第8話:友達

「はぁ…」


大きくため息を着く女子生徒がいた。

ロングヘアで顔面偏差値が高い女子生徒だが憂鬱な表情を浮かべている。

そんな彼女の名は夜桜柚子よざくらゆず、新一年生である。


彼女は聖陵が始まって一週間が経とうかと言う頃であるが、この学校生活に対し退屈を覚えていた。

彼女自身友達自体は少ないというよりも居なく、聖陵に一緒に来た友人当然いない。

だが今まで1人で過ごしてきた彼女は高校生活もいつもと同じ事の繰り返しなのだが、高校生活こそは充実した日々を送りたいと感じていたが、一週間経っても友達はおろかクラスメイトとも話をしていないのだ。


(まぁ、またいつもの様に学校で勉強して家に帰って生配信して、寝て…)


考えながら机に座り頬杖をつきながら窓の外を眺める夜桜柚子(以降より柚子)。

あっという間に放課後になり柚子はいつもの様に鞄を持ち廊下へと出た時である。


「わっ!!」


「きゃっ!!」


ドンと誰かとぶつかった。

ぶつかった女子生徒はお尻からドスンと尻餅をついてしまい手に持っていたプリントをばら撒いてしまう。


「いたた…」


「ぷ、プリントがぁー」


焦りながらプリントを必死に拾う女子生徒を見た柚子は見て見ぬふりは出来ないと感じ一緒にしゃがみ込みプリントを拾う。


「もう、何やってるのよ」


そんな事を言う柚子であるが、自分の不注意もありぶつかってしまった為、自分の発言に心の中で後悔してしまう。


「ご、ごめんなさい」


今にも泣きそうな表情でプリントを拾うその女子生徒。

柚子も手伝い早くプリントを拾い終え柚子はその女子生徒にプリントを渡す。


「あ、ありがとう…」


と少し震えた声でお礼を言う女子生徒に柚子は


「あ、こっちも…ぶつかって…ゴメン」


小さな声で言うと、女子生徒は少しキョトンとしながらもパッと笑顔になり話す。


「ううん。こっちこそ急いでて前見てなかったから、拾ってくれてありがとう。えっと…」


「あ、えっと…私は柚子、夜桜柚子」


「わ、私は瀬里心優 ありがとね柚子ちゃん」


笑顔をパッと咲かしお礼を言われる柚子は嬉しさを覚えた。

高校で初めて同級生と話したのである。

しかも、心の無い皮肉めいた事を言っても嫌な顔せず笑顔を見せてくれた心優にどこか心の中に安心感というか満たされた感じを覚えたのである。


(また、明日も会えるかなって…同級生だし会えるわよね…)


