第140話 奪われた記憶

「マリィさんじゃねえか!

 生贄にされて悪魔に連れて行かれたってのに、お前、いったいどうやって……。」

 俺たちが目を覚ますと、起きてそうそう、エンリツィオにちょっと来い、と呼び出される。不思議に思いながらついて行くと、ベッドの上にマリィさんが眠っていた。


 マリィさんはどこも怪我すらしておらず、たぶんパンツもしっかり履いている。

 エンリツィオはいつの間にか、どこかに行ってマリィさんを連れ戻して来たらしい。

「悪魔にはちょっとツテがあってな。」

 と、しれっと言うエンリツィオ。ああ、こいつ自身が、悪魔と契約してるんだっけか。


 その悪魔に頼んで、マリィさんを取り戻せたってことか?どうりでマリィさんが魔法陣に消えた後も、なんの反応も示さずに、妙に落ち着き払っていると思ったぜ。取り戻せる算段があったからってことだな。

 エンリツィオにとってマリィさんは、少なくともただの元愛人じゃない。


 妹みたいに大切に思っていることは、アプリティオで見せたスピリアの花で明らかだ。

 この場所を借りたのも、その為に必要だったってことか。壊れてもいい場所、なんて言うから、てっきり目が覚めたら屋根がない、なんて可能性も考えてたんだが。建物は普通に無事だった。マリィさんが、う……、と小さくうめいて身じろぎしながら目を開ける。


 そして目を覚ましたマリィさんは、周囲を見渡したあと、エンリツィオを見て、突然、

「──お兄ちゃん!!」

 と、無邪気な笑顔で言った。

「え、えっと……、マリィさん?」

「──マリィさん?」

 マリィさんは不思議そうに首を傾げて、そう呼んだ俺を見上げる。


「マリィさんがエンリツィオの妹?

 お前、まさか本当に妹に……?」

「いねえわ!妹なんか!」

 エンリツィオが不服そうに眉を寄せる。

「でも、君のお父さんでしょう?

 どこかに愛人作って、産ませてないとも限らないじゃない?

 君だって世界中に愛人がいたんだし。」


 アシルさんにそう言われて、エンリツィオが考え込む。──心あたり、あるんかい。

「お兄ちゃんたち、何を話してるの?」

 マリィさんが、今度は俺を見てお兄ちゃんと言ってくる。

「ああ、年上全員お兄ちゃん的なやつだろ、びっくりしたぜ。」

 と恭司が言う。


「マリィのお兄ちゃんは2人だけだよ?」

 とそこにマリィさんがたたみかけてくる。

「えと、マリィちゃん、今いくつ?あと、マリィちゃんのお兄ちゃんて、誰と誰?」

 アシルさんが困惑しながら、マリィさんに尋ねる。マリィさんの年齢?なんでそんなことを尋ねるんだ?と不思議に思ったけど、その理由はマリィさんの答えですぐわかった。


「マリィは今8歳だよ?

 お兄ちゃんは、えと、あれ……?

 お兄ちゃんの名前……?」

「指さしてくれればいいよ。」

 困惑したようなマリィさんに、アシルさんが優しく微笑んでそう言うと、マリィさんは俺とエンリツィオを指さして、2人ともマリィのお兄ちゃんだよ、と言った。


「どういうこと……?マリィの様子がおかしいのは、すぐにわかったけど。なんで君たち2人をお兄さんだと思ってるの?」

 アシルさんが訝しげにそう言う。

「あれじゃないですか?多分、元々マリィさんには、お兄さんが2人いて、悪魔に生贄として囚われていた時に、なんらかの影響があって、それで記憶が混濁してるせいで、それを俺たちだと思ってるってことなんじゃ。」


「ええ?でも君日本人でしょう?」

「“運命の絆”のせいとかじゃねえのか?

 リンゼが言ってたろ?アニキとマリィさんの絆は、兄弟と友人と恋人の色だって。そこに引きずられてるってことはねえか?」

 と恭司が言う。アシルさんはうなずいて、

「可能性はゼロではないね……。

 だけど兄が2人いるってだけなら、年齢的に僕だと思ってもおかしくはないわけだし、そこはちょっと疑問かな。マリィのお兄さんが、どっちも黒髪なら話は別だけど。」


 俺は黒髪、エンリツィオはブルネット、アシルさんは金髪がかった茶色の髪色だ。ちなみにマリィさんは金髪に緑の目をしてる。

「俺が……マリィさんのこと、年上の妹みたいに思ってたからなのかなあ……?

