第3話 ありがとうヤンキー
さて、ここいらでゲームの舞台説明をしようと思う。
〈GLOWLY DAYS〉は全十二章のプラスプロローグ&エピローグの物語だ。ちなみに一章一ヶ月で、プロローグと一章は四月に行われ、最終章である十二章は三月に行われる。
時代は現代日本の高校で、主人公は高校二年生だ。
英雄の資質を持つ主人公とそれに惹かれて集まった仲間たちが、次元の裂け目から侵略してくる魔族と戦う話で、最終的には次元の裂け目を閉じる異能に目覚めたヒロインちゃんを守りながらこの世界の侵略を目論む魔王を倒し、大きな次元の裂け目も閉じて、めでたしめでたしとなる。
ちなみにこの次元の裂け目を閉じる異能がヒロインちゃんの固有スキル〈聖なる乙女〉で、このスキルは主人公の〈英雄の資質〉と同様にイベント以外では効果を発揮しない。
そんなわけでヒロインちゃんはステータスが貧相な事もあって、スキルを鍛えていかないと凄い弱い。そしてよわいのでスキルポイントを得るのに苦労する。
まあ鍛えればちゃんと一線で使えるようになるんだけど、縛りプレイの時はどうしても二軍行きの正ヒロイン(笑)だった。
話がそれたが、最終決戦の十二章を終えたあとはエピローグとなる。
エピローグではさくっと一年たって卒業式となり、個別エンドないし孤独エンドとなるのだが、ヒロインちゃんはその後世界各地を巡り歩き次元の裂け目を見つけては閉じていく、主人公より主人公っぽいその後を過ごす。
ヒロインちゃんをエンディング対象に選べば一緒に世界を旅する(ノーマルでは非想的な決意を秘め、真面目に仕事してますって雰囲気のエンドだが、ハッピーだと新婚旅行かってくらい甘々な世界の危機を食い止める旅になる)し、セカンドちゃんや親友くんにライバルを選んでも似たような展開になる。
ただ男の娘などを選ぶとそれまで世界の危機を救う話だったはずなのに、普通に大学生活を楽しんでいたりする。もちろんエンディング対象と同棲して。
まあこの説明で分かってもらえると思うが、このゲームには恋愛要素(?)があるし、見方を変えればキャラゲーだ。
そしてゲームはアクションRPGといったが、アクションの要素はとても薄く、フィールドマップではその要素はほぼない。まあ戦闘で多少その要素はあるし、極めれば初期ステータスでラスボスを倒すことも可能だ(ただし戦闘アイテム、高レベル装備は必須)。
ただやっぱりレベルとスキルを上げれば、ボタン連打で苦もなく最強の敵も倒せるので、やはりアクション要素は薄いとしか言えない。
そしてゲームの進行だが、基本は全体マップに表示されているアイコンを訪れるとそこでイベントが発生したり、フィールドマップに移行して探索が行えたりする。
そしてこの手のゲームではお約束なことで、重要イベントを起こすまでゲーム内の時間は経過しない。
なのでフリー戦闘と探索が行える無限洞窟に入り浸っても、ゲーム進行に支障はない。
そんなわけで俺は重要アイテム最高級猫缶(2000円)を購入して、無限洞窟を訪れた。
本来無限洞窟は3章のイベントで解放されるのだが、そんなことは関係ないのである。
メニューと同じように頭の中で慣れ親しんだゲーム内のマップが見れるし、その中で自分がどこにいるかもわかる。
ゲーム時は解放されるまでアイコンが選択できなかったので訪れることはできなかったが、今は現実なので歩いて行ける。
ただし現実なのでアイコンを選択することができないので、面倒くさいことに歩いていかないといけない。
まあとにかく訪れて、出入り口を塞いでいる岩を蹴っ飛ばして開く。
この岩は昔のすごい人が異界に通じる道に一般人が迷い込まないようにと作った人避けの結界というやつで、英雄の資質を持つ
3章冒頭でヒロインズと親友くんの四人で歩いている時に偶然この前を通りがかり、親友くんが間違ってこの岩を動かしてしまし、好奇心の強いセカンドちゃんが洞窟探検だーって言って入っていく事で解放される。
そんな流れを知っているので、俺は普通に自分で開けた。
ちなみに動かした岩は俺の背丈よりも大きい。俺は動かせると知っていたけど、親友くんはよくこれを偶然動かすなんてミラクルを起こしたな。
