第24話:函館

 北海道の函館空港に聖陵学院の生徒たちを乗せた飛行機が到着。

 飛行機からロビーへゾロゾロと出てくる生徒たちの中で、2人の生徒がズンとテンションが下がっていた。


「着いたね北海道!ねぇトシちゃ・・・え?どうしたの?」

「ははは・・・鉄の塊も飛ぶんだねぇ」

「え?何て?」


「てかなんで竹下も?」

「着くまでずっとトシに手握られてた・・・しかも握力強くて痛い・・・」

「あ、あはは・・・」


 着いて早々テンションが低い2人の事は置いといて、生徒らは空港から出るとバスへと乗り移動をする。

 途中昼食を取り、一行が向かったのは五稜郭。

 五稜郭は江戸時代末期に江戸幕府により蝦夷地の箱館(現函館)に建てられた稜堡築城であるり、箱館戦争時に旧幕府軍が占領し本拠とするなどした場所である。

 また戊辰戦争で土方歳三が戦死した場所としても有名だ。

 現在では歴史的観光名所として開かれており五稜郭タワーからは、五稜郭を一望出来る。


 勿論生徒たちはタワーへと登り展望台から見下ろすわけだが、俊哉はと言うと竹下や堀などに引きずられながら登って行ったのは言うまでも無いだろう。


「高かった・・・死ぬかと思った・・・」


 すでに半泣き状態の俊哉。

 飛行機にタワーと完全に心をやられた俊哉は、そのままバスへと揺られる。

 もう次何が来ようが怖いものはない。

 そんな根拠のない強気な思いさえ出てくる今日この頃である。


「次は大丈夫だろ」

「へ?」

「次は町の散策だからな」


 着いたのは元町。

 元町は函館の観光名所の1つともなっており、その街並みは日本文化と西洋文化が混じり合った場所である。

 ここからは班行動で散策をすることとなっており、バスを降りると班別に分かれて行動をする。


「では行きましょうか」

『はぁい』


「って、なんで私が仕切ってるんですか?」

「まぁ瑠奈ちゃんなら安心かなって」

「まさか、そのためだけに誘ったと?」

「えぇまぁそんな事は・・・ないかな?多分・・・」


 目を逸らしながら答える俊哉。

 瑠奈はハァッと1つため息を吐くも笑顔を見せる。


「まぁ実際、まだ決まっていなかったので良いですが・・・」

「ありがとねぇ」

「いえ、こちらこそです」


 俊哉の感謝の言葉にクスッと笑顔を見せる瑠奈。

 こうして班行動が始まり、俊哉たちは元町の異国情緒溢れる町並みを大いに楽しんだ。


 また小休憩には、レトロな建物のカフェでホッと一息吐く。


「この“くじら汁”美味しいですわね」

「ホントだねー」


 北海道ならではの郷土料理に舌鼓を打つ瑠奈とマキ。

 俊哉らも“とうふ白玉パフェ”を食べるなどして甘いものを食す。


『ごちそうさまでしたー』


 満足げにお店から出る俊哉たちの班。

 俊哉自身も、ここで初めて“北海道に来て良かった”と心から感じていた。


「もう高いところは帰りの飛行機で十分だね」


 バスに戻る道の中でそんな話をする俊哉。

 だが、竹下は申し訳なさそうに俊哉の話に割って入る。


「いや実はな。今日まだあるんだわ」

「・・・・へ?」


 時間は過ぎて行き夜。

 バスに乗り元町を出発、今日宿泊予定のホテルへとチェックインし夕食を摂る。

 そして時間は7時過ぎごろか、ホテルのロビーに再度集まっていた。


「キイテナイヨー!!」

「最初言ってたろ」

「ほら俊哉さん、行きますよ!」


 ズルズルと引きずられながらバスへと再度乗り込む俊哉たち。

 そのまま彼らが向かったのは、函館山である。


「展望台・・・」

「そ。ロープウェイに乗って上まで上がれば展望台。函館の街並みが一望出来るぜ。よくテレビとかでも見るだろ?」

「あー。まぁその位なら大丈夫・・・かな」


 そう話す俊哉。

 だがやはり現実は違った。

 ロープウェイで頂上まで登ると展望台なのだが、かなりの高さである事は分かっていた。


「無ーりー」

「・・・もう俺の手握るなよ?」

「えー」

「私も嫌ですわ」

「瑠奈ちゃんも!?てか言い方酷くない!?」


 竹下と瑠奈に拒否られる俊哉。

 途方に暮れている俊哉の元に近づいてくる人影があった。


「トシちゃん大丈夫?」

「あ、マキ」


 来たのはマキ。

 するとマキは自然な流れで俊哉の手を握ってくる。


「そんなに怖いなら。一緒に行こうよ」

「あ、うん。ありがと」


 マキの言葉に笑顔を見せる俊哉。

 2人は手を繋いだまま展望台の方へと向かう。

 ビビる俊哉は一歩一歩恐る恐る近づき、最後は意を決して覗き込んだ。


「・・・わぁ」


 展望だから見える夜景は絶景だった。

 よく旅番組とかで見る景色が今自分の目の前に見えているのだ。


「スッゲェ・・・」

「綺麗だね・・・」


 思わず見惚れる俊哉とマキ。

 すると俊哉の手は自然とマキから離れて行く。


(あ・・・もう大丈夫そう 残念かなぁ・・・なんてね)


 もう少し長く手を・・・。

 そう思っていたマキであったが、俊哉の笑顔を見ていると彼女も自然と笑顔を見せ一緒に夜景を見て楽しむのであった。


(もう少し、このまま隣にいれればなぁ・・・)


 そんなマキの思い。

 北海道修学旅行の1日目が無事に終了したのであった。



 次回へ続く。

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