 だって、ばりばりアジア系の顔の俺が、マリィさんのお兄さんに似てるわけがないし。

 エンリツィオはまだしも。」

 俺は混乱しつつ首を傾げる。


「ねえ、マリィちゃん、マリィちゃんのお兄ちゃんて、どんな髪の色してるの?」

 アシルさんが優しく尋ねる。

「お兄ちゃん?お兄ちゃんは2人とも金髪だよ?……。あれ?」

 うっすらとした記憶の中のお兄さんと、今自分がお兄ちゃんだと思ってる目の前の人物とが重ならず、マリィさんが困惑する。


「恭司の言うとおりかもな。」

「つまり今の彼女は、この世界に来たばかりまで、記憶が戻ってるってことだね。

 その上で、“運命の絆”の絆の力に、記憶が引っ張られてるってわけか。」

「──記憶操作のスキル持ち相手に、記憶をイケニエとして持ってくとはな。

 相変わらず食えねえヤロウだ。」

 エンリツィオは、悪魔キドゥトゥの悪い笑顔を頭に思い浮かべながら不満げに笑った。


 マリィさんを生贄にした悪魔とは別の、エンリツィオの契約悪魔が、マリィさんを取り戻すのに協力してくれたけど、マリィさんそのものは返してくれても、記憶を奪ったのだろうと、エンリツィオは考えているらしい。

「そういえば、反対しないんですね?アシルさん。エンリツィオがまた、マリィさんに関わることに。」

 思ったよりもアシルさん冷静だな。チムチであんなに嫌がって説教までしてたのに。


「まあね。不測の事態だからね。

 他の人を好きになったから別れるって一方的に言われて、10日間水以外なにも口に出来なくなって、目に見えてやつれてるのに、それでもそれを受け入れて、笑顔で送り出すような女の子に、中途半端に関わってなんて欲しくないけど、緊急事態だからね!?

 だから許してるだけだから!」


「そんなことあったか?」

「あったよ!やつれてなお美しいマリィを見て、君が初めて見惚れてたでしょうが!

 あの頃自分が飲む為にいれさせた紅茶、そのままマリィにやったりとかして、やたらと変に絡んでた癖に、……自覚がないとかホント笑わせるよね。他の相手に惚れて口説こうってのに、マリィの気も引きたいとかさ。」

「確かに一時期妙に可愛かったが……。

 その時か?」


「ハー……これだからね。僕だってマリィを大切に思ってるのに……。なんで君らなの?

 マリィのお兄ちゃんて言うなら、絶対に君らよりも僕のほうでしょ?」

 アシルさんはかなり不満げだった。

 そんなアシルさんを見てマリィさんが、不思議そうに、でも甘えた表情を向けながら、

「お父、さん……?」

 と言った。


「おwwwとwwwうwwwwwwさ、んwww」

「確かに、オマエのマリィに対する過保護っぷりは、兄って言うよりか、父親だな。」

 エンリツィオもクックックと笑いながら、珍しく口元を軽く手でおさえている。

「別にいいよ。僕が許した相手じゃなきゃ、マリィは嫁にやらないからね。」

 アシルさんがプイッとそっぽを向いた。

 おおう、マリィさんモンペ。


 エンリツィオはマリィさんの頭に、広げた手のひらをかざして、何事か念じている風だったけど、駄目だな、と首を振った。

「そう……。君のスキルでも無理なんだね。

 マリィの記憶が戻らないんじゃ、このまま連れて帰れないよ。アプリティオに帰れば、彼女は1人だ。8歳の子どものままじゃ、仕事にならない、生活も出来ない。君、マリィの記憶を取り戻せる算段はあるの?」

 アシルさんがエンリツィオに尋ねる。


「……もう一度、ヤツに会いに行くしかねえだろうな。だが行ったばかりですぐには行けねえ。仕方がねえが、ここでしばらく様子を見させてもらおう。俺たちしかいねえんだ。食事は交代で作るぞ。お前らもな。」

