第41話 四回戦の相手

4回戦へと駒を進めた聖陵学院。

翌日の学校では俊哉らに声をかけて行く生徒らで集まっている。


「昨日見に行ったよー」

「次も行くねー」


 どうやら同級生の大勢が応援に来てくれていた様で俊哉に激励の言葉をかけて行く。

 俊哉も嬉しく感じニコニコと笑みを浮かべながら生徒らと話をする。


「トシちゃん」

「マキー」

「4回戦進出おめでとう」

「ありがと」

「次も応援行くよ!」

「よろしく!」


 マキも元気よく俊哉と話をし、最後はビッとサムアップを見せると俊哉も同じ様にサムアップをする。

 そこに明日香や竹下らも混ざりワイワイと話をしている。

 すると瑠奈がよそよそしくしながら俊哉の所へと近づくと、どこか恥ずかしそうに話す。


「あ、あの俊哉さん」

「あ、瑠奈ちゃん」

「その、4回戦進出おめでとうございます」

「ありがと 見に来てたよね?3回戦」

「え?!そ、そんな事はぁー・・・!!」

「いやいや居たでしょ瑠奈ちゃん」


 俊哉の言葉にビクッとし、頰をポリポリと掻きながら目線をそらし話す瑠奈。

 そんな彼女に俊哉は苦笑いをする。


「いいんちょ バレてないと思ってたのか?」

「な、なんの事だかぁ・・・」

「いや全部筒抜けだから 妹ちゃんから聞いてるから」

「アァァァァ・・・・(心優!何故全部話してしまうのですの?!)」


 汗をタラタラと流す瑠奈。

 もう言い訳は出来ない。


「なんでそう隠そうとするのさ 誰も何も言わないよ?」

「い、いえその・・・なんというか、恥ずかしい・・・」

「え?」

「その、恥ずかしいのですわ?」


 顔を赤くしながら話す瑠奈に、一瞬時間が止まった様に動きが止まると俊哉と竹下が同時に吹き出してしまう。


「あは、あははは。あはは・・ははは・・!」

「は、恥ずかしいって・・・いひひひ」

「わ、笑わないでくださいな!もうー!!」


 笑う俊哉と竹下に顔を真っ赤にしながら怒る瑠奈。

 またマキと明日香も笑いを堪えながら、マキが瑠奈の背中をポンポンと叩きながら話す。


「瑠奈ちゃんも乙女だねぇー」

「わ、私は最初から乙女ですわ!?」

「あははー 可愛いー」

「もう!マキさんまでぇ!!」


 笑い声が教室中に響く。

 そんな中で瑠奈は終始顔を赤くして居た。


 ようやく落ち着いた一同。

 瑠奈に至ってはこれ以上ないくらいに顔を赤くしており俊哉らを睨み付けて居た。


「もう知りません!」

「ごめんよ瑠奈ちゃん」

「許せ!いいんちょ」

「竹下さんはもう少し申し訳なさそうにして下さない!それに、私は委員長はしておりません!」


 怒り据える瑠奈を宥めながら謝る俊哉たち。

 しばらくして、瑠奈も落ち着いたのか1つ大きく深呼吸をすると俊哉に話しかける。


「次の試合も、応援に行きます」

「よろしく」

「はい」


 俊哉が笑顔で話すと瑠奈も笑顔を見せる。


「そういえば、次の相手はどこなんですの?」

「あぁ確か・・・浜松だったよね?」


 瑠奈の質問に俊哉が竹下の方を見ながら聞く。

 竹下は数回頷きながら話を始める。


「そうだよ 浜松の天竜農業高校」

「天竜農業高校、ですか」


 聞いたことのない高校名に首を傾げる瑠奈。

 俊哉や竹下も同じ様に聞いた事の無い高校の為、詳しい情報はわからなかった。

 そして詳しい情報は練習後のミーティングで知ることになる。


 放課後となり練習を行う野球部。

 この日は早めに練習を切り上げ視聴覚室にてミーティングを行う事になっていた。

 視聴覚室には制服に着替えた選手らが集まっておりザワザワと談笑しながら春瀬監督が来るのを待つ。


「待たせた 始めるぞー」


 教室に春瀬監督が入って来るとミーティングが開始。

 春瀬監督の他に咲が前に出て来ると、備え付けのテレビにビデオカメラを取り付け映像を画面へと映し出した。

 そして春瀬監督が話を始める。


「次の相手は浜松天竜農業高校だ。今まで二回戦以上は出てこなかったチームだ その分不気味ではある 今回、咲にビデオを回しに行ってもらったから、その映像を見ながら話をして行こう」


 そう話すと咲がビデオのスイッチを入れる。

 画面には映像が流れ出し丁度、バックネットから撮られていた映像が映る。


「えっと・・・まずは天竜農業は主に3人の投手リレーで戦うチームです。エースナンバーをつけている芹沢紀隆せりざわのりたか選手は速球は130前半程ですがスライダーと、決め球でもあるパームボールを投げるピッチャーです」

