第19話:スローカーブ
5回表マウンドに上がったのは|廉(れん)。
背の低い選手が出て来た事に二、三年生は注目した。
「低いな」
「アイツ投手だったのか」
そんな話をする二、三年生。
また観戦している女性陣にも廉の話題が出て来る。
「背ぇちっちゃいわね・・・心優位じゃ無い?」
「あぁー そうかもぉ・・・」
「でも可愛いねぇー」
「そう?背が低いだけじゃない?」
「柚子ちゃん それは失礼だよぉ」
そんな話をしながらキャッキャッする柚子達。
「なんか今、失礼な事言われた気がする」
「え?」
マウンド上で何かを受信した廉に三平が首をかしげる。
仕切り直すように三平が話を始める。
「よし!気合入れていこう!」
「おう!」
「お互いチビチビコンビで頑張ろうね!」
「誰がチビじゃコラァ!!」
「えぇ?!」
怒る廉。
どうやら彼は背の低い事にコンプレックスを抱いているようで、その事に触れられると怒るのである。
「ま、まぁ頑張ろう」
「おう 頼むぜ!」
「うん!」
やり取りをしホームへと戻る三平。
打席には鈴木が入り試合が再開する。
(さぁ廉君!見せてあげよう!)
ミットを構える三平。
マウンドの廉から一球目が投じられる。
「ストライク!」
(背が低い割には良い球放るじゃん)
廉から投じられたストレートはスピードガンが無いため正確かは分からないが125キロ程は出ているであろう。
一年生の彼の体格なら十分だ。
続いて二球目、三球目とボールになるがコースはいずれもギリギリであり、コントロールの良さも伺える。
(さて、ここまで全部ストレート。変化球は?)
打席の鈴木は彼なりに色々見ながら考えている。
そして続く四球目の投じたボールはフォークボールを投じ|鈴木(すずき)はファールにする。
(フォークボールか。でもこれじゃあ決め球にはならんな。俺でもこの程度のフォークを持ってる)
バットを構え直しながら考える鈴木。
「ねぇ心優」
「なぁに?柚子ちゃん」
「橘・・・廉(だっけ?知ってる?」
「うーん・・・知らないなぁ クラスも違うし」
「私もかなぁ」
マウンドの廉を見ながら話をする柚子たち。
どうやら野球好きの心優でも知らないらしく、気なるようで話をしている。
「気になるの?」
「いやぁ別にぃ?」
椛愛の言葉に柚子が笑いながら話す。
試合に戻り、廉が三平からのサインに頷き五球目を投じようとしていた。
(さて次は何で来る?!)
バットを構える鈴木に対して廉が投じたボールは腕から離れると、ポンと大きく外れるコースとなった。
(暴投か?)
暴投と見て力を緩める鈴木。
だが投じられたボールはそのままググッと打者側に弧を描くように曲がって来た。
(うぉ!?まじでか!?)
ゆっくりとした軌道を描き曲がって来るボール。
力を緩めていた鈴木は慌ててバットを振りに行くも、バットとボールは合わさる事なくすり抜けて行き三平の構えるミットに収まった。
「ストライク!バッターアウト!」
「まじかよ・・・」
空振りの三振。
打席の鈴木もそうだがベンチの二、三年生も廉の投じたボールに驚きを隠せていない。
「スローカーブだ」
「心優?」
「橘君の投げたボールだよ。あの軌道と緩急の着いた遅い軌道は、間違いなくスローカーブだよ。すごい!初めて見たよ〜、あんな変化量のあるの」
はしゃぎながら話す心優。
がだ二、三年生は笑えない。
「あのカーブはやばいぞ。この試合で攻略できるか?」
「身長差があるからこそ、あのボールを覚えたのか・・・彼のストレートとスローカーブの緩急があれば、どんな大きな打者でも打ち取れる」
そう話す俊哉。
彼の目はワクワクとしていた。
彼と早く対戦したい、体感したい。
そんな思いを胸に廉をジッと見つめていた。
「すまん!」
「ドンマイ。あれはしょうがない」
「おもしれぇじゃねえかよ。橘廉か・・・」
チェンジとなりグラブを持ちグラウンドへと出て行く俊哉たち。
意外な伏兵の出現に二、三年生たちは更に緊張感が増して行く中での五回裏の一年生の攻撃。
「オラァ!」
ギィィン・・・
鈴木の投じるボールに対し上原が詰まらされてショートへのゴロに打ち取られる。
8番の三平から始まった打線だが、三平は空振り三振、続く九番の廉も空振りの三振に打ち取り、先頭に帰り一番上原はショートへのゴロでチェンジとし一年生らに勢いを与えない。
「攻撃だ!点差を開かせるぞ!」
『おう!』
気合をいれるに三年生チーム。
だが、廉(れん)が二、三年生の勢いを止める。
「ストライク!バッターアウト!!チェンジ!」
6回表は7番竹下から始まる打線。
竹下はカーブに当てるもファーストゴロに打ち取られると八番の青木はスローカーブに手が出ず空振り三振。
そして九番の内田も決め球のスローカーブを振らされ空振り三振を奪ったのだ。
「よっしゃあ!!」
最後の内田を空振り三振に打ち取り雄叫びを挙げる廉。
「ナイピッチだよ廉君!」
「おう!任しとけ!!」
ベンチに戻りながらグラブタッチを交わす三平と廉。
この勢いを、残りの攻撃で生かせるのか・・・
終盤戦の戦いが始まる。
次回へ続く。
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