第34話:勉強会

修学旅行が終わり、6月下旬の教室。

 そこには何人かの生徒らがおり、彼らは誰かを囲んでいた。


「はい。始まりましたー」


 第一声を発したのは山本。

 普段はツッコミ役として活躍する彼だが今回は進行役だ。


「コイツらどうしようか会議ー」

『いえぇーい』

『い、いえぇい』


 山本のタイトルコールでパチパチと拍手が鳴る。

 すると山本含め数人の生徒らの目線は、その囲われていた中心へと向けられている。


「えっと、この期末テストで赤点取ったらですね。夏の大会出れなくなりますー。そこでですね、このバカ供もどうにかしなければなりません!!」


 口調を強めながら話す山本。

 その彼の目線の先にいたのは、俊哉と竹下であった。


「な、何で俺らだけ?」

「そうだぞ岡本!俺らばかり!」

「山本だよ!それはだな・・・中間テストでお前ら2人だけが赤点!しかも追試二回受けてようやく合格だったからだよ!!」


 ビシッと2人を指差しながら話す山本。

 聖陵野球部内では、学力の格差がありトップは山本。

 次点で堀、内田、望月と続きその間でゴチャッと詰まっており、赤点層には俊哉と竹下の2人がいるのだ。


「このバカコンビをどうにかしなければ!追試二回も受けてるようだったら夏の大会が始まってしまうからな!」

「あははー」

「笑ってんじゃねぇ!」


 能天気に笑う俊哉にキレる山本。


「あのー」

「はい。何でしょうか?宮原さん」

「何で私たちも?」

「それは至極簡単。どうせなら一緒に学力上げてしまおうと言う魂胆だからな。てか君たちも結構ヤバイからね!?」


 その声の主はマキ。

 その他にも、明日香と由美の3人もおり山本から強く言われている。


「このバカレンジャー供め!」

「バカレンジャーって、ちょっと前の漫画であったよねー」

「だまらっしゃい!!」


 ツッコミが冴えに冴えまくる山本。

 最近セリフが無いのもあるが、異様なほどに張り切っているのだ。


「因みにトシ、苦手な教科は?」

「えっと・・・数学、英語、社会、歴史かな。現国や古典はまだいける!」

「ほぼ全部じゃねぇか・・・・。竹下は?」

「んー・・・全部!!」

「ダメじゃねぇか・・・、因みにだが・・・宮原たちは?」

「私も全部かなー」

「私も全部・・・」

「わ、私もです・・・」


 5人全員の返答に頭をかかえる山本。

 まさか此処まで・・・そんな絶望感が彼に出てきたのだ。


「え?よくこの学校入れたね?此処進学校だよね?」

『死ぬ気で頑張った!』

「それをテストでも活かせバカ野郎供め・・・」


 最早呆れるしかない。

 この5人には頭を抱えるレベルだ。


「つっても、勉強するにしても場所がなぁ・・・」

「そうそう!だから無理しなくても良いんだよ?」

「だまらっしゃい竹下!」


 山本のツッコミはキレキレだ。

 だが勉強する場所と言ったら学校の教室か図書館。

 しかし夜遅くまでは勉強できない。

 悩んでいると、菫が手を挙げながら話す。


「私んちに行こうか?」

『・・・え?』


 そして場所を変えて静岡駅近くの高層マンション。

 そのマンションの麓には、菫を先頭に俊哉らバカ5人に、山本、秀樹、司、ハルナ、青木、瑠奈、堀、内田の14人。


「ねぇ、かなり多いけど大丈夫?」

「えぇ大丈夫よ?」


 心配そうに話す俊哉に菫はウインクしながら話す。

 彼女を先頭にエレベーターへと乗り込み、そのままグングンと上がっていく。

 “チン”とエレベーターが着いたのは最上階。


「いらっしゃいー」

「う、うわぁー」


 菫が鍵を開けて部屋の中へと入ると、広いリビングダイニングキッチンが広がった。

 この広さなら14人なんて余裕で入ってしまうだろう。


「広すぎる・・・」

「此処なら時間気にせず使えるでしょ?」

「そ、そうだけど・・・良いの?親御さんとか?」

「大丈夫 私1人で暮らしてるから」

『え・・・え〜!?』


 この広すぎる家に菫1人で暮らしていることに驚く生徒たち。

 だが菫はキョトンとしている。


「どうかした?」

「い、いや。改めてスミちゃんって、お金持ちなんだなぁって・・・」


 菫の事を改めて認識する俊哉。

 何はともあれ菫のお陰で勉強場所が確保できた。


