ウォーキングデッド ノブナガッ！

ウォーキングデッド ノブナガッ！

　轟音ッ！！

　悪の組織「英雄再生研究所」は、爆炎を上げて破裂したッ！！

　英雄再生研究所の上げる爆風を背に受けて、1人の男が悠々と歩いてくる。しっかりとした足取り、威風堂々とした衣装、ひょろりと縦に長い体格、腐り溶けていく皮膚、そして極め付けに、知性を失い濁ってもなお鋭く輝く眼光！

　知名度ッ！　人気ッ！　実力ッ！　ゾンビと化しても尚放たれるカリスマッ！　どれを取っても特級ッ！

　彼こそが日本のKing of King！　King of 戦国（war）！　すなわち、War king Dead 信長である！！

「人生ィイ……五十ゥ……ネェェエエエン……」

　信長の声は重低音を伴って田舎道へ響き渡き、田んぼに張られた水鏡という水鏡全てをぐちゃぐちゃにかき乱す。

　炎上する英雄再生研究所を背景に歩く信長ゾンビは、まさに本能寺より蘇った英雄ッ！信長が歩くたびに、農作業中の老人は1人、また1人と農道に、田んぼに平伏（ひれふ）す。

「織田……信長……」

「織田、信長」

「織田　信長ッ！」

「儂等の王！」

「死者の王！」

「KING OF DEAD！」

「信長様！」

「信長様ッ！」

「信長様ッ！！」

　カリスマッ！

　信長ゾンビの溢れてるカリスマ性は、一瞬で老農夫達を魅了したッ！　信長の通った後には、信長に心酔した者しか残らないッ！　翁、嫗、親、子供！　更に犬猫鳥、稲ッ！！　全ての生き物は信長ゾンビに魅了されたッ！！

　道々に平伏して並ぶ老農夫達を尻目に、信長ゾンビは堂々と足を進める。

「余ォがアアァ……織田ァ……信ゥ長ァ……」

「信長様ッ！」

「信長様ッ！」

「信長様ッ！」

「信長様にッ、続けェェエエエ！！」

　快進撃ッ！　農作業で鍛えた足腰は、老人とは思えぬスピードを発揮するッ！　信長ゾンビと信奉者の軍は、京都を目指し進軍を開始した！

　片田舎の村から京都までわずか3時間。この狂った進軍速度ッ！　平和ボケした日本人には、あまりにも早すぎたッ！　信長ゾンビ軍は道を、川を、都市を飲み込み、日本に生きる全ての生物（せいぶつ）は信長ゾンビの信奉者となった。つまりッ！　日本は信長ゾンビのものとなったのだ！

　これぞ天下統一ッ！　生前の信長が成し遂げられなかった偉業を、信長ゾンビが叶えた瞬間であるッ！！

　信長ゾンビの信奉者達は、信長ゾンビの庇護下で皆信長を崇め、幸せに暮らす事が許されたッ！　何という幸福、何という慈悲ッ！　信長は日本人全てを幸せの底に叩き込んだッ！！

　完璧な幸福を得た日本の生物達は皆、信長ゾンビのための勤労を開始した。今や政治すら信長Firstッ！　万物は信長ゾンビのために存在すると言っても過言ではない！　実に幸福な生活であったッ！

　東京に作られた信長ゾンビ御殿では、今日も素晴らしく幸福な民達が信長ゾンビを崇めにやってきている。信長ゾンビを見ると、一月幸福に暮らせるッ！　まさに福音ッ！　信長ゾンビに謁見しないなど考えられないッ！　

　信長ゾンビこそ人生の目的ッ！　憧れッ！　夢！　希望！　そして愛ッ！！　王を讃えよッ！！

「信長様ッ！」

「信長様ッ！」

「信長様ッ！」

　　全国民が信長ゾンビを称える様は、まさに大信長時代であるッ！　死者にして王たる織田信長を崇めよ！！

　なお日本の信長時代到達へ恐れをなした諸外国からゾンビチンギス・ハーンやバイオジョージ・ワシントンといった再生英雄が刺客として送り込まれてくるのだが、まったくの余談のため本作では割愛する。