけたのろいをいて! なんでそんなひどいことをするのよ。身勝手みがって事許ことゆるされるわけないわ」

いやなみをかべてわれた言葉ことば堪忍袋かんにんぶくろれたアリスは女王じょうおううでをつかみってかかる。

「っ、わたくしれるな!」

「!?」

女王じょうおう怒鳴どなるとともにぼうし魔法まほう効果こうかけアリスはおもいっきりりはがされた。しかし彼女かのじょはそのときあることに気付きづおどろく。

女王様じょうおうさま……貴女あなたまさか……」

「…………」

見開みひらおどろくアリスの様子ようす女王じょうおう無言むごんになるといずまいをただす。

「ああ、そうだ。女王じょうおう本当ほんとうおとこだ。だがこのスペードのくに女王制度じょうおうせいど下国もとくにおさめてきた。最初さいしょまれてきたおとこだとられれば国中くにじゅうさわぎになり、政権せいけんねらものまであらわれるかもしれない。そうおもったお母様かあさまわたくしおんなとしてそだてた」

女王じょうおうはしばらくだまったままだったがあきらめた様子ようす真実しんじつかたりだした。

「そしてわたくし王位継承おういけいしょうしてから数年すうねんがたち双子ふたご姉弟していまれた。お前達まえたちもあっただろう。四天王してんのう勝手かって名乗なのって勝負しょうぶをしたのはわたくしいもうとおとうとだ」

魔女まじょちゃまと魔法使まほうつかいちゃまが女王様じょうおうさま姉弟していだったのね」

女王じょうおう言葉ことば四天王してんのう名乗なのたたかいをいどんできた双子ふたごおもしアリスはつぶやく。

待望たいぼうおんなまれたのになぜ王位継承者おういけいしょうしゃをかえなかったの?」

「お母様かあさま双子ふたごんだあとすぐにくなった。だから王位継承おういけいしょうえることができなかったんだ。それにわたくしはそのときすでに女王じょうおうとして三年間さんねんかん政治せいじ経験けいけんしていた。そしてまつりごとがいかに大変たいへんなのかをっていた。だからいもうとには自由じゆうきなことをしてきてもらいたいとおもったの。だから王位おういゆずることはしなかった」

時計とけいうさぎの疑問ぎもん淡々たんたんとした口調くちょう女王じょうおうこたえる。

いまならちゃんとはなしてもらえるわよね。どうしてハートの女王様じょうおうさまたましいゆめ世界せかいめたりなんかしたの」

「……わたくしまれながらにしてずっとおんなとしてそだてられ、女王じょうおうとしてきるみちしかなかった。そのためにわたくし本当ほんとう自分じぶんててきてきたわ。でもハートの女王じょうおうおんなとしてまれて、何不自由なにふじゆうなくきている。最初さいしょからおんなとしてまれてきて女王じょうおう地位ちいたのがうとましかった。にくかった。わたくしきていくためにすべてをてておとこなのにおんなとしてきていかなくてはならないのに、ハートの女王じょうおうなん苦労くろうもすることもなくのほほんとしあわせにらしている。それがゆるせなかったのよ」

しずかな口調くちょうでアリスがたずねると女王じょうおう数秒考すうびょうかんがえるようにだまんだ後理由あとりゆうかたってくれた。

「そんなの貴女あなた身勝手みがってじゃない。ハートの女王様じょうおうさまだって不自由ふじゆうなくのほほんと王位おうい継承けいしょうしたわけじゃないわ。わたし女王様じょうおうさま一番いちばんのお友達ともだちだからっているの。ハートの女王様じょうおうさまにはお姉様ねえさまがいらしたの。本当ほんとう王位おうい継承けいしょうするはずだったのはお姉様ねえさまだった。でもそのかた流行はややまいくなり、十歳じゅっさいだったハートの女王様じょうおうさま王位おうい継承けいしょうすることとなった。王位おうい継承けいしょうするはずじゃなかったから王族おうぞく作法さほうからまつりごとまで全部ぜんぶ一気いっきおぼえなくてはならなくなり大変たいへんだったっておしえてくれたの。みんなのぞんでいたのは本当ほんとう自分じぶんではなくお姉様ねえさまほうだったってとてもかなしそうなかおはなしていたのをいまでもおぼえている。だからお姉様ねえさまはこうだったとかお姉様ねえさまほうのが勉強べんきょうができたってわれるたびに、いまはいないお姉様ねえさまかげおびえて、でも必死ひっしいこそうとして。努力どりょくしてきたんだって。そうしていまはようやく普通ふつうわらえるようになったんだってっていたわ」

