第38話 可愛い顔した子の情報量

琢磨のヒットと山本の送りバントで一死二塁のチャンス。

そこで打席に入るのは俊哉だ。


「あ、トシちゃんだ!トシちゃーん!」

「と、俊哉さーん」

「ダメだよ司ちゃん!もっと大きな声出して!」

「は、はいぃ」


 打席へと向かう俊哉に歓声を飛ばすマキ。

 司も声を出すが恥ずかしさからか小さくなってしまい、マキに煽られる形となる。


「トシちゃーん!」

「俊哉さぁん!」


 マキと司だけでなく、他の女子陣から飛ばされる黄色い声援で俊哉の名前を連呼され、打席に向かう俊哉は恥ずかしさからヘルメットを前にずらしながらニヤける顔を隠す。


(は、恥ずかしい、、、)


 そんな彼に対し、相手投手はギリリッと歯ぎしりをする様な表情で睨んでくるのを俊哉は確認する。


(そんなに睨まないでよ、、、)


 なんだか申し訳なさそうに打席へと入る俊哉。

 スタンドではマキと司らの声援を聞いていた一年生女子たちが話しをしている。


「凄いねぇ俊哉先輩」

「ねぇ」


 心優と椛愛がマキ達と見ながらそう話す。

 柚子は何だか難しい顔をしていると、咲が話をする。


「特に、姫野先輩と宮原先輩は俊哉先輩の事が好きだからねぇ」

「あぁ、だよねぇ」


 咲の言葉に同調をするのは椛愛。

 隣の心優もウンウンと頷くと、柚子の表情はサーっと血の気が引いた様な顔になる。


「え?本当に?」

「うん。その他にもチア部の斎藤先輩も好意を抱いてるみたいだしねぇ」

「私たちは、それをトシヤンスキーって呼んでるよね」

「あはは、命名したの琢磨くんだけどね」


 沙耶の言葉に咲らは笑っている。

 どうやら俊哉に対して好意を抱いている女子たちの名前は知られている様で、巷では“トシヤンスキー”なる名前まで付けられている様だ。

 だが1人、柚子は笑えなかった。


「は、ははは、、、」

「ど、どうしたの?柚子、え?あれ?まさか?」

「そのまさかだよ?」


 驚いた表情をしながら話す咲に、椛愛が頷きながら話す。


「そうだったんだ 俊哉先輩、、凄いわね」


 そう改めて感心する咲。

 因みに咲は本人曰く“タイプでは無い”そうで、尊敬はするが恋愛感情には至っていない様だ。


「ま、まぁ、頑張れ」

「慰めて無いでしょそれ」

「あ、あはは、、、」


 柚子の肩にポンと手を置き話す咲だが、柚子の表情を見て苦笑いしかできなかった。

 そんな会話をしている時、球場から打球音が響いた。


「あ、、、」


カキィィンと打球音が響き咲らがグラウンドを振り向くとレフト方向へ打球が飛んでいた。

 三球目のインコースへ決まるストレートを俊哉がフルスイングし振り抜いたのだ。


 痛烈な打球で弾き返される白球は一直線にレフト方向へと飛んでいく。


「行け行け、、、!」


 フォロースルーからバットを持ったまま一塁方向へと向かいながら打球を見る俊哉。

 またベンチの選手らも打球の方向を見る。


「入るか?入るか!?」


 角度は完璧。

 聖陵の選手ら全員がポールを巻いてくれと願う。


「ファール!ファール!」


 だが打球はレフトポール際へと飛び込むも外れて行きファール。

 ベンチやスタンドからはため息が漏れ、打った俊哉も悔しそうに苦笑いをしながら打席へと戻っていく。


「きゃー、、、惜しい」


 笑いながらそう呟く俊哉。

 スタンドではキャッキャと大騒ぎである。


「惜しいー!」

「ホームランだと思ったのにー!」


 マキや明日香らが打球に対し悔しそうにする。

 また心優はというと興奮気味に話している。


「す、凄いよ!昨年まで課題としてたパワーの増強 それをこの冬に完璧に克服 そこから生まれるあの打球!もう俊哉さんに死角は無しだね!」

「心優ちゃん、どーどー、、、だよ?」

「あ、ご、ごめんなさい、、、」


 我に返った心優が恥ずかしそうに顔を赤らめながら呟く。

 だが俊哉の打球には誰もが興奮した。


(か、かっこいい!!)


 勿論、柚子もメロメロである。

 仕切り直しとなり打席に立つ俊哉。

 そんな俊哉に相手投手は完全にビビっていた。


(え?!何あの打球!?三下高校にあんな打球飛ばせるヤツいるの?!)


 完全にパニック状態の投手。

 そんな彼の投じた四球目は低めへと放られる。


 キィィン、、、


「、、、え?」



 低めに放られたボールに対し、俊哉は先ほどのフルスイングでは無く軽く振りにいく。

 バットにボールがめり込み弾き返されると投手の頭の上を越していく打球となり、左中間の間にポトリと落ちた。


「ナイバッチ、俊哉さん」


 そう呟きながらホームを踏む琢磨。

 ホームラン性の打球から一転して技ありのヒットを放ちタイムリーヒットとなった。


「ナイバッチ!トシちゃぁん!!」

「いいぞトシちゃーん!!」


 ベンチから揶揄う感じに檄を飛ばしてくる選手たち。

 そんな彼らに俊哉はグッと右腕を二塁上から突き上げるも心の中では“後で殺す”とでも考えていたのだろう。


「んん、、!!これぞ俊哉さんの打球!」

「凄いねぇ。」


 感無量の心優にパチパチと拍手をしながら喜ぶ椛愛。

 我に返った心優が恥ずかしそうに顔を赤らめながら呟く。

 だが俊哉の打球には誰もが興奮した。


(か、かっこいい!!)