「よし これでミッチリ勉強できるな!」

「えぇー・・・」


 ニヤリと笑いながら話す山本にビクビクする俊哉たち。

 こうして勉強会が始まるわけであるが、此処で1つ大きな問題が出る。


「偉そうな事言っといて・・・山本、お前教えるの下手なのな?!」

「・・・」


 今までイキっていた山本だが、いざ勉強を教えると下手くそなのが判明した。


「コイツ・・・」

「まぁ勉強できても苦手な事あるからな。仕方ないよな」

「コイツ・・・」


 山本に向けられる冷めた目線。

 そして分かった事と言えば、瑠奈の教え方がもの凄く上手い事。

 また司が頭が凄く良いという事だった。


「司ちゃん頭良いんだねー」

「いやあの、えへへ・・・」


 マキが褒めると司は恥ずかしそうにしながら笑う。

 その司は俊哉と由美が教えをこう事になっており、俊哉と由美は隣り合わせになるように座り向かいに司が座っている。


「はい、そうですね。その計算式で大丈夫ですよ?」

「そうか・・・」

「なるほどです・・・」


 司が丁寧に教えると俊哉と由美はキチンと理解できているようだ。

 そんな中、俊哉がノートにメモ書きをしている手が隣の由美の手にトンと軽くぶつかる。


「あ、ごめん由美っち」

「い、いえ・・・」


 謝る俊哉に対し、由美は小さく返事をして下を向く。

 その彼女の顔は少し赤らめていたのは、誰も気づいてはいなかったのはまた別の話である。



「よろしいですか竹下さんにマキさん。これがこうして・・・」

「な、なるほど・・・」

「ウンウン・・・(え?分かんないんだけど)」

「・・・・(無の境地)」


 場所を変えて瑠奈に教えられるのは竹下、マキ、明日香。

 竹下はどうには理解は出来るようだがマキは頷いているも頭の中はチンプンカンプン。

 そして明日香は諦めたように腕すら動かない。


「明日香さん?」

「え?あ、はい!!」

「聞いてますの?」

「あ、はい・・・すいません・・」


 瑠奈の目は誤魔化せない。

 明日香は瑠奈に謝ると、瑠奈はため息を吐きつつも3人に勉強を教えていく。


「はい、飲み物よー」


 そんな彼らに菫がお盆に飲み物を載せてやってくると、お礼を言いながら飲み物を貰う。


「ごめんねスミちゃん。騒がしくて」

「ん?全然 むしろ今まで静かだったから、こうして皆んなとワイワイやるのがとても楽しいの」


 微笑みながら話す菫。

 彼女にとって、この家は広すぎるようだ。

 家に帰っても1人で過ごす毎日に、菫は心のどこかで寂しさを感じていたのだ。

 だからこそ、こうして大勢の友達が集まりワイワイとやっている事自体が、彼女にとって嬉しい事なのだ。


「だから テストまでとは言わずに、時間できたら皆んなで遊びましょ 私はいつでも大歓迎だから」

「もちろん よろしくね」


 菫の言葉に俊哉を始め生徒らは笑顔を見せるのであった。

 こうして勉強は夜まで続き、翌日以降も菫の家に集まってはワイワイと勉強会が繰り返されていく。

 メンバーもその日によって変わっていくが、俊哉ら5人は必ず来ていたのだ。


「うー・・・」

「うー・・・」


 唸る俊哉とマキ。

 どうやら行き詰まったらしく、5人とも唸っていた。


「まぁ根詰めてもしょうがないし。少し休もうか」

『わーい!!』


 休憩が入り喜ぶ俊哉たち。

 飲み物を飲みながら休む俊哉はグデっと寝転がる。


「頭痛い・・・」

「あはは・・・でも俊哉さん飲み込み早いですよ?」

「え?そう?」

「はい」


 司に褒められ嬉しそうに笑顔を見せる俊哉。

 この司の一言が功を奏したのか、俊哉は休憩が終わるといつも以上に集中して勉強に励んだ。


(頑張れ、俊哉さん・・・)


 心から俊哉を応援する司。

 俊哉の為に協力したい。

 彼女はこの思い1つで俊哉に勉強を教えたのだ。

 そして、夏の大会に向けて頑張る俊哉の姿を司は見たいと思っていたのだ。


(今年の夏は、俊哉さんにとって良い夏でありますように)


 そう願いを込め、司は俊哉に勉強を教える。



 そして、期末テストの日を迎えるのであった。



 次回へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る