「そう……ハートの女王じょうおうが。私何わたくしなにらないで勝手かって嫉妬しっとしてにくんでバカみたい」

アリスがくび否定ひていするとそうかたる。その言葉ことばいた女王じょうおう自分じぶん皮肉ひにくわらった。

「……アリス。貴女あなたちね。みんな貴女あなた味方みかたする理由りゆうがよくかったわ。そのっすぐなまでの純粋じゅんすいこころに、ひとにくまずしんじぬこうとするやさしさ。相手あいておもいやるあたたかな言葉ことば。バカがくほどお人好ひとよしな性格せいかく完全かんぜんわたくしけよ。ハートの女王じょうおうにかけたのろいをいてあげるわ」

女王様じょうおうさまがとう」

ちいさく溜息ためいきこぼすとそうって微笑ほほえむ。その言葉ことばにアリスはこころからのおれい言葉ことば女王じょうおうきついた。

それに一瞬躊躇いっしゅんためらった様子ようすだったが彼女かのじょれそっと右手みぎてをアリスの背中せなかへとまわかえす。

こうしてハートの女王じょうおうにかけられたおそろしいのろいをことができ、アリスたちはハートのくにへともどってった。


 アリスたちがハートのくにへともど道中どうちゅう。クローバーのくにへとしかかる。

「アリスちゃん。おかえり~」

「きゃあ」

可愛かわいらしいこえこえてきたかとおもうとアリスの右腕みぎうできつくパティ。おどろいた彼女かのじょ悲鳴ひめいをあげバランスをくずしそうになったからだととのえる。

「お、王様おうさま。どうしてここに」

「アリスちゃんたちがスペードのくにったあとからずぅ~っと心配しんぱいして見守みまもっていたのよ。スペードの女王じょうおうこころまでうごかしちゃうなんてさすがわたしがったアリスちゃんだわ」

きつかれたままの体勢たいせいでアリスがたずねると王様おうさまがそうってこた頬擦ほおずりをした。

王様おうさまいい加減かげんアリスからはなれてよね。アリスがこまってるじゃないか」

「はい、はい。貴方達あなたたちをからかってあそぶのとってもたのしいけど、本気ほんきおこられちゃいそうだからこのへんめてあげるわ」

時計とけいうさぎの言葉ことばにパティはちいさく溜息ためいきくとアリスからはなれる。

「でもまさかスペードのくに女王じょうおう本当ほんとうおとこだったなんてね」

王様おうさまはその真実しんじつらなかったのですか?」

王様おうさま言葉ことばにアリスはらなかったことにおどろたずねた。

らないわ。だってそこまでなが一緒いっしょにいたことなかったし、うのだって一カいっかげつ一回いっかいとかだったし。どうりでパティーの事避ことさけてるなっておもっていたのよね。正体しょうたいがバレルのをおそれていたんだわ。でもわたしやドロシーのことすんなりれてくれたのは女王自身じょうおうじしん秘密ひみつがあったからなのね」

「そうですね。自分じぶんおとこなのにおんなとしてきていることもあり、おとこなのにおんな格好かっこうをする王様おうさまやドロシーのことにたいしてとくになんともおもっていなかったからかもしれないですね」

「そうだとおもうわ。だからパティーやドロシーのこと自由じゆうにさせてくれていたんだとおもう」

パティがあっさりとらなかったことをみとめるとそうってわらう。

その言葉ことばいたぼうしがスペードの女王じょうおうならそうおもうところがあったのだろうとはなすと王様おうさま同意どういしてうなづく。

「アリスちゃんたちこれからハートのくにかえるんでしょ。ならわたしがちかくまでおくとどけてあげるわ」

「まさか……」

にこりとわらわれた言葉ことばにチェシャネコが半眼はんがんになりつぶやく。

転移魔法てんいまほう使つかってハートのくにちかくまでおくってあげるのよ」

「やっぱり」

むねわれた言葉ことばかれ予想よそうたったことに溜息ためいきこぼす。転移てんいするときなんともえない感覚かんかくはどうやら苦手意識にがていしきったようで、あれにることになるのをかんがえるとあたまいたくなるようだった。

「さあ、それじゃあそこにって……アリスちゃんたちまたいつでもあそびにきてね」

「ええ、もちろん。またあそびにるわ。でももうファッション勝負しょうぶはいやよ」

「え~。アリスちゃん何着なにきても似合にあうからまたせかえしてあそびたいのに~。まあ、いいわ。今度来こんどきたらこの国一くにいちおいしいレストランでおちゃしましょう」

「ええ」

名残惜なごりおしそうにはな王様おうさまへとアリスもすこさびしげにこたえる。

「……それじゃあ、バイバイ。またね~」

転移陣てんいじん構成こうせいわったようでアリスたち足元あしもとしろひか魔法陣まほうじん出来上できあがった。パティのこえ最後さいご彼女達かのじょたち姿すがたはそこからえる。

