第18話:ホームラン

 4対3と二、三年生が一点リードで迎えた五回。

 打順は一番の早川からとなり、マウンドには引き続き小森が上がる。


(そろそろ俺の体もあったまってきたな)


 エンジンがかかってきた小森のピッチング。

 その通り、先頭の早川をセンターフライに打ち取ると勢いに乗り次の二番山本をセカンドへのフライに打ち取る。


「ツーアウトー!!」


 セカンドの亮斗がアウトカウントを言い守備陣を鼓舞する。

 二死となり打席には俊哉を迎える。


(横山先輩か・・・)


 マウンドの小森は警戒心をあらわにする。

 俊哉とは中学の時に対戦経験があり、その時にも安打を許している。


(この人、中学の時もヒットを打つ技術は凄かったからな。その上に長打が打てるパワーがついたとなると・・・厄介だぜ)


 そう考えながら一球目を投じる小森。

 一球目に投じたカーブは外に決まりストライクを取る。


「ストライク!」


(ストライクが取れた。次はインコースに・・・)


 三平から出されるサインに頷きながら二球目を投じる小森。

 小森の投じた二球目はインコースへのスライダー。

 だが俊哉はこの球を上手く腕をたたみ振り抜く。


キィィン・・・


 インコースの難しい球を腕をたたみながら振り抜くと、打球音を響かせながらボールはセンター前へと落ちるヒットとなった。


(打たれた・・・)


 高校でもヒットを打たれた形となってしまった小森は一塁を回り止まる俊哉を見る。

 悔しい思いがあるが、むしろこれからそんな先輩が仲間として試合をしてくれる。

 そう思っただけで嬉しくてたまらなかった。


(ここに来て・・・良かった)


 そう思えたのだ。

 だが今は試合に集中、打席に向かう明輝弘を見る。


(さて庄山先輩だ)


 今日ヒット1本放っている明輝弘。

 二打席めもライトへの大飛球を放っており、注意しなければならない。


(さぁ小森君!強気だよ?)


 ドンと胸を叩き小森を見る三平。

 そんな彼に小森もコクリと大きく頷く。


(明輝弘さんの苦手なのは変化球。なら申し訳ないけど変化球攻めだ)

(恐らく小森は変化球攻めをしてくるだろう。そこで試合前にトシから教わった“タメ”だ)


 三平からのサインに頷き投球へと移る小森。

 彼から放られたボールは大きく曲がるカーブだ。


(ジッと我慢・・・してからの・・・スイング!!)


 大きく曲がるカーブに対し、明輝弘はグッと堪えながらタメを作った。

 そしてフルスイングをするとボールとバットの軌道が完璧に合う。


(いけ!!)


 カキィィィン・・・


「うわ!?」

「あれ!?」


 思わず言葉を漏らす小森と三平。

 ジャストミートした明輝弘バットから放たれた打球は、まるでピンポン球の様に弾かれると一直線にライト方向へと飛んでいく。


「すごい・・・」


 ショートから思わず言葉を漏らす琢磨。

 またライトの選手も追うのを途中で辞めると打球はホームランゾーンの遥か上を越して行き後方にあるネットも越し雑木林の中へと入っていった。


「す、すげぇええええ!!」

「特大ホームラン!!」


 二、三年生ベンチから驚きの歓声が上がる。

 明輝弘はバットを放るとゆっくりと走り出しダイヤモンドを回った。


(やべ・・・久しぶりのホームランとかスッゲェ嬉しい)


 感動して泣きそうになる感情を抑えながらダイヤモンドを回る明輝弘。

 ホームを踏むと先にホームを踏んでいた俊哉が出迎え、ハイタッチを交わした。


「ナイバッチ」

「トシのお陰だ 上手く打てたよ」

「完璧なタメだったね」

「あぁ」


 そう話を交わしベンチへと戻る俊哉と明輝弘は他の選手たちから手荒い祝福を受ける。


「お前すげぇな!?」

「久しぶりに見たぜ明輝弘のホームラン!」

「今後もどんどん見せてやるよ」

「頼むぜー」


 クールさを見せてはいるが口調から嬉しさを感じさせる明輝弘。

 これで6−3と点差を開くが、まだ攻撃は終わらなかった。

 打席には五番の堀。


(落ち着け・・落ち着け!)


 落ち着かせようと言い聞かせるのは小森。

 だが動揺は隠せず堀に対しての初球は三平の構えた場所から外れた真ん中付近へのボールとなってしまう。


 キィィィン・・・


「あ・・・」


 打った堀から思わず溢れる言葉。

 堀の打った打球はレフトへと高々と舞い上がり、そのまま体育館の屋根の上へ“ゴン!”と音を立てて乗ったのであった。


「ホームラン・・・打っちゃった」

 そうポツリと呟く堀。

 再び大歓声がグラウンドに沸き起こる。


「アベックホームラン!!」

「ナイバッチ堀君!!」


 明輝弘、堀の二者連続ホームラン。

 これで7−3と大きくリードを広げる形となった二、三年生チーム。

 すると一年生チームが動き出し、琢磨が主審の春瀬監督に申告した。


「ピッチャー交代お願いします」


 琢磨の言葉に二、三年生全員が注目する。

 先発の伊藤、2人目の小森の他にあと1人のピッチャーがいる。


「いいぞ」

「ありがとうございます。橘!いけるか?」


 春瀬監督の言葉にペコリと軽く会釈をしながらお礼を言う琢磨がベンチに声をかけると、1人の背の低い選手が出て来た。


「OKOK むしろ待ちくたびれたよ」


 出て来た背の低い選手。

 それは橘廉だった。


「お待たせ橘」

「待たせたな さぁ行こうぜ!」


 三番手でマウンドへと上がって来た橘廉。

 彼の実力は?



 次回へ続く。

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