 エンリツィオたっての希望で、ペシルミィフィア王国の従者を入れなかったから、ここにいるのは俺たちとユニフェイだけだ。


 アダムさんたちもリンゼたちに襲われて、王宮で療養しているから、ここにはいない。

 別に怪我は回復魔法で回復出来るし、すぐにでも戦線復帰出来るんだけど、お優しいニナンガ国王兼、裏組織のボスであるエンリツィオは、この際働きづめの部下たちに、まとめて休養を取らせることにしたみたいだ。


 どうせここにいる間は、妖精女王のシールドのおかげで、リンゼたちすら入って来られないわけだし、休みなく戦闘続きで、この強行日程について来てもらったわけだから、俺もそこには異論はなかった。が。

「えっ!?お前料理とか出来んの!?」

「当たり前だ。俺のオンナと暮らしてた時期は、俺が6割作ってたからな。」

 ああ、男の恋人と同棲してた時ね。

 まあ男同士ならそうかあ。


「僕も奥さんに普段任せきりな分、家に帰った時は全部やってるからね。

 なんでも作れるよ?」

 エリスさんが言ってたな。エンリツィオが育休を取らせた産後数ヶ月の間は、すべての家事をアシルさんがやってくれていたって。アシルさんてトコトンいい旦那さんだよな。


「んなことしなくても、マリィさんがいんじゃん。別にマリィさんに作ってもらえばいいだろ?料理得意なんだからさ。俺、カレーくらいしか作れねえし。市販のルー使った。」

「ならそれ、材料を異界の門で出してよ。今日は共同生活初日だし、せっかくだから、君の作れるカレーを作ろうよ。君も少しは料理を覚えたほうがいいと思うな。」

 とアシルさんが言ってくる。


 まあ、キャンプだと思えばいいかあ。

 そう思って、アシルさんから受け取ったお金を投げ込んで、異界の門からカレーを作るための材料一式を通販する。なんにせよ、元の世界のカレーが食べられるのは嬉しい!元の世界の料理が無償に恋しくなった俺は、その案に乗っかったのだった。


 そしてさっそくキッチンで料理を始める。

 言うだけあって、エンリツィオもアシルさんも手際が良い。料理男子って感じだな。

 そして意外だったのは……マリィさんだ。

 包丁を出して渡しても、どうしていいかわからずに、恐る恐るぶきっちょな仕草で、ジャガイモを剥いている。どうしたんだろ。普段ならプロ並みの腕前を見せてくれるのに。


「マリィさ……、マリィ、それ苦手?」

 マリィさんと呼ぶと、不思議そうにしたあと、なんだか泣きそうな顔をするので、マリィさんの記憶が混濁して以降、不慣れながら呼び捨てさせてもらっているのだ。

「だって、料理なんてしたことないし、ぜんぜんわかんないよ。」

 マリィさんは困ったように眉を下げる。


「……別にオマエは、最初っからなんでも出来たわけでもねーんだな。」

 エンリツィオがクスリと笑う。

「なんで笑うのー?」

 不満げなマリィさんに、

「いや。別に。つくづく俺の為に努力してたんだなと思っただけだ。」

 そう言って優しい顔をした。


 カレーが出来て、みんなでご飯を食べたあと、エンリツィオは本当のお兄ちゃんみたくに、マリィさんを構い出した。退屈そうなマリィさんと、俺に出させたトランプで遊んでやったり、なんなら抱っこしたりしてる。

 なんじゃありゃ。中身は子どもでも、見た目は大人のマリィさんのままだから、俺と恭司は違和感が凄い。なんだか恋人同士のイチャイチャシーンを見せられてる気分になる。


「なんであんな優しくしてんだろ……。」

「うーん……。エンリツィオってさ、君とエンリツィオだけで我が家に行った時も、多分エリスに優しかったでしょ?」

「そうですね?」

「アイツ……、モテすぎる弊害なのか、自分のことを男として好きな女性が、基本的に嫌いなんだよね。エリスは僕以外、男として見ないから、気に入ってるみたい。」


「今のマリィさんが、エンリツィオを異性として好きじゃないから、気に入ってるってことですか?ワッガママだなあ。」

 いつも江野沢が俺を見る目でエンリツィオを見ていたマリィさんは、今のエンリツィオをお兄さんだと認識しているせいで、あの目をエンリツィオに向けようとはしなかった。


 とことん無邪気に、1番上のお兄さんに甘える小さな女の子の顔をしている。それをエンリツィオも甘やかしている感じだ。

 理想の女性は血の繋がらない妹ってか?

