第35話:さぁ夏に向けて!

 テスト期間に入った。

 ギリギリまで勉強漬けだった俊哉たちは、果たして実力を発揮できるのか・・・


「・・・・」

「・・・・」


 テストが開始され静まり返る教室。

 俊哉もまた勉強を教えてもらった司のために集中する。


 テスト期間は一週間。

 英語、数学、現代国語、歴史、社会など様々な教科のテストをこなしていく。

 その間の時間が早く過ぎるか、遅く過ぎるかは人それぞれであるが始まってしまえばあっという間に終えた。

 手応えがある者や絶望感漂わせる者など様々な表情が見て取れる。


 そして俊哉は・・・


「あー・・・」


 上の空である。

 手応えがあったのか無いのか、自分でも分からない状態である。

 また竹下、マキ、明日香、由美の表情も浮かれず、もしかしたらダメかもしれないという思いが野球部内に出始めてきた。


(ヤバい、追試になったら夏の大会間に合わん。よって竹下と俊哉抜きで戦うのか・・・)


 そんな絶望感が出始める部内だったが、テスト返却される翌週の月曜日。


「や、やったー!!!」


 歓喜の叫びをするのは俊哉。

 彼の手に握られていたテスト用紙には赤字で“45”“60”“55”の文字が書かれていた。

 赤点は30点以下の為、俊哉は赤点を免れることが出来たのである。

 そして同じクラスの竹下、マキ、明日香も同じように歓喜の叫びが聞こえており全員赤点を回避できた。


「や、やったです・・・」

「よかったね由美ー」


 また隣のクラスでは由美が赤点回避した答案用紙を見ながら感激しており、司が彼女を褒め称えていた。


「因みに、司は何点です?」

「え?私?私は・・・」


 由美の質問に気恥ずかしそうに答案用紙を見せると、全ての教科が“90点”以上の点数が書かれていた。


「流石ですね・・・」

「えへへ・・・」


 目を丸くしながら答案用紙を見る由美に司は恥ずかしそうにする。

 因みに野球部でトップの成績を残したのは山本であり、一番低い点数で“87点”最高で“98点”だったようだ。


「ひとつ90点いかなかった」

「贅沢な悩みですなー」


 1つの教科で90点いかなかったことで悔しがる山本に、隣の俊哉が冷めた目で山本を見ながら話す。

 他の野球部の選手たちも赤点はおらず全員が夏の予選へ出ることが出来たのである。


「さぁ!!これで夏に向けて頑張れるぞ!!」

『おー!!』


 俊哉の言葉に全員が大きな声で返事をする。

 テストから解放された彼らは野球に集中できる喜びを覚えただろう。

 

