第10話 彼だけの傘
月の見えない夜に、雨が降った。
スケアクロウがいつかの別れを思い出していると、傘を差したお嬢さんがやってきた。夕焼け色の長い髪は、雨のせいでなびかなかった。
「ねぇスケアクロウ。私、お嫁にいくことになったわ。隣街のお屋敷によ。とても近いけど、もうスケアクロウには会えないの」
微笑むお嬢さんに、スケアクロウはひどく驚いた。
(もう会えないだって? どうして、お嬢さん)
悲しくなりながら聞くと、それが伝わったようにお嬢さんが話してくれた。伝わるわけはないのに、話してくれた。
「スケアクロウが好きだから、もう会いに来ないわ。きっとあなたが想い続けたお嬢さんもそうだったのよ。スケアクロウ、あなたが好きだからもう会えない」
また会うともう離れるのが辛くなるから。そう言って、お嬢さんは寂しそうに笑った。スケアクロウがまた笑い返してくれると信じているように、そのまま黙ってスケアクロウを見ていた。
スケアクロウはお嬢さんに笑い返すことも、引き留めることとも、泣くことさえもできずに、ただただお嬢さんを見つめ返した。
お嬢さんは一本しかない傘をスケアクロウの肩に残して、街に戻っていった。その傘さえも、風に吹かれてスケアクロウから離れて行ってしまった。
そのうちに雨まで止んで、もうスケアクロウを慰めるものは何もなかった。
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