白い夢

オレンジのアライグマ【活動制限中】

白い夢

 三日月の夜のこと。良い子のみんなが寝静まったころ。物語の妖精たちが舞い降りてくる。さらりとした銀のマントを夜空になびかせて。ゆっくり、ゆっくりと、静かに街へ舞い降りる。あの家にも、この家にも、妖精たちはやってくる。わたしの枕元にも、やってくる。妖精たちは良い子にしていた子供の心にこっそり忍び込んで、みんな一冊の本を置いていく。それは、文庫本だったり、絵本だったり、もしかしたら巻物やパピルス、あるいは誰も見たことがないような本かもしれない。わたしがもらったのは、明るい緑の丈夫な表紙にわたしに似た子とキツネさんが遊ぶ風景が丁寧に描かれた大きくて分厚い本だった。それは、わたしの心の中にある午後の日差しが差しこむ窓際にそっとおかれていて、優しく手に取るとクローバーの匂いがした。これはわたしだけの本だ。わたししか知らないし、わたしにしか読めない物語。世界に一つしかない、わたしだけの本!これからは学校の昼休みも、一人ぼっちの夜もさみしくない。寝静まった街からは妖精たちが一斉に夜空に舞い上がる。ころころと笑いながら光の尾をひいて帰っていく。この日もらった宝ものを、きっとわたしはいつまでも、いつまでも心の中に大切にしまっておくだろう。







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 薄汚い部屋で私は目を覚ます。ホコリのにおいが鼻についた。夢をみていたのかもしれない。良い子になれなかった私は窓を開けて、虚ろな目で雲をみているだけ。鮮やかな緑のインクはセピア色に変わって、やがて色褪せる。パラパラと何かが燃えていく。壊れた画面のような白い夢のなか、仲良くブランコで遊ぶキツネと少女とか、知らない国の文字が書かれたくすんだ紙切れなんかが浮かんでは消えた。もう知らない。ただ少し眠たいなと、私は思った。



 今、私は夢をみている。虚ろな目でみてる、延々と続くただ白い夢。

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