第12話 案内されて

 




 いるにはいるけど、ヒロインちゃんはもう変わってしまったのよと、意味深な感じで答えをもらった。

 まあ親友くんとセカンドちゃんの集落にいるのは間違いないそうなので、案内してもらう。


 途中何度か魔物とエンカウントしたが、ほとんどセカンドちゃんが倒してしまった。俺はもう能力値がカンストしちゃってるし、してなくてももうレベル差がありすぎてどの魔物を倒してもスキルポイントが手に入らない。

 そんな訳でスキルポイントを譲る上でもセカンドちゃんと親友くんに見せ場を譲り、俺はマスターの護衛に務めた。


 ちなみに親友くんのスキルも解放し、装備品も最強装備を与えている。ただセカンドちゃんがノリノリで突っ込んでいくせいで親友くんはそのフォローを余儀なくされ、敵を倒す役目がセカンドちゃんに全部奪われてしまっていた。


「おい遥香!! 突っ込みすぎだぞ」

「全然大丈夫だって!! 今ならあの水のやつだって倒せそう!! 相馬くーん! 見てるー!? 私、頑張ってるよー!!」


 返り血で汚れながら、満面の笑みでこっちに手を振ってくるセカンドちゃん。とりあえず手を振り返しておくけど、ゲームとは随分性格が変わってる気がする。

 魔物だからって生きているのを殺すのは辛いって泣き言こぼして、それを主人公が慰めるシーンとかあったのに。まあもうそのイベントはクリアしたんだろうけど。


 そんなこんなで楽しくハイキングでもするように山を上っていき、ただステータス的に一般人のマスターには何度も回復魔法をかけ、途中から面倒くさくなっておんぶして進んでいった。

 そしたら途中でセカンドちゃんが『疲れたーっ』て言って、休憩がてら俺のそばに来た。

 そのまま三人で雑談しながら進んでもいいけど、そうすると戦闘が親友くん一人になるという可哀想な事態になるので、セカンドちゃんには回復魔法をかけて送り出した。

 セカンドちゃんはちょっと不満そうに『……頑張ってくるから、ちゃんと見ててね』とまた親友くんの出番をなくす活躍を見せた。


 これはあれだろうか。もう好感度はかなりいいところまで上がっていると期待していいのだろうか。

 いやでもこっちが押したら、そういう意味じゃなかったのと引かれるかもしれない。

 女の子って助けてもらったから敬意はあるけど、それと男の人への好意は別なのとか、変にずるいこと言う時があるからな。

 くそ、お菊ちゃんみたいに分かりやすく売りに出してくれればいいのに。金ならいくらでも出すぞ。



 ******



 まあそんなこんなで山歩きは順調に進み、集落までたどり着いた。

 集落とは言っても小さな村のような家の集まりではなく、ホームセンターのキャンプセットで作ったキャンプ場のような場所だった。

 テントがいくつも張ってあり、その出入り口には虫除けの薬剤が掛けられていた。共用っぽい調理場はバーベキューセットが広げられており、雨よけらしい手作り感のある屋根が拵えられていた。

 ただキャンプ場とは違って物々しい鉄柵で囲まれ、出入り口にもバリケードが設置されていた。

 なんだかゾンビもののドラマや映画に出てきそうなキャンプ場だった。


「それで、戦果は?」


 キャンプ場に入った俺たちは広場に案内され、なんだか見覚えのあるヤンキーにそう言われた。


「帰ってくるなりそれかよ、梶本」

「そんな立派なもん身につけといて、手ぶらに見えるからな。食いもんや薬はどうした? それに男が二人も。今の俺たちに誰かを助けるだけの余裕なんかねぇぞ」


 ヤンキーは苛立たしげに俺たちを睨んでそう言った。


「はぁっ!? 外にも出れないビビリのくせに好き勝手言うんじゃないわよ。こっちは死にそうな目に遭って、この相馬くんに助けられたの。お礼するのが当たり前でしょ。そんなことも分かんないの、このバカ!!」

「あぁん!! 俺はお前らが留守の間この集落守ってやってんだよ。それにお礼もなにも俺たちが生きてくのに精一杯だっツーの。くそっ、お前らもこの集落で生活するなら俺の言うこと聞いてちゃんと働け――って、転校生じゃねえかっ!?」


 うん? あ、コイツあれか。財布ごとお金くれたヤンキーか。髪の毛がセットされてないから気付かなかった。


「久しぶり、ヤンキー。お前のおかげですげー助かったわ」

「お? お、おう」

「なんか困ってんだろ。食べ物? 服? 欲しいんならやるぞ? 正直一人じゃ使い切れないぐらい持ってるしな」


 コイツがいなければ序盤はもっと苦労しただろうし、利息付きのお礼替わりにアイテムボックスの肥やしを分けてもいいだろう。キャンプ場の女の子達の好感度も上がりそうだし。


