第15話 あの日のことー1ー
今日はお母さんの命日だ。
あれから、もう一年が経ったんだなと思う。
お母さん。
天国でお父さんに逢えましたか?
私はジョージおじさん、エリザおばさん、ジャックにクロエ、そしてバイト先のオーナーに奥さん、学校の友だちに村の人達。
たくさんの人たちに支えられながら生きています。
お母さんのことを思うと、まだ寂しい気持ちや悲しい気持ちになるけど、がんばって生きていこうと思うから、お父さんとお母さん二人で天国で見守っていてください。
いつかまた逢えたら、たくさんお話ししようね。
お花をお墓の前に供える。
学校帰りに花屋さんでお花を買って、墓地に来ると、お母さんのお墓にはもうお花がいくつか供えてあった。
おじさん達やお母さんの知り合いが来てくれたのかもしれない。
お墓の前に座って、風になびく花を見ながら、お母さんとの思い出を思い返す。
気付くと、いつの間にか日が暮れていた。
遠くの空に見える紅い夕陽は、ほとんど沈みかけている。
お母さんにまた来るねとお別れを言い、家路を急ぐ。
思ったより遅い時間になってしまった。
急いで帰らないと家の人たちが心配するだろう。
近くのバス停へ行くと、今日の運行は終わっていた。
家に連絡しようかとも思ったが、周りに建物はなく電話を借りられそうな所も無い。
いつもならバイト先から家に連絡するけど…。
少し時間はかかるだろうけどここから村まで歩いて帰れない距離では無い。
私は早足で歩き始めた。
辺りはすでに日が暮れてとっぷりと暗闇に包まれていた。
道端にぽつりぽつりと電灯がたっているだけで、人気が無い道を黙々と歩く。
すると、車の音が近付いて来た。
もしかして、おじさん達かな?と一瞬思うが、後ろから聞こえてくるから別の車だろう。
私のすぐ横に車が停まった。
あれ?やっぱりおじさんが迎えに来てくれたのかな?と思った瞬間、車のドアが開き中から腕が伸びてくる。
驚いて一瞬、固まってしまった。
逃れようと体をひねるけれど、私を捉える手の方が速かった。
口元を布で抑えられ、何かを嗅がされる。
私の意識はそこで途絶えた。
…ここは、どこ……?
まだ、頭がぼんやりする…。
目を覚ますと知らない場所にいた。
周りをぐるっと鉄の棒で囲まれていて、檻の中に入れられていることに気付く。
私なんでこんな所にいるんだろう…?
…そうだ。お母さんのお墓参りの帰りに連れ去られたんだ…。
伸ばされた手、引きずり込まれて押さえつけられたことを思い出す。
…怖い…なんで私がこんな目に……。
後ろからかさっと、かすかな音がする。
びくっとして振り返ると、檻の隅の方に小さく縮こまっている子どもがいた。
「…ねぇ、大丈夫…?」
私が声をかけるとその子のミミがぴくっと動いた。
白地に黒色の丸い模様があり、しっぽは先の方がしましま模様になっていて、太く長いふわふわのしっぽ。
この子はユキヒョウの獣人だろう。
そっとこっちを伺い見る彼女の青みがかったグレーの瞳は、怯えているように見えた。
「…おねえちゃんも、つかまっちゃったの?」
「…うん。…あなたはいつからここにいるの?」
「…よくわかんない。ここのなかにとじこめられてからいっぱいいるとおもうけど…。はやくおうちにかえりたい…。ママにあいたいよっ」
瞳からみるみる涙が溢れていく。
私はその子の背中を撫でた。
「…泣かないで、大丈夫、だいじょうぶだから…」
なんの根拠もない言葉だったけど、私より小さな女の子が泣いているのを見てこの子を守らなければと強く思った。
小さな体を抱きしめると私の服を掴んで泣き出す。
昔、お母さんがしてくれたように優しく背中をぽんぽんと叩いてあやしていると、少しだけ落ち着いたようだった。
すると、檻の外から足音が近付いて来てるのが、聞こえた。
私達はお互いを抱きしめあって、身を固くする。
姿を現したのは人間の男性、三人だった。
こちらを値踏みするような目で見られる。
冷たく、嗜虐的な目だった。
「新入りの仔猫ちゃんも目が覚めたみたいだね。いや〜改めて見るとかわいいね〜。拉致って正解だったわ」
「こりゃ高く売れそうッスね」
マスクをした男と若い男が、下卑た声でげらげらと笑う。
「それはそうと、買い手は付いたのかよ?」
「俺の知り合いのブローカーが金持ちに渡りをつけたから、後日直接見に来るってよ」
「ほ〜そりゃまた随分早く買い手が付いたッスね」
「こいつらの写真を見せたら、すぐに食いついたそうだ」
タバコを吸っている男が問いかけると、マスクの男が答えた。
「まぁ、それもそうか二匹とも整った顔してるもんな」
「なんにしろ、さっさと売れることに越したことはねぇな」
「よぉ、チビちゃん達。今度お前等の飼い主様がお迎えに来るから、良い子で待ってろよ」
若い男が檻越しに、ニタリと笑う。
「どんな変態金持ちが来るのか気になるッスね」
「さぁな。俺は羽振りがいい客だったら、男でも女でも、年寄りだろうとどうでもいい」
「お前はそういうヤツだよな。まぁ、この商談が上手くいったらしばらくは遊んで暮らせるぜ!」
話しながら檻の前から去って行く。
見張りはいないけど、檻には鍵がかかっているし、きっとこの大きい倉庫のような場所のどこかで待機してるんだろう。
…どうしよう。
どうしたらいいの⁉
さっきの男達の会話がよみがえる。
まるで私達のことをただの商品のようにしか思ってなかった。
このままじゃ、どこかに連れてかれちゃうっ!!
そしたら、きっともう終わりだ…。
おじさん、おばさん、みんな助けてっ!!
怖いっこわいよ!!
…お母さん、助けて……。
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