ふたた姿すがたあらわしたのはハートのくに城下町じょうかまちちかくのもり。アリスたち見慣みなれたこの光景こうけいなつかしさをおぼえた。

かえってきたんだわ」

「うん。そうだね」

アリスの言葉ことばにしみじみとしたかんじで時計とけいうさぎもうなづく。

「いや~。ずいぶんとながたびになったねぇ」

「そうだな」

「これでようやくゆっくりとおちゃたのしむことができますね」

かんがぶかげにいもむしがうとチェシャネコが同意どういする。ぼうしゆるんだ様子ようすはなすと微笑ほほえむ。

「さあ、おしろかいましょう」

アリスが満面まんめん笑顔えがおった言葉ことば時計とけいうさぎたち笑顔えがおこたもりなかけてく。

彼女かのじょはハートの女王じょうおういたいとおもはやまる気持きもちをおさえて必死ひっしはしった。城下町じょうかまちけて野原のはらけてそしてえてきたなつかしいおしろ外観がいかんにアリスたちあしはさらに加速かそくする。

「おかえり。アリス、時計とけいうさぎ、いもむし、チェシャネコ、ぼうし君達きみたちかえってくるというらせをいてずっとここでっていたんだ。アリス、きみにとってはとても大変たいへんたびだったろう。本当ほんとうにおつかさま

大変たいへんだなんてそんなことないわ。わたしそばにはいつもたよりになる素敵すてき仲間なかまがいてくれたんだもの」

もんまえにはダイヤのくにおうっており、アリスたち姿すがたとらえると微笑ほほえたび苦労くろうをねぎらう。

その言葉ことばにアリスは仲間達なかまたちやり笑顔えがおかたる。彼女かのじょ言葉ことば時計とけいうさぎたちがとてもうれしそうにそしてほこらしげにわらった。

みんなのおかげでハートの女王じょうおうのろいは昨日目きのうめましたんだ。さあ、なか女王じょうおうっている。こう」

ダイヤのおううとアリスたちしろなかへとはい玉座ぎょくざへとかう。

女王様じょうおうさま!」

「アリス、おかえりなさい。あなたのおかげでゆめ世界せかいから目覚めざめることができたわ。がとう」

玉座ぎょくざすわるハートの女王じょうおうもとへとアリスがると彼女かのじょがり両手りょうてひろびついてきた彼女かのじょめる。

みんなたすけてくれたからよ。だから私頑張わたしがんばってこれたの」

「そう。時計とけいうさぎ、いもむし、チェシャネコ、ぼうしもご苦労くろうだったわね。そしてアリスをまもってくれてがとう」

なみだかべながらはなしたアリスの言葉ことば時計とけいうさぎたちへと視線しせんけたハートの女王じょうおう微笑ほほえれいべた。

「アリスのためならぼくはいつでもちからすさ。女王様じょうおうさまのろいがけて本当ほんとうかったよ」

「ぼくもアリスさんのためならまたいつでも危険きけんたびにだって同行どうこうするよ。女王陛下じょうおうへいか具合ぐあいわるくなさそうで安心あんしんしました」

時計とけいうさぎが笑顔えがおうといもむしもそうはなしてキセルをかす。

「アリスにたすけてもらった。だからおれがアリスをたすけるのはたりまえだ。女王様じょうおうさま。アリスはずっとあなたのことを心配しんぱいしていました。もう大丈夫だいじょうぶだって安心あんしんさせてあげてください」

「オレたちみんな嬢様じょうさまことが好(す)きですから、お嬢様じょうさまをおまもりすることは当然とうぜんです。ハートの女王様じょうおうさま無事ぶじ目覚めざめられてかったです」

チェシャネコが愚問ぐもんだとでもいいたげにうと、ぼうしもそうはなして微笑ほほえむ。

「ふふ。本当ほんとうにみんなアリスのこときなのね。アリス、とってもたのもしい仲間達なかまたちたすけられてきたのね。あなたたち頑張ばんばってくれたからわたくしはこうしてここに元気げんきっていられるの。本当ほんとうがとう」

女王様じょうおうさま本当ほんとうにもう大丈夫だいじょうぶなのね。よかった……」

ハートの女王じょうおう微笑ほほえむと安心あんしんさせるようにアリスにそうかたる。その言葉ことば彼女かのじょはほっとしてかたちからけると笑顔えがおでそのにへたりむ。

「「「「アリス?」」」」

「アリスさん」

「お嬢様じょうさま

へたりんだアリスへとみんなおどろ心配しんぱいしてこえをかける。

「ふふ。ごめんなさい。ハートの女王様じょうおうさま無事ぶじだってわかったらがぬけちゃって。……あ~こわかった。あはははっ」

めていたものがけた途端とたんいままでかんじていなかった恐怖きょうふ一気いっきかんじたようでそうってわらう。

そんな彼女かのじょ様子ようすにこのにいたみんながつられてわらいだす。しばらくの間明あいだあかるいわらごえ玉座ぎょくざひびわたる。

かくしてアリスのながたびおわわりをつげました。あかよろいにまとい一振ひとふりのつるぎった女冒険者おんなぼうけんしゃこと人々ひとびとは「くれないはな」とたたえ、その功績こうせきひとづてにかたがれていったのでした。

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