第6話 ロボットパイロットの自己肯定感を上げるには 後編
「あとさ、自己肯定感を簡単に上げる方法があるんだけど……」
「何ですか?」
ミカエルの声から前のめり感が伝わる。
「“イイネ日記”を付けること」
「“イイネ日記”?」
「そう、毎日その日の自分に“イイネ”と思ったことを3つ日記に書き出すの」
「“イイネ”って、例えばどういうことですか?」
「何でも良いのよ、今日は早く起きられたとか、仕事がいつもより早く終わったとか、便通が良かったとか」
「便通って、大ですか?小ですか?」
そこひっかかるとこかな……
「要は自分で自分を褒めろってこと。自己肯定感が足りない人は、周りから褒められることが少ない場合が多いの」
「……僕もほとんど褒められたことないです」
「他人に褒めてもらえるかどうかはどうしようもないけど、自分で自分を褒めることはコントロールできるでしょ」
「なるほど」
「自分で褒めるだけでもかなり承認欲求を満たしてくれるし、なにより自信が持てて自己効力感が上がるようになる」
「そんなもんですか……」
案ずるより産むがやすしだな。
「よし、試しにやってみるか。今日の自分に“イイネ”したいことはなにかない?」
「今日ですか……うーん」
「ほんの些細なことでも良いから」
「……今朝、スッキリと起きられました」
「お、イイネ!」
「こんなので良いんですか?」
「バッチリだよ!他は?」
「あとは……今日は上官から怒られなかったです」
「それも、イイネ! あと1つ」
「ラーメン食べたかったんですけど、太るのでそばにしました」
「これもまたイイネ!」
「ありがとうございます」
よし、出来た。
「ちゃんと3つ褒められたじゃん」
「本当だ!」
「みんな意外と褒められることしてんの、気づいてないだけ」
「確かに」
「やってみてどうだった?」
「なんか心がポカポカしました」
「気持ちいいでしょ、自分に褒められてもうれしいもんなの」
「なんか少し楽になりました」
「これを毎日続ければ、自己肯定感なんて簡単に上がっていくから」
「はい、ありがとうございました!」
ミカエルはうれしそうに電話を切った。
掛けてきた時とは別人だな、ちょっとは元気づけられたか。
「今日は6点だ」
副調整室に入るとエミリオが教えてくれた。
「まあ、ギリギリ合格点かな」
「ローゼン、あの後どうなった?」
タブレットを操作しながらローゼンちゃんが部屋に入ってくる。
「実はミカエルさんは不治の病にかかっていまして、余命半年を宣告されていました」
「え? そんなこと言ってなかったじゃん」
「死を目前にして自分の人生を見つめ直した時に、生きることに意味を見いだせなくなってしまったそうです」
だからあんなに人生に意味を……
「でもミカエルさんは、“イイネ日記”を続けて、なんとか精神のバランスを保つことに成功します」
「続けてくれたんだ」
「奇跡的に半年を超えても生きることができ、二年後に戦争が終わるまでバトルワーカーのパイロットとしての任務を全うしました。ミカエルさんの頑張りで、ステーション78の戦争被害は他のステーションよりもかなり少なかったそうです。」
「頑張ったんだね、ミカエル」
「任務が終わって安心したのか、終戦から二週間経つと急に息を引き取りました。」
「……責任感ある子だったからね」
「最後は家族や戦友達に囲まれて安らかにその生涯を閉じたそうです」
そっか、良かった、良かった……
「ってか、ちょっと待って!なんでこんな幸せな最後だったのに6点なんだよ!」
「言われてみればそうだな」
エミリオが珍しく私の意見に賛同してくれた。
「“イイネ日記”のおかげでしょう。せめて8点くらいは欲しいよ」
「点数はあくまでも依頼者の満足度だからな、客観的な事実では判定されない」
「そうだけどさぁ……」
なんか損した気分……
「でも、凄いじゃないですか」
ローゼンちゃんが長い耳を閉じながら話す。
「なにが?」
「6点ってことは100点満点で60点です。52点しか付けられなかったミカエルさんが8点も上乗せしてくれたんですよ」
確かに、あの自己肯定感が低いミカエルの点数を8点も上げたんだ。
上出来といったところかな。
「でも、やっぱり悔しい!今後は自己肯定感が低い依頼者は断って」
「依頼者を選ぶ権利は俺達にはない」
「え!そうなの?てっきりエミリオが選んでいるのかと」
「何度も言ってるだろ、俺も雇われ者だ、そんな権限はない」
「じゃあ誰が?」
「上の指示だ」
「上って?」
「今のお前には教えられない。知りたければポイントを溜めるんだな」
ポイント、ポイントってお前はポイント狸か。
まあ、無駄なことを考えてもしょうがない。
今日は無事終わったんだから良しとするか。
私も“イイネ日記”付けてみるかな。
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