第5話 ロボットパイロットの自己肯定感を上げるには 前編

「今日の相談者は男性です。ステーション78のミカエルさんです。」


 今日も元気はつらつなローゼンちゃん。


「ステーション78?」

「宇宙ステーションです。ミカエルさんがいる世界は科学がすごーく発展していて、惑星だけじゃなくて、宇宙空間にもたくさんの居住地があります」

「今回はSFか!」

「ただ宇宙にどんどんと進出していくうちに世界の分断が進み、共和国と民主連合の二つの勢力に分かれて戦争が続いています。」

「あらあら」

「ステーション78は民主連合に属しています」


 どこの世界も争いは絶えないのね……


「それじゃあ早速電話をつないでみましょう、ミカエルさん?」

「……どうも」

「元気ないな!オィース!」

「……」


 窓の向こうでエミリオが睨んでいる。


「……それで、どうしたの?」

「その……自分の……ことが……嫌いで……」


 ホント覇気がないなあ……


「どうしたら……自己肯定感を高くすることができますか?」

「でた! 自己肯定感房」

「自己肯定感房?」

「あんたみたいに自己肯定感を気にしすぎるヤツのことよ」

「……ダメなんですか?……気にしたら……」

「自己肯定感なんて言葉が出てきたのは最近なんだよ。それまではそんなこと意識しなくても人間は幸せに暮らしていけたの」

「……そうなんですか?」

「そうなんです。だからミカエルも気にしない方がいいよ。以上です。編集長。」


 エミリオを見ると、鬼のような形相をしている。

 やっぱりこれじゃあ、ダメですよね……


「それで、ミカエルはいくつ?」

「15歳です」

「若いな……何している人なの?」

「……バトルワーカーのパイロットをしています」

「バトルワーカー?」


 獣人のローゼンちゃんがタブレットを必死に操作している。

 頑張っているローゼンちゃんはカワイイ。


「人型戦略兵器のことです」

「戦略兵器?」

「ロボット兵器です」


 兵器のパイロットってことは軍人か。

 まだ若いのに。


「なんで軍人になったの?」

「うちのステーションではバトルワーカーを動かせる人がいなくて」

「やりたかったわけじゃなくて?」

「まあ、でも……仕方ないっていうか……他に出来る人がいないので」


 責任感はあるのかな。


「良いパイロットなの?」

「そこそこ……です」


 お、そこは自信あるんだ。


「じゃあ周りにも褒められるんじゃない?」

「いえ!ぜんぜん……」

「なんで?ミカエルしか出来ないことしてるのに」

「褒められるどころか、いつも怒られています……この前も少し作戦と違う行動を取っただけで上官に殴られました……」

「ヒドっ!ブラック企業だね」

「母親にも殴られたことないのに……」


 そこは“親父にも”だろ、JK


「で、どうして自己肯定感上げたいの?」

「自分のことが嫌いで」

「みんなそんなもんだよ、私だって自分のこと大嫌い」

「自分が……生きている意味って何なんだろう……そう思うんです」


 重症だね、こりゃ。


「うーん、今の自分は100点満点で何点だと思う?」

「52点……かな」

「細かく刻むな……でも思ったより高いね」

「そうですか?」

「ミカエルは何点取れれば満足?」

「100点と言いたいところですが、80点かな……」


 高すぎるな……なるほどこれが原因か。


「あんたの自己肯定感の低さは、自分に厳しすぎることが原因」

「厳しすぎる? 僕は自分に甘いと思ってますけど……」

「52点取れれば普通合格だよ、だって半分超えてるんだから」

「……そうでしょうか?」

「出来ないことより、出来てることの方が多いってことでしょ、それってすごくない?」


 ミカエルはしばらく黙り込む。


「……まあ……そうなんですかね」

「完璧な人間なんていないし、そんなロボットみたいなヤツ気持ち悪いでしょ」

「……確かに」

「私なんか30点くらいだよ、52点つけられるってことは、それなりに満足する結果出せてるんじゃない?」

「……そこそこ戦果は挙げています」

「すごいじゃん! やるねぇ」

「自分がしっかり戦わないと、ステーションのみんなを守れないので」


 やはり責任感は強いな、ここをつついてみるか。


「ミカエルが一番満足感を得られるのはどんな時?」

「うーん……なんだろう……」

「最近うれしかったことは?」

「この前……敵の猛攻からステーションを守り切った時かな……七体のバトルワーカーが連携して攻めてきたんだけど、なんとか僕の一体で返り討ちにしたんだ」

「すごいね!七対一なのに」

「まあ、ギリギリだったけどね、あんなに上手くバトルワーカーを動かせたのは初めてだったよ! おかげでステーションの人を一人も死なせずに済んだ」


 だいぶ饒舌になってきたな。

 

「ってことは、誰かの役に立つことが、あんたの幸せなわけね」

「そうなんですか?」

「だってみんなを守れてうれしかったんでしょ?」

「はい」

「うれしいってことは、それをするのが好きってこと。そして好きなことをすると人間は幸せになれる」


 再びスタジオが沈黙に包まれる。


「……なるほど」

「自分で思っている以上にあんたは幸せを感じているの。だって好きなことを仕事にしているんだから」

「……そうなんですかね?」

「それに人のために何かをすることが好きなんて、素敵じゃん。私なんか自分のことで精一杯だよ」

「そんなことないです……」

「少なくても誰かの役に立ってるんだ、あんたの人生は無駄じゃない」

「……ありがとうございます!」


 ミカエルの声がだいぶ明るくなってきた。

 もう一押しかな。


「あとさ、自己肯定感を簡単に上げる方法があるんだけど……」

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