柚子は初めて明日の学校へ行く楽しみを覚えたのである。

その帰り道、彼女の足は軽く感じた。


その頃、心優は家で姉の瑠奈と夕飯を食べながら話をしており、心優はどこか嬉しそうにしてるのを感じた瑠奈が話しかける。


「どうしたのです?今日は嬉しそうですね?」


「うん プリントばら撒いちゃってさ、その時に拾ってくれた子がいたんだぁ 見た目少し怖い感じなんだけどね、一緒に拾ってくれて思ったんだ、優しい人なんだって」


嬉しそうに話す心優に瑠奈はクスッと笑みを浮かべる。


「よかったですわね お友達になれそうですか?」


「また明日になったらお喋りしようと思ってるの」


「ふふふ そうですか(この子がこんなに嬉しそうに話すなんて、いい出会いでしたわね)」


心優の話をほほ笑みながら聞く瑠奈であった。

翌日、柚子は学校に来ると心優を探した。

探したと言っても他の生徒らより背が低く可愛らしい女の子という事ですぐに見つけることが出来た。

というより同じクラスだった。


「あ…」


柚子が声を掛けようとしたとき向こうも柚子に気づいたようで手を小さく振りながら近づいてくる。


「柚子ちゃん同じクラスだったんだぁ」


「そ、そうみたいね…っと…」


嬉しさを隠すように話す柚子は後ろにいる女子生徒に気づいた。

その女子生徒の背は柚子より少し低い位だが、自分と違う特徴と言えばその胸である。

また目も垂れ目で顔も若干幼く見える女子生徒は柚子の方を見ると心優に話しかける。


「ミユちゃん この子が昨日言ってた?」


「うん 柚子ちゃんだよ」


笑顔で言う心優にその女子生徒はジッと柚子を見つめる。

いきなり見つめられ少し引いてしまう。

暫く見つめていたその女子生徒はすぐに表情を和らげニコッとほほ笑みながら話し掛けてくる。


「ゴメンねぇ ミユちゃんが昨日嬉しそうに話してたから気になっちゃってぇ」


ホンワカとした話し方の女子生徒に柚子は少し安心する。


「あぁ、私は桜瀬椛愛おうせかなよろしくね」


「え、えぇ こちらこそ 夜桜柚子よ」


互いに挨拶を交わすとフフッと互いに笑みがこぼれる。

なんという日だろうか、柚子に友達がまた1人増えたのだ。


それからというもの、三人は一日一緒にいた。

昼休みに入れば机を囲み昼食を食べながら話をするなどして親交を深める。


柚子も次第に慣れてきたのか口調も変わってきており砕けた感じの話し方になる。


「それでさぁ」


「フフッ」


「ど、どうしたのよ?」


「ううん ユズちゃん口調が砕けてきたなぁって」


「あ… ダメ…だった?」


「ううん むしろ最初のぎこちない話し方より全然良いよー」


「それ馬鹿にしてるでしょ」


桜瀬椛愛(以降より椛愛)と柚子のやり取りが行われ、心優も二人を嬉しそうに見る。


「何よミユ 何か私の顔についてる?」


「ふぇ?!ううん、何か楽しくていいなって…私も不安だったんだよね 椛愛ちゃん以外に友達出来るかなって」


笑いながら話す心優。

柚子は彼女の言葉に自分の思いと同じだった事に気づいた。

誰でも最初は不安なんだ、その一歩目を踏み出せるかどうか…

今回はその一歩目が踏み出せたことで今こうして二人と出会えたんだと感じていた。


「私も、嬉しいかな」


「え?」


「なんでもない!」


答える柚子。

昼休みが終わり午後の授業も終わりあっという間に放課後となる。


「そういえば、あんた達部活とかは?」


椛愛と心優に聞く柚子。


「私は今のところないかな…」


「私は帰宅部ー」


「ソレ部活?」


椛愛の言葉に笑う柚子と心優。

柚子自身も部活動には入っておらず、また無理して入る必要は無いかなと考えている。

実際この学校は強制ではないため無所属の生徒はチラホラといるため、彼女自身もそれの方が有り難い面もあるのだ。


「ユズちゃんは部活入るの?」


「んー、入らないかな。運動も得意じゃないし文科系も余り…」


話しながら廊下を歩く三人。

すると向こうの方から練習用ユニフォームを着た俊哉が歩いてきた。


「ちょっと椛愛後ろゴメン!」


と言い椛愛の後ろに隠れる柚子にキョトンとする椛愛。


「あれ?俊哉先輩」


そう言うのは心優。

俊哉のそんな彼女に気づいたのか手を振りながら話す。


「あれ?瑠奈ちゃんの妹の…」

「心優です」

「そうだそうだ。もう帰り?」

「はい 俊哉先輩も部活頑張ってください」

「ありがと じゃあね」


そう言い去っていく俊哉。

それを見計らって柚子が椛愛の後ろから出てくると、心優が不思議そうに聞いてくる。


「どうしたの?」

「え?!ううん、ないでもないわよ?」

明らかに焦りながら首を振る柚子に怪しいと感じた心優と椛愛がジト目で柚子を睨むように見続ける。

柚子は動揺しているのか彼女たちと目を合わせないようにし「あはは」と笑って誤魔化す。


「あやしいぃ」

「あやしい」


そう口ずさむ椛愛と心優。

柚子は「な、何でもないわよ!」と何処から見ても何でも無くはないこの状況だが、必死に誤魔化そうとする。

すると椛愛がピンと来た。


「もしかしたら、さっきの先輩の事・・」

「あー!あー!」

「実は好きなんじゃ…」

「あ~ー!あー!!!」


椛愛の言葉を遮ろうと大きな声を出しながら椛愛の口を塞ぐ柚子。

彼女の顔は次第に真っ赤に変色し心優も流石にどういった事かが理解出来た。


「はぁー…へぇー」

「そうなんだぁー」


ニヤニヤしながら柚子を見る二人。

柚子は顔を赤くしたままプルプルと小刻みに震える。


「ぐぅ・・・・」

「で、ユズちゃん どうなの?」

「そうそう どうなのぉ?」


聞いて来る椛愛と心優。

すると柚子はダッと走り出しその場から逃走した。


「あ!…行っちゃった」

「ちょっと、ユズちゃんに言い過ぎたかな?」


と申し訳なさそうに話す心優に椛愛も同じ気持ちだったのであろう。

今度二人で謝りに行こうと決めたのである。

そしてその場から逃げ出した柚子はというと屋上に飛び出しており、ハァハァと息を切らせながら壁に寄りかかりズルズルと屈んでいく。


「だって、しょうがないじゃないのよぉ…好きなんだもん」


独り言を言いながら真っ赤になった顔を両手で覆い恥ずかしがる柚子である。

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