第26話:恋路のライバル

司達がちょうど大浴場へと入っていった頃、また数人の女子生徒たちが入って来た。


「はぁー、大きいお風呂に入れるー」

「体バキバキー」

「美咲ずっとバスの中で寝てたじゃん」

「良いのよ 暇だから」


 入って来たのは美咲、真琴、菫の3人。

 彼女達は俊哉達とは別のクラスの班であり、他には明輝弘、秀樹、山本と同じ班である。


「日本の温泉は久しぶりねー」

「そっか菫はこっち来るまで海外にいたもんね」

「そうよー楽しみよ」


 服を脱ぎながらキャッキャと話す3人。


「・・・海外で育つと胸も大きくなるもんなの?」

「えぇ?」

「いや何でもないわ」


 服を脱ぎながら美咲が呟く。

 その目線の先には菫の胸があり、明らかに他の子達とは発育が違う事に美咲は率直な言葉が出たのである。


「さ 行きましょ」


 菫がウインクしながら話すと、3人は大浴場の中へと入って行く。

 大浴場の中は広い空間が広がっており、行くつもの湯船がある。

 そして何と言っても露天風呂からは洞爺湖が一望できる最高のロケーションである。


「広ーい」

「これは中々だねぇ」


 はしゃぐ菫に真琴も感心する。

 すると、美咲が見渡していると誰かに気づいた。


「あら。知ってる顔がいるわね」


 そう言うと、美咲は菫と真琴を連れて歩き出す。


「ヤッホ 絵梨ー」

「あぁ。美咲ー」


 美咲が見つけたのは絵梨。

 そこには司や他の子達もいた。


「ありゃ美咲じゃん」

「明日香もいたんだ。てか多いね」

「たまたまね。美咲達もどう?」

「勿論喜んで その前に身体を洗って来るね」

「はいはぁい」


 明日香と美咲は一年生の頃から仲が良く、よく遊びにも行く仲だ。


「司ー」

「スミちゃんー」


 久しぶりの再会とあって喜び合う司と菫。

 話に花を咲かせたいところだが、菫達はまずは身体を洗いに行く。


「ねぇ菫。さっきの子が司ちゃん?」

「えぇ。そうよ?」

「へぇあの子が・・・俊哉君の事が好きなのねぇ」

「そうよ 引っ込み思案で中々前に踏み出せないけどねぇ」


 移動しながら話す美咲と菫。

 美咲は何か考えながらニッと笑みを浮かべるのであった。


「お待たせ」


 しばらくして菫達が司達の元へとやって来る。

 湯船に浸かりながら温泉の暖かさを身体で感じる。


「はぁーいい湯だなぁってね」

「温泉っていいわねー」

「ほんとだねぇー」


 湯船に浸かり大きく息を吐く3人。

 やはり温泉はいいものである。


「あ、そうだ」


 美咲がそう呟くと、由美と仲良く話している司の方を見る。


「えっと、司ちゃん?」

「え、は、はい」


 司は美咲と初めて話す。

 突然話しかけられた事によりオドオドする司に美咲はニコッと笑みを浮かべると司の近くに寄り話をする。


「初めましてかな?」

「そ、そうですね」

「緊張しないでよぉ。同級生じゃん」

「は、はいぃ」


 正直な話し、美咲は今時の女子高生といったタイプで司とは真逆のタイプである。

 司自身、人見知りなのもあり全く話した事が無い彼女の方から話しかけられるとは思いもしなかったのだ。


「ふむふむ・・・」

「え?あの?」


 ジロジロと司を見る美咲。

 オドオド、ドキドキしながら司は美咲を見る。

 そして最後に前髪を分け顔を見る。


「あら、可愛いのね」

「ふぇ!?」


 美咲の言葉にボッと顔を赤くする。


「でしょぉ?司は可愛いのよ」

「す、スミちゃん!?」

「そう司は可愛いよ?」

「ぱ、パル!?」

「そうです司は可愛いのです」

「ゆ、ユミ!?」


 同意して行く他のメンバーに驚く司。

 美咲はウンウンと何度か相槌を打ちながら何かを考えている。


「よし分かったわ 司!」

「は、はい!」

「あなた面白そうね 気に入ったわ!」

「は、はい。ありがとう・・・ございます?」


 ポカンとする司。

 また周りで聞いていた他の女子達もポカンとしている。


「ま、ちょい移動しようか。そろそろノボせそう」

「あ、はい」


 ずっと湯船に浸かるのは中々キツい。

 移動する事になり、司、ハルナ、由美、美咲、絵梨、真琴、菫、瑠奈の8人が露天風呂へと向かう。


「おー綺麗ー」


 洞爺湖が一望できる露天風呂に感動する女子達。

 湯船に浸かりながら、早速彼女達は先ほどの話を始める。


「んで、一体何がどうなったのさ?」


 ハルナが先ほどの話を美咲に聞く。


「そのまんまよ。司の恋路を応援しようかなってね」

「へ!?こ、恋路?!」

「あら気づいてない訳無いわよー。まぁ私は菫から聞いたんだけどね」


 美咲の言葉に司はまた顔を赤くする。


「あら。そうでしたの?ハルナさん。」

