第22話 罰ー2ー
男の邸宅に着く。
車を少し離れた場所に停めて降りると、屋敷の明かりは落とされているようで暗かった。
時刻は深夜、家人はもう寝静まっている頃合いだろう。
辺りを伺うと門の近くに二人、警備をしているのが見えた。
このまま門から入ると、屋敷の主の元へ行くのに少し時間がかかりそうだ。
最短距離で向かう為に別の場所から入る事にする。
門から離れ、邸宅をぐるりと囲む塀の近くに行くと、高さは三メートル程ぐらいあったが、このくらいなら簡単に超えられる。
塀を跳び越えて敷地に入ると、二階のバルコニーへ跳んで、部屋へと繋がるドアノブを鍵ごと炎の魔法で溶かして部屋に入った。
ちょうどこの部屋は家主の寝室だったようだ。
ベッドでいびきをかいている男の姿が見えた。
枕元に立ち、声をかける。
「ブランドン・トーレス。あなたにお伺いしたい事があり、参りました」
男は数回瞬きをし身じろぐと、ようやくこちらを認識したようで「誰だっお前は⁉」と、狼狽えた様に怒鳴った。
「私は一度、あなたにお会いした事があります。エドワード・オルティスです」
月明かりが窓から俺達を照らし出す。
「…お前は…オルティスの!どこから入って…何故ここに…⁉」
「先程申し上げた様に、至急あなたにお伺いしたい事がありましたので」
俺が誰だか分かると、俺の態度に戸惑っている様な声を出す。
「…こんな非常識な時間に、我が屋敷に忍び込むとは、一体何のご用ですかな⁉」
「あなたの買い物について知りたいのです。貿易商をされているあなたはさぞ珍しい物も扱われるのではと思いまして。その中には生き物等も扱うのですか?」
「…えぇ、まぁそうですね」
こちらの真意を図ろうと身構えている様だが、まだ何の事なのかよく分かっていないだろう。
さらに質問を重ねる。
「では、私のような獣人を売買された事は?」
「っそんな事したことは無いっ、法律で禁止されてるじゃありませんかっ」
「…そうですよね。獣人の売買など人権無視の立派な法律違反だ。…でもおかしいですね、私が入手した情報だと、トーレスさん、あなたはその罪を犯しているという事でしたが…」
トーレスに視線を向けると、一瞬強張った顔をした。
「…何を、そんな馬鹿な…証拠はあるのか?」
「証拠ですか…それでは実際に再現してみましょうか。そうすれば、あなたも思い出すかもしれません」
ベッドに土足で乗り上がると、トーレスはベッドヘッドに後ずさる。
「…なっ何のつもりだ⁉」
「…先ずはそうですね、腹です。ここを思い切り蹴り上げた事はありませんか?」
男の腹に足を置くとこちらを睨み上げて、俺の足を掴んできた。
「…一体何なんだ⁉オルティスだからと甘い顔をしていれば…若造が調子に乗るなよ!!」
「…次は胴体と頭です。皮膚を裂き、血を流させ、骨折するほど叩きつけた事はありませんか?」
足に体重をかけると「…ぐっ」と足元で呻く。
革靴から肉の感触が伝わってくる。
「…最後に首です。ここに火傷を負わせ、馬乗りになり死ぬ寸前まで、首を締めたことはありませんか…?」
男の首まで足をずらして壁に押さえつけると、苦しそうな声で呻いた。
自分がソフィアにした事を、俺が知っている事が分かったのだろう、トーレスの顔が青くなり額から脂汗が滲む。
「…っ金かっ⁉金なら払うから誰にも言わないでくれっ!!」
「…あなたという人は…ご自分だと認めるんですね?」
男の腕に魔力が収束していくのに気付いたが、そのまま気付かない振りをする。
正当防衛の為だ、一発ぐらいは受けてやらなければ。
「…あぁ、そうだっ!!」
言葉と共に風の魔法で飛ばされる。
反対側の壁へ、背中から体を打ち付けて俺は座り込んだ。
「ははっ!!さっきまで威勢が良かったが、どうした⁉そのざまは!!」
攻撃を加えて気を良くしたのか、先程の態度とはうってかわって尊大な態度をとる。
「物音がしましたが、大丈夫ですか⁉」
複数の男達が部屋に駆け込んで来た。
この中にはあの日、あの場に居た残りの二人もいるのだろう。
「一人でノコノコやってきたのが、運の尽きだったな…。お前がどうやってあの事を知ったのかは知らないが、お前一人でやって来たという事は、自警団や軍はまだ確証を得てないという事だ。お前を片付けて、揉み消してやる…。
…オルティス、最期のチャンスをやろう…。お前が大人しく私の下へつけば、駒として使ってやってもいいが…今ここで死ぬのとどちらが良い?」
…魔法で攻撃し、大勢の人間で取り囲む。
この程度で俺が折れると思っているのか…わざと攻撃を受けてやったが、あまりにも自尊心が大きすぎるな。
今までそうやって他者をねじ伏せて生きてきたのだろうが、俺には通用しない。
あまつさえ、俺の牙を抜いて飼えるとさえ思っているとは…馬鹿にするのも甚だしい…。
乱れた髪をそのままに、俯いていた顔を上げる。
「…俺がお前の様な、醜悪な人間の下につくわけがないだろう?」
「っこいつ、言わせておけば!!…あの日はクソガキを逃がしてしまったが、お前は絶対に、ここで殺してやる。あのクソガキもだ、見つけ出して殺し、お前の後を追わせてやろう」
トーレスは口元を吊り上げ嘲笑し、ギラギラとした目で俺を見る。
その目は他者を傷付け、屠る事を愉しむ瞳をしていた。
あぁ、そうか……。
そうやってあの子の事も甚振ったんだな…!!
血液が沸騰する様に熱くなり、青筋が浮き上がるのが分かる。
激情に駆られ、目の前が紅く染まった。
…このまま殺してしまおうか……!!
「!!!…っふー……」
立ち上がると、息を吐き出し激情を抑える努力をする。
握り締めた手のひらに爪が刺さり、血が垂れた。
……駄目だ。抑えろ。
俺が本気でやったら、殺してしまう。
殺してしまえば、そこで終わりになってしまう。
それは駄目だ。生きたまま罪を償わせる…!!
「お前等!!このお坊ちゃんを痛めつけて、矜持をへし折ってやれ!!」
取り囲んでいた男達が一斉に襲いかかって来た。
「…少し痛い目にあってもらおうか!!」
俺は、迎え討つ為に身構えた。
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