「はぁ!? お前も手ぶらじゃねえか。どこにあんだよ――ああ、どっかに隠してんのかよ。じゃあ場所教えろよ。チーム組んで回収に行くからよ」

「いや、ここにあるって」


 とりあえず俺はお米30kg×3と塩1kg×3と砂糖1kg×3とハイオーク肉×1を取り出した。ハイオーク肉はハイオーク(推定200kg)が捌かれて、精肉店の調理場とかで見れそうな状態でドカンと出てくる。気配察知でこのキャンプ場で生活している人間が百人以下なのは把握できたので、少なくとも今日の食事としては十分だろう。


「梶本、相馬くんは魔法使いなの」


 口をあんぐり開けるヤンキーに、セカンドちゃんがドヤ顔でそう教えた。そして私も使えるようになったと、手から火の玉出してジャグリングをしてみせた。


「これも相馬君のおかげよ」

「ま、マジかよ。爺さんのホラじゃなかったんだな。そうか、化けもんがいるんだから、魔法があってもおかしくない……んだよな」


 そんなやり取りをしていると、遠巻きにこちらを見ていたキャンプの住民がおずおずと前に出てくる。


「ねえ、もしかして……」


 その子は小さい女の子だった。いつかのイベントスチルで見たのとは違ってずいぶん薄汚れて痩せているけど、おそらく間違いない。マスターの娘の亜香里ちゃんだ。


「パパ? やっぱりパパだ!!」

「え、嘘!?」


 もう一人女性が出てくる。この人の顔は知らなかったけど、流れ的に奥さんだろう。


「やあ、ただいま。ずいぶん遅くなってしまったね」

「あなた……、生きてたのね。絶対に死んだと思ってたけど、どうやって……」


 マスターがちらっとこっちを見た。意味は解らなかったがとりあえず頷いておいた。


「私は死んでいたんだ。この相馬君に生き返らせてもらってね」


 そう言った途端に場が一気にどよめいた。亜香里ちゃんはキョトンとした顔で、


「お父さんは幽霊なの?」

「どうかな。足はちゃんとあるだろ。亜香里にはパパが幽霊に見えるかな?」

「見えなーい」

「……えと、えーと、その、相馬さん。あ、ありがとうございました。その、主人を生き返らせて(?)くれて」

「どういたしまして」


 俺はにっこり笑って返した。奥さんは三十代半ばくらいで人妻特有のむちっとした体と色気を発していたが、俺は紳士なので人妻には手を出しません。

 お礼は亜香里ちゃんの方で――ってのは冗談だ。マスター、睨んじゃいやん。


 その後は人だかりに囲まれて色々聞かれたりお願いされたりした。

 子供を生き返らせてだの、彼女を生き返らせてだの、お父さんを生き返らせてだの、ポチを生き返らせてだの、まあそんな感じだ。


 こちらとしてはMPはもう9999のカンストになっていて、〈MP再生MAX〉もあるので〈死者蘇生リザレクション〉はいくら使っても疲労しない。

 ただマスターの時のように亡霊が見えていたり、親友くんの時のように死体がないと〈死者蘇生リザレクション〉は不発に終わった。

 子供の亡霊に憑りつかれてるお母さんのお願いや、キャンプ場にお墓があった人たちのお願いは聞けたんだけど、亡霊に憑りつかれてない人のお願いは無理だった。


「なんでポチを生き返らせてくれないの!!」


 泣きながら怒られたが、俺のせいじゃないので責められても困ります。魔法を設定したゲームの開発スタッフかこの世界の神様を恨んでください。



 そんなこんなで簡易墓場で〈死者蘇生リザレクション〉祭りをやって、生き返った裸の人たちに服を与えて――なぜか若い女の人は一人もいなかった――皆ではしゃいでいると、不機嫌そうな声が割って入った。


「うるさいわよ、こっちは寝てるんだから」


 少し外れたところに設置されたテントから、バスタオル一枚だけを体に巻き付けて現れたのは、若い女の子だった。

 着やせする豊かなお胸はバスタオルでは隠しきれずに谷間をのぞかせ、首元にはキスマークもついている。

 艶やかだった長い黒髪はくたびれてどんよりと重い暗黒色。

 ぱっちりとした可愛いお目々は、寝起きであることを差し引いてもとても悪い目つきになっていた。

 淑やかだった歩く姿は、サキュバス並みのエロい腰の振り方をするようになっていた。


 昨晩は遅くまで男とお楽しみでしたと言う雰囲気を隠しもしないビッチでエロエロな女の子は、雰囲気は丸変わりだけど、確かにヒロインちゃんだった。




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