第4話 RPGと言えばレベル上げ。異論は認めるが、聞く気はない





 無限洞窟の探索は割と難航した。

 ゲームとは勝手が違っているのがその大きな要因だ。

 ゲーム中はフィールドマップにいる敵シンボルと接触することで戦闘フィールドに移行していたが、今はシームレスだ。そのまま戦闘だ。


 そして洞窟の中にはお決まりの発光する不思議な石が多数あって見通しは聞くが、それでも薄暗くて昼間の屋外とは比べるまでもない。

 またゲームでは敵シンボルは固定位置にしかいなかったが、今のモンスターは普通に物陰などに隠れてこっちの隙を伺ってやがる。倒して別フロアに進んで戻ってくると再POPするのは変わってないのにだ。


 そんな訳でゲーム中では割と死にスキルだった〈暗視〉〈気配察知〉〈索敵〉などのスキルレベルを上げた。ゲームだと〈HP上昇〉を早めに上げ、さっさと〈状態異常緩和〉を解放し、そのまま〈状態異常無効〉まで覚え、合間に火力不足や攻撃手段の充実を図るための〈ATK向上〉や〈剣術〉あとは適当な攻撃スキルを覚えていくのだが、遠回りを余儀なくされた。


 とはいえ1Fや地下の低階層の敵は攻撃アイテムで一撃で殺せるので、レベル上げ自体はサクサク進んだ。

 スキルポイントはイベントクリアやレベルアップ、あとは敵にとどめを刺すことで手に入る。今はソロで潜っているので、敵を倒した分のスキルポイントはそのまま俺のポイントになる。

 そうして得た今の俺のスキルが、


 〈HP上昇Lv8〉〈ATK向上Lv3〉〈DEF向上Lv3〉〈DEX向上Lv1〉〈AGI向上Lv2〉〈格闘術Lv2〉〈剣術Lv3〉〈暗視Lv3〉〈気配察知Lv3〉〈索敵Lv2〉〈警戒Lv2〉〈光闘術Lv1〉〈自己治癒術Lv1〉〈闇魔法Lv1〉〈水魔法Lv1〉〈火魔法Lv1〉〈盗むLv2〉


 と、まあどれも低レベルながらそこそこ揃ってきたところだ。ちなみに〈格闘術Lv2〉は〈光闘術Lv1〉と同じく初期保有スキルだ。スキルポイントは2ほど残してある。

 ただこれを揃える過程で俺自身の基礎レベルが10を超えてしまい、低階層のモンスターを倒してもレベル差が大きいためスキルポイントが獲得できなくなってしまった。当然こうなると基礎レベルも上がりにくくなってくるので、スキルポイントを獲得するにはより深く潜る必要があるのだが、それには幾つか問題があった。



「おじゃましまーす」

「また来たのかにゃ。お風呂を借りるにゃら10000円出すにゃよ」

「はーい」


 俺は10000円を支払ってにゃんこ屋の奥に進み、お風呂を借りて洞窟探索の汚れと疲れを落とした。風呂から上がったら不要なアイテムを売り、消費した攻撃アイテムを補充する。回復アイテムは使ってないので補充しない。

 これも問題のひとつだ。困ったことに、ゲームと違って長く探索をしていると疲れもたまるし眠くもなるのだ。

 一応フロアとフロアの間の階段には魔物が出ないのでそこで休憩を取っていたが、ちゃんとした睡眠は一度も取れなかったので目に大きなクマが出来ていた。

 それを見とがめたネコミミっ子が『ここなら魔物は出ないにゃ』と言って寝袋を売ってくれたの機に、ここで寝泊まりする生活が始まった。

 ネコミミっ子との同棲性活の始まりである。


「違うからにゃ。かわいそうだから軒先貸してやってるだけだからにゃ。あたしのベッドに潜り込んできたらその粗末なもの去勢してやるからにゃ」

「――ちっ」


 さて話を戻すが、無限洞窟をより深く潜っていくにはどうしても時間がかかってしまう。ゲームでは一度クリアをした階層はスキップできるが、今はできない。いちいち歩いて降りていかなければならないのだ。