 勿論、柚子もメロメロである。

 仕切り直しとなり打席に立つ俊哉。

 そんな俊哉に相手投手は完全にビビっていた。


(え?!何あの打球!?三下高校にあんな打球飛ばせるヤツいるの?!)


 完全にパニック状態の投手。

 そんな彼の投じた四球目は低めへと放られる。


 キィィン、、、


「、、、え?」



 低めに放られたボールに対し、俊哉は先ほどのフルスイングでは無く軽く振りにいく。

 バットにボールがめり込み弾き返されると投手の頭の上を越していく打球となり、左中間の間にポトリと落ちた。


「ナイバッチ、俊哉さん」


 そう呟きながらホームを踏む琢磨。

 ホームラン性の打球から一転して技ありのヒットを放ちタイムリーヒットとなった。


「ナイバッチ!トシちゃぁん!!」

「いいぞトシちゃーん!!」


 ベンチから揶揄う感じに檄を飛ばしてくる選手たち。

 そんな彼らに俊哉はグッと右腕を二塁上から突き上げるも心の中では“後で殺す”とでも考えていたのだろう。


「んん、、!!これぞ俊哉さんの打球!」

「凄いねぇ」


 感無量の心優にパチパチと拍手をしながら喜ぶ椛愛。

 また上の方では、俊哉のタイムリーにマキと司が互いに両手で握り合いながら喜びを分かち合っていた。


「凄い凄いー!」

「う、打ちましたぁ」


 キャッキャッとするマキと司。

 また他の女性陣も俊哉の打撃に見惚れていた。


「柔らかく打つわねぇ」

「トシくんらしいわよねぇ いやまぁ野球のことは全然分からないんだけど、、、」


 明日香が感心する横でハルナも感心するも野球が分からない為か、いまいちピンとこない。

 だがハルナの隣の由美はというと、二塁上の俊哉を見ながらポーッと惚けていた。


(何なのでしょう 今まで俊哉さんの試合は何回か見てきたのですが、今回のこの胸の感情はいつもと違うのです。これは、、、いやいや!ダメなのです!司の応援をしなければ!、、、でも、、、)


 1人心の葛藤をする由美。

 彼女の想いはどうなっているのか、、、今はまだ分からないのか。



 試合へと戻り俊哉のタイムリーで1点を先制した聖陵学院。

 続く打席には四番の明輝弘が左打席へと入る。


「明輝弘ー!!頑張りなさいよー!!」


 美咲が大きな声で声援を送る。

 明輝弘は聞こえていたが、反応を見せずにクールに打席へと入る。


「クールぶっちゃってぇ」

「そこがカッコいいのよ明輝弘は」


 ケラケラと笑いながら話す真琴に美咲が自慢げに話す。

 そしてその初球だった。


 カキィィィン、、、


「行ったろ、、、これは」


 そう呟きバットを地面へ落とす明輝弘。

 初球に投じられたのはインコースへのカーブだったが、明輝弘は見事なタメを作るとバットを振り抜いた。

 快音が鳴り響くと、打球は一直線にライトへと舞い上がり外野手が追うのをすぐに諦める打球はライトスタンドへと消えて行った。


「、、よし」


 ゆっくりと一塁へ走りだす明輝弘。

 球場は大歓声に包まれた。


 俊哉のタイムリーと明輝弘のツーラン。

 いきなり3点を先取したのであった。

 ホームベースを踏みベンチへと戻ると、俊哉がまず待ち構えハイタッチをするように手を出す。


「ナイバッチ!」

「あぁ、打てたぜ」


 パチンとハイタッチを交わす明輝弘。

 そしてベンチでも他の選手らとハイタッチを交わして行き喜びを分かち合った。


「ナイスまぐれ!」

「マグレではない。実力だよ」

「んな事言ってると次打てないぞー」

「安心しろ。次も打つ」

「期待してるぜ」


 竹下や秀樹らに揶揄われながらハイタッチを交わす明輝弘だが、どこか嬉しそうにも見えた。


「流石私の彼氏、、、もう最高!!」

「美咲うるさい、、、」

「いやぁこれは叫ばなきゃダメだって!」

「はいはい、、、」

「私の俊哉くんの方が最高だもんね!」

「絵梨、、、」


 ワイワイと何やら言い合う美咲、真琴、絵梨の3人。

 またマキらも明輝弘のホームランには大興奮のようだ。


「久しぶりに見たよ」

「ホームランですよね?凄いです」


 マキと司が嬉しそうに話す。

 そして一年生はというと咲が冷静に話していた。


「苦手だった変化球打ちをいきなり決めてくれた ずっと俊哉先輩と練習してたからね庄山先輩」

「そうなんだぁ」

「庄山先輩は変化球打ちが最重要課題だった為、克服が必須 でもこの打席で初球のカーブを上手くタイミング合わせて打ちに行ったのを見れば、大丈夫かも!」


 心優も冷静に分析しながら話す。

 この心優の情報量は驚きである。


「凄いね心優ちゃん、、、そんな情報どこから持ってくるの?」

「秘密です」


 ニコッと笑いながら話す心優。

 おそらく一年生の中では一番可愛いと言われている心優。

 そんな彼女の高校野球に対する情報量の収集元が木になるところだが試合は続いていく。


「さぁ試合に集中しましょう!」

「お、おぉ」


 テンション爆上げの心優に、他の一年生は圧倒されっぱなしであった。

 そんな夏初戦は続く。

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