第37話:仲良しさん

 土曜日の草薙球場。

 今この時期は夏大会予選の真っ最中である。


 そして、聖陵学院野球部もまたこの日初戦を迎えていた。


「はぁー・・・」

「お トシ緊張してんの?」

「そりゃあねぇ、俺はいつも公式戦の初戦はこんな感じだよ?」

「へぇ、意外だな」


 ベンチに座りながら大きく深呼吸をする俊哉に明輝弘が話しかける。

 俊哉は笑顔を見せるも、明輝弘から見ても緊張しているのが分かる。


(緊張感ないように見えて、すごい緊張してるんだな。意外だな)


 俊哉を見ながらそう考える明輝弘。

 今更ながら俊哉の意外な一面を見れたのだ。


「よしみんな!行こう!」

『はい!』

「トシ・・・」

「うん 大丈夫・・・大丈夫」


 早川の言葉に選手達が返事をし立ち上がる。

 最後に俊哉もゆっくりと立ち上がりグラウンドへと向かうのあった。



 場所を変えてスタンドでは、休日とあって学校の生徒も見に来ていた。

 聖陵学院側のスタンドではギッシリとはいかなかったものの、それなりに生徒達が足を運んで来てくれていた。


「いよいよだよぉー」

「心優ちゃん嬉しそうだねー」

「勿論 ずっと楽しみにしてたんだぁー」


 ウキウキ気分の心優に笑顔で見守るように話す椛愛。

 またその隣の柚子は暑そうに飲み物を口に含みながらも、グラウンドの方をじっと見つめている。


「あれれー、柚子ちゃんは俊哉さん応援するんでしょー?」

「な、なんでそんな!」


 椛愛の言葉に顔を真っ赤にしながら言い訳をする柚子。

 顔を真っ赤にする柚子に笑う椛愛と心優。

 するとそんな3人の元へ咲と沙耶が来る。


「隣、良い?」

「あ、良いよー」


 咲が椛愛に話しかける。

 椛愛が笑顔で指で丸の指文字を作ると咲と沙耶が一緒に座る。


「応援来てくれてありがとね」

「良いよ良いよ。心優ちゃんが行きたがったしね」

「楽しみで昨日寝れなかった!」

「あはは・・・体調には気をつけてね」


 フンスと鼻息荒く話す心優に苦笑いをする咲。

 すると心優は鞄の中からスコアブックを取り出す。


「え?・・・え?」

「それスコアブック?」

「勿論 試合のスコアつけるんで」


 満遍の笑みを見せながら話す心優。

 そこにいた彼女達は思っただろう。


(ガチだ・・・)


 一年生の女子達がワイワイとする後ろの方では、二年生の女子達がおり、こちらもワイワイとしていた。


「暑いねー」

「ですねー」


 マキと司が隣同士に座りながら話をしている。


「あれ?2人ってそんなに仲良しさんだっけ?」


 司とマキを見ていたハルナがそう質問をぶつける。

 修学旅行では少なくとも、ここまで仲良くはないと認識していたハルナだが、今目の前の光景は仲のいい友人だ。


「あぁ色々お話をしているうちに・・・」

「司ちゃん面白いよー ガンダムの話とか特に」

「そうなんだ・・・(まぁ、良いのか?)」


 仲が良ければ良いかな?