 一応スキルの中には〈MOV向上〉というスキルがあるが、これを解放するには〈DEX向上〉と〈AGI向上〉の二つのスキルをカンストさせる必要があるし、〈MOV向上〉はそのまま探索フィールドと戦闘フィールドでの操作キャラクターの移動速度を上昇させる効果だが、主人公はもともとこの移動速度が高いため、スキルとしての価値は低かった。

 ちなみに移動速度の低いヒロインちゃんなどは〈AGI向上〉のスキルが取れないので〈MOV向上〉も取れない。


 ともあれこの〈MOV向上〉があれば移動の時間ロスは短縮できると思う。というか、〈AGI向上〉だけでもゲームと違って歩く速さは上がった。

 だがそれでも最終的には地下百階まで探索するわけで、しかもそれに加えて戦闘系のスキルを後回しにするとソロでのB10Fのボスモンスターが倒せなくなってしまう可能性もあるわけで。

 移動に時間がかかるのは我慢しなければいけないだろう。


「うーん、やっぱりキャンプセットはいるかなぁ」

「にゃ? 前に言ってたやつかにゃ? ちゃんと仕入れてるにゃよ」

「あ、マジで。ありがとうございます。やっぱネコミミっ子は俺に気があるよね。今夜一晩どう?」

「死ね。

 単に売り上げが増えれば嬉しいだけにゃ。利害の一致ってやつにゃ。あとあたしの名前はお菊にゃ」


 ネコミミっ子ことお菊ちゃんがそう言って目尻を釣り上げる。お菊ちゃんはちょっと釣り目の大きい目なので、そうして見上げてくると可愛くて仕方がない。


「あー、ごめんごめん。お菊ちゃん。ゲームじゃ店主としか表記されてなかったからさ。ずっとネコミミっ子って呼んでたんだよ」

「また訳のわかんにゃいことを……。

 とりあえずテントとか米に水も言われた量が仕入れてあるけど、こんにゃいっぱいにゃのに入るにゃか?」

「入る入る。アイテムボックスって言ったら重量制限なし、容量無限、内部時間経過無しが常識なんだぜ」


 俺がそう言うとお菊ちゃんは面倒くさそうにため息をついた。


「そんな常識は聞いたことにゃいにゃ。今度仕入れに行く時付いてくるかにゃ? バイト代くらいは払うにゃよ?」

「え? 体で?」

「死ね。

 代金は二十万にゃ。端数はおまけしとくからさっさと払うにゃ」


 テント以外にもバーベキュー用品や調理器具に調味料と食材と、多種多様に仕入れをお願いをしていたのでその金額に不満はない。俺は即金で代金を支払った。

 正直この一週間――あくまで俺の体感時間。無限洞窟にはいくらこもってもストーリーは進まないし、次のストーリーである一章は翌日から始まるので時間は経過しない――スキル不足もあって低階層で延々と雑魚刈りをしたので不要なアイテムが溜まりに溜まったのでそれらの処分でお金は十分に溜まっていた。

 訪問回数や累計支払い金額で解放された新規商品の中で必要なのは攻撃アイテムぐらいなので――回復アイテムはもう充分持っている。装飾品はまだ麻痺と石化対策が外せない――武器や防具の装備品が解放されないとお金の使い道は少ない。そして武器防具はストーリーが進まないので今以上の品は店頭に並ばない。

 そんな訳でゲームの時には使わない日用品などにお金を使っても問題はなかった。



 ******



 階層を潜るごとに広くなっていく無限洞窟を進むことさらに一週間(やっぱり体感時間)。レベル上げも兼ねるので丁寧に探索し、不意打ちを恐れて慎重に進んだ結果――スキル偏らせてあげているからHPは多いけど、攻撃されるとゲームと違って痛いんだ――ようやくB10Fまでたどり着いた。

 そしてそこにいるフロアボスを倒した。

 うん。近距離型のオークなので、逃げ回りながら攻撃アイテム投げたらノーダメで倒せた。

 ゲームの時はヒロインちゃんやセカンドちゃんが倒されないよう守って戦ってたから苦労してたけど、ソロでの倒し方はゲームと同様だった。ちなみにパーティー戦でも序盤の二人は弱くて生きていてもあんまり役に立たないので、守らない方が簡単に倒せるけど、そうするとボス討伐のボーナススキルポイントを二人が獲得できない。

