第32話:私は好き

 夜6時頃、俊哉たちは札幌市街へと帰ってきていた。

 これから彼らは夕食となっており、お店の前で明輝弘と美咲を待つ。


「お 来た来たー」

「お待たせー」

「すまん遅れた」


 少し集合時間に遅れたのか、謝りながら合流する明輝弘と美咲。

 俊哉たちは“うちらも今来たとこ”と話し談笑しながらお店の中へと入っていく。


「あ、プラモちゃんプラモちゃん」

「は、はい」

「で?どうだったの?」


 司の袖を引っ張り自分の元へと引き寄せる美咲。

 ウキウキしながら質問をぶつけると、司はバツが悪そうにする。


「えぇ、まぁ・・・」

「ありゃ?」

「美咲、美咲」

「ん?パル?」

「実はね・・・」


 ハルナが美咲を呼び寄せ今日の話をする。


「ははぁー、中々の修羅場ね」

「でしょ?後ろから見てて面白かったけど」

「パル?!」


 笑いながら話すハルナに司は恥ずかしそうにパルにツッコミを入れる。

 そして美咲は、ウンウンと何度か頷くと司の肩にポンと手を置きながら話す。


「でも俊哉君から離れなかったのよね?」

「は、はい」

「それでいいのよ?偉いわプラモちゃん どんどんアピールしなきゃダメよ?」

「アピール・・・」

「そうねぇ、オッパイ揉ませるとか?」

「み、美咲ちゃん!!」

「あはは 冗談よー」


 顔を真っ赤にしながら怒る司に美咲は笑いながら逃げるように歩く。

 そんな感じでワイワイとお店の中に入る一行たち。

 入ったお店は、北海道といったらコレというフード。


「カニー!!」


 カニだ。

 北海道に来たらやはりカニだろう。

 ラーメンとか他にも色々あるが、やはりカニに勝るものは無い。


「すごいー」

「食べ放題って、もう天国よねー」


 目をキラキラと輝かせながら話すマキと明日香。

 勿論、他の生徒たちもカニを目の前に大はしゃぎである。


「では、いただきましょうか」

『いただきまーす!!』


 瑠奈の言葉を皮切りに、全員で“いただきます”を言う。

 今まで喋りながら大はしゃぎしていた彼らだが、カニを食べている時は先ほどまでの光景が嘘のように黙ったまま静かにカニを食べていた。


(ついさっきまで五月蝿かったのに一気に静かになった・・・カニの力恐るべし)


 黙々とカニを食べる彼らを見ながらそう思う明輝弘。

 特にマキや絵梨、そして男なら竹下や俊哉と言った連中が此処まで静かになるものなのかと感心すら覚える。


 だが時間が経てば次第と会話が始まっていき、いつもの空気へと戻っていく。

 勿論、明輝弘もその空気は嫌いでは無い為、楽しんでいる。


「あ、俊哉さん」


 隣に座っていた司が何かに気づく。

 すると俊哉のズボンに落ちていたカニの食べ残しを拾いあげると、丁寧にティッシュに包む。


「急いで食べてるから落ちてますよ?」

「あ、あぁゴメン・・・」


 ニコッと優しく微笑みながら話す司にテレテレと恥ずかしそうにし、謝る俊哉。

 その光景を向かいで見ていた竹下と真琴がニヤニヤしながら見ている。


「アツいねー」

「ちょ、やめろよー」


 竹下の茶化す言葉に恥ずかしそうにする俊哉。

 司も顔を赤くしながら小さくなる。

 そしてその光景を見ていたマキは、何か考えているようにも見える。


「なぁ美咲」

「ん?何、明輝弘?」

「俺はプラモちゃんを推すべきだと思うんだが」

「ふむ。その心は?」

「いや、俊哉の性格を考えた上でな。あの気配りはもはや嫁の領域だな」

「んー、私もそう思うわ?でもね、道のりはまだまだ長いかもね」

「ん?そうなのか?」

「まぁねぇ、今すぐは難しいかもね。あのタイプは時間をかけるべきね」

「なるほど・・・」

「私たちとは違うのよ?」

「そうだな・・・確かに」


 美咲と明輝弘は互いに笑いあう。

 確かに、明輝弘たちとは全くタイプが違う俊哉と司の2人。

 時間がかかるのは致し方ないのだろう。


「あとはライバルだな」

「そ 誰がどう動き出すかねぇ」


 烏龍茶の入ったコップを手にしながら話す美咲。

 彼女は、この状況を冷静に見ていた。


(マキとプラモちゃんなら、圧倒的にマキの方が積極的。でも絵梨こいつもいるのよねー。この子、たまにとんでもない行動する時あるからなぁ あぁー・・・何か面白くなって来たわー俊哉君には悪いけど!)


