第3話 ヒーローチームにすぐ馴染むには 前編

「ローゼンちゃん、今日の相談者は?」

「男性の方です。ジャスティスシティのミストマンさんです」

「また、個性的な名前だ……」

「ジャスティスシテイはスーパーヒーローと悪の組織がサスティナブルにバトルしている世界です」

「いつもさらっとすごいこと言うよね……アメコミみたいな感じってこと?」

「はい、そんなもんです」

「ザックリしてんなあ……ローゼンちゃんのそういうとこ嫌いじゃないよ」

「私もみなみさん大好きです」

「今日も電話が繋がっているので、早速話してみましょう、ミストマンさん?」

「あなたの心をキリキリ舞い!ミストマン!」


 なんだ……コイツ?


「えっと……今のは?」

「私の決めゼリフ、知らないのか?」

「ごめんね、初対面なので」

「子供たちに大人気なのに!ミストは霧なので霧とキリキリマイをかけて」

「それで、どんな能力持ってるの?」

「霧を使って色々と解決する」

「アバウトだな」

「毒の霧で悪人を倒したり、癒しの霧でケガ人を治したり」

「意外と便利な霧だ」

「遠く離れたところから安全に敵を倒すことが出来る」

「なんか、ちょっと卑怯だね」

「卑怯とはなんだ!」


 ブースの窓からディレクターのエミリオが巻きの指示を出しているのが見える。

 はいはい、ちゃんと進めますよ。


「それで、なんの相談なの?」

「あ、そうだった、実は職場の人間関係が上手くいってなくてな」

「職場って?」

「最近“ネイバーズ”っていうチームに所属したんだが」

「チーム?」

「簡単に言うと、みんなで協力して人助けするグループだ」

「ヒーローが団体行動するんだ」

「最近の流行りで、チームに入らないと依頼が来ないんでな」

「依頼?」

「人助けの依頼だ」

「悪の組織と戦ってるんじゃないの?」

「それだけでは食べていけないから、他に色々とやっている」

「例えば?」

「要人の警護とか、迷子のペット探しとか、グルメリポートとか」


 本当にヒーローなのかよ……


「……ずいぶんと幅広いねえ、要は便利屋さんだね」

「失礼だな!私は正義の味方だ」

「はいはい、で、なに悩んでるの?」

「それなんだけど、チームに参加して1ヶ月になるのに全然馴染めてなくて、自分の居場所が無いというか」

「中途入社あるあるだね」

「色々と話しかけたりして仲良くなろうとはしているんだが」

「全部で何人いるの?」

「22人」


 結構多いな、ちょっとしたベンチャー企業だ。


「どうしたら良い?」

「そうだな……まずはチームの空気を掴まないと」

「空気なら任しておけ、私はミストマンだ!」

「その空気じゃなくて……ノリとか価値観とか、なんとなく共通の意識ってあるでしょ。時間にルーズな奴は嫌われるとか、飲み会やイベント大好きとか、」

「そっちか、私は人に合わせるのは嫌いだ」

「それな、それ一番ダメ。よく入ったばかりのチームで強引に自分のキャラを押し通そうとする奴いるけど、普通無理だから、そんなの。まずはチームの空気に馴染んでから」

「空気を読むのは苦手だ」

「あんたミストマンでしょ!」

「そうだが、それとこれとは」

「馴染むまでの辛抱だって。その後に得意の霧で少しずつ自分色に染めていけばいいじゃん」

「霧にそんな機能は無い」


 シャレ通じないねえなあ……


「あとはそうだね……ミストちゃんメンバー全員と仲良くしようとしてない?」

「ミストマンだ!もちろん分け隔てなく接している」

「それって疲れない?」

「……ストレスで霧の出が悪くなってる」

「霧の出?」

「私は霧で相手を倒すって言ったろ、出ないと困るんだ」


 便秘みたいなもんか……


「なるほど……それは大変」

「死活問題だ」

「うんとね……チームに馴染むためには決して全員と仲良くなる必要は無いから」

「そうなの?」

「必要なのはキーマンと仲良くすること」

「キーマン?チームリーダーのことか」

「そうじゃなくて、チームの雰囲気を作っているっていうか、いつも話の中心にいる人いない?」

「うーん……しいて言えばミスブルジョアかな、リーダーも彼女には一目置いている」

「すごい名前……」


 ふさふさと毛が生えた耳を動かしながら、ローゼンちゃんが手持ちのタブレットを操作している。


「ありました!ミスブルジョアはジャスティス・オブ・ザ・イヤーの受賞経験もあって、ちょー美人です。」

「まじか!なんかよくわからないけど凄そう」

「頭も良いんですよ!なんと博士号を取得してます。しかも実家はちょーお金持ち」


 ミスパーフェクトだな。

 友達になりたくないタイプ。


「オッケー、まずはそのミスブルジョアと仲良くなろう。そうすれば徐々にみんなと馴染めるから」

「彼女は取っ付きにくいのだが」

「そこは頑張りなさい!22人相手するより1人に絞った方が簡単でしょ」

「……まあ確かにそうだな」

「相手の趣味とか、好きな食べ物とかリサーチして、話のネタを用意しなさい。興味のある話題なら自然と会話が盛り上がるから」

「そんなスパイみたいマネ、卑怯者がすることだ!」

「仲良くなりたくないの!」


 思わず怒鳴ってしまった。

 ブースの中でエミリオが睨んでいる。


「……どちらかと言えば、なりたいかな」

「だったら努力しなよ」

「でも、出来ればもっと、自然に親密になりたいというか」


 頑固だなあ。

 ミストマンなんだから霧のように柔軟になれよ。


「あのさあ、ミストちゃんのそういう融通の利かないところ嫌いじゃないよ。それが魅力なのかもしれない。でも、それじゃあ世の中渡っていけないよ。時にはフレキシブルに対応していかないと」

「……よく言われる」

「相手に近づきたいなら、まず自分が努力しないと。今のままじゃみんなとの距離、縮まらないよ」


 ミストちゃんの大きなため息が聞こえる。


「分かった……やってみる」

「そうこなくっちゃ」

「私に出来るかな?」

「ヒーローなんでしょ弱音吐かないの」

「ああ、そうだな!」


「そうだ!短期間でチームに馴染むコツがもう1つあるんだけど知りたい?」

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