第2話

 部屋から出たところに、1人の人物が待っていた。この王宮で私が心を許せる人物の1人、ミツルだ。私と同じ使用人で、誠実な男性だ。


「本当、別人みたいだったね」


「私が一番びっくりしてる」


 彼にはもう、例の箱の事は話している。最初はあまり信じている様子ではなかったけれど、ついさっきの出来事を部屋の外から扉越しに聞いて、信じてくれたようだ。


「でも、ミラが言ってくれてすっごい痛快だったよ。イーサに良い思いを持ってないのは、みんな同じだからね」


 彼は心底楽しそうに笑いながら、そう言った。私自身も、あいつの最後の悔しそうな顔が痛快で忘れられない。言いたい事を言ってやるとは、こんなに気持ちがいいなんて。


「でも、まだ終わりじゃないんでしょ?」


 ミツルが、今後にさらなる期待をしていると言わんばかりの表情でそう言い、私の方を見る。


「ええ。間違いなく、数字を改ざんしたのはあいつでしょうね。それで得た利益を懐にでも入れて、発覚したら私に罪をなすりつける算段だったんでしょう」


「ああ、俺もそう思ってる」


 このまま終わらせてなるものか。自分の傲慢さを、その身に思い知らせてくれる。


「俺も、できる限り協力するよ。何かあったら、遠慮なく言ってくれ」


「ええ、ありがとう」


 ミツルは社交的で、王宮内でも顔も広い。いろいろな有益な情報を集めてくれる事だろう。


「で、まずは何からやるんだ?」


「簡単よ。改ざん前の資料を見つけ出して、私自ら統括に訴えるの」


 これが、正攻法であろう。今回の件は監査部もグルの可能性があるため、監査部に訴えるのは得策といえない。下手をすれば、逆に潰されてしまう可能性もある。


「確かにその方法が一番だけど、そんなの保存されてるのか?もうとっくに捨てられちゃってるかも」


 ミツルの不安ももっともだ。けれど、私はあの男の姑息さをを知るからこその確証があった。


「きっと保存されてる。あの男は妙に慎重だから、万が一不正を自分がやった事だと統括に看破されてしまった時は、改ざん前の資料を出して、今回の件はただのミスだったと言い逃れが出来るもの」


「なるほど、一理ある」


 ミツルは私の考えに納得してくれたようだが、再び不安点を投げる。


「けどけど、もしそれが監査部に保管されてたら、手の出しようがないんじゃないか?」


「それもきっと大丈夫。監査部には無いと思うの」


「な、なんで?」


「さっきも見たでしょう?王宮監査部の連中ってプライドが高いの。見つかったら監査部が解散になるかもしれないようなそんな危険な資料、わざわざあそこに置いてあるとは考えにくいわ」


「た、確かに…」


 じゃあどこにあるのか、と言われればまだ分からないけれど、必ず見つけ出す。監査部が機能してないなら、私が監査部となろうじゃないか。





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