第壱章:ルーキー達
第5話:2年目の春
4月。
入学式の季節だ。
桜が咲き乱れる学校前の正門には新しい制服に身を包んだ生徒たちがゾロゾロと集まってくる。
そんな中、背は低く体の大きい男子生徒がいた。
その男子生徒は目を輝かせておりこれから始まる高校生活に期待に満ち溢れているだろう。
「遂に来たよ聖陵学院!!ここで、この僕が!!甲子園に導くんだ!!」
そう語気を強めながら言う男子生徒の名は
今年より聖陵学院へ入学する新入生だ。
言葉の通り彼は中学時代野球をしており、ここ聖陵学院でも野球を続けるつもりで入学をしてきたのだ。
入学式が滞りなく終わり自分たちの教室へと向かう新入生達。
三村三平(以降より三平)は1年A組の教室へと向かい自分の机へと着く。
(いやぁ楽しみだなぁ 明日が待ち遠しいよ!!)
心のワクワクが止まらない三平。
担任の教師からの簡単な説明が始まり毎年恒例なのか、自己紹介タイムが始まる。
真面目に話す者やウケを狙う者。
またウケを狙ってスベる者など次々と自己紹介を終えていき三平の順番となった。
三平は意気揚々と教壇へと立ち自慢の大きな声で自己紹介を始める。
「三村三平と言います!野球部に入って甲子園を目指したいです!!ポジションはキャッチャーで尊敬するプロ野球選手は野村克也さん!!あと好きな食べ物はお肉です!!」
自己紹介を終えると三平は満足げにドヤ顔をする。
聞いていた生徒らの何人かは若干引き、また何人かはクスクスと笑いながら隣同士で何かは話していた。
(あれ!?スベッた!?)
中学時代にやった自己紹介をそのまま使った三平。
当時はウケていたのだが高校では違ったらしい。
だが三平は堂々と席へと戻った。
そして三平の後ろの席に座っている男子生徒が呼ばれると男子生徒は教壇へと立ち先ほどの三平とは違い低いトーンで話を始める。
「えー、
簡単に自己紹介を済ませた男子生徒の名は宮原琢磨。
目は若干たれ目であるが、イケメンと呼ばれても差し支えない程である。
彼の自己紹介に三平は嬉しく感じていた。
まさか自分の1つ前の生徒が同じ野球部に行こうと思っているとはと感動していた。
そして続く宮原琢磨(以降より琢磨)の後ろに座っていた背は三平より少し高い程で少し華奢そうに見える男子生徒が立つ。
「どうも
彼も簡単に自己紹介を言いそのまま席へと戻る横山亮斗(以降より亮斗)と名乗った男子生徒。
なんと彼も野球部への入部を考えていたのである。
三平にとってこれ以上の驚きと嬉しさは無い。
なんと自分の後ろの席に座る2人が同じ野球部に入るという事。
三平自身彼らと絶対仲良くできる。
そう確信していた。
そして解散となると、三平はすぐに後ろにいる琢磨と亮斗へ話しかける。
「ねぇ君たち!!野球部に入るの?!」
元気いっぱいの声で話し掛ける三平に二人は驚くように三平の顔を見る。
「まぁそうだけど?」
「そういやお前も野球部とか言ってたな」
そう話す二人に三平は目を輝かせながら言った。
「奇跡だよ!この部員数も足りない野球部にいきなり3人の部員が揃うなんて!!これは奇跡以外の何物でもないよ!!僕たちで!!この学校を甲子園へ導こう!!」
力強く言い放ち手を差し出す三平。
その彼の眼には一切の曇りのない輝きがあった。
これから自分たちがこの高校を強くしていくんだ。
そういう気持ちが見えた。
「いや、それはいいんだけどさ」
話し出すのは琢磨。
手を差し出されたので軽く握手をするが、すぐに手を離し話を続ける。
「この高校 普通に野球部の人数足りてるし、活動してるぞ?」
「…え?」
「それに弱くないし」
「…え?!」
三平の言葉が教室中に響く。
4月の聖陵学院にまた新たな風が吹き込んできた。
そしてこの宮原琢磨、三村三平、横山亮斗の3人は今年の聖陵野球部にとって大きな台風の目となる。
「えぇ?!野球部活動してるの!?」
そう驚きの声を上げる三平。
教室中に響き渡り琢磨はキンキンと響く声に顔を顰めながらも話を続ける。
「いや、人数足りてなかったお去年までだから」
「え?!でも二人しかいないって」
「それいつの情報だよ」
「でもでも捕手はいないんだよね!?」
「いや、普通にいるから。お前がどんな実力かは知らないけど普通に上手い人いるぞ?」
「え!?」
琢磨の言葉一つ一つに驚きの声を上げる三平。
すると後ろで見ていた亮斗が半分呆れ顔で話す。
「お前、馬鹿だろ」
「し、失敬な!!僕はバカじゃないよ!?」
「いや、ここの情報知らない時点でお察しだろ」
ツッコミを入れる亮斗。
何が何だか分からないといった表情を見せる三平に琢磨はハァッとため息をつきながら話す。
「まぁ、今度家に来いよ 色々教えてやるよ 市内住み?」
「え?あ、うん 市内だよ?」
「じゃあライン交換しようぜ」
亮斗がスマフォを取り出しながら話しをし三平は快諾し連絡先を交換。
「えっと、宮原君と…横山君」
「琢磨」
「え?」
「琢磨でいいぞ?」
「俺も亮斗でいいよ?」
そんな話をしてくる二人に三平はパァッと笑顔になる。
彼自身、中学時代は友人がほとんどいなかった。
唯一仲の良かった友人は東京へと行ってしまい1人でこの聖陵に来たのである。
だが入学式初日にまさか二人もこうして連絡先を交換してくれる仲間に出会えた事に感動を覚えていたのだ。
「そうだ、琢磨君と亮斗君はポジションどこ?」
「俺はショート」
「俺はセカンド これでも俺ら中学ん時シニアで二遊間組んでたんだぜ?」
得意げに話す亮斗。
琢磨がショートで亮斗がセカンド。
今までの雰囲気を見てこの二人なら良いコンビなのだろうと三平は感じた。
「三平はキャッチャーだっけ?」
「そうだよ?意外でしょ?」
「いや予想通り」
「あれ?!」
あっさりと返される三平に三人は笑う。
この短時間であっという間に距離が縮んだように感じる三平。
その後三人は教室を後にしそのまま帰宅の途へと着く。
「じゃあな」
「うん また明日」
自転車に跨り手を振る琢磨と亮斗。
三平はバスに乗っての帰宅の為、バス停で二人と別れを告げた。
自転車で走り去る二人を見送る三平の表情はどこか寂しげではあったが、この後3年間は三人で居れるとあって最高に嬉しく思っていた。
(よかった 上手くやって行けそうだよ)
心で安堵を感じながらバスへと乗る三平。
バスに揺られながら三平は今日のこの日を一生忘れまいと胸に刻みながら明日からの高校生活と高校野球生活に期待するのであった。
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