第21話 罰ー1ー
side.エドワード
寝室を出ると執務室へ行き、馴染みの男に電話をかける。
「…エドワードだ。遅くにすまないが、至急確認して欲しいことがある。今から言う事件の犯人の事が詳しく知りたい」
『また、急だな。エド…、一応言っとくが、お前が度々自警団や軍の捜査協力をしてくれているから情報を伝えるが、事件の関係者以外には口外しないようにしてくれよ』
「もちろん分かってるさ」
『…なら、いいが。お前が知っている事を教えてくれ』
日にちや、場所等知っている事を伝える。
『ちょっと待ってくれよ……。あァ、あった、あった。その事件の犯人は三人捕まっているな。三人共、恐喝や強盗の前科有りの男達だ。少女を誘拐、監禁した罪で逮捕されて今は刑務所の中だな』
「三人だけか?」
『あァ、三人だけだな。保護された少女の話じゃ他にも別に買い手の男達がいたそうだが、そっちには逃げられちまって、悔しいがまだしっぽが掴めてねェ。捕まった三人も報復されるのを恐れてか、客の情報を中々吐かねェからそっちはまだ進展してないな』
「…そうか」
『…まさか、何か心当たりがあるのか?』
「事件の被害者の少女は二人居ただろう?」
『あァ、そうだが。お前が何故知っているんだ?』
「…俺の元でその少女を保護していたからだ」
『本当か⁉俺達の方でもずいぶんと探していたんだが中々見付けられなかった…そうかお前の所に居たのか…良かった、安心したよ。でも、何でもっと早く教えてくれなかったんだ?事件からもう八ヶ月は経ってるぞ』
「…俺もその被害者が愛猫だとは思わなかったからな。今日初めて分かったんだ」
『…そりゃまたどういうことだ?』
ソフィアを保護してから今までの経緯を説明した。
『…そうか、ずいぶん辛い目に合わせてしまったな。その子は今どうしてる?』
「今は落ち着いている。怪我も酷いものだったが完治している。…傷跡は残ってしまったがな。俺は今から残りの三人を捕まえようと思う。ソフィアの話を聞いて大体の目星は付いたからな」
『残りの三人ってなんだよ。捕まえるったって、今から一人でか?相手は誰だ?俺達は確証を得てからじゃないと動けないが…』
「お前達がすぐに動けない分、俺は身軽だ。俺はこの後すぐに向かおうと思う。ギルは今から言う男を詳しく調べておいてくれないか?」
男の名前や知っている情報を全て伝える。
『ハイハイ、分かったよ。お前の頼みだ、こっちで出来るだけ調べておく。お前がここまで言うんだから、そいつはほぼ黒に違いないだろうしな。お前に限って心配は要らないと思うが、気を付けろよ』
「あぁ、ありがとう。すこし話をしてくる。…相手が自白したら捕縛してすぐに知らせるから、その時は人手を寄越してくれると助かる」
『ハァ、分かったよ。言っとくがくれぐれも殺すなよ。死んじまったら罪を償わせられないからな』
「…殺しはしないさ」
『おォ…怖ェな。お前には俺達の外部協力者としていつも世話になってるが、相手を害する時は正当防衛の時だけだ。…肝に命じとけよ』
「…あぁ分かってるよ、ギル。じゃあまた後で連絡する」
受話器を置き部屋を出ようとすると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
入って来たのはジョセフだった。
「失礼します。まだ起きていらっしゃいましたか。お嬢様の具合はどうです?」
「体調に問題は無さそうだ。夕飯をとって、今は俺の部屋で寝ている」
「そうですか、それは良かった。坊っちゃんも、もうそろそろお休みになられては?」
「…俺は用事が出来たから今から少し出てくる。明日の朝まで…あの子が起きるまでには帰って来る」
「お車をご用意いたしましょうか?」
「いや、自分で行くから大丈夫だ」
「…そうですか、お気を付けて」
「ありがとう、行ってくる」
車で深夜の街を走る。
あの男の邸宅まで一時間ほどかかるだろう。
よっぽど腕に自信があったのか、隠す事もせず、素顔を晒していたという男は、結果ソフィアに容姿を見られて逃げられている。
男の容貌や態度、魔法が使えるという事。
ソフィアの話を聞いた時から、確信めいたもので胸がざわついた。
一人のある男の顔が頭に浮かび上がり、一度だけ会った事のある記憶を思い出した。
男が魔法を使えるかどうかは知らないが、この国で魔法を使える者は全体の二十%程度しかおらず、魔法を使える者は必ず国に登録する義務がある。
登録をしているかは定かではないが、もし魔法が使えるなら、ソフィアを傷付けた犯人はあの男で間違いないだろう。
ブランドン・トーレス。
他国との貿易を生業としている会社の社長で、ここ数年で急激に会社を大きくし、名を聞く様になった人物だ。
仕事上の知人に招かれたパーティで、一度だけ会った事があるが、己を飾り立てる事に余念が無いようで、ワイン色の派手なスーツを纏い、両指には大振りの宝石が付いた指輪をいくつもはめていた。
質がいい物でも度を超えると品が無い。
年齢は五十代ぐらいだろう。
以前から黒い噂の絶えない男で、実際に会話した時も、こちらを値踏みするかの様な下品な視線を送られたことを覚えている。
俺がオルティスの者だと分かるとこちらに取り入る様に仕事の取引を持ち掛けてきたが、どこかきな臭い話だったので男の態度や口調から滲み出る人となりが信用出来なかったのもあり、その場で断わった。
上手く隠しているつもりだったのだろうが、その目からは暗く淀んだ男の本質が透けて見えるようだった。
パーティの後半、主催者に挨拶し帰ろうとしていた時、あの男の声が聞こえた。
日は暮れ辺りは暗く、距離は離れていたが会場の外、庭木の茂みの方からだ。
誰かと話しているようだった。
「…気に入ったよ…二匹共…」
「…今度連絡を…」
「…直接見に…」
「私の方から…」
途切れ途切れに聞こえる話し声。
こんな人気の無い場所でコソコソと話す内容など、ろくでもない事だろうと思いながらその場を通り過ぎた事を思いだす。
今になって思う。
あれは、きっとソフィア達の事を話していたのだろう。
時期もソフィアを保護する少し前の事だった。
あの時はまさかこんな事になるなんて思いもしなかったが、あの男の事をもっと調べていれば未然に防げていたのかもしれなかった…。
今こんな事を思っても過去は変えられないが、ソフィアを傷付けたのが本当にあの男だったのなら、野放しにするつもりは無い。
…あの子を傷付けた罪をその身をもって償わせる。
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