宝石
「話を本題へ移しましょう。」
落ち込んでいるエラにイバラは言う。
先程までとは打って代わり、真剣な表情になる彼女に、エラは少しだけ顔がこわばる。
イバラはそんなエラを気にすることなく話し始めた。
「実はね、エラくん。…君の体の中には宝石が入っているの。」
イバラの言葉を聞いて、エラは彼女が嘘をついているのだと思った。というか、彼女の言葉をにわかに信じられなかった。
部屋は静寂に包まれる。
「…信じ難いことだろうけど、これは事実よ。貴方の体には宝石が入っているの。それも世界に二つしか存在しないとても価値のある宝石よ」
エラはイバラが何を言っているのか全くわからなかった。誰が明日の食事もままならない生活をしている貧困の少年の体に宝石があるなんて信じよう。しかもそれが、世界にたった二つしかない宝石だなんて…。冗談も甚だしい。イバラのしょうもない嘘に、もはや怒りの念でさえ湧いてくる。
イバラはエラが話を信じないと分かっていたため、敢えて話を続ける。
「エラくん。貴方は本当は捨てられた訳では無いの。貴方は本当は、王族の出なのよ。」
イバラはエラを、王族の出だと言った。
イバラはエラに構うことなく続ける。
エラは今はもう滅んでしまった国の王族で、国が攻められる直前に、国王によって宝石を飲まされ逃がされたのだと。
…意味がわからなかった。
いまいち現実味のないその話に、エラは頭が混乱する。
宝石?王族?逃がす?
…エラの頭には同じような単語がグルグルと回り続ける。
「な、なんで…?」
「宝石のためよ。」
イバラは先程とは違う、冷たく低い声で、エラの言葉に重ねるように言う。
「今エラくんの体に入っている宝石はね、何度も言うけど、本当に希少なものなの。だからちょっとやそっとのことでは砕けないし溶けない。」
「え?…つまり?」
イバラは言いにくいのか少しだけ黙る。しかし、そんな彼女の態度をみて、エラは彼女が何を言いたいのかだいたい想像が着いた。
「まだこの体にあるの?…宝石」
エラの問いに、イバラは口にこそ出さなかったが、その代わりにゆっくりと頷いた。
「で、でも僕の体は何ともないよ?どこも痛くないし…。」
「その宝石はね、普通の宝石とは違って、その石特有のエネルギーを放っているの。」
イバラは宝石の説明を始める。
エラの体内に入っている宝石は“シンデレラストーン”という名前だとイバラは言った。
シンデレラストーンには他の宝石同様に、神秘的な力を秘めていて、その石のお陰でエラは今までの生活の中でも生きてこれたのだとイバラは言う。
「今までエラくんがあんな生活で餓死しなかったのも、その宝石のエネルギーによって養分を得ていたからなの。」
イバラの話を聞いて、エラは思い当たる節がいくつもあった。泥水を啜っても体を壊さずに生きてこれたのも、数日以上何も食べなくて倒れたのに長い廊下を歩きこの部屋までたどり着いたのも、イバラの言葉が本当なら納得が行く。
「僕を死なせないために宝石を食べさせたの?」
エラは自分に生きて欲しいと願った国王が、国が滅ぶ直前に自分に宝石を食べさせたのだと思った。
否、思うと言うよりそうであって欲しかった。顔も何も思い出せないが、そうだったら、自分は愛されていたということになると思ったからだ。
エラはイバラに期待を込めて聞く。しかし、イバラの答えはエラの期待を良くない方向へ裏切った。
「残念だけど…。それは違うわ…」
イバラの言葉に、エラの視界は真っ暗になった。
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