「パームボールか・・・珍しいな」


 パームボールの名前を聞いて反応をするのは秀樹。


「パームボールって?」

「うっちーは知らないか パームボールはその名の通り“手のひら”で投げる変化球だ」


 秀樹の言葉に内田が首を傾げながら話す。

 そんな内田に秀樹がボールを手のひらで包む様な握りを見せながら話をする。


「このボール投げる選手はプロでも珍しい位で、絶滅危惧種とも言われてるよ」

「へぇー」


 秀樹の話に感心しながら頷く内田。


「そして二番手に多く登板するのは、水野眞宏みずのまさひろ選手。この選手はいわゆる軟投派ピッチャーで多彩な変化球を駆使します」


 映し出された水野と呼ばれた選手。

 ビデオから見てもその選手は背が低く、顔立ちは老け顔・・・というよりお爺ちゃんの様な顔立ちである。


「サイド気味のスリークォーターか 球速は速く無いけど変化球が多彩な分見極めが必要かな」


 背もたれに寄りかかりながら話す竹下。

 そして最後に出てきた投手は、背がヒョロッと高い選手だ。


「最後出て来るのは久世了太くぜりょうた投手 球速は3人の中でも1番速い139キロ コントロールも良く安定感もあります そして決め球に使われているのはナックルボール この選手も珍しい変化球を投げますね」


 咲の言葉に出てきた“ナックルボール”という変化球。

 現代の魔球とも言われているナックルボールは日本のプロ野球選手やメジャーリーガーにも稀にしか使い手のいないボールだ。

 それを高校生で使う選手がいるとなると警戒しない訳がないのだが、未知数でもある。


「主にこの3投手で継投していくチームです」

「打者陣には注意する選手はいないのか?」


 咲の説明が終えると共に、秀樹が手をあげながら聞きに行く。

 投手陣からすれば打者の方を聞きたい所だ。


「打撃陣は強力とは言い難いと思います 注意すべきは四番の四ノ宮実しのみやみのる選手ですね この選手のパワーは注意が必要で前の試合でもホームランを打ってます あと長打力のある選手も何人かいますね」

「なるほど・・・四番の前にランナー貯めなければ良いわけか」


 咲の説明に秀樹は頷きながら話す。


「あと1つきになる点が・・・」


 咲がそう話すと、ビデオを巻き戻しとある場面を映し出す。

 天竜農業の守備のシーンだ映し出される。


「この今打席に立っている選手は、この大会好調で成績を残している4番打者です」


 その打者が打席に立ち試合が始まると、天竜農業の捕手がやりすぎな位にインコースへと構えると打者にぶつかるかぶつからないかのギリギリなコースへと投げ込まれる。

 仰け反り転倒する打者も映し出され、次のボールは脇腹にデッドボールとなり打者が脇腹を押さえながら一塁へ向かう姿が映し出されていた。


「この様に、好調な選手 いわば中心選手には厳しめに攻めていき最悪ぶつけられます この選手もこの後の打席では脇腹を気にしてか自分のスイングができずに凡退 チームもチャンスをものに出来ずに負けてます」

「中心選手ね・・・」


 咲の話を聞き、竹下がそう呟くと自然と選手らの視線は俊哉へと向く。


「先ずはトシだろ?んで後は明輝弘やヒデだな」

「この3人が狙われやすいって事か」

「俺にデッドボールでもしてみろ ピッチャーライナーで潰してやるよ」

「それはやめろ」


 明輝弘は“望むところ”と言わんばかりの言葉を発すると竹下が頭にチョップを繰り出し止める。

 そして最後に春瀬監督が締める。


「不気味な相手であることは十分に分かったな だが臆せずに攻めていくぞ 簡単な試合ではないことは十分に分かるだろう 一つ一つしっかりとやっていこう」

『はい!!』


 春瀬監督の言葉に返事をする選手たち。

 迎える四回戦、これに勝てば次は準々決勝へと進むことができる。

 聖陵学院はただ突き進むのみである。


 場所を変えて浜松天竜農業高校。

 野球部の部室では、テレビで紹介されていた芹沢が着替えをしながら部室に備え付けられていたベンチに腰掛けているゲジ眉に大きめの豚ッ鼻、そして横に身体の大きい選手に話しかけていた。


「おう、次の聖陵戦はどうする?」

「んー?」

「“要警戒”対象だよ」

「もう決めてあるし」

「お?誰々?」

「ぐふふ 横山俊哉だ あいつを“要警戒”対象にするし」

「四番じゃねぇんだ?」

「四番はブツけたら怖そうだし ブツけても怖くなく、打撃陣の中心選手の1人である横山俊哉にするし」


 ニヤリと笑うその身体が横に大きい選手。

 不気味な存在である天竜農業高校。

 四回戦は次の土曜日に清水草庵球場にて行われる。



 次回へ続く。

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