 そう考えるハルナはそれ以上は言うのを辞める。


 また近くでは美咲、真琴、絵梨の3人が制服で座っており、美咲が何やら文句を言いながら座って飲み物を飲んでいた。


「何さ!ベスト8以上に進出できらたチアを出すって!」

「あの言い方じゃあ、“そこまでは行かないだろう”みたいな感じだったね」

「ホントよね!失礼しちゃうわよ!」

「まぁまぁ美咲」

「あー!明輝弘にチア姿見せてあげたいのにー!」

「あはは・・・」


 ブーブーと文句を言い散らす美咲を宥める真琴。

 また隣に座っていた絵梨は・・・


「私のチア姿見たら、トシくん欲情するかな?」

「絵梨!?」

「そうすれば一気に私の方へ・・・フフフフ・・・」

「もう勝手にしてさない・・・」


 ニヤニヤと良からぬ事を口にする絵梨に対しツッコムのを辞めた真琴。

 そんなやり取りがワイワイとスタンドで行われている頃、グラウンドではベンチ前にて春瀬監督を囲うように集まっていた。


「よし。今日のオーダーを言うぞ」


 春瀬監督からオーダーの発表がされ、選手達は固唾を呑んで発表を待つ。


1:琢磨・遊

2:山本・二

3:俊哉・中

4:明輝弘・一

5:堀・右

6:早川・三

7:竹下・捕

8:秀樹・投

9:青木・左


「・・・このオーダーで戦う。」

『はい!』


 聖陵の開幕戦は一年の琢磨を入れたベストメンバーに近い形だ。

 先発は秀樹が登板する。


「さぁ行こう!!」

『はい!』


 春瀬監督の掛け声で選手全員が返事をする。

 そして試合開始時間となり両校の選手達がベンチ前に並ぶ。


「トシ」

「ん?何、明輝弘?」

「今年の夏は、大暴れするぞ」

「あぁ・・・勿論だ」


 明輝弘の言葉に俊哉がニッと笑みを浮かべて言う。

 その次の瞬間、審判団の号令と共に選手達が一気に走り出し整列をした。


「互いに!礼!!」

『宜しくお願いします!』


 互いに挨拶をすると球場からサイレン音とまばらな拍手が響く。

 聖陵は先攻の為ベンチへと戻り、今日対戦する清水水産高等学校の選手達が守備へと着く。


「スミちゃん。相手のデータとか分かる?」

「んー、あの子一年生みたいね 練習試合のデータもほとんど無いみたい」

「んー、そうかぁ・・・」


 ベンチに座りながらヘルメットをかぶる俊哉が記録員の菫に相手投手のデータを聞くも、良いデータは出てこなかった。

 となると一番打者の琢磨次第ということになる。


「琢磨頼んだぞ!」


 ベンチから声を出す俊哉に、琢磨は何も言わずグッと親指を立てる。

 琢磨は相手投手の投球練習をジッと見る。


(同じ一年生投手だけど、見たことないから対戦経験がないか他県か・・・ でもこの高校は他県から選手呼ばないし他県の線は無い となると・・・)


「そう大した事無いって事かな・・・」


 最後にそう呟き立ち上がる琢磨。

 投球練習が終わり琢磨が左打席へと入る。


「プレイ!」


 主審から試合開始の合図が出るとサイレンが鳴り始めた。

 いよいよ試合開始だ。


(ウヘェ、アイツ宮原かよ・・・。なんでこんな三下さんした高校にいるんだよ)


 琢磨は知らなくても向こうの投手は知っている。

 だが相手投手は“この琢磨さえ抑えれば余裕”という意識でいた為、楽観的である。


(でも残念だったな宮原、お前さえ抑えれば余裕なんだよ だから一年で先発したんだからな!)


 上からである。

 その投手の一球目はアウトコースへとストレートを投じストライクを取られる。


(どうだ!)

(速く無い・・・てか、なんでドヤ顔なの?)


 一球目を見る琢磨は、相手投手がドヤ顔なのに疑問を感じるが深くは考えないでいる。

 続く二球目はボール、三球目もボールとなりワンストライクツーボールのカウント。


(次はこのフォークボールだ!)


 相手投手の投じた四球目はフォークボール。

 どうやら彼の決め球の様で、彼曰く“中学の時は打たれた事が無い”らしい。

 だが無常かな、真ん中より少し低めに入ってきたフォークを琢磨は弾き返すと打球は投手の頭を越えていき、センター前へとヒットとなった。


「今のフォークか・・・あの人のフォークに比べたら雲泥の差だな」


 一塁を回り止まる琢磨は、小さな声でポツリと呟く。

 先頭の琢磨がヒットを打つと、聖陵側のスタンドからは小さな歓声が聞こえる。


「さすが宮原君 中学の時から打撃には評価されているレベル 本当は明倭に入るかと噂されてたけど、まさか聖陵に来てるなんて・・・でも何で?」


 興奮気味に話す心優。

 すると咲が、その理由を話してくれた。


「俊哉先輩の後追って来たんだって」

「そうなんだぁー、俊哉先輩凄いなー」


 目をキラキラと輝かせながら話す心優。

 また柚子もその話を聞いて目を輝かせていた。


(そんな理由があったんだ・・・俊哉先輩かっこいい!!)


 無死一塁として打席に立つのは山本。

 その山本は堅実に送りバントを決めに行き琢磨を二塁へと進める。


「頼むぞトシー」

「おー」


 送りバントを決めてベンチに戻る山本と、打席へと向かう俊哉が会話を交わす。

 そして、俊哉が打席へと向かう。


 次回へ続く。

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