第39話 エースの貫禄

初回に俊哉のタイムリーと明輝弘のツーランで3点を先制した聖陵学院。

相手ベンチは慌ただしくなり、ブルペンへ投手を行かせてピッチング練習を始めさせていた。


「続けー掘君ー!!」


 ベンチから掘に対して声援を送る。

 しかし上手くは行かずに初回は3点のみで終えてしまう。


「よし!守備につくぞ!」


 俊哉の掛け声と共にベンチからグラウンドへと駆け出していく選手たち。

 マウンドには秀樹が上がり、竹下が話しをする。


「よっしゃ 抑えてこうぜ」

「おう」


 ポンと軽く秀樹の胸にミットで叩く竹下はニッと笑いながら守備へと戻る。

 マウンドに1人となった秀樹は大きく深呼吸をすると、マウンドプレートを右手で軽く触れる。


(また此処に来たぞ・・・)


 またこの夏に来た。

 秀樹は昨年の夏のリベンジをしに来たのだ。


「・・・よし」


 そう呟き前を見る秀樹。

 目線の先には竹下がおりサインを出すのが確認できる。


「ヒデ!しまってこう!」


 真後ろからは俊哉の声が聞こえる。


「聞き慣れた声だ さぁ・・・いこうぜ」


 そう小声で話すと、秀樹は振りかぶり二年目の夏に投じる記念すべき一球目を投じた。


「ストライク!」


 初球はインコースに決まるストレート。

 相手打者は腰が引けて見送ってしまう。

 二球目、三球目と投じいずれも空振りを奪い三振を取る。


(今日は良く腕が振れる!)


 今日は調子が良い日だ。

 秀樹はそう感じながら、腕を振った。


「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」


 なんと初回は三者三振を奪う好投を見せた。

 球場からは“ワッ!”と大きな歓声が上がる。


「凄い!望月先輩の変化球、ストレート全部のキレが抜群!エースの貫禄です!」


 興奮しながら話す心優。

 その心優の言葉通り、秀樹はエースの貫禄を見せつけるように次々と相手打者を抑え込んでいく。


「サード!」


 “ギィィン”と鈍い音を響かせサードへのゴロに打ち取ると、秀樹は小さくガッツポーズを取りマウンドから降りていく。

 なんと5回まで無安打無失点の好投。


「ナイピッチ!」

「おう!」


 ベンチに戻り選手らとハイタッチを交わしていく秀樹。

 彼の表情は爽やかに笑っており、本当に調子が良いのが分かる。


「さぁ追加点だ!」


 秀樹がそう意気込みながらヘルメットを被り打席へと向かう。

 左打席に入った秀樹はバットを構え二番手に上がった投手をキッと見る。


(くそ!聖陵は三下じゃあ無いのか?!5回までに5点も取られてしまった!これ以上は・・・やらん!)


 相手投手にも意地がある。

 秀樹に対して気合を乗せるようにボールを投じるとツーストライクまで追い込むことが出来る。


(よし追い込んだ!後は・・・)


 追い込んで安心した相手投手。

 だが、その安心が命取りになる。

 相手投手が投じたのは外へ外れる変化球で空振り三振を奪うイメージであっただろう。


 しかし実際に投じられたボールは、真ん中寄りに変化する変化球になってしまう失投だった。


(いただき!)


