第4話 ヒーローチームにすぐ馴染むには 後編

「そうだ!あと、短期間でチームに馴染むコツがもう1つあるけど知りたい?」

「もちろんだ、教えてくれたまえ」


 いちいち偉そうなんだよなコイツ……


「すごくシンプルだけど、仕事で結果を出すこと」

「結果?」

「目に見えて分かりやすい成果を出しなさい」

「手柄を上げろってことか」

「そう」

「新参者がいきなり活躍するのはどうかと」

「そこは遠慮するんだ……もしかして取れる手柄を譲ったりしてない?」

「とどめを刺すのはリーダーの役目だ!新入りはまずは露払いに徹するべき。ましてや俺はミストマン!露払いはお手の物」

「それじゃダメだって!仕事で成果を上げることが自分の居場所を作る一番の近道なの」

「でもさっきは自分の色を出すなって」

「コミュニケーションと仕事は別」


 ミストちゃんはまた大きなため息を吐く。


「……難しいな」

「チームは何を期待してミストちゃんを仲間に加えたと思う?」

「うーん、チームワークかな?」

「それもあるかもだけど、一番は仕事で成果を上げてもらうこと」

「なるほど」

「敵を倒したり、問題を解決したり、それをみんなは求めている」

「でも、新入りが手柄を上げると嫉妬されたりしないか?」

「嫉妬上等!それってミストちゃんの能力を認めてるってことでしょう」

「確かに!」

「周りが認めざるを得ない成果を出せば、大事な戦力として、チームはあんたを受け入れる」

「遠慮は禁物か」

「そうすれば自然とみんなと仲良くなれる」

「そういうものか?」

「そういうもの」


 ミストちゃんはしばらく黙っている。


「わかった、一度試してみる」

「頑張れよ、ミストちゃん」

「だから、ミストマン……まあいい、良い忠告感謝するぞ」


 最後まで偉そうだな……


「では、あなたの心をキリキリ舞い!ミストマン!」


そういってミストちゃんは電話を切った。


「去り際も言うのかよ……」


 番組終了後ブースを出て、副調整室に入る。

 エミリオがPA卓の上に設置してある巨大なモニターを見ている。


「それで、今日の結果は?」

「6ポイント、まあまあだったな」

「良かった。ミストちゃん大丈夫だったみたい」


 ローゼンちゃんがタブレットをいじりながら副調整室に入ってくる。


「ミストマンさんですが、その後ものすごい勢いで悪人を退治していきました。その結果、チーム加入1年後になんとリーダーに昇格します」

「おお、やるなミストちゃん」

「私生活ではミスブルジョアと結婚して2児のパパになりました」


 仲良くって、そういうことじゃないんだけど……まあいいか。


「その後も勢いは止まらず、他のヒーローチームを全て統合して、すべてのヒーローを自分の支配下に置きます」

「おいおい、凄すぎ」

「悪の組織をすべて消滅させたミストマンさんは、その強大な武力を背景に国政にも影響を及ぼすようになって、政界の陰のフィクサーとなります。」

「まじか……」

「以後、国のすべての決定事項はミストマンさんの手に委ねられました」


 エミリオが大声で笑いだす。


「お前はすごい独裁者を生み出したようだな」

「ここまで増長するとは思ってなかったって」

「どこの世界でも力を持つものは権力を欲するものだ」


 処世術を教える相手を間違えたかな……


「国民の人達に悪いことしちゃったな」

「それが、そうでもないんです」


 ピクピクと耳を動かしながらローゼンちゃんが話す。


「ミストマンは不正を行う能力者を厳しく取り締まりました。その結果能力者による犯罪がほぼゼロになりました」

「良いじゃん」

「社会福祉にも力を入れて、かねてからの国民の悲願だった、国民皆健康保険制度を実現します。」

「もしかして、良い独裁者なの?」

「その他にも、すべて学校の学費無料、老人ホームの入居料無料、残業の禁止など国民の暮らしは格段と良くなりました」

「そんなに国民に還元したら国のお金なくなっちゃうんじゃないの」

「不足分の予算の補填には、ヒーロー活動で稼いだお金を当てたそうです」

「めっちゃいいやつじゃん」


 エミリオがしたり顔でうなずく。


「民主主義で選ばれた無能なリーダーよりも、優れた独裁者の方が良い政治を行う。これは面白いな」

「人の世界のことをのんきに面白がるなよ」

「本人にとっても国民にとっても望ましい結果になったんだ、もっと喜べ」

「狙ってやったんじゃないって」

「この仕事は結果がすべてだ。違うか?」


 そうなんだけど。

 なんかしっくりこない。


「そういえばこのラジオってどのくらいの人が聞いてるの?」

「そんなことは知らん」

「あんたも知らないのかよ」

「俺だってお前と同じ、ただ雇われているだけだ」

「よくそんなんで私をスカウトしたな」

「まずはポイントを溜めろ、そうすれば知ることが出来るかもな」


 いい加減だな、やっぱりこいつは信用できない……


「何人でもいいじゃないですか、みなみさんの言葉を必要にしている人に届けば」


 笑顔溢れるローゼンちゃんをムギュっと抱きしめる。


「良いこと言うね。さすがローゼンちゃん」

「ちょっと、苦しいですよ」


 まあ、いずれにしろ私には放送を続ける以外の道はないんだけどね……

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