第19話 ボルフェンク・ペテルレ著『「偉大なる開拓者号」の惑星ノヴァ・ゼナリャ開拓に関する一考察』の抜粋

 ……「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」の軌跡は、輝かしい歴史を人類の宇宙開拓史に遺した、というのが通説になっている。だが、本論文はその通説から真逆の立場の仮説を主張するものである。


 「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」はデネブ星域β星系惑星d6を、西暦2649年の5月7日に発見し、無人地上探査機により精査を終え、その結果、人類が植民するのにふさわしい大気と地表、水分を持った惑星と判定し、3ヶ月後の8月には、地表に降下を開始した。

 

 着陸してみれば、ノヴァ・ゼナリャは殆どが赤茶けた砂漠に覆われた惑星で、そのため、人類が安定した植民活動を行うには、大規模な治水工事と植林作業が必須と言うことが分かったが、それでも人類は史上初めて植民に値する惑星を見つけたことには変わりなく、「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」の乗員は歓喜し、この惑星d6を「新しい大地ノヴァ・ゼナリャ」と名付け、輝かしい一歩のしるしをこの惑星の大地に刻んだ。


 この記録に関しては本論文も異議を挟むものではない。


 だが、このあと「「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」の乗員は、共に協力し、不可避の事故で犠牲者を出しながらも、互助の精神で大規模な工事に邁進し、その結果として、ノヴァ・ゼナリャの開拓こそ成功しなかったものの、ここを基地にして、偉大なる開拓者号の乗員とその子孫は、新たな星々の開拓へと続々と離陸し、人類の宇宙開拓史に輝かしい足跡を遺した」との定説に、本論文は真っ向から異議を述べる仮説であることを、まず始めに記しておこう。


 結論から述べれば、ノヴァ・ゼナリャの植民事業史は、これまで言われていたように、平和的な歴史では全くなかったということだ。

 いや、寧ろ、その歴史は、対立と争い、策謀と陰謀、殺戮と虐殺に満ちた血なまぐさいものであった、というべきなのだ。


 「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」の乗員は、ノヴァ・ゼナリャへの着陸以前から、世代間対立を抱えていた。

 つまりは、「地球出立から乗船していた生粋の乗員=地球世代」と、航行を続ける過程で「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」の中で産まれた、「地球を知らない若い世代=宇宙世代」の二派に別れていたということである。


 この二派は、最初こそ協働して植民作業に当たっていたが、年月を得る毎に、主に後者の宇宙世代から、年配者である地球世代に対する不満が募るようになっていった。というのも、植民作業の主導権を握っていたのは地球世代の乗員であったが、この世代が植民作業の最終目的を「あくまでも地球に酷似した環境」に拘っていた。そのために、ときに無謀ともいえる工事を乗員に強い、その結果として、多くの犠牲者を出していた現実があった。これに宇宙世代は反発し、次第に両者の溝は深まっていった。


 そして、着陸から6年がすぎた西暦2655年4月、両者は決裂し、ノヴァ・ゼナリャは血で血を洗う内戦状態に陥った。

 戦況は当初は五分五分であったが、次第に戦局は宇宙世代に有利に働いた。これは、地球世代の子弟から、少なからぬ裏切りが発生したためといわれている。両者の、ことに宇宙世代による陰謀は熾烈を極めたとされ、ついに地球世代は同年7月、全面的降伏を余儀なくされた。


 だが、この内戦の過酷さはこの後が本番であり、降伏した地球世代の指導者を、宇宙世代の若者達は容赦なく粛正し、ノヴァ・ゼナリャの大地は赤く染まったとされる。地球世代の生き残りは、その後の植民作業にて強制労働を強いられ、宇宙世代から奴隷に等しい扱いを受けたという。


 だが、宇宙世代が実権を握った後も、両者の争いが滅したわけではなく、両勢力によるテロリズムや謀殺といった報復行為が後を絶たず、次第に「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」の乗員達は疲弊し、ノヴァ・ゼナリャの工事は滞った。


 その結果として、ノヴァ・ゼナリャの植民事業は断念せざるを得なくなり、結局、最終的にノヴァ・ゼナリャは放棄され、無人惑星に帰した。


 これが栄光と希望に満ちた歴史、と従来主張されてきた「偉大なる開拓者グレート・パイオニア号」の開拓史の真実なのである……

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