第2話 チュートリアル戦闘
「ヤッホー玲子。さっそく転校生と仲良くやってるね」
HRが終わった休憩時間でそう声をかけてきたのはセカンドヒロインちゃんだった。
〈GLOWLY DAYS〉ではメインヒロインが二人にサブヒロイン二人がいて、あとは親友ポジやライバルポジにショタポジと男の娘ポジで男が四人いて、その八名が仲間になるキャラだ。そしてこの八人以外にも条件をクリアすることで個別エンドが見れるヒロインキャラが二人いる。
もちろん仲間になる八人全員の個別エンドもあるし、主人公が男で固定なのに男とラブラブになるエンドも、あってしまう。
まあ珍しくないと言えばそれまでだけど、そんなエンドを用意するくらいなら俺はヒロイン全員を攻略するハーレムエンドを用意するべきだと思う。
……ん?
そういえばゲームの世界が現実になったんだから、ハーレムエンドもいけるか?
いや、いけるに決まってる。そうじゃなきゃ俺がゲームの世界に来た理由がどこにあるかわからない。
やるぞ。おれはやる。
ハーレム王に、俺はなる!!
え? 使い古したネタはやめろって? いいじゃん、他に思いつかないんだから。
「ちょっと変なこと言わないでよね遥香。相馬くんが固まっちゃってるじゃない」
「えー、そんな変なこといったかなぁ。ごめんね。チャラいかと思ってたけど、けっこう真面目なんだね。
私、相田遥香。玲子の友達。相馬くんとは相の字繋がりだよー、よろしくね」
「あ、はい。よろしく、相田さん」
セカンドちゃんは挨拶をすませると自分の席に戻っていった。次の授業がそろそろ始まるのでその準備をするのだろう。ヒロインちゃんも同じく教科書やノートを取り出し始めた。
俺もなんでかわかる次の授業の教科書などを鞄をから取り出した。
******
そんなこんなで、昼休みになった。
途中の休憩時間はゲームでは〈男子生徒A〉とか〈女子生徒B〉としか表記されていなかったモブたちに話しかけられて終わった。
「よう転校生、お前昼飯持ってきてるか?」
声をかけてきたのはDQNっぽい男だ。
ぎらついた感じのリア充イケメンで、現実なら目を合わせないようにするが、俺はコイツを知っている。なぜなら親友キャラで、本編でろくに意思表示しない主人公に代わってストーリーの進行役をし、戦闘ではハイスペックなアタッカーとして序盤から終盤まで活躍する強キャラだからだ。
そして男性陣での個別エンドでは最も丹念にラブラブエンドが描かれており、少なくともそのシーンのライターは腐女子だと確信できるクオリティーだった。
あ、ちなみに俺は全キャラのノーマルとハッピーエンドを見ています、はい。
いや、ヒロインエンドも十回以上見ると飽きるし、ネタ気分で男キャラルートに進んだりもするよ。
もちろん現実になった以上、俺はハーレムエンドしか目指さねぇ。デレまくった親友キャラやショタっ子は可愛いかったが、俺は可愛い女の子が大好きだからだ。
「お、おい、大丈夫か?」
「ああ、ちょっと考え事してた。持ってきてないよ食堂があるんだっけ」
「おう。お近づきの印におごってやるよ。あと学校の中も案内してやるよ。行こうぜ」
知ってる。
しかしなぜコイツは初対面の転校生(男)に、こんなにグイグイ迫って来るのだろうか。面倒見がいいからと解説されていたが、こいつのラブラブエンド(正しくはハッピーエンド)を見た俺としては、最初から
いや、良い奴なんだがな。イケメン過ぎてちゃらく見えるけど古臭い熱血漢で情に厚くて、ついでに主人公たちがピンチという美味しいシーンで活躍する男女を問わず人気の高い強キャラだから。
まあこの親友キャラ――
ちなみに初見のときは、舌打ちしたキャラは立ち絵も名前も表記されなかったので、親友くんがその逆恨みヤンキーだと思ってしまったのが良い思い出だ。
