第2話 届かない声


 小さなお嬢さんは賢い女の子で、隣街へのお使いも一人で行けるようだった。そのたびにスケアクロウの前を通った。スケアクロウは、いつも優しく微笑みかけてくれるお嬢さんとお話しがしたいと思った。


(こんにちはお嬢さん、お出かけかい?)


 スケアクロウは届かない声で話しかけてみた。お嬢さんにはやっぱり聞こえなかったみたいだけれど、スケアクロウの前で足を止めてくれた。


「こんにちは、スケアクロウ。あなたにはスケアクロウという名前があるのだと、昨日おやすみのキスをする時にお母様が教えてくれたのよ」


 スケアクロウは驚いた。お嬢さんにこの声は届かないけれど、お嬢さんは自分に話しかけてくれた。名前を呼んでくれた。初めてこの街に来た朝と同じくらい、胸が熱くなった。


「今日はね、あなたに会いに来たの」


 お嬢さんはたくさんスケアクロウに質問した。スケアクロウは答えてあげられないことをもどかしく思いながら、心の中ですべてに言葉を返した。


 スケアクロウの返事を聞けないお嬢さんは、まるでそれが聞こえているように、嬉しそうに彼を見上げた。その日からスケアクロウのもとへ通うのが小さなお嬢さんの日課になった。


 前を通れば皆スケアクロウに挨拶してくれるけれど、スケアクロウに会うために来てくれるのはお嬢さんだけだった。


 スケアクロウはもう寂しくなかった。 

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