 男ってのは、自分が追っかけたい生き物だから、それは分かるけどさ。俺も江野沢がグイグイ来るから、引き気味だったわけだし。


 すると、さっきまでトランプをしていたマリィさんが、突然お腹をおさえて苦しみだした。え?俺、料理失敗した?ルーを使ったレトルトカレーを作っただけだぞ?米だって鍋で炊いたし。そりゃ、やったの小学校の授業以来だから、ちゃんと覚えてるか不安だったけど、凄くうまく炊けたし、作ったの料理がうまいエンリツィオとアシルさんも一緒だったし、変なもの食べさせてねえよな?


 そう思ったんだけど、突然、ゲエッとマリィさんが吐こうとしだして、俺はギョッとしてしまう。アシルさんが慌てて洗面器を用意してマリィさんの前に置いて、エンリツィオが洗面器の前で四つん這いになって吐いているマリィさんの背中をさすってやりながら、ほら、全部出しちまえ、と言っている。俺と恭司はただオロオロするばかりだ。


「──水。」

 とエンリツィオに言われて、水をくんで戻ってくると、お腹の中のものを全部吐いたマリィさんに、エンリツィオがうがいを促している。うがいをした水を何度か洗面器に捨てるのを繰り返し、それから水を飲んだら、少し落ち着いたみたいだけど、まだお腹は苦しいらしくて、マリィさんはトイレに行った。


 エンリツィオが心配してついて行こうとしたけど、マリィさんがそれを嫌がった。

 まあ女の子が男兄弟に、トイレについて来て欲しくはないわな。だから俺も見守った。

「マリィ。お父さんがついて行こうか?」

 と、アシルさんが代わりに声をかけ、マリィさんと一緒にトイレについて行った。

 あの様子じゃ、ワンチャンそのままトイレの中で倒れかねないし、心配だよな。


 そして少しして、アシルさんはマリィさんと一緒に戻ってくると、眉を下げながら、

「ちょっと。」

 と、俺とエンリツィオを呼んだ。

 恭司だけ置いてけぼりになって、なんでだ!とプンスカしている。

「──マリィ、生理みたい。

 血が出たって困惑していたよ。」


 とアシルさんがそう言うと、エンリツィオが目を丸くしながら、生理だあ?物凄い苦しんでたんだぞ?と言ってたけど、俺はたまにあれと同じになるくらい、生理激重の母親がいるので、あー、と言った。

 エンリツィオはマリィさんが生理に苦しんでる状態を見たことがなかったんだな。

 生理中にすることある癖に。まあ、マリィさんがその状態を見せようとはしないか。


「電池式のドライヤーと、パジャマとバスタオルと、替えの下着と生理用品を出せ。」

 エンリツィオが言っているのは、異界の門を使って、それを通販しろってことだ。こっちじゃそんなもの、当然手に入らないしな。

 血で汚れたのと、マリィさんがあまりに寒がるので、風呂にいれるつもりらしい。


 俺は異界の門を出すと、日本の商品をイメージして、お金を投げ込む。

 生理用品なんかは特に、結局日本の物が1番いいって、母親から聞いたことがあるからな。ついでにメイク落とし、化粧水、乳液、美容液、シャンプー、トリートメント、コンディショナー、ボディーソープ、ボディスポンジ、タオル、うちの母親が夏場でも生理中に使う、使い捨てカイロも大量に購入した。


 うちの母親は、夏場でも寒いと言って、生理中は腹にぐるっと使い捨てカイロを巻いて生活する人だ。母に似た症状のマリィさんも寒いと言っていたから、多分必要だろうなと思って出したのだ。うちの母親いわく、血の量が多いから、怪我している状態と同じで寒くなるのだろうとのことだった。量が多過ぎて、夜はタンポンとナプキン2重使いしないと、翌朝ベッドが地獄を見るらしい。出した商品をマリィさんに手渡そうとすると、


「──ん。」

 エンリツィオが左手を腰に当てて、右掌を向けてくる。

 ああ、はいはい、俺がやるってのね。

 エンリツィオに洗面器に入れて重ねた品物を全部手渡した。買ったものが結構な山盛りになったんだけど、それらを小脇に抱えて、マリィさんを連れて行こうとする。


「ええ?マリィ、1人で出来るよ?」

 そう言って困ったように眉を下げるマリィさんを、いいからいいから、と優しい顔で手を引いて連れて行くエンリツィオ。

「オマエ使い方わからねえだろ?」

 ──オマエもわかってたらおかしいだろ?

