ごめん、世界滅んだ

秀哉

第1話 来ちゃった

 




 ゲームの世界に来ちまったんDAZE。

 何を言ってるかわかってると思うが、俺もわかってるんDAZE。

 ヒャッハー。



 さて俺の名前は相馬浩史そうまひろふみ。どこにいるフリーターの兄ちゃん(二十代後半)だ。ニートではない。そしてどこにでもいる普通の人間ってんだから、つまりは特別な人間だ。こうしてゲームの世界に来たんだから間違いない。

 ゲームの中に入った経緯はわからない。わからないが、大した問題じゃないだろう。とりあえず俺はきっとこの世界でSUGEEEEと持て囃されるためにやってきたんだ。そうに違いない。なぜなら俺は特別だからな。

 もう俺より若い店長にねちねち文句言われる事は無いってっことだ。


「――まくん」


 それじゃあお待ちかねの俺が来たゲームの解説に移ろう。

 ゲームタイトルは〈GLOWLY DAYS〉。

 ただウィキによると本当は〈GLORY DAYS〉となるはずだったらしいが、なんか開発の偉い人が間違って何となくそのまま流れて、偉い人が気づいたときには訂正すると大きく予算を逼迫するところまできていたらしい。ちなみにGLOWやGLOWINGLYという単語はあるが、GLOWLYという英単語は見たこともない。

 そんなヘボいミスが起きることからもわかるように、このゲームは割とマイナーなゲームだ。

 エンディングで締めに親友キャラの『俺たちのGLORY DAYS栄光の日々だ』なんてセリフがあるのだが、それが〈GLOWLY DAYS〉じゃねーのかよと、ネットでネタにされることもないマイナーなゲームだ。

 ただ俺はこのゲームにハマった。


 〈GLOWLY DAYS〉は型遅れの据え置きゲーム機で発売されたアクションRPGだ。

 アクションといってもそう難しいものではなく、キャラを鍛えればボタン連打でラスボスも倒せる。レベルを上げて物理で殴るというやつだ。つまりはヌルゲーだ。

 そしてこのゲームはレベルを上げるのが楽しかった。

 もともと俺はRPGのレベル上げが好きだ。レベルを上げまくって負けイベントとかの強キャラを倒したときは気分が爽快になる。あとは戦う前のイベントでは格上っぽいことをのたまう敵キャラを一方的にボコボコにするのも大好きだ。


「――うまくん」


 この〈GLORY DAYS〉はヌルゲーでありながら、レベル上げ――というか、キャラの成長要素がとても多かった。いや、普通にストーリー進行に合わせればそもそもヌルゲーでも何でもないし、レベル上げを縛ると難易度的にはそこそこ難しい部類に入る。まあ簡単にレベル上げられるから、やっぱりヌルゲーなんだけど。

 その特徴は今や珍しくもなんともないスキルツリーだ。特に救世主である主人公は鍛えていけば最終的にほぼ全てのスキルを獲得できるようになり、一人でラスボス一方的に撲殺できるまでに強くなる。そこまで行くともはやイジメでしかない。


 ちなみにこのゲームに隠しボスとかはいない。ラスボスが最終にして最大の敵で、極限まで主人公を鍛える理由はどこにもない。

 古いゲームなので二周目以降の特典は微々たるもので、周回要素もほぼない。だが俺は何度となくクリアし、その度に主人公を最強に鍛え上げた(縛りプレイ時は除く)。

 そして俺は今、その主人公になっていた。


「相馬くん!!」

「はい!!」


 叱責されて、はっとする。目の前には黒髪の綺麗なお姉ちゃんが居る。お姉ちゃんといってもゲームに来る前の俺よりは若く、今の俺よりは年上だ。


「だいじょうぶ? ぼーっとしてたわよ」

「あ、はい」


 今度は気遣うように声をかけてきたお姉ちゃんは、今の俺の担任の伊藤先生だ。

 つまり今の俺は学生だ。高校生だ。ヒャッハー。JKと合法的に同じ空気を吸えるんDAZE。


「ねえ、あいつにやにやしてない」

「きもいよね」

「イケメンなのにね」

「近寄らないようにしよ」


 女子どもがイケメンの俺を噂してるぜ。イケメン以外の言葉は聞かないぜ。心が折れそうになるからな!!