「瑠奈ちゃんは知らなかったもんねー」

「私そう言うのには疎くて。ちなみにお相手はどなたです?」


 今ここで初めて知った瑠奈。

 当然瑠奈は、司の恋路の相手が誰だかが気になる。


「俊哉君よね?」

「え?!あ、いや・・・」

「あら。俊哉さんですか。」


 美咲が答えると司はビクッと反応。

 そして瑠奈は口に手を当てながら驚いたような表情を見せるも、すぐに司を見て笑顔になる。


「私は良いと思いますが?司さん」

「る、瑠奈さん・・・」

「そうなんだよね瑠奈っち」

「瑠奈っち・・・」


 瑠奈に指さしながら話す美咲。

 また瑠奈は呼ばれたことのないニックネームに反応を見せるが、美咲はスルーし話を続ける。


「私も良いと思うよ?でもお姉さんは少し心配かなぁ」

「お姉さんて同級生でしょうが」

「経験は私がお姉さんよ」

「あっそう。んで?心配って?」


 美咲の“心配”と言うワードに疑問をぶつける真琴。


「ライバルってヤツかな」

「ライバル?」

「どう言うことです?」


 美咲から出てきた“ライバル”と言うワード。

 聞いてきた由美だけでなく、他の子達も美咲の言葉に疑問符が出てくる。


「いやね。意外と俊哉君の事好きな子たち多いよー?」

「え・・・?」


 司の顔色が変わる。


「司・・・」


 由美が心配そうに司を見る。

 しかし美咲は御構い無しに話を続ける。


「今この場にだと、まず司」

「は、はい」

「んで菫」

「いや私は外してよ。司ちゃんにもそれは話してあるしさ」

「いやいや一応ね。んでコイツ」


 そう言いながら美咲は後ろにいる絵梨を指すと、絵梨はドヤ顔でVサインを作る。

 勿論、その場にいた司含め女子たちは驚く。


「え、絵梨ちゃんが?!」

「あらあらまぁまぁ」


 驚くハルナに、なんだか楽しくなってきた瑠奈。

 だが司の頭の中は大混乱である。


「てか言わないでよ美咲」

「隠してても仕方なくない?」

「もうー、知らないところで俊哉君にアピールしまくろうと思ってたのにー。台無しじゃん」

「えぇぇぇ・・・」

「司しっかりするです。目がグルグルしてるです」


 大混乱状態の司に由美が肩を揺らす。


「まぁ絵梨は大丈夫っしょ」

「えー!どうしてさ!」

「だって似合わないもん」

「そんな事ないよー。これでも私、脱いだら凄いんです!」

「もう脱いでるけどね」


 絵梨の言葉に的確なツッコミを入れる真琴。

 確かに絵梨はスタイルは良いし、スポーツも得意な子ではある。


「でもお勉強は、ちょっち苦手だけどねー」

「それは自慢にはならないかなぁ」

「だよねー」


 “あはは”と笑いながら話す絵梨。

 司はもう何がなんだか分からない位に頭の中がグチャグチャである。


「司大丈夫?」

「あ、あのもう何がなんだか・・・」

「じゃああと1人だけいるから。そこまで聞いてよ」

「は、はい・・・」


 美咲の言う最後の1人。

 それが誰であるかは司はすぐに分かった。


「マキね」

「やっぱり・・・ですよね」

「大本命と言われてるけどね。幼馴染で、家も近い。んで良く一緒に遊んだりしてる。少女漫画なら完璧くっつくタイプよね。でも司!!」

「は、はい!!」

「私は、司を応援するわ」

「え?」

「えぇ!?私はー!?」

「お黙り絵梨!見てみなさいよ!引っ込み思案な性格で、男の子が苦手で、友達もあまり多くない。でも、初めて会話した男の子を好きになっちゃった・・・このシチェーション!!私もそんな出会いしたかった!!羨ましい!!」

「み、美咲・・・さん?」

「私の事は“さん”付けしなくて良いわよ司」

「は、はい・・・」


 美咲の話に圧倒される司。

 だが周りの女子は何度も頷いており美咲の話に同意していた。


「確かに、私は嬉しかったわよ?」

「パル・・・」

「私もです。あの司がここまできたのです」

「由美ぃ・・・」

「私もよ 司」

「スミちゃん・・・」

「私は諦めないよー?ライバルだね!」

「絵梨は黙ってなさい。司ちゃんの思う通りにしたら良いよ?」

「真琴さん、絵梨さん・・・」


 ハルナ、由美、菫、絵梨、真琴の言葉に司は思わず泣きそうになるもグッと堪える。

 すると瑠奈はガッと司の両手を握ると、涙を流しながら話す。


「私も!応援いたします!!」

「る、瑠奈さん・・・」


 感動した瑠奈。

 司は苦笑いを見せるも、瑠奈を始め皆には感謝していた。


「でも、すっごい難しいかもねぇ」

『うーん。確かに』


「そ、そんなー!!」


 こうして大浴場でのお話は終わっていった。


 次回へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る