第11話 魔法は万能
「
「ちょっと剣士、相馬くんにだって事情があったに決まってるでしょ。転校してきた次の日からいなくなったんだよ。あいつらに何かされてたんじゃないの、玲子みたいにさ?」
「――っ、す、すまん。助けてくれたってのに。師匠のことになると、つい。
悪かった。でも教えてくれないか、相馬。
師匠は無念を抱えて水の化物に殺されちまった。それを、少しでも納得したいんだ」
相馬は少し考える素振りを見せて、
「水の化物って、もしかしてオカマみたいな気持ち悪い奴か」
「ああ、いつか必ず俺の手で――」
「ごめん、もう殺した。これ遺品」
そう言って相馬は香水を取り出した。たぶん
私や剣士にそういった趣味はないけど、殺した化物の耳を削ぎ落とし、寝床に飾っている奴もいる。それに比べれば全然意味があるし、私も今度からやってみようと思った。
「こ、この臭い匂い、確かにあいつの。本当にお前が倒しちまったのか……」
「う、うん。ごめん」
「いや、……いや。いいんだ。急なことでビックリしちまったけど。あいつが殺されたなら、師匠が待ってた英雄があいつを殺したなら、俺も文句はない」
剣士から憑き物が取れたように、これまで彼が発していた鬼気が無くなった。
私はホッとして、改めて相馬を見た。
たったこれだけで、追い詰められていた剣士を救ってくれた。
相馬のその顔はアイドルみたいに整っているけど、それ以上にとても格好いいものだった。
◆◆◆◆◆◆
「それで、相馬は今までどうしてたんだ? 俺たちは師匠に助けられて、そのまま近くの山の中に避難して、そのままずっと小さな集落を作って生活してる。小さい畑はあるけど、まだ十分じゃないから時折こうして街に降りて、物資を回収したりしてるんだ」
運良くセカンドちゃんと親友くんを見つけられた俺は、二人に勧められるままに落ち着ける場所に避難した。
それはなんと、ゲームでの主人公たちのアジトとなる喫茶店ミルキーだった。
店の外観は傷んで汚れているが、しかし崩れ落ちるほどの損傷ではない。店の中も乱雑に散らかり、棚に陳列されていたであろうコーヒーやらは一通り奪い去られていたが、椅子やテーブルにコーヒーを入れるよくわかんない器具とかは残っていて、一応は喫茶店の様相を残している。
カウンターに俺が座ると、その横にセカンドちゃんが座り、親友くんは立ったまま店の外を警戒している。このあたりのモンスターは気配察知と警戒で把握済みだけど、俺はもとより最強装備のセカンドちゃんに勝てる奴もいないよ。
いや、親友くんはまだスキル無振りだし、装備もゴブリンの腰巻と来る途中で拾った棒きれ一本だから危ないけど。
「俺か? 俺は……話すと長くなるんだがな。お前らと別れたあとに攫われてな。地下三千階ぐらいある洞窟の奥に閉じ込められてたんだ」
「は?」
「嘘くさいと思うかもしれないけどな。本当なんだ。その洞窟にはいろんなモンスターがいて、俺はそいつらと戦って多くの技や魔法を手に入れたんだ」
うん。嘘じゃない。攫われた以外は嘘じゃない。
自分から望んで引きこもったけど、あんな奥にまで行く気はなかったし、あの仕様変更がなければもっと早くに戻ってこれたから、きっと嘘じゃない。
「私は信じるよ」
「遥香?」
「私は信じる。本当はね、剣士は殺されたんだよ」
「――は?」
「殺されてたの。それを相馬くんが生き返らせてくれたの。ね?」
セカンドちゃんが可愛く上目遣いで俺に語りかける。
ついつい頬がにやけそうになるが、今の俺はかっこいいセカンドちゃんを助けた命の恩人で、ヒーロー様だ。
何とかしてここは威厳を出して、好感度を上げていかねば。
「おう。ところで、この喫茶店のマスターはどうしたんだ」
アジトであるこの喫茶店にはダンディーなマスターがいた。
サブイベントでは自分の子供がいかに可愛いかを自慢する親馬鹿だったが、ストーリー中では高校生ばかりの主人公たちが集まってなにやら物騒な相談事をするのを黙認し、騒乱罪などで警察に追われているときは匿ってくれたりもした。
社会常識が有るのか無いのかよくわからない、主人公たちの理解者なマスターだった。
そのマスターの、なにやら亡霊みたいな半透明な姿がうっすらとカウンターの向こうに見える。店の中に入ってきた俺たちに反応するでもないし、ぼんやりと中空を眺めていて本当に亡霊っぽいので、二人に尋ねてみた。
「ああ、死んじまったよ。奥さんと子供を避難させるために自分が盾になって」
「うん。立派だった。私たちに頼むって言って、そのまま……」
「
本当に亡霊だったようだ。
戦闘不能回復魔法をかけると、亡霊はしっかりとした体を手に入れて生き返った。
ただし全裸で。
「は?」
「え?」
「む?」
