最終話 その場所に向かって
最後の打者を空振り三振に打ち取った瞬間、マウンド上の秀樹は両腕を大きく上にあげガッツポーズをとった。
その瞬間にキャッチャーの竹下がマウンドへと駆け寄ると次々とマウンドへと駆け寄っていく。
秀樹を中心にもみくちゃになる聖陵の選手たち。
一番最後に来た俊哉も一緒にマウンド上に到着すると、秀樹が群がる群衆をくぐり抜け俊哉の元へとやってくる。
「トシ。」
「ヒデ。ナイピッチ。」
「いや、トシこそナイバッチ。」
そう互いに言い合い、2人はガッチリと握手をする。
「整列!!」
審判から集合の号令がかかると選手たちは喜びを爆発させるのを辞めて集合をする。
桐旺の選手たちの一人一人は苦悶の表情や、敗北したことが信じられないのだろうか呆然としている選手もいる。
整列がされ互いに礼をする両校の選手。
最後に握手を交わしていくのだが、俊哉の目の前にいた佐藤は俊哉を睨むと握手をせずに背を向けて行ってしまう。
「おい佐藤。」
「マグレで勝ったような奴らと握手なんかするかよ!」
「まだ言ってるのか。いい加減に……。」
「次は……。次はマグレでも勝てねぇ位になって来てやるよ!首洗って待ってろ!」
「佐藤……。」
そう言い放ち去っていく佐藤。
「すまない。」
「ううん。大丈夫だよ瀧澤。」
謝る瀧澤に対し俊哉は笑顔を見せる。
俊哉はどこか、佐藤なりに考えがあったのだろうと感じた。
また来年の夏には一回りもふた回りも大きくなって来るだろう。
そう感じていたのだ。
「よし!応援団に挨拶だ!」
竹下の言葉に連れられて選手らは聖陵学院応援団が待つスタンドへと向かう。
スタンドの生徒らは拍手をし選手らの健闘を祝っている。
「ありがとうございました!!」
『ありがとうございました!!』
主将である竹下の言葉で選手らもお礼を言いながら深々と頭を下げた。
そんな選手たちに応援団の生徒たちは惜しみない祝福の拍手を送るのであった。
試合が終わり、選手たちは球場の外へと出ていた。
荷物をまとめ、春瀬監督からの話を聞いたりしている。
すると、応援に来ていた生徒らが選手たちの所へと数人やって来ており様子を伺っている。
「ほら司。俊哉さんですよ?」
「え?」
「少し話して来るです。」
「そ、そんないきなり!?」
「あぁもう。じれったい。」
物陰から押し問答をする司と由美。
すると彼女らに気づいたのか、竹下が俊哉を呼び寄せる。
「おいトシ。」
俊哉を呼び指を指す竹下。
その先には司と由美の姿があり、俊哉は表情が少し緩む。
「まだ、時間あるよな?」
「え?まぁまだ時間あるぜ?」
「ちょっと、席外すわ。」
「え?おいトシ?」
竹下にそう言い残し立ち上がる俊哉は、物陰に隠れていた司の元へ一直線に向かった。
「司ちゃん。」
「ふぇ!?と、俊哉さん!?」
突然の声がけにビクッと驚く司が振り向くと俊哉の姿があるのに気づき更に驚く。
「ちょっと良いかな。その、話があるんだ。」
「は、はい。」
場所を移動して人影のない場所に向かい合って立つ俊哉と司。
ここなら誰にも見られないだろう。
そう思っていた俊哉だが、現実は甘く四方から竹下らが影から見守っていたのだ。
「おい。これってアレじゃねぇか?」
「ん?なんだよ竹下。アレって?」
俊哉の後方からコソコソと話をする竹下と山本。
「そりゃあ人気のいない所で2人っきりと言ったら。告白タイムでしょうが!」
「マジか……。」
竹下の言葉に山本を始めとした男性陣が息を飲む。
そしてちょうど司側の後方には由美、菫らを始めとした女性陣も見守っていた。
「菫さん。もう少し奥へ。」
「あぁん。見えなくなっちゃうわよ?」
「でもこれだと、私が見えてしまうのです。」
隠れれるように押し合いへし合いする由美と菫の後方では瑠奈らがハラハラしながら見ており。
また少し離れた場所では心優ら一年生グループも覗いていた。
「少し遠くて聞こえないぃ。」
「ちょっ!椛愛もう少し奥行きなさいよ?私丸見えじゃない!?」
「そんな事言ったら見えないよー。」
そんな感じでワチャワチャと外野が騒いでいる間に俊哉が司に話しかけていた。
「あのさ。あの時の事なんだけどさ。」
「は……はい。」
俊哉の言うあの時とは、俊哉が司に当たってしまった時の事だ。
司はその時の記憶が思い出されたのか、キュッと下唇を噛む。
「あの時は、本当にごめんなさい!俺、何がなんだか分からなくなって……司ちゃんに当たってしまった!ゴメン……。」
そう言い深々と頭をさげる俊哉に、司は少し間を開けると笑顔を見せながら話し出す。
「俊哉さん。」
「はい。」
「大丈夫ですよ?俊哉さんの気持ち、良く分かりました。」
「司ちゃん……。」
「こうして謝ってくれて。そして私に話しかけて来てくれて、本当に良かったです。もし、このまま離れてしまったらと思うと……。」
言葉に詰まる司の目にはうっすらと涙が滲んでいた。