 ニヤッと笑みを浮かべる美咲。

 彼女は、今後の展開が楽しみでしょうがないようだ。

 そんな美咲の思惑通りか否か、俊哉と司は仲良く話をしながら食事を取っている。


「ちょっと席立ちますね」

「どうかしたの?」

「あ、あの。お花摘みへ・・・」

「あ、あぁ!い、行ってらっしゃい」


 恥ずかしそうに答える司に、俊哉は野暮なことを聞いてしまったと後悔しながら送り出す。

 “ジャー”と水が流れる音がすると、司がガチャリとドアを開け個室から出てくる。

 ハンカチを口に咥えながら水で手を洗う司。


「あ・・・」

「あ、マキちゃん」


 丁度マキがトイレへと入ってくると、司はドキっとする。

 マキは手を洗いに来たらしく、司の隣の蛇口へと立ちながら水を出し手を洗う。

 ドキドキとしながら隣り合わせに手を洗う司。


「あのさ司ちゃん」

「は、はい?」


 口を開き話し始めたのはマキ。

 司はビクッと反応し聞き返すと、マキは水を止め司の目を見ながら話す。


「司ちゃんはさ。トシちゃんの事、どう思ってるの?」

「え?あの・・・」

「即答・・・しないんだね」

「あの・・・」


 突然の質問に司はドギマギしながら言葉が出てこない。

 そしてマキの二言目に司は言葉を噤んでしまう。


「私わね、トシちゃんが好き」

「・・・!!」


 マキの口から出て来た言葉は、司の胸にズシッと来た。

 彼女から出た“好き”と言う言葉は、恐らく恋愛感情が入ったワードである事は司でも分かっていた。

 目を見て話すマキに、司は目を逸らしたかったが逸らせなかった。

 と言うより、逸らしたら全部が終わってしまう。

 そう司は感じていた。


「だから司ちゃん」

「は、はい・・・」

「もし司ちゃんに。そう言う感情が無いのならさ・・・邪魔しないで」

「う・・・!!」


 マキから出た言葉に、司は何も言い返せなかった。

 トイレの中にピンとした空気が流れる。

 だが、このトイレには司とマキ以外にもう一人の人物がいたのだ。


(えー!?此処でまさかの修羅場!?私出れないんだけど!!)


 一番手前の個室に入っていた女性。

 彼女の名は真琴。

 実は彼女は司の少し後にトイレに来ていた。

 用を済ませ、出ようと思った矢先の出来事であった為出るに出れない状況となってしまった。


(え!?え!?司ちゃん何も言わないの!?)


 息を潜めながら聞き耳をたてる真琴。

 シンと無言の空間が続いており、真琴も気が気じゃ無いようだ。


「司ちゃん?」

「あ、あう・・・」


 司の目は完全に困惑していた。

 状況的には直接対決の構図となっている。

 だが司は言葉が出てこない。


(どうしよう、なんて言おう・・・マキちゃんは本気だ。私は、すぐに答えが出なかった・・・そんなんだったら、マキちゃんの言う通り・・・邪魔しないほうが、良いのかな?)


 心の中でそう考えてしまう司。

 この空気に耐えれなくなったと言うのもあるが、マキの気持ちを直接聞いてしまった事で自分が一歩下がれば・・・とも考えてしまっていた。


(やっぱり私には・・・俊哉さんには・・・)


「あ、あの・・・」


 言おう。

 “邪魔はしません”その一言で全部が終わるのだ。


(終わる・・・終わるの?)


 だが司の中には、此処までの俊哉との思い出。

 そしてハルナや由美、菫を始めとした協力してくれる皆の顔が浮かんだ。


(ダメだよ司!此処で終わっちゃったら・・・私、絶対後悔する。だって、引っ込み思案で男性とも話せなくて、友達もいない私を・・・変えてくれたのは・・・俊哉さんなんだ!)


 俯いていた司は、キッとマキを見た。

 マキは司の今まで見せたことのない目にドキッと驚く。


「私が此処まで変われたのは、俊哉さんのお陰なんです。一番最初に話をしてくれて、遊びにも連れてってくれて。私にとって俊哉さんは、心の拠り所でもあるんです。ですから私は・・・」


 俊哉という存在が司を変えてくれた。

 こんなに前向きにもさせてくれた。

 そんな自分の感情から逃げて来ていた司は、自身の口から言葉が出て来た。


「私も、俊哉さんが好きです。大好きです」

「司ちゃん・・・」

(司・・・よく言った!!)


 司のまっすぐな目。

 そして彼女から出た言葉にマキはポツリと呟き、個室内の真琴が心の中でガッツポーズをする。


「分かった。じゃあライバルだね」

「ら、ライバル・・・」

「そうだよ 今後トシちゃんが何方を選んでも恨みっこなし!良い?」

「は、はい!」

「よし じゃあ、これからもヨロシクね」

「あ、こ、こちらこそ」


 笑顔で右手を差し出すマキに、司は少し戸惑うもスッと手を差し出し握手をした。


「お互い頑張ろうね」

「は、はい」


 互いに握手を交わす2人は、クスッと笑う。

 そしてそのまま2人はトイレから出て言ってしまい、次の瞬間には個室から真琴がフラリと出てくる。


「いやぁ・・・すんごい場面に出くわしたわ・・・」


 今までのドラマの様なシーンの傍観者となった真琴。

 皆んなに伝えたい所であるが、何て伝えたら良いかが思い浮かばない。


「まぁいずれ分かるでしょ・・・これはぁ私の心の中に閉まっておこうかな?」


 最後は諦め、真琴の心の中にしまい込むのであった。

 そして真琴もトイレを出て、皆んなの待つテーブルへと戻るのであった。



 次回へ続く。

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