 秀樹は見逃さずに振りにいく。

 “カキィィン”という打球音が球場に鳴り響くと、秀樹の放った打球はポンとライト方向へと舞い上がっていった。


「お・・・」

「あ・・・」


 打った秀樹のみならず、ベンチにいた選手やネクストバッターボックスに座っていた青木も同じ声を出した。


「は、入ったー!!」


 そして打球はライトスタンドへ吸い込まれるホームランとなった。

 秀樹は一瞬何が起こったか分からなかったが、塁審がグルグルと腕を回しているのに気づくと喜びを爆発させるようにダイヤモンドを回りホームイン。


「オォォォ!ホームラン打っちゃったよ!」


 そう興奮しながらベンチへ戻る秀樹に選手たちはハイタッチを交わしながら歓迎し、喜び合った。


「ナイバッチヒデ!!」

「凄いぞヒデ!」

「あははは」


 もう笑うしかない秀樹。

 これで6点目が入った聖陵学院は、此処から怒涛の攻めを見せる。

 9番の青木がボテボテのゴロを内野安打にすると盗塁を決め二塁へ向かう。

 そして先頭に帰った1番琢磨がヒットで青木をホームに返すことに成功し7点目が入る。

 2番山本は、何と珍しくヒットを放つとベンチから“おぉ〜”と驚きの声が上がり更にボルテージが上がる。


 そして・・・


「・・・よし」


 3番俊哉がレフト線の二塁打を放ち二三塁とした所で明輝弘が決めた。

 明輝弘の放った打球はライトオーバーのヒットとなり山本、俊哉と帰り更に2点を追加し9点が入ったのである。


 後続は倒れたものの9点を入れた聖陵にとっては十分であろう。

 迎えた7回、此処で抑えれば7回コールド勝ちとなる場面でマウンドには引き続き秀樹が向かう。


「ストライク!バッターアウト」


 まず1人目の打者を三振に打ち取ると、秀樹は大きく深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。

 続く2人目の打者に対してはカーブを打たせてショート琢磨へのゴロ。


「ツーアウトー!!」


 ゴロを捌いた琢磨から声が出ると、選手全員から声が出てくる。

 3人目の打者が打席へ立つ。

 秀樹は竹下からのサインを確認すると、コクリと頷き初球を投じストライクを取る。

 続く二球目もストライクを取り、これで追い込んだ。


「さぁヒデ決めてこう!」

「大丈夫です!落ち着いて!」


 内野陣から声が飛ぶ。

 秀樹は最後に大きく息を吐くと、振りかぶり最後の一球を投じた。


ギィィン・・・


「センター!!」


 最後のボールは高めへのストレート。

 打者はこの球を打ちにいくも打球は高く上がるだけとなってしまいセンターと俊哉がゆっくりと落下地点へと入る。


「・・アウト!ゲームセット!!」


 最後はキッチリとグラブに収めゲームセット。

 9対0の7回コールドで初戦を勝利で収めたのである。


「互いに!礼!」

『ありがとうございました!』


 最後に礼をし試合が終わる。

 聖陵の選手らはスタンドへと向かい応援に来てくれた生徒らに挨拶をする。


「おめでとうー!」

「まず1勝だ!」


 そんな声がスタンドから飛ぶ。

 すると俊哉がスタンドを見ると、丁度心優たちを見つけた。


「あ、横山先輩こっち見たぁ」

「え?!本当に?!」


 心優の言葉にビクッと驚く柚子。

 すると心優はスマフォを取り出すと写真機能を起動させる。


「撮れるかな?」


 そう呟きながらカメラを俊哉に向けると、俊哉もそれに気づいたのか隣にいた秀樹に何か喋りかけると2人でニッと笑みを見せながらピースをして見せたのだ。


「あ・・・・。はいチーズ」


 パシャリと写真を撮る心優。

 心優がペコリと頭を下げると俊哉と秀樹は笑顔で手を振り、ベンチへと戻って行ってしまった。


「撮れたぁ しかも横山先輩と望月先輩のツーショット」


 嬉しそうに撮った写真を確認する心優。


「ね、ねぇ心優」

「うん?」

「そ、その写メ・・・後でラインで送って、くれない?」

「え?・・・うん いいよぉー」

「あ、ありがと・・・」


 ニコニコと笑みを浮かべながら承諾する心優に、柚子は恥ずかしそうにお礼を言う。

 その後、夜に心優から送ってもらった写真を柚子は嬉しそうに見ていたのは、また別の話だろう・・・。



 こうして夏の予選大会初戦を9対0の7回コールドで勝利した聖陵学院。

 彼らの夏は、まだ始まったばかりである。


 甲子園まで後6回勝たなければならないのだ。

 だが彼らは、今年こそは甲子園に行く。

 その強い思いで、この夏に挑むのであった。


 次回へ続く。

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