珈琲 道中

スマホで少し調べたらこのアパートからほど近い場所に豆も取り扱ってる店があるっぽい。


基本的に出歩く事をしない私はとりあえず服がない。出歩くための服がないのである。


けど、ま、なんでもいいや精神でジーンズとTシャツ、パーカに着替えて持ち物確認。


スマホ、よし。財布、よし。あと……本でも持ってくか。


朝から出かけるなんて何時ぶりだろうか。何か用事でも無ければ出歩かなかったし、その用事も自ら作ることなんて無かった。


今日は天気がいい。


………そういえば私はいつも下を向いて歩く癖があるな。何時からこうなのか分からないし、元からだったかもしれない。


意識しよう。上をむく。


首を上げれば空の青が一面に広がって、色んな音が聞こえてくる。


小鳥のさえずり、車のエンジン音、私の足音、そして、私の呼吸。


それらは私の周りだけのBGMみたいだと思った。


ゆっくりと歩き、桜通りまで来て、私は足とものくすんだピンクが目に付いた。


少し苦笑い。また、下向いて歩いてる。癖は直ぐに治りそうにない。


足を止め、目を瞑り、大きく息を吐く。そしてまた顔をあげる。


私は後悔した。今までに。そして、感動した。


満開の桜が、ズラリと並んで、そこだけ別世界の様な特別があった。


川を跨ぐ橋の真ん中から、川を見れば両サイドを一直線にどこまでも、どこまでも続く桜並木。


月陽は自分でも気づかない笑みを浮かべた。


小さな幸せを感じていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る