第4話 遠い遠い街


 ある昼、雨が降った。スケアクロウはずぶ濡れになり、冷えたベストが寒かった。


 ふっとスケアクロウの周りだけ雨がやんだので、何かと思い前を見ると、そこには傘を持ったお嬢さんが立っていた。お嬢さんは自分の傘とは別に、スケアクロウのための傘を差してくれていた。


(ありがとうお嬢さん。でも風邪を引いてしまうよ、早くお家へお帰り)


 スケアクロウは申し訳ない気持ちで言った。それはもちろん、お嬢さんには聞こえなかった。


「ねえスケアクロウ。私、もうすぐこの街を出て行かなければならないの」


 お嬢さんの言葉に、スケアクロウは驚いた。でもそれがわからないように、できるだけ普通に聞いた。お嬢さんにはわからないのに、スケアクロウは一生懸命普通に聞いた。


(……寂しくなってしまうね。でも、また遊びに来てくれるだろう?)


 お嬢さんはその声が聞こえたみたいに、スケアクロウへ微笑んだ。微笑んでいるのに、どうしてかスケアクロウには悲しそうに見えた。


「とても、遠い遠い街へお嫁にいくのよ。変ね、会ったこともない人なのに」


(お嬢さん……? 泣いているのかい?)


「スケアクロウ。もう一つおかしな話があるわ。私、あなたが好きよ。小さな頃からずっと一緒だったんだもの。一度でもあなたとお話しできたらよかったのに」


 スケアクロウが何も言わないから、お嬢さんはそのまま街へ戻っていってしまった。スケアクロウの肩に、スケアクロウのための傘を残して戻っていってしまった。背中は小さくなる。お嬢さんが小さなお嬢さんだった頃と同じくらい、小さく遠くなっていく。


 でも本当は、お嬢さんが聞こえなかっただけでスケアクロウは叫んでいた。お嬢さんが大好きだと。


 お嬢さんが、大好きだと。




 日曜日が三回巡った朝、お嬢さんは綺麗な車に乗って街を出て行った。たくさんの人に見送られて。スケアクロウに見送られて。

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