亡霊の時は服を着ていたのだが、なぜだろう。
「これはどうしたことか? 私は確かにあの時――」
マスターは呆然とした様子で我が身を振り返る。
渋い顔立ちだから似合わないわけではないけど、全裸だから微妙に決まっていない。
それといい歳なせいか、実は下のお腹が少し出てたんですね。服で隠していたんですね。
「ま、マジかよ……ほんとに生き返らせられるんだな」
「本当だって言ったでしょ。相馬くんはすごいんだから」
ドヤ顔のセカンドちゃん。これは好感度上がってますわ。ハーレムルートに一歩前進ですわ。
「君たち……。これは一体どういうことだ。娘たちは無事なのか。それになぜ私は裸なんだ」
いくらダンディーでも中年のおっさんの裸なんて見ていたくないので、アイテムボックスから服を取り出してそっと手渡す。
お菊ちゃんのための無駄遣いの一環で、俺のアイテムボックスにはゲーム攻略に全く必要のない日用品や衣類、食料、雑貨と多種多様にものが有り余っている。
いやね、無限洞窟のB50Fでも結構な額が稼げるわけで、売り払ってはいおしまいだとお菊ちゃんが『赤字になるにゃ~、運営資金が足りなくなるにゃ~』と嘆くものだから、もう買えるものは何でも買っていって、そうしたら味をしめたお菊ちゃんがまた別種のアイテム仕入れてきて買取額と同等の購入をねだってくるわけで。
そんなことを繰り返してるからいつまでたってもお目当ての〈???〉が買えなくて、ずるずると無限洞窟に長居してしまったのだ。そう。この世界がこんなふうになったのはお菊ちゃんが商売上手でかわいいのが悪いんだ。俺は決して悪くない。
まあそれはさて置き、マスターは俺の渡した服をいそいそと着込む。流石にゲーム時代と同じ制服は持っていなかったが、似たような喫茶店の制服っぽいシャツやギャルソンタイプのエプロンは持っていたので、それを渡した。
やっぱりマスターはそういう服を着ているべきだと思うのだ。
「……なあ、相馬」
「なんだ?」
「お前、もしかして服、それなりに持ってるのか?」
なんで親友くんはいきなりそんな事を聞くのだろう。
「まあ、売るほどにはあるな」
「……なんで俺はこれなんだ」
「深い意味はなかった。ただゴブリンの腰巻じゃねえかってツッコミを期待したんだけど、普通に着たから気に入ったのかと思って」
「気に入らねえよ。他に着れるもんがないと思って贅沢言わないよう我慢したんだよ。あるんならよこせ!! さっきからあそこが痒くて仕方ねえんだよ」
「うげ、ちょっと剣士、相馬くんに近づかないでよ。変な菌が飛んでくるじゃないの」
「はぁ!? ひどくね!? 俺が悪いのかよ!!」
「助けてもらって文句言ってるんだから充分悪いでしょ。相馬くんに敬語使いなさいよ敬語」
「いや、それはそれでちょっと……。とりあえず、ほら。あと
親友くんに服を渡して、あとゴブリンの性病なんかで苦しんだら流石にかわいそうなので、回復魔法もかけておく。
「お、おう。サンキュー。なんかすっきりしたわ。
ってか、魔法ってすげーな」
言いながら、服を着ていく親友くん。マスターと合わせれば目の前でふたりの男が生着替えをしているわけだが、当然なんの楽しみもない。セカンドちゃんが着替えてた時はすごく興奮したのに。ちらちらこっちの視線を気にするところなんか特に。
「それで、説明をしてもらえないだろうか」
着替えも終わり、改めてマスターがそう言った。
「マスターはあの時に殺されて、今この相馬くんが生き返らせてくれたんです。奥さんと亜香里ちゃん――娘さんは無事です。今は山の中に集落を作っているので、そこで生活しています」
一瞬チラっと俺を見て、セカンドちゃんが亜香里ちゃんはマスターの娘だと教えてくれる。知ってたけどね。
「そ、そうか。不思議な力があるんだな、相馬くんは」
死人を生き返らせるのを不思議な力で片付けるマスター、マジ良い理解者。まあ他に言いようもなさそうだけど。
「それではさっそく集落に連れて行ってもらえないだろうか」
「ああ、いいぜ――っても、相馬はどうする。来てくれりゃあ助かる気がするけど……、お前はここで何をしてたんだ?」
「人探しだ」
人探しと、オウム返しにセカンドちゃんと親友くんが繰り返す。
まあ人探しといってもセカンドちゃんを見つけた時点で目的は達成したも同然だ。なにしろ二人は親友なのだから。
「ヒロインちゃん――笠原玲子さんを探してるんだ。そっちの集落にいない?」
俺がそう言うとセカンドちゃんがびくりと肩を震わせ、親友くんは少し気まずそうな顔色で頷いた。
なんだ? もしかしてもう死んでるのか? また
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