第8話 国民を動かすキングのスピーチ 後編

「二世さんのスピーチには致命的な欠陥があるの。なんだか知りたい?」

「もちろん。教えてくれたまえ」

「それはね、何をするかは話しているけど、なぜするのかを話していないこと」

「え、どういうことだ?」

「今回で言えば宣戦布告をすることは話しているけど、なぜ戦争するかについて話していない」

「なるほど、で、なんでそれがダメなのだ。」

「人はね、なぜそうするのかが分からないまま、なにをするのかを伝えられても動かないの」

「そうなのか?しっかりとした指示があれば良いのではないか」

「それだとただやらされているだけでしょう。」

「それじゃダメなのか」


 リーダーってこういう奴多いよね。

 メンバーのモチベーションとか考えないで指示ばかり。


「その行動の意味を理解すると、人は自発的に動くようになる。その方が大きな成果を上げられるでしょ。」

「なるほど」

「理由も知らずに、ただ戦えって言われても普通やる気でないでしょ」

「言われてみればそうだな」

「特に今回はちゃんと戦争する理由があるじゃない。友人のために戦うんでしょ」

「そうだが」

「それをしっかりと国民に伝えないと」

「うーん……どうやって話せばいい?」


 何から何まで聞いてくる。

 意外と甘えん坊だね。


「そうだね……感動的なストーリー仕立てにすると良いよ。人を動かすのは理屈ではなく感情だから。感動的なストーリーが効果的」

「ストーリー?」

「エマグマに恩義があるっていったけど、何をしてくれたの?」

「タルカス全土が大飢饉に襲われたことがあってな。その時にエマグマは無償で食料を提供してくれた。」

「なるほど、素敵な国だね」

「おかげで国が滅びずにすんだ。そんなエマグマを見捨てるわけにはいかない」


 とても分かりやすいストーリーだ。


「すごく良いじゃない。それを聞けば国民も奮起すると思うよ」

「そうなのか」

「人間にはストーリーが必要なの」

「あい分かった。スピーチに盛り込むとしよう」


 せっかくだからもう1つ話すか。


「二世さん“ノブレス・オブリージュ”って言葉知っている?」

「ニプレス?」


 まあ知らないか。


「異世界のフランスっていう国の言葉。貴族はそれ相応の振る舞いをしなければならい」

「振る舞い?」

「簡単に言うと“身分の高い者には果たさなきゃならない責任がある”ってこと。」

「責任?」

「王様には権力があるけど、それに伴う責任があるの。例えば昔の王様は戦争の時に必ず最前線で戦った」

「そうなのか」

「二世さんも王宮でふんぞり返ってないで、ちゃんと最前線に行かないとダメだよ」

「この私が?」

「それが国民に命を賭けさせる者の責任でしょ。それに王様自ら最前線に赴けば兵士たちの士気も上がるってもんよ」

「確かに……よし! そうしようではないか」

「良いね! それでこそ二世さんだ」


 二世さんは意気揚々と電話を切った。


「今日は何点?」


 副調整室でニヤニヤしているエミリオに聞いた。


「今回は趣向を凝らして、点数より先にまずはその後の彼の人生から聞いてみよう。ローゼーン!」

「はいはーい」


 ローゼンちゃんがひょこひょこと副調整室に入ってきた。

 今日も一心不乱にタブレットを操作している。


「ブラッフォード二世さんは感動的な宣戦布告スピーチをすることに成功しました」


 お、良かった。


「開戦後、王自ら最前線で指揮を執り、エマグマからクリムゾン軍をどんどん追い出していきます」

「やるね、二世さん」

「しかし敵の策略にあいブラッフォード二世さんはクリムゾン軍に捕らえられてしまいます」

「まじか!」


 エミリオが大声で笑いだす。


「お前が前線に行けと煽ったからだな」

「そこまでやれとは……」


 ポンポンとローゼンちゃんがやさしく私の肩を叩いてくれた。


「まだ続きがありますよ。ブラッフォード二世さんが捕虜になったことで、タルカス、エマグマ両国民の士気が更に高まります。両国民の混成軍が結成され、ブラッフォード二世奪還作戦が決行されます。そして処刑直前になんとか王の解放に成功します。」

「良かった。殺されてたらどうしようかと」

「解放されたブラッフォード二世さんは、混成軍の指揮を執り、クリムゾン軍をエマグマから完全に追い出すことに成功して、戦争は終結します。」


 やったね! 二世さん。


「終戦後に帰国したブラッフォード二世さんは国民に歓喜の声で迎えられます」

「そりゃ、そうよ! 体張ったもんね」

「その後も圧倒的な支持のもとに国を発展させて、タルカスは最盛期を迎えます」

「立派な王様になったんだね」

「その死後も伝説の名君として国民に語り継がれています。毎年命日には銅像にたくさんのお花が供えられるそうです」

「うーん、かなりのハッピーエンドじゃない。これは高得点が期待できるのでは」


 エミリオの方をみると、鉄仮面のように無表情だった。

 あれ、そうでもないのかな……。


「今回の点数は……なんと10点だ!」

「まじすか!」

「初めての満点だな。おめでとう」

「お、おう……ありがとう」


 こいつに褒められると調子狂うな。

 でもこれで解放に一歩近づいた。

 早くポイントを溜めてここから出ていかないと。

 だってここは私のいる場所じゃないから。

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