 フロアボス討伐のボーナススキルポイントは20ポイントで、〈盗む〉によって技能書(スキルポイント10獲得)も手に入ったし、通常の敵討伐ポイントやレベルアップポイントも手に入った。

 俺はまっさきに〈HP上昇〉をマックスにし、〈状態異常緩和〉のスキルレベルを上げられるだけ上げる。余った分は持ち越した。


 これでようやくB11Fへと進める。

 だが俺はここでB9Fへ戻り、そしてもう一度B10Fへと足を踏み入れた。

 そして再び始まるフロアボス、オークとの戦い。

 フロアボス討伐のボーナスは初回限定だが、アイテムを盗むことは何度でもできるし、コイツの経験値はB11F以降の敵と比べてもそこそこ美味しい。

 いや、ゲームで言えばこれは非効率なプレイだ。アイテムが盗めるといってもコイツは技能書以外に武器や回復アイテムも持っている。技能書が手に入る確率は四分の一程度だ。


 しかも技能書の10ポイントはそこそこ大きいが、使えるのは一人だけなのでパーティー単位で成長させるならとっとと先に進んだほうがいい。

 ただし今の俺はソロだ。ぼっちだ。

 ゲームの時と違ってアホみたいに広いマップをおっかなびっくり進むより、一体しか敵のでないここで、確実に倒せるこいつで稼げるだけ稼ぐほうが時間的にも安全の面でもメリットが大きいはずだ。

 そして俺は何度となくオークを殺した。何度となくオークから盗んだ。レベルが上がりすぎてオークを殺してもスキルポイントが手に入らなくなったが、構わず殺した。モンスターを一回殺して手に入るスキルポイントは1だけだが、オークを四回殺せば10ポイント手に入るのだから苦にならなかった。


 疲れたら階段で食事や睡眠をとり、俺は二週間ぶっ通しでオークを狩り続けた。

 途中で持ち込んだ食材が尽きたのでオークは殺したあと焼いて食べた。しっかり火は通したし、この時にはもう〈状態異常無効〉をカンストさせていたので、腹を壊すこともないだろう。オーク肉は臭かったが、食えなくはなかった。

 そうして手に入れた俺の現在のスキルが、


 〈HP上昇Max〉〈MP上昇Lv2〉〈ATK向上MAX〉〈DEF向上MAX〉〈DEX向上MAX〉〈AGI向上LvMAX〉〈MAG向上Lv2〉〈RES向上Lv3〉〈MOV向上Lv4〉〈格闘術Lv2〉〈剣術MAX〉〈連続攻撃LvMAX〉〈ノックバックLv3〉〈ガードレスMAX〉〈詠唱速度上昇MAX〉〈詠唱破棄MAX〉〈暗視MAX〉〈気配察知MAX〉〈索敵MAX〉〈警戒MAX〉〈光闘術Lv1〉〈HP再生MAX〉〈MP再生MAX〉〈状態異常緩和MAX〉〈状態異常無効MAX〉〈自己治癒術MAX〉〈闇魔法Lv5〉〈水魔法Lv3〉〈火魔法Lv3〉〈HP吸収MAX〉〈MP吸収MAX〉〈盗むLv2〉〈火耐性Lv2〉〈水耐性Lv2〉〈地耐性Lv2〉〈風耐性Lv2〉〈光耐性Lv1〉〈闇耐性Lv2〉


 こんな感じだ。

 攻撃アイテムも途中で尽きたし、それは早い段階からそうなると分かっていたので攻撃系のスキルもレベルを上げ、オークを一撃(連続攻撃があるので実質四回ダメージが通る)で倒せるようになった。いや、俺自身のLvも28まで上がって、オークのLvが13だから通常攻撃で簡単に倒せるのは当然なんだけど。


 さてもう少し魔法系のスキルのレベルを上げたいところだが、流石に飽きた。オークを殺すのもオーク肉を食べるのも。

 ここらでちょっとお菊ちゃんの所に戻って、物資の補給をしよう。あとお風呂入りたいし。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る