 いや分かるのか?見慣れてるだろうし。だからって、生理用品つけてやるか?普通。

 ああそうか。そういやコイツ、恋人にはメチャクチャ尽くすタイプなんだった……。


 エンリツィオに風呂に入れられ、髪の毛を乾かしてもらって、俺の出した可愛らしいパジャマに着替えさせられたマリィさんが、エンリツィオを伴って戻って来る。

「似合う?お兄ちゃん!」

 マリィさんが笑顔で、俺の渡したパジャマを着た姿を見せてくれた。

 女の子のパジャマなんてよく分からなかったから、前に江野沢が着てて、いいなと思ったヤツを出して渡したのだが。


 タオル地のホットパンツに、タオル地のフーディが、ノーブラのオッパイやオシリのラインを浮き上がらせてて、柔らかそうな感じが増して最高です!

 というか、ノーブラであんなにオッパイがツンと上向いてんのかマリィさん……。

 なんという奇跡のオッパイじゃ……。

 ありがたや、ありがたや。

 ああ、オッパイやオシリだけと言わず、全身撫でまくって顔埋めたい。


「お兄ちゃん?」

「──オ兄チャン?」

 俺の目線に心配そうな表情を浮かべるマリィさんと、俺の命が心配になる笑顔を浮かべるエンリツィオ。

 お兄ちゃん、弟にも優しくして下さい。


 しょうがねえじゃん。

 びしびしシゴイてあげるって言われたい憧れの女教師が、酔って子どもみたくなっちゃったから、訳がわからないのをいいことに、ありとあらゆるエロいことしたい、って感じの気持ちで一杯なんだもん。


 というか、エンリツィオがいなかったら実行してたわ。あっぶねー!

 スッピンのマリィさん可愛すぎんよ。

 外国の人だから大人顔だけど、スッピンが幼いのは、前に家に侵入した時に、風呂上がりを見て知ってはいたけど。今は表情も加わって更に幼い見た目になってる。


 おまけに子どもの頭にオトナな体のギャップがエロい。何かエロいこと言われたりされたりしても、まったく意味がわからず受け入れそうな危うさがあるというか。

 てか、マリィさんはもっと年上だと思っていたから、10代だと知った時はビビった。

 普段は大人の世界で働く為に、頑張って大人っぽく振る舞ってたんだろうなあ。

 どっか少女っぽい人、じゃなくて、ホントに少女だったわけだ。


「さあマリィ、父さんとあっちのお兄ちゃんにお休みなさいのキスしてくれ。

 あと、お兄ちゃんと一緒に寝ような。」

「はあい。

 お休みなさい、お父さん、お兄ちゃん。」

 えっ、えっ、ええっ!?

 マリィさんがアシルさんと俺のほっぺに、無邪気にキスしてくれる。


 オオォォォオッパイが腕に当たって──ません!だから殺さないで!

 マリィさんのフカフカのオッパイの感触を楽しむ間もなく、俺を睨むエンリツィオにガタガタ震える。人前で漏らしたらどうしてくれんだ!ちょっとチビリそうになったわ!


「いくぞ、マリィ。」

 そう言って、マリィさんをヒョイとお姫様だっこに抱えあげる。

「自分で歩けるよぉ。」

「まだ本調子じゃないだろ?

 いいからお兄ちゃんに任せときな。」

「はあーい……。」


 マリィさんを抱えて自分の部屋に去っていく。ああ怖かった。それにしても、マリィさんのオッパイ……たまらんかったな……。ふわふわなのにハリが凄くて気持っちええ〜。

 思わずマリィさんで妄想をはじめてしまった俺を、今度はユニフェイがじっと見つめてくる。ううう、浮気じゃねえぞ!


 まさかアイツあのまま、お休みなさいでするんじゃない方のキスする気じゃないだろうな……。今のマリィさん怖がるぞ?