ここまでの期間、彼女は不安と戦っていたのだ。
由美からは待っててとは言われたものの、果たして待った結果来てくれるのかと言う不安。
そして俊哉が完全に潰れてしまったらと言う恐怖が彼女の中でごちゃ混ぜになっていたのだが、今日のこの試合を見て彼女は心から安心したのである。
「司ちゃん。」
「はい。なんですか?」
「その……あの……。」
口を開いた俊哉。
だが中々言葉が出て来ずにおり、後ろで見守る男性陣は生唾を吞み込みながら展開を見守る。
そして同じように女性陣も前のめりになりながら俊哉の言葉を待つ。
「俺、気づいたんだ。やっぱり……俺の隣には司ちゃんがいなきゃダメなんだって!」
「……え?」
「今日この日まで、無我夢中で突き進んで来た!でも、やっぱりいつも居てくれた司ちゃんの姿が無いのが……すごく辛かったんだ。だからこの決勝戦で、復活することが出来たら言おうと思ってたんだ!」
「俊哉さん……。」
「だから……!これからは、ずっと俺の隣にいてほしい!!」
「え?あの、それって!!?」
「司ちゃん!」
「は、はい!!」
「俺と……付き合っていただけませんか?」
その俊哉から出た言葉に司は時が止まったように固まる。
また同じく男性陣、女性陣共に固まり、次の展開を待つ。
「俊哉さん。」
「……はい。」
「ありがとうございます。嬉しいです。」
「あ……。」
「私なんかで良ければ……是非。」
ニコッと笑顔を見せながら司の発した言葉。
その言葉の示す意味は俊哉を始めとした全員が理解出来た。
「うぉぉぉ。OKってことじゃん!」
「マジか……。」
竹下と山本が興奮気味に話す。
その後ろで秀樹はニッと笑みを浮かべると、ちょうど目が合った明輝弘とグータッチを交わす。
そして女性陣は女性陣で大騒ぎである。
「良く言ったトシくん!!感動した!!」
「カップル誕生の瞬間を見れるなんて。今日は色々ついてますわね。」
喜ぶ菫に、緊張なのか頰を赤くしながら話すのは瑠奈。
また他の女性陣も大喜びを見せるのである。
「ちょっ!ハルナ押さないでよ!?」
「私じゃ無いわよ!?うわっ、とと!!?」
誰が押したのかは、今となっては定かでは無いがバランスを崩した明日香がそのまま崩れるように物陰からドドっと出て来てしまう。
当然、近くにいた女性陣らも巻き添えにしながらであり、音もそれなりに立ったのだろう。
俊哉と司の2人は大きな物音に驚きながら、その音のなった場所を一緒に振り向いた。
「え?」
「あ!パ、パル!?」
ハルナの顔を見た司は、一瞬にして顔を真っ赤にさせた。
今までの会話が全て見られていたことに対し恥ずかしさが出たのだ。
「い、い、いつから?」
「あはは。最初から。」
「ふぇぇ!!??」
ボッと火が出そうになる位顔を真っ赤にする司。
女性陣は笑いながらその場から退散していくのを司は顔を真っ赤にしながら見つめ、俊哉は苦笑いをしながら見つめる。
「恥ずかしいです……。」
「あはは。全部聞かれてるとはね……しかもみんないたし。」
他の場所から出て来た心優や柚子らに対しての言葉だろう。
まさか全部聞かれていたとは思わなかったのか、俊哉も恥ずかしくなって来た。
「まぁ、いずれ皆に分かるんだしさ。」
「そ、それはそうですけど。なんか恥ずかしいです……。」
まだ顔を真っ赤にしながら話す司。
そんな彼女に俊哉はスッと彼女の手を握って見せた。
「俊哉さん?」
「ん。なんとなく。」
俊哉の言葉に、司は自然と笑みを見せる。
そのまま暫くの間、俊哉と司は手を握ったまま動かなかった。
(俊哉さんの手。暖かい。安心する。)
(司ちゃんの手って暖かくて、安心する。)
互いに互いの手の温もりを感じる俊哉と司。
どのくらいの時間そうしていただろうか、司は俊哉の顔を見る。
「俊哉さん。」
「なに?司ちゃん。」
「私、ずっとずっと応援してます。」
「うん。」
「だからでは無いですけど。ずっと俊哉さんの隣にいさせてください。」
「もちろん。」
その司の言葉に満遍の笑みを見せる俊哉。
彼にとってこれ以上になり最高の言葉である。
「よし!次は東海大会、頑張るぞ!」
「応援してます。俊哉さん。」
俊哉にとって秋季大会静岡県大会は苦しい戦いとなった。
しかし、その苦しさを乗り越えた事でまた1つ野球選手としての段階を上へと登ることに成功したのだ。
そして、もう一つ俊哉にとって大きな出来事。
それは司が隣にいてくれる事。
そして俊哉ら聖陵学院野球部は、次なるステージへと駒を進めるのでる。
東海大会。
この大会で好成績を収めれば、自然と道は開けてくる。
甲子園への道が。
その場所へ向かって。
彼らは走り出す。
Second season 完
青色の下で・・・ Second season オレッち @seisyun25
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