******
さて男の学校案内なんて語っても仕方ないので放課後だ。
ヒロインちゃんとセカンドちゃんが放課後、
「引っ越したばっかりなんだよね。良かったら街の中を案内しようか?」
なんて
そしてヒロインちゃんたちが下足置き場についたところで、
「あ、ごめん。ちょっと職員室に用があったのすぐに戻るから待っててくれる」
と言って、俺を置き去りにして二人で職員室に行った。
しばらくぽつーんとひとり寂しく待つ。これがプロローグイベントだと知っていなければ影で『あいつまだ待ってるよ。ウケる~』なんて囁かれているんじゃないかと、疑心暗鬼に苛まれて泣いていただろう。
「おい、お前ちょっと面かせや」
そしてこれがプロローグイベントだと知っていなければ、こんなドスのきいた声をかけられれば一目散に逃げだしたたろう。
だが俺は逃げない。
なぜなら俺は主人公で、そしてこれは負けようのないチュートリアル戦闘だからだ。
そして俺はヤンキーに言われるがまま校舎裏へと赴き、
「お前みたいなナンパ野郎が笠原に近づくんじゃねえよ」
と殴り掛かられた。
いや、避けたけど。
〈GLOWLY DAYS〉はアクションRPGだけど、シームレス戦闘ではない。だから戦闘が始まる前に何かエフェクトが発生するかと思ったけど、それも無かった。ちょっと寂しい。
さてチュートリアル戦闘は基本操作の説明が有り、ヤンキーを一発殴り、殴られて、薬草で回復して、スキル〈光牙〉で攻撃して、あとは倒してくださいって流れだ。
ただゲームのアナウンスはあいにくと流れない。このままやれってことだろうから、俺はとりあえずヤンキーにスキル〈盗む〉を発動した。
いや、チュートリアルではスキルを育てられないから、こいつに〈盗む〉って使ったことないんだよね。もしかしたらバグるかもという不安はあるけど、見たことないアイテムとか手に入るかもと思ったら試さずにはいられなかった。
スキル〈盗む〉に特別な動作はない。普通に殴る時に、盗むって思ったら発動した。ゲーム中のキャラクター動作も殴るモーションだからたぶんイケルだろうと思ったらビンゴだった。
このゲームはヌルゲーで優しい設定なため〈盗む〉は相手がアイテムを持っていない場合を除き、確実に成功する。ゲーム中はアナウンスが流れて誰から何を手に入れたかが表示されたが、今は感覚的に何かを盗んだということがわかっただけだ。
「へ、何だ。そのひ弱なパンチはよぅ」
〈盗む〉にはダメージ判定がないせいで、ヤンキーがいい気になっている。まああとでお望み通りボコボコにしてやろう。
俺はメニューを開いてアイテム欄を確認した。
そこにはなんと、ゲーム中では決して手に入ることのなかった激レアアイテムがあった。
梶本の財布×1
うん。本当に盗みを働いてしまった。まあ序盤は金に困るからもらっておこう。
さて、そのあとはしばらくヤンキー(名前は梶本)を殴っていた。ゲームの時はいつまで殴り続けても戦闘は終わらないんだけど、今は現実だ。
一発目は、
「や、やるじゃねえか……」
と強気を見せたヤンキーだが、三発殴ったらもう腰が引けていた。
一応攻撃スキルの使い勝手も試したいので〈光牙〉も使っておく。拳がぴかっと光って殴られたヤンキーが吹っ飛んだ。
この〈光牙〉は主人公が初期から覚えている攻撃スキル〈光闘術Lv1〉の技で、通常攻撃を光属性にする。一応基本攻撃力も上がるが、微々たるものだ。
まあストーリー中盤ぐらいまでは光属性が弱点の敵も多いので無駄にはならないが、このスキルは正直育てる価値が低い。ぶっちゃけ基礎能力を上げるパッシブスキルが有用すぎるのでそちらのほうが優先されるし、一通り上げ終わると通常攻撃がやたらと強くなるので、派生後の最強攻撃スキルなんかも見た目が派手でかっこいいだけのロマン技に成り下がってしまうのだ。
