第9話 猫ちゃんは今日もほっこりする

 ご主人様のベッドの上で毛づくろいをしていると、隣の部屋のドアが開く。

 お隣はご主人様専用のバスルームになっている。


 出てきたご主人様はいつも、きれいにまとめてある髪をおろしていたし、腰にはバスタオルしか巻いてなかった。


 無駄のない均整のとれた筋肉と肉体美が、惜しげもなくさらされる。

 いつもより、色気増しましのご主人様の登場だ。

 

 わお。視界の暴力じゃん。

 私は目線を外そうとした。

 すると、ご主人様の身体の輪郭が空気に溶ける様に淡く光に包まれたかと思うと、そこには獣化したご主人様がいた。

 さっきまで巻いてあったバスタオルは床に落ちている。

 虎になったのである。


 ご主人様はのしっ、のしっと優雅に歩いて来て、ベッドの上に乗った。

 わあ、今だいぶベッド沈んだぞ。


 キングサイズのベッドから溢れそうなほど大きな巨体でうつ伏せになると、前脚を重ねて頭を伏せ眼をつむる。


 私は最近気付いた事がある。

 ご主人様が虎化する時はお疲れモードの時だと。

 

 ご主人様はいつも多忙だ。

 お屋敷でお仕事をするのが基本スタイルだが、お仕事相手の来客も時々来るし、ご主人様自ら出かけて行く事や泊まり込みの出張もある。


 大きな企業を経営してるらしいからそれだけでも忙しいだろうに、それに加えてご主人様に魔物討伐の依頼が来る事もあるみたい。

 そんなのモンスターをハントする専門の人がいないの?と思ってしまうが、ご主人様程腕の立つ人は数が少ないらしい。


 昔、モンスター討伐をするギルドに一時期所属していたとかで、昔馴染みらしい人が直接依頼に来ることもあった。

 お話し中のご主人様の隣で聞いていると、依頼の内容はかなり難易度が高いもののようで、ご主人様なら大丈夫って信じてるけど同じくらい心配もする。


 そこのマッチョなギルドマスターさん!!

 ご主人様に頼まなくていいように、早く強い後継を育てて下さい!

 ギルドマスターさんにそんな念を送りつつ、その時は話を聞いていた。


 その依頼日が今日だったらしい。

 ご主人様は朝早くから出かけて行った。

 いつも無傷で帰ってくるけど、心配しない事はないのだ。

 

 帰って来たのは夕方。

 日が沈みそうになってからである。

 帰って来たご主人様に走って駆け寄り、怪我が無いかチェックする。

 血の匂いはしないみたいだけど、いつもよりお疲れの様な気がする。

 いつも忙しくても疲れた所は見せない人だ。

 やっぱり今日はお疲れなのだろう。

 

 お疲れ様、ご主人様。

 ゆっくり休んでね。


 ご主人様の側に寄り添って丸くなると、ご主人様はゆっくり眼を開けた。

 そして私に顔をすり寄せる。

 大きな猫ちゃんみたいですごくかわいい。

 ご主人様は虎だから、私みたいに喉をごろごろ鳴らすことはないけど、それと同じくらいくつろいでいるんじゃないかなとも思う。


 私もご主人様の頭にすり寄った。

 ごろごろと私の喉が鳴る。


 私の体の何十倍も大きくて、牙も爪も鋭いけど不思議と恐いとは思わない。

 最初に見た時はびっくりしちゃったけど、しばらくすると慣れてしまった。

 ご主人様は私を傷つける事を絶対にしないし、なによりご主人様はご主人様で何も変わらないからである。


 虎だろうと人型だろうと優しいご主人様は同じだ。

 最近では虎の姿を可愛いとも思っている。

 だって、大きい猫ちゃんみたいだから。


 あったかいご主人様のもふもふの毛並みに身を寄せる。


 今日も私はご主人様の温かいもふもふにほっこりする。



◇登場人物プロフィール◇


 猫ちゃん

▷元人間女性で28歳独身、社畜

▷過労死して猫に生まれ変わる

▷ご主人様が大好き!!猫生をエンジョイしている

▷真っ白もふもふの長毛で美しいアイスブルーの瞳

▷魔法がある異世界に転生してた

▷猫の本能に時々引きずられる。若干アホの子

▷エミリーちゃんと友だち。妹の様に思っている

▷オリビアさんのことをお母さんの様に思っている

▷いろんな人から餌付けされている

New▷虎の姿のご主人様も大好き!大きい猫ちゃんみたいでかわいい


 ご主人様

▷猫ちゃんの飼い主さんで大きいお屋敷のご当主様

▷仕事をばりばりこなす有能なひと

▷猫ちゃんに甘い

▷魔法が使える。強い

▷ケモミミとしっぽが生えてる。虎の獣人さん

▷本物の虎に変身することが出来る。変身時は2mを超える

▷瞳の色は、はちみつの様な金色

▷黒髪で180cm超えの27歳

New▷魔物討伐の仕事もする

New▷虎の姿になる時はお疲れモードのことが多い


 執事さん

▷ご主人様が産まれる前からお屋敷で働いている人間

▷ご主人様を唯一『坊ちゃん』呼び出来る人

▷猫ちゃんを『お嬢様』呼びする

▷主人が猫ちゃんに構いすぎると、「お仕事しましょうね」と笑顔で諌めに来る

▷オリビアさんの旦那様。奥さんの尻に敷かれている


 庭師さん

▷銀色のケモミミとしっぽが生えてる。狼の獣人さん

▷庭師の腕はピカイチ

▷猫ちゃんを『お嬢ちゃん』呼びする

▷見た目の恐さに反して優しいし、面倒見が良い


 エミリーちゃん

▷お屋敷の使用人。十代前半の女の子

▷クリーム色のたれミミとしっぽが生えてる。ゴールデンレトリバーの獣人さん

▷猫ちゃんを『お嬢様』呼びする

▷猫ちゃんとお友達。明るくて純粋な可愛らしい子


 オリビアさん

▷お屋敷に長年勤めている使用人。人間の女性

▷猫ちゃんを『お嬢様』呼びする

▷おっとりとしていて、優しくお母さんの様な人だが怒らせるともの凄く恐い

▷執事さんの奥様。執事さんの事を尻に敷いている


 

 


 

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