そして外から見ると洞窟の中は真っ暗だ。入ってしまえば中に明かりがあるんだけど、外から見る限りは真っ暗だ。大事なことなので繰り返した。
セカンドちゃんはよくこの中に、なんの装備もなく入ろうと思ったものだ。
まあメタな話は置いておいて、さっそく洞窟に入ろう。
中には明かりがあり、広大なフィールドマップが広がっている。ただこの手のゲームのお約束で、フィールドの形状には限りがあり、色などを変えて使いまわしている。どのフィールドが出てくるかはランダムになっているが、俺は全てのフィールドのパターンを記憶しているし、アイテムが配置される場所とパターンも記憶している。もちろん次のフロアに行くための階段の位置もだ。
俺はさっそくダッシュで次のフロアを目指した。
落ちているアイテムも無視だ。どうせB10Fまでは安い消費アイテムしかない。いや、初期ではそれも有用だが、あいにくと今の俺はLv1の初期ステータスだ。
本来はプロローグを終えればLv2になるのだが、チュートリアル戦闘を正規の手段でクリアしなかったためか、二戦目が発生しなかったのでLv2にはあと少し経験値が足りない。さらにイベント戦闘を終えれば少なからずボーナススキルポイントが手に入るのだが、それも無かった。
そしてこの無限洞窟は3章開放のフリー戦闘マップであり、その時にはヒロインちゃんとセカンドちゃんと親友くんが仲間になっている。
つまるところ適正レベルに大きく足りていないボッチなので、今の状態ではエンカウントを避けたい。
次のフロアではもっと敵が強くなるんじゃ無いのかと思うかもしれないが、次のフロアに敵はいない。ただし猫が居る。
階段を降りた俺の前にはB1Fへという矢印と、ようこそニャンコ屋へという肉球スタンプ付きの看板が掲げられている。
俺はニャンコ屋へ入っていった。
「いっらしゃいにゃー、って人間にゃ? 人間はお断りにゃ。帰れ帰れ」
和風喫茶のウエイトレスみたいな格好をしたネコミミの女の子が、入るなりそう言ってきた。ちなみに見た目の年齢は中学生くらいだ。
「にゃ、にゃ? ニャンで近づいて来るにゃ。あたしは帰れって言ったにゃ」
コトンと、ネコミミっ子の前に最高級猫缶(2000円)を置く。
イベントではヒロインちゃんが猫を飼っており、この子に追い出される際にカバンから猫缶を落として、それを見とがめたネコミミっ子がその猫缶と交換条件に店の利用を許してくれる。
ネコミミっ子はチョロインならぬチョロ店主なのだ。
「お、お、おおぉぉぉぉぉぉぉ。この眩しい輝きは地上でしか手に入らにゃい最高級まぐろフレーク入り猫缶ではにゃいか。ももも、も、もしかしてあたしへの貢ぎ物かにゃ、いや、モテるおんにゃは辛いのにゃ」
「おう。もちろん貢ぎに来たんだが、買い物しちゃいけないってんなら帰るしかないな。残念だな。これからお世話になるだろうから挨拶がわりに持ってきたのに、いやー、本当残念だ。仕方ない。これは友達の猫ちゃんにあげよう」
「まままま、待つにゃ。そんな高級品を味の違いも分からにゃい飼い猫風情にやってはダメなのにゃ。冗談にゃ。初めて来たお客さんをからかっただけなのにゃ。にゃんこ屋は種族差別なんてしない健全なお店なのにゃ。ご利用ありがとうございますなのにゃ」
「そっか。すっかり騙されちゃったな。そういえばここって武器の販売ってしてる?」
俺は白々しくそう聞いた。
このニャンコ屋はストーリー進行、利用金額、訪問回数で販売アイテムが解放されていくシステムだ。初期では低レベルの回復アイテムと攻撃アイテムしか売られていない。
そして武器防具の販売リストはストーリー進行によって解放されていくので、俺のようにストーリーの早い段階から無限洞窟に入り浸る人間には利用する機会がない。だって十二章で購入できる武器より、無限洞窟のB60F以降で手に入る武器の方が強いから。
ただし今の俺には最高級猫缶(2000円)という究極の交渉材料がある。ヒロインちゃんの渡した普通の猫缶(推定98円)とは比較にならない高級品だ。
強気に出ても問題はないだろうという確信があった。
「ぶ、武器はニャー」
「無いんですか、無いんなら仕方ないですね……」
俺はそっとカウンターに置いた最高級猫缶(2000円)に手を伸ばし、