「みんな静かにして。それじゃあ相馬くん、挨拶して」


 先生が促す。

 今の俺はゲームの主人公だ。このゲームはフルボイスではなく、主人公が名前を呼ばれることもない。一応デフォルトの名前はあったが、先生は普通に俺の名前を呼んでいたので、ゲームの主人公の名前ではなく俺の名前を口にする。


「転校生の、相馬浩史そうまひろふみです。よろしく」


 主人公キャラに許されるイケメンフェイスとイケボイスで、キラッ☆と女子たちに星を飛ばしておく(←比喩表現です。出ていません)。


「きもっ。なんで声作ってんの」

「きっと自分がかっこいいと思ってるのよ」

「しっ、こっち見てるよ。危ないって」


 女子たちのネガティブに黄色い反応が眩しいぜ。頭がクラクラしちゃう。


「はいはい、静かにして。それじゃあ相馬くんの席はあそこね。お隣は笠原さんで、学級委員で生徒会役員でもある責任感のある子だから、わからないことがあれば彼女に聞いてね。

 笠原さん、よろしくね」


 テンプレイベント来たぜ。

 お隣の笠原玲子ちゃんはこのゲームのメインヒロインなんDAZE。

 何周もクリアしてるから、このプロローグイベントは丸暗記してるんDAZE。


「よろしくね、相原さん」

「はい、よろしくお願いします。笠原さん」


 イケボイスとキラッ☆は出さなかった。やっぱりゲームの世界とはいえ、人付き合いは普通が一番だよね。心が折れたとかそんな事は無い。ちょっとだけ臆病になってるだけだ。


 今の俺はたぶん初期ステータスだし。いや、このゲームに魅力値とかないし、主人公はゲーム内でイケメン扱いされてるからイケメンには間違いないんだけど、砕けた感じはもうちょっと仲良くなってからやるべきだよね。

 何度も繰り返すけど別にさっきので心が折れたとかそんなんじゃなくて俺は常識ある人間だから転校初っ端での挨拶はウケを狙うけど、こうして一対一の挨拶ではちゃんと相手に合わせて礼儀正しく振る舞うんだ。

 俺は立派な社会人(実家暮らしアルバイト、彼女なし)なんDAZE。


「――ちっ」


 ちょっと大きめの舌打ちが聞こえてビクッとなる。

 これもプロローグイベントだが、考え事をしていたせいで不意をつかれてしまった。あれだ、今の俺は主人公だからな。本気でびびったわけじゃねーからな。勘違いするなよ。

 ちなみに卑怯な不意打ちを仕掛けてきたのはヒロインちゃんに片思いしてるリーゼントの不良です。今日の放課後校舎裏で決闘します。戦闘チュートリアルくんです。

 ここでかかされた恥はそこで返してやる。倍返しだ。え? 古いって? いいじゃん別に。古いゲームやってるんだから。


 ……そう言えばイケメンになってる俺は主人公だけど、ちゃんと主人公のスペック持ってるんだよな。当たり前だよな。意識が俺だからってもとの俺のスペックだったりしないよな。元の俺が不良と喧嘩した日には土下座して靴舐めるしかないぞ。


 そんな不安を拭うには検証だ。

 HR中、先生の話を聞くふりをしながら頭の中でメニューと唱える。

 そしたら目の前にメニュー画面が浮かんできた。これもお約束で俺以外には見えていないようだ。

 メニューは指でタップする必要はなく、意識を向ければメニューの見たい画面が開かれるので、まずステータス値を見る。


 うん。レベル1だった。そして記憶にある主人公の初期値だった。ゲームステのレベルやスキル引き継ぎとかなかった。

 まあいいけど。レベル上げ好きだから。ただ残念なのはアイテム欄が薬草一つだけだったことだ。これはチュートリアル戦闘で使うアイテムで、つまりは初期アイテムだ。

 この〈GLOWLY DAYS〉のささやかな周回引き継ぎ要素としてアイテム引継ぎがあり、俺の保存しているクリアデータは当然有用なアイテムは保有数をカンストさせて持っていた。ちなみにゲーム終盤はだいたい金が余るので有用でないアイテムもだいたいカンストさせて持っていた。例外は引き継ぎのきかないイベントアイテムだけだったのに。

 まあ無限洞窟(レベル上げ用のダンジョン。無限と書いてあるがB100Fまでしかなく、先に進もうとするとB91Fに進んで無限ループする)で手に入るから別にいんだけど。


 メニュー画面を見ていると、スキルの割り振りが可能なのがわかった。

 ゲームの時はプロローグ中はメニュー画面を開けないのでスキル獲得はできなかったのだが、現実になったことで自由度が上がっているようだ。うんうん。ラッキーラッキー。

 とりあえず初期値のスキルポイント10をつかって〈HP上昇Lv2〉と〈ATK向上Lv2〉と〈盗むLv2〉を取っておく。残りのスキルポイントは1だが、これは残しておく。