格好いい技って演出が凝ってる分、時間がかかるからDPSが下がりがちだよね。
さてそんなこんなで殴っていたら、ヤンキーは倒れふしてピクピクと痙攣するようになった。もちろん死んではいない。
ただこのヤンキーはステータス的にはHPを除いて全ての項目が最弱モンスターよりも低い。ちなみにセカンドちゃんのLv1ステータスよりも低い。純後衛型のヒロインちゃんにはかろうじてATKが優っているが、
なぜ女の子よりも貧弱なコイツは、倍近いスペック差のある主人公に偉そうに喧嘩をふっかけてきたのだろうか。あ、俺が
しかし、困ったことになった。
ゲームではヤンキーは負けたあと手下を連れてきて、多勢に無勢になったところを親友くんが助けに入って仲間とのチュートリアル戦闘に突入するのだが、ヤンキーは倒れたまま動かず、手下を呼ぶ気配がない。
重ねて繰り返すが、息はちゃんとある。ゲームの敵キャラだからといって、殺してはいない。
やはりチュートリアルの流れに従って一発ぐらいは殴られて、薬草を使うべきだったか。
それともあらかじめ〈ATK向上Lv2〉をとったせいで致命傷になってしまったのだろうか。
そんなことを考えていたら、
「か、梶本さん」
ヤンキーの手下たちが、空気を読んで呼ばれてもいないのに出てきた。良かった良かった。
ヤンキーは倒れたまま動かないが、あとはこの手下たちを倒してチュートリアル終了だ。親友くんはどこかな。
「おい」
あ、出てきた。
「やりすぎだろ、お前」
そして親友くんは木刀を俺に向けてくる。
え、何この展開。
あ、言い忘れてたけど、親友くんは剣道部だ。そしてストーリーが進んで強い武器が手に入ると、当たり前に街中で強い武器(※真剣)を振り回すようになる危険人物だ。
「おい、お前ら。梶本を早く保険室に連れていけ。コイツは俺が押さえとく」
「は、はい。すいません、雷堂さん」
手下たちが駆け寄ってきて、二人がかりでヤンキーを肩で担ぐ。
「梶本が何言ったが知らねーが、あんなグッタリするまで殴るなんてまともな人間のすることじゃねえ」
親友くんがそういって俺を睨む。
まずい。これはまずいですよ。親友くんは重要キャラだ。ここで喧嘩するなんてゲームじゃ存在しなかったルートだ。
しかし怒ってる理由がヤンキーが瀕死状態ってことなら、俺にも打つ手がある。
たらららったた~♪
相馬浩史は薬草を取り出した。
「あん? なんだ、どっからその草取り出したんだ」
訝しむ親友くんはさておき、俺は薬草を梶本に投げつけた。
梶本の背中に当たった薬草はベチンといい音を鳴らし、その後キラキラと緑色の光のエフェクトを見せて消えていった。
「な、なんだよ今の」
「薬草だ。治ったぞ」
チュートリアルボスのヤンキーの最大HPは薬草の回復量とほぼ同等だ。これで完全回復したはずだ。
「う、お、俺は……」
「梶本さん、気がついたんすね」
「な、なんだお前ら、放せ」
ヤンキーは手下たちを振りほどくと、混乱した様子で辺りを見回し、俺と目があった。
「ひぃぃぃ!!」
え、なに。なんなのお前まで。
お前はどんなにボロボロにやられてもしつこく主人公に食ってかかる噛ませ役だろ。なんでそんな悲鳴とか上げてるんだよ。
「わ、悪かった。俺が悪かった。許してくれ」
「ぇえー?」
「おい、相馬。何があったかしらねぇが、許してやれよ」
親友くんが木刀をしまって俺にそう言ってくる。
「いや、別にいいんだけど。俺は売られた喧嘩買っただけだぜ。なんでこいつ被害者ヅラしてんだよ」
今ならHP満タンだろうし、一発〈光牙Lv1〉やっとくか?
「あんだけボコボコにすりゃ十分だろ。ったく、見た目と違って危ない奴だぜ」
親友くんが呆れた様子でそう言った。いや、俺は悪くないと思うんだけど。
そんなふうに思っていたら、外野から女の子の声がかけられた。
「相馬くん、こんなところに――梶本っ、あんたまた玲子の為とか言って喧嘩売ってたの!!」
ビシッとヤンキーに指をさして言ったのはセカンドちゃんだ。
「遥香、あんまり変なこと言わないで。梶本くんとはただの友達なんだから。
それでどうしたの、雷堂くんも?」
なんだかこれもプロローグイベントと違う。
ゲームのイベントでは、主人公の拳が光ったぞ何それSUGEEEって展開だったんだけど。あと喧嘩ふっかけてきたヤンキーが悪党ってことで後ろ指さされるはずなのに、なんかちょっとセカンドちゃんと喧嘩友達っぽい雰囲気だ。
「あ、いや、俺は……」
ヤンキーはそう言ってヒロインズから視線を逸らした。その様子に露骨にセカンドちゃんが訝しむ。
「なによ梶本、言い返しもしないなんて。はは~ん。さては剣士にこっぴどくやられたんでしょ。恥ずかしい名前のくせに喧嘩だけは強いもんね」
「人の名前バカにすんじゃねぇよ。それに俺じゃなくてコイツだよ、コイツ。
梶本をボコボコにしたのは、この相馬だよ」
親友くんがそう言うと、ヤンキーは屈辱に耐えかねるといった様子で、
「くっ、覚えてやがれっ!!」
お約束のセリフを吐き捨て、手下とともに去っていった。やれやれ、手下との戦闘がなくなったな。〈盗むLv2〉使いたかったんだけど。ちなみに〈盗むLv2〉だと一回の戦闘で二回までアイテムが盗める。敵一体から盗めるアイテムは一個だけなので、今のところ一回の戦闘で盗めるのは二人までだ。
そしてスキル〈盗む〉は絶対に成功するスキルであるし、さらに一回の戦闘で相手にする敵の数は限られるので、当面はこのスキルレベルのままで問題ないし、スキルポイントに余裕が出てきても5ぐらいまでしか上げない。いや、最終的にはスキルポイントは余るからカンストさせて上位スキルの〈強奪〉もカンストさせるんだけど。
「あいつは根性がひねくれてるからな。普通に考えればこれだけこっぴどくやられりゃあ、もうちょっかいかけようって気はなくなるもんだけどよ。
なんかあれば言えよ、相馬。
お前にゃ手助けなんか必要なさそうだけど、手加減しらねぇみたいだし、クラスメートが殺されるだの殺すだのとか避けてぇわ」
梶本が逃げるのを見ながら親友くんがそう言った。
微妙にゲームとは違うセリフだが、概ね仲間になったと見ていいだろう。
明日からは一章が始まる。頼りにしてるぜ、親友くん。
「相馬くんてそんな怖い人なの、ちょっと引くね」
「ちょ、遥香!」
「あはは!! 冗談冗談。梶本もしょげてたけど怪我はなさそうだったじゃん。剣士が大げさなんでしょ。あ、そうだ。みんなでミルキー行こうよ。お近づきの印にさ」
そしてゲームと同様に、セカンドちゃんが今後の主人公の
こうして俺の
俺はヒロインちゃんたちと別れたあと、なぜか知っている自宅マンション(お約束通り家族はいない。主人公一人暮らしだ)必要な買い物を終えてある場所に趣いていた。
レベル上げポイントである、無限洞窟へと。
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