第4話 鍋と焼きうどん
とある朝、
ガスコンロに並ぶ大小三つの鍋。
ぱかり、とその蓋を開ける。起き抜けの胸を膨らませながら。
そこには、煮物と、ゆで卵と、野菜。
「…うどんは?」
忙しい朝の時間。そこでは鍋が空いていないこともしばしば。
しかし、このままでは朝食のうどんを作れない。一瞬悩んで、次に視線を移す。目が合ったのはダイニングテーブルの上にある、昨日の残りの野菜炒め。
「…よし!」
フライパンを温め、そこに野菜炒めの残りと
湯がいたうどんを迷わずに投入する。
またそんなことして、と言う人がいる。
うどんを食べるために手段は選んでいられない。
加熱してるだけいいでしょうが。
そのまま炒めただけだと、ちょっとひと味足りない。うどんについた水分が、野菜炒めの味を薄くするからだ。
なので醤油と、たれを目分量でさっと上から垂らす。
熱でたちのぼる香りが、鼻を伝って空っぽの胃にまで届いてくる。
焼き上がったうどんを、溢れないように大きめの皿へと移す。
箸を手にもち、一度その出来映えを目に焼き付ける。
油とたれでほのかに染まった麺が、瞬く間に口へと運ばれていく。
「あつっ、…うん、おいしい!」
お腹の奥に満足感を得て、今日もまた1日が始まる。
その日の夜。冷えた身体は自然と温もりを求める。
鍋の蓋を、ぱかりと開ける。
たちのぼる白い湯気と、つゆと、ほのかな柚子の香り。
朝の焼きうどんとはまた変わって、器たっぷりの汁の中できらきらと揺れる乳白色の麺は、また間もなく身体の内から熱を放つ。
「やっぱり、うどんって美味しい!」
鍋も焼きも、もちろん冷もかけも、
すべてにあう、包み込まれることを許してくれる。うどんがあった。
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