「あるにゃ、売るにゃ、売るからこれはあたしのものにゃ!!」
ネコミミっ子に先に奪われた。
「よし、それじゃあ早速リスト見せてくださいよ」
「し、しまったにゃ。つい誘惑に負けて……。バレたらママに怒られるにゃ……」
「バレないから大丈夫ですって、さあ早く」
「ぅぅ~。他人事だと思って冷たい人間にゃ~。ほら、これにゃ」
バンと、カウンターの上に乱暴に販売品リストを出すネコミミっ子。
そのリストは武器防具の項目が解放されている事を除けばゲームと同じ初期リストだ。
俺は手早く必要なものを選んでいく。
主人公の基本武器は拳だが、あらゆるスキルを獲得できる関係上、ほかの仲間キャラと同じ武器も使える。
安い初期ラインナップの中で攻撃力が高いのは親友くんの刀系統なので、樫の木刀を買い、防具は予算が足りないのでスルー。回復アイテムと攻撃アイテムで金額をぴったり一万円にする。
ちなみに主人公の初期の所持金は5000円で、そこからさらに最高級猫缶を買っている。そしてチュートリアル戦闘は不完全に終わっているのでお金は手に入っていない。
まあただ俺はその戦闘中に偶然財布を拾い、そしてその中には20000円も入っていた。きっとそのお金は素行の悪い持ち主がカツアゲや万引きをして得たお金であろうから、世界平和のために苦心する
世界のためなら仕方ない、遠慮なく使わせてもらうことにした。
「うむ、ちょうど一万お預かりしましたにゃ。お客様はこれで累計利用金額が一万円を超えたのにゃ。そういう訳で――」
「装飾品が変えるようになったんですよね」
「あたしのセリフを取らないで欲しいにゃ。というかあんたは何者にゃ。やけにこのお店のことを知ってるようにゃのにゃ?」
訝しむようにネコミミっ子がそう言った。
「ばれましたか? 実は俺、店主さんのファンなんですよ」
キラッ☆とイケメンスマイルを向ける俺。
「うわっ、ナルシストっぽくてキモいにゃ。しかもストーカーにゃのか。顔がいいのに残念な奴にゃ」
俺はもう二度と、キラッ☆を使わないと、固く心に誓った。
さて解放された装飾品だが、さしあたって欲しいのは麻痺無効と石化無効のアクセサリーだ。装飾品は二つまで身に付けられる。身に付けるだけなら三つ以上もいけるだろうが、効果があるかどうかは要検証だろう。
ただ今の所持金は13000円。
麻痺無効のブレスレットは8000円で、石化無効のペンダントは15000円。
麻痺無効だけ買ってお金を貯めてからもう一度訪れてもいいのだが、B10Fまでは状態異常系の魔物の数は少ない。
つまりは万が一の保険なのだが、麻痺は一応道具の使用までは制限されないので回復アイテムを多めに持ち込んで対処し、完全操作不能となりソロの現在ではゲームオーバーに直結する石化無効の方を先に手に入れたい。
どのみちレベル上げの関係から地上一階に戻って探索する予定なので、2000円ぶんモンスターを倒したり盗んだりして稼げばいいが、しかしやはりそれも面倒くさい。
そんなことを思いながらアイテム欄を見る。
初期装備だった革のグローブと買ったばかりの回復薬をいくつか売ろうかと思ってアイテム欄を見て、
梶本の財布×1
もっといらないアイテムがあるのを思い出した。財布の中に入っていたお金は自動で俺の所持金に加算されていたから忘れていた。
「これいくらで引き取ってもらえますか」
「にゃ。財布かにゃ? まあ百円にゃ」
なんだ。安い財布つかってんな、あのヤンキー。
「にゃにゃ? 運転免許証が入ってるにゃ。これも買い取っていいのかにゃ?」
「え? 良いですけど、そんなもの買い取ってどうするんですか?」
ヤンキーはヤンキーだけにバイクの免許でもとっていたのだろうか。交番に届けると面倒なことになりそうなので、買い取ってもらう事に異論は無かった。
「んにゃ? 知ってて持ってきたんじゃないのかにゃ? こっちで加工すれば大手を振って地上を歩けるから欲しかったにゃ。買取価格は80000円でいいかにゃ?」
「マジか!!」
ありがとうヤンキー。
君のおかげで
そのお金で装飾品も消費アイテムも防具もしっかり買って、俺は無限洞窟1Fに戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます