第弐章:夏に向けて

第23話:修学旅行

 ゴールデンウィークが終了し暫く日にちが過ぎた。

 二年生のクラスでは六月に迫るイベントに向けて大いに盛り上がっていた。


「楽しみだねぇ。修学旅行ー」


 生徒の1人が楽しそうに話す。

 そのイベントとは修学旅行。

 聖陵学院では六月に修学旅行を行うことになっている。

 勿論、俊哉たちも修学旅行には参加予定で、この日はクラスごとの班決めを行なっている。


「えっと、班は9人から10人って多くない?」

「作者の都合だろ?」

「それ言わないの」


 配布されたプリントを見ながら話をするのは俊哉と竹下。

 2人は当然ながら野球部のメンツで揃えようと考えるだろう。


「ウチのクラスには、俺にトシ。んで青木にうっちーに堀君で5人か」

「あと4人か5人はどうすんの?」

「そりゃあ勿論、女子よ!」

「あっそう・・・」


 グッとサムアップしながら話す竹下に俊哉は反応が薄い。


「なんだよ乗り気じゃねぇなぁ」

「いや、別に」

「そりゃあそうか。姫野いないからなぁ」

「ななななんの事かなぁ!?」


 ニヤリと笑いながら話す竹下の肩をグワングワンと振る俊哉。

 2人でそんなやり取りをしていると、マキと明日香が近づいて来た。


「トシちゃん。班決めできた?」

「おぉマキー、まだ5人しか決まってないんだよね」


 マキの言葉に俊哉がまだ全員決まっていないことを話す俊哉。


「じゃあさ私たちと一緒に班作ろうよ」

「おぉー、俺は良いけど。トシは?」

「俺も大丈夫だよ?」

「やったぁ とりあえずコレで7人だね。そうだ ねぇ絵梨ー」


 何かを思いついたマキは少し離れた所にいた絵梨を呼び寄せる。


「ほいほーい」

「絵梨は班決まった?」

「んー、まだかなぁ」

「じゃあ私たちと一緒に班入ろう」

「おー」


 マキからの誘いに絵梨は俊哉をチラッと見る。

 俊哉の絵梨の視線に気づいたのはドキッとする。


「んー・・・良いよー」

「やった これで8人」

「あと1人か2人か・・・あ。」


 残りのメンバーを考える俊哉たちだが、俊哉が何か思いついた。

 そして俊哉はとある人物に声をかけるのであった。


 それからあっという間に時間は過ぎて行った。

 六月の初めの静岡駅。

 新幹線改札口の前には大勢の男女が制服を着て集まっていた。


「ふわぁー」

「トシちゃん、すっごい欠伸」

「朝は弱くてね・・・」

「情けないわね」

「あはは・・・」


 眠そうに大きな欠伸をする俊哉にマキは笑い、明日香はやれやれといった表情で俊哉をみる。

 修学旅行出発の日とあって、生徒たちは楽しみでしょうがないのかワイワイと楽しそうに話をしている。


「じゃあ全員集まったから出発するぞー」


 教員の声で生徒たちは移動を始めた。

 ぞろぞろと移動をし新幹線のホームへと移動。

 生徒たちは新幹線へと乗り込み東京方面へと向かう。


「楽しみー」

「マキまだ着いてないわよ?」

「だってしょうがないじゃんー」


 楽しみでしょうがないのかはしゃぐマキ。

 すると彼女の後ろから女性の声が聞こえた。


「ほらマキさん。後ろがつかえてますので早く乗って下さいな」

「あ、ごめんねー瑠奈ちゃん」


 声の主は瑠奈。

 あの時、俊哉が声をかけたのは瑠奈であった。

 ちょうど班仲間を探していた瑠奈は俊哉の誘いを快諾し、9人の班ができたのだ。


「でも良いんですか?私も班に入れてもらって」

「勿論 むしろ有難いよ、しっかりしてるし色々仕切ってくれそうだしさ」

「仕切ってくれるかは分かりませんが・・・ま、まぁしっかりしてるのは自負してますので?勿論私に任せていただけれb・・・」

「ねぇ瑠奈ちゃんお菓子食べよー」

「マキさん?」

「は、はい!」

「まだ席に着いてなのにお菓子を広げるのは、ダメなのでは?」

「あ、はい・・・ごめんなさい」


 お菓子の袋を開けながら歩くマキに瑠奈は怖い笑顔で迫る。

 マキは彼女の気迫に圧されながらお菓子をしまう。


「あ、す、すいません。折角の修学旅行なのに・・・」

「う、ううん大丈夫だよ?私も確かに行儀良くなかったかなって・・・」


 我に返ったのか恥ずかしそうにしながら謝る瑠奈にマキは慌てながら話す。

 そんなやり取りを見ていた竹下は俊哉に話す。


「やっぱ委員長は真面目だな」

「瑠奈ちゃんなら色々と安心して任せられるからね」

「そうかもだけど・・・俺苦手だなぁ」

「え?そう?野球好きだし、俺は話しやすいよ?」

「トシは誰とでも話せるから良いよな。それに女の子には困ってねぇしさぁ」

「それはどういう意味よ?」

「さぁねぇー」


 俊哉がジト目で竹下に迫るも竹下は笑いながら自分の席へと向かうのであった。

 新幹線が出発し揺られること約一時間半ほどで東京駅へ到着し、電車を乗り継ぎ向かうは羽田空港である。


「おー空港だー」


 電車の窓から見えるのは飛び立つ飛行機や大きなターミナルの建物。

 生徒たちが窓からその風景を覗きながら感動している中、1人の生徒は顔色が良くなかった。


「どうしたトシ?」

「え?いや、別に」

「いや別にじゃないでしょ?完全に顔色悪いぞ?」


 その顔色の良くない生徒は俊哉である。

 質問に対する対応もぎこちなく、竹下はどこか怪しいと思い俊哉に再度聞いてみると答えが返って来た。


「飛行機が苦手?」

「というより、高いとこが嫌・・・」

「ぷっ・・・あはは」

「わ、笑うな!!」


 俊哉の答えに笑う竹下。

 そんな彼に俊哉は怒るが竹下の笑いは止まらない。


「いやぁ、トシが高所恐怖症とはね」

「なんで飛行機なんだよ・・・今新幹線通ってるじゃん!!」

「まぁ飛行機の方が早いし。それに定番だろ?」

「定番である意味!」

「まぁ直ぐに着くよ。ぷっ!くくっ!!ギャハハハ!」

「テメェ!!」


 どうやらツボに入った竹下に俊哉は顔を真っ赤にしながら怒っていた。

 そんな事をしている内に空港へ到着。

 中に入ると広いロビーが広がっており生徒たちは感動する。


「すごいすごーい」

「ひろ・・・」


 はしゃぐマキと明日香たち。

 だが俊哉はズンとテンションが未だに低いままだ。


「ほら宮原さんはしゃがないで・・・俊哉さんも、って俊哉さん?」

「あ、あぁ。瑠奈ちゃんヤホー・・・」

「・・・どうかされたんですか?」

「あはは・・・なんであんな鉄の塊が空を飛ぶんだろうね?」

「は、はぁ・・・」


 テンションだだ下がりの俊哉に瑠奈は困った顔をする。

 すると竹下が俊哉に肩を組み笑いながら話す。


「コイツ高所恐怖症なんだよ。マジウケる!」

「だ!ま!れ!」


 竹下に対し俊哉が反抗しギャイギャイと暴れる2人に、瑠奈はハァッとため息を吐きながら2人が暴れるのを辞めさせる。


「良い加減にしなさいな!」

『は、はい・・・』


 一喝されシュンとする2人。

 瑠奈は“良い年なんですから!”と言われ先に行かれてしまった。


「竹下のせいだぞ?」

「はぁ?お前がネタ提供してくれたせいだろうが」


 この2人のやり取りは飛行機に乗るまでしばらく続いた。

 出発ロビーへと向かい荷物を預け、ゲートを通るといよいよ飛行機へ搭乗となる。


「窓際だー」

「良いなぁ窓際ー」


 窓際に座るマキに隣の絵梨が羨ましそうに話す。

 そして俊哉はというとお願いして通路側へとしてもらったのは言うまでもない。


「やばい・・・やばい・・・」

「いつまで言ってんだよ。飛べば大丈夫だって」

「こんな鉄の塊が飛ぶなんて信じられん・・・絶対これ道路走ってるんでしょ?そうでしょ!?」

「車検通らないよ」


 俊哉に竹下は流石に飽きてきたのか、対応が塩対応になってくる。

 すると機内アナウンスが流れシートベルトの着用を言われ各自シートベルトを着けると、機体はガタンと動き出した。


「動いた!!」

「そりゃ動くだろ」

「走ってる!」

「そりゃ走るだろ」

「Gが!Gが!!」

「うるせえ!」


 騒ぐ俊哉にツッコミを入れる竹下。

 機体がスピードを上げていきいよいよ空へと飛び立とうとする。


「ーーーーー!!!!???」


 声にならない悲鳴をあげる俊哉は、隣に座っていた竹下の手を力強く握った。


「おいおい俊哉さん男の手を握るとか、俺そんな趣味は無い・・・痛い痛い痛い!!メッチャ握力強い!!お前こんな握力強かったっけ!!??」


 ギリギリと力強く握る俊哉に悲鳴をあげる竹下。

 結局、北海道に着くまで俊哉は固まったままだったそうだ。



 そして約3時間ほどのフライトを経て、俊哉たち聖陵学院二年生たちは修学旅行先である北海道へと到着したのであった。



 次回へ続く。

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