第4話 猫ちゃんは今日も元気いっぱい

 私は今、あるモノに夢中になっている。はぁ〜

〜!!ナニコレたまらん!!楽し過ぎ!!


 眼の前でゆらゆら揺れて、さっと素早く動く。捕まえられそうで、捕まえられない。狩猟本能なのか、夢中になって追いかけてしまう。

 只今私は、お仕事中のご主人様のしっぽで遊ばれているのである。いや、正確に言うとあやされているのかもしれないが...。

 さっきから、時折「ふっ。...ふはっ」と漏れ聞こえてくる声。笑い声噛み殺せてませんよ?ご主人様。


 ようやく捕まえた(捕まえさせてくれた)しっぽを、遊んでくれたお礼に毛づくろいしていると、ノックの音が聞こえた。

 現れたのは、白髪の眼鏡をかけたダンディなおじ様だ。この人はご主人様の執事をしているらしい。

「...坊ちゃん。お嬢様と遊ぶのも程々にされて下さいね」

 上品な柔らかい声で、やんわり釘をさされる。

 こうやって、ご主人様がお仕事中に私を構いまくっていると、たまにストップの声を掛けるのがこの人のお仕事でもある。

 湯気のたつ、いい香りがする紅茶をご主人様の机に置く。

「...あぁ。分かってる。ありがとう」

 そう言って、ご主人様は紅茶に口をつける。

 ご主人様が産まれる前からここに仕えていたらしい、この人の前だと、ご主人様もちょっと子どもっぽく見えるのが、なんだか可愛らしい。


 さて、じゃあ私もお散歩に行こうかな。執事さんと一緒に部屋を出る。「お嬢様は今日も元気ですね」と私の頭を撫でて、にこやかに笑って去って行った。相変わらず撫でるのがお上手。なんて思いながら、て言うかここの人達は何故お嬢様呼びなんだ?とはてなマークを浮かべる。


 今日はどこをお散歩しようかな?

 そうだ!お庭の花がきれいだったから、また見に行こっと!

 軽い足取りで花が咲きほこる庭園に向かう。は〜今日も相変わらずきれいだなー。この花、何の花だろう?

 くんくん匂いを嗅いでいると、ふと、影が指す。

 ん?と思い見上げると、遥か頭上に三角の大きい銀色のミミ、そしてふさふさの大きなしっぽが見えた。

 

 下から見上げると、物凄い圧を感じるが見た目の恐さと反対にこの人も大概優しい。

 この人は庭師をしている狼の獣人さん。

見た目とお仕事のギャップが半端ないが、庭師としての腕はピカイチでこの広い庭園はいつもきれいに整えられている。

「散歩か?お嬢ちゃん」そう言って、軍手を脱いで大きな手で優しく撫でてくれる。

 は〜このお屋敷には撫でテクが完ストの人しかおらんのか。まあ、ご主人様が一番だけどな!と謎のご主人様ラブの思考回路を発揮していると、庭師さんが立ち上がり歩き出す。

 そうだ、今日は庭師さんのお仕事見学をしよう!

 勝手にそう決めて庭師さんの後を追いかけた。


「...お嬢ちゃん。付いて来るのはいいが、汚れないように、少し離れてろよ?」

 後ろに付いてくる私を振り返って苦笑する。

 そこは大丈夫!私はお利口な猫ちゃんだから!と胸を張って少し後ろで庭師さんが土を掘って肥料を撒くのを眺める。

 

 その時視界に白いひらひらが見えた。

 ぴん!と耳を立て、姿勢を低くして、ひらひらに集中する。

 ちょうちょだ!!私は華麗なジャンプをして、ちょうちょを捕まえようとした。

 でも、肉球をすり抜けてちょうちょは逃げて行く。取れんかったと若干しょんぼりしながら着地しようとすると地面のぬかるみにハマり盛大にコケた。

 泥まみれになる、私の真っ白ボディ。


 ひゃ〜恥ずかしい!とあわあわしてると、こちらを見る気配がする。

 そこには、「言った側から...」と額に手を当てている庭師さんがいた。

 申し訳ない。わざとではないんです。と心の中で謝罪しながら、ミミもしっぽもしゅんと下がる。

 そんな私を見て、「まあ、しょうがねぇ。ついでに休憩にするか」と私を抱えて立ち上がる。

 作業服が汚れてしまったが、まったく気にする素振りもなくお風呂の方に連れて行ってくれるようだった。


 今日も私は、元気いっぱいに遊ぶ。

 


◇登場人物プロフィール◇


猫ちゃん

▷元人間女性で28歳独身、社畜

▷過労死して猫に生まれ変わる

▷ご主人様が大好き!!猫生をエンジョイしている

▷真っ白もふもふの長毛で美しいアイスブルーの瞳

▷魔法がある異世界に転生してた

New▷猫の本能に時々引きずられる。若干アホの子


ご主人様

▷猫ちゃんの飼い主さんで大きいお屋敷のご当主様

▷仕事をばりばりこなす有能なひと

▷猫ちゃんに甘い

▷魔法が使える。強い

▷ケモミミとしっぽが生えてる。虎の獣人さん

▷本物の虎に変身することが出来る。変身時は2mを超える


New執事さん

▷ご主人様が産まれる前からお屋敷で働いている人間

▷ご主人様を唯一『坊ちゃん』呼び出来る人

▷猫ちゃんを『お嬢様』呼びする

▷主人が猫ちゃんに構いすぎると、「お仕事しましょうね」と笑顔で諌めに来る


New庭師さん

▷銀色のケモミミとしっぽが生えてる。狼の獣人さん

▷庭師の腕はピカイチ

▷猫ちゃんを『お嬢ちゃん』呼びする

▷見た目の恐さに反して優しいし、面倒見が良い

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る