 〈HP上昇〉はレベルをカンストさせると〈HP再生〉や〈状態異常緩和〉、〈ガードレス〉のスキルが解放される。〈ガードレス〉は被ダメージ時に発生する硬直時間を緩和してくれるので、アクションRPGでゴリ押しするには必須スキルである。

 〈ATK向上〉はそのまま有用だが、こちらもレベルをカンストさせると〈連続攻撃〉や〈ノックバック〉などが解放される。ちなみに〈ノックバック〉は相手を吹き飛ばすのではなく、ダメージを与えた相手に硬直時間を与える、つまりは怯ませる効果が強くなるスキルだ。

 そして地味に大事なのが〈盗む〉これは鍛えれば〈強奪〉が手に入るが、それはスキルポイントが余る後半まで手に入れない。〈盗む〉自体が有用で大事だからだ。これの有る無しで無限洞窟での稼ぎが大きく変わってくる。


 残ったスキルポイントは〈HP上昇〉のレベル上げのために残しておく。ちなみにスキルのレベルは10でカンストで、MAX表記になる。ただ〈連続攻撃〉など早めにレベルがカンストするスキルもある。

 またスキルの中には属性攻撃とかATKではなくINT依存の魔法スキルもあり、主人公も手に入れられる。というか、仲間や敵の固有スキル以外はほぼ全て手に入る。

 ただ魔法専門職に比べると強力な固有技が無い分、威力でやや見劣りするのでレベル上げ縛りでやるときはそっちには割り振らない。


 もちろん主人公は万能キャラなのでINTもカンストさせられるし、保有できるスキル量の関係で最終的には魔法専門職よりも魔法が強力になるんだけど、その頃になると物理で殴るだけでほぼ全ての敵が倒せる(物理系のスキルを一通り育てきると魔法しか効かない敵にダメージが通るようになる特殊スキルを覚える)ので、あんまり活躍の場はない。

 なお主人公の固有スキルは〈英雄の資質〉内容はスキルツリーの開放で、それ以外の効果はない。そのためスキルが揃わない序盤では固有スキルの強い仲間キャラのほうが強かったりする。まあ仲間キャラはスキル取得の制限が大きいので、やっぱり最終的には主人公TUEEEになるんだけどな。



 さて、考え事をしているうちにHRが終わった。

 あ、そうだ。アイテムの取り出しを試すのを忘れていた。

 アイテム欄に薬草があるが、俺のポケットにも手にもそんなものはない。カバンも持っているが、教科書とかノートしか入っていない。ちなみにこれはいつの間にか持っていたが、間違いなく俺のものだという記憶がある。不思議な話だが、ゲームの世界に入っている不思議な事態なのでスルーしよう。

 話を戻して、薬草を取り出す。これは戦闘チュートリアルで必要なアイテムなので、バグったりしないよう使うつもりはない。ただ試しているだけだ。

 なんとなくわかっていたのだが、取り出そうと思ったら手が空中に発生した黒い穴に吸い込まれ、手を抜くと薬草が取り出せた。どう使えばいいかも手にとった時点でわかる。俺は満足して薬草を黒い穴に返した。

 メニューのアイテム欄にはしっかりと薬草×1の表記がある。


「あ、あの、相馬くん?」

「え、なに笠原さん?」

「今、手が消えてなかった? それになんだかハーブみたいなものを持って、それが消えたよね?」


 ああ、アイテムボックス(ゲーム中にそんな表記はなかったけど、それでいいだろう。ゲームと同じで無限にアイテム入れられるだろうし)もメニューと同じで見えないから、穴に入れて手が消えて、何もないところから薬草を取り出して、もう一回手が薬草と一緒に消えて、そして何事もなく手が戻ったように見えたのかな。

 うん。ホラーだな。


「気のせいじゃない? 笠原さん委員会で忙しいんでしょ? きっと疲れてるんだよ」

「そ、そうかな、でも……」

「きっと疲れてるんだよ」


 美少女ヒロインを優しく気遣う俺、マジ主人公の鑑。


「そ、そうよね。そんな事あるはずないもんね」

「ヤッホー玲子。さっそく転校生と仲良くやってるね」


 そう声をかけてきたのはヒロインちゃんの友達で、セカンドヒロインちゃんだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る