 翌日から選手たちは練習に励んだ。

 今まで出来なかった分を取り戻すように集中して練習をする日々に明け暮れる。


 そして、同時に彼らにとって重要な日を迎える事となる。


「よし全員集まれ」


 練習を早く切り上げた日、春瀬監督は選手全員を集めた。

 春瀬監督を囲うように集まる選手たちの目は、彼の持つ布切れに集中していた。


「じゃあ今大会挑むメンバーを発表する」


 春瀬監督の言葉はメンバーの発表。

 いわゆる背番号の配布だ。

 ドキドキと期待を胸に春瀬監督からの言葉を待つ選手たち。


「背番号1、望月秀樹」

「はい!」


 エースナンバーの背番号1は秀樹に渡った。

 昨年より安定感が増し、文句なしの選出だ。


「背番号2、竹下隆彦」

「はい!」


 背番号2は竹下。

 やはり彼も不動の正捕手だ。


「背番号3、庄山明輝弘」

「はい」


 背番号3は明輝弘。

 この冬で苦手の変化球を克服。

 夏大会の起爆剤になりたい。


「背番号4、山本寛史」

「はい!」


 背番号4は山本。

 亮斗とのレギュラー争いも、守備りょの安定さと繋ぐ打撃を買われての選出である。


「背番号5、早川悠斗」

「はい!」


 昨年までショートだった早川はサードである背番号5をもらった。

 キャプテンとしてチームを引っ張る存在だ。


「背番号6、宮原琢磨」

「はい!!」


 背番号6は琢磨。

 一年生として1人目の背番号を貰う形となり、しかもレギュラーである。

 紅白戦を見れば一目瞭然である。


「背番号7、青木一博」

「はい!!」


 背番号7は青木。

 俊足を生かした守備、そして課題だった出塁率も改善されての選出だ。

 塁に出れば足でかき回す選手である。


「背番号8、横山俊哉」

「はい!」


 背番号8は俊哉。

 課題だった筋力の向上が成功し紅白戦では活躍を見せた。

 チームの中心選手として今年の夏も戦う。


「背番号9、堀隆義」

「はい!」


 背番号9は堀。

 強肩強打の五番打者としてこの夏を戦う。

 ここで背番号一桁が配り終え、次からはベンチメンバーの発表となる。


「背番号10、長尾雅信」

「はい!」


 背番号10は長尾、チームの貴重なサウスポーとしてベンチで控える投手の1人だ。


「背番号11、橘廉」

「はい!」


 背番号11は廉がもらう。

 紅白戦で見せたスローカーブの安定したピッチングを買われての選出となった。

 これで一年生は2人目の選出だ。


「背番号12、鈴木康廣」

「はい!!」


 背番号12は鈴木。

 控え投手として出番を待つ速球派だ。

 ベンチでは人一倍大きい声で声援を送る。


「背番号13、桑野慶介」

「はい!」


 背番号13は桑野。

 早川と2人だけの三年生。

 最後の夏に向けてマウンドに上がれるか?


「背番号14、横山亮斗」

「はい!」


 背番号14は亮斗。

 3人目の一年生で、巧みなバットコントロールでヒットを打つ安打製造機。

 代打での出番が増える。


「背番号15、平林知憲」

「はい!!」


 背番号15は平林。

 4人目の一年生で長打力が魅力の大型選手。

 調子によってはスタメン出場もあり得るだろう。


「背番号16、内田浩輔」

「は、はい!」


 背番号16は内田。

 この冬から春までとことん基礎練を積み重ねてきた二年生。

 代打での出場で成績を残せるのか期待がかかる。


「背番号17、上原洋介」

「はい!」


 背番号17は上原。

 5人目の一年生で足と長打も狙える打撃が売りの選手だ。

 青木の成績次第ではスタメンもある。


「背番号18、小森紳也」

「はい!」


 背番号18は小森。

 6人目の一年生で強気のピッチングが売りの選手だ。


「背番号19、三村三平」

「はい!!」


 背番号19は三平。

 竹下の控えキャッチャーとしてベンチに座る強肩強打が売りの選手だ。

 リードも冴えており、状況によっては出場もある。


「背番号20、橋本哲郎はしもとてつろう

「はい!」


 ベンチメンバー最後に呼ばれたのは紅白戦で四番を打った橋本。

 一発も狙える打撃が魅力の選手で出番を待つ。


「以上の20名でこの予選を戦う。じゃあ最後に早川」

「は、はい!」


 春瀬監督に言われ早川が前に出る。

 選手たちは早川の方を見て言葉を待つ。


「えー・・・、俺と桑野はこの大会が最後の大会となる。正直去年の今頃は、こんな日が来るなんて思いもしなかった メンバーが集まらずに試合にも出れないんじゃないかと思ってたけど、横山たちが来てくれて、そして今年も多くの一年生が来てくれた・・・ 感謝しかないよ だから俺は・・・今年の夏、1日でも長く野球がしたい だから皆・・・頑張ろう」


『はい!!』


 早川の言葉に全員が声を揃えて返事をする。

 全員が同じ気持ちである。

 特に俊哉たち二年生は早川と桑野の為にも今年こそ甲子園へ・・・

 そんな思いで一杯だった。


「よし!円陣組もう!」


 早川が笑顔になりながら提案すると、選手たちは互いに顔を見合わせるも笑顔を見せながら早川を中心にしながら円陣を組んだ。


「よし・・・さぁ夏に向けて!」

『おぉ!!』

「聖陵ーGO!!」

『聖陵ーGO!!』

「行くぞ甲子園!!」

『おぉー!!!』


 聖陵学院の夏がいざ始まる。


 第弐章 完

 

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