 そう思って心配してたんだけど杞憂におわった。マリィさんは昨日とおんなじ無邪気な笑顔で、俺をお兄ちゃんと呼んだ。


「マリィは、昨日は、あっちのお兄ちゃんと寝たんだよな?」

「うん、暑苦しかったよ。」

「暑苦しかった?」

「ずっと匂いを嗅いでくるし、おまけにマリィのこと温めるって、一晩中お腹抱っこされてたから……。離してくれないから、トイレに間に合わずに漏れちゃうかと思ったよ。」


 困り眉でほっぺを膨らまして、プク顔してるマリィさん可愛い。

「あ〜……。でもお兄ちゃんは、それだけマリィさ……、マリィの体を気遣ってたわけだからさ。許してやってよ。」

「うん、それは分かってるよ。」


 体を……カラダ……。ああああ、柔らかそうだなあ。お、俺も抱っこくらいなら……。

「お兄ちゃん?」

「──オ兄チャン?」

「嫌ああああア!」

 エンリツィオが起きてきて、マリィさんの後ろから笑顔で睨んでくる。


「1人で勝手に部屋を出んなよ。

 心配したろ?」

「お兄ちゃん心配しすぎ!」

 後ろから抱きしめて、マリィさんの手のひらをそれぞれ手で包みながら、頭に顎を乗せてくるエンリツィオに、マリィさんが嫌がって頭を押し戻すという、新鮮な光景。記憶戻ったら2度と見られないだろうな……。


「もー、離してよ!暑い!」

「ああ、スマン。」

 エンリツィオがマリィさんから離れると、マリィさんが俺のもとに駆け寄ってくる。

「なんでお兄ちゃんと仲良くしようとすると嫌がるの?どっちもマリィのお兄ちゃんなんだよ?お兄ちゃんをいじめないで!」


 そう言って俺の頭を抱えるように抱きしめてくる。オオォォォパァァァああああ!

 だめだ、今抱きしめたら、服のあらゆる隙間に手を差し込んで触りまくってしまう。

 マリィさんは俺を信用してくれてるんだ、お兄ちゃんとして慕ってくれてるんだ、例えその妹が、破壊的なナイスバディだったとしても、エロい目で見てはいかんのだ。


 ……いや、なにこの苦行。マリィさんのたわわなオッパイに顔を埋めて抱きしめられたまま、空中を掴んでいる俺の腕。

 マリィや、お兄ちゃんとて男です。

 そんなたわわなオッパイ押し付けられて、何にも思わないのは、実の妹だとしても無理です、ハイ。


 俺と恭司に妹がいたら、1度はオッパイ揉んでる自信しかない。

 マリィさんは今8歳だ、8歳の小さな可愛らしい女の子なんだ!イメージしろ!俺!

 そう思いながら、そっとマリィさんを俺から引っ剥がそうとしたら、何やら違和感が。


「マ、マリィ!?」

 アシルさんが動揺している。

 あれ?マリィさんが軽い。

 俺に両脇を抱えられて抱き上げられ、地面に足がつかずにキョトンとしている小さな女の子──マリィさんがちっちゃくなった!?


 ロリィ──リアル8歳のマリィさん──ちゃんがそこにいた。てか、顔面偏差値えっっっぐ!!!さすがこの世界のナンバーワン美女、既に完成度たっけーなオイ。

 一瞬呆然として、思わずそんなことを考えたが、え?ど、どういうこと?と動揺するアシルさんに、俺は原因を考えていた。


 記憶に引っ張られて体まで変わったってことなのか?悪魔絡みならそんなことがあっても不思議じゃないのかも知れない。

 そう思ったけど、俺の視界の端で点滅する何か。──ん?

 それは俺のステータス画面だった。

 開いてみると、そこには、遺伝子操作、変更を完了しました、の文字が。

 ──原因、俺だった。


 遺伝子操作は、チムチの地下闘技場で、ライアーから奪ったスキルだ。スキルに記憶させた他人の体に変身出来るスキル、だと思っていたけど、マトリクスコピーだけじゃなくて、ゲノムコントロールが出来るのか。

「すみません、無意識に遺伝子操作のスキルを使ってたみたいです。けど、これ逆にこのままのがいいですかね?

 生理ない年齢まで戻ってるし。」


 俺はアシルさんにそうたずねたけど、アシルさんは、うーん、と首をひねった。

「それって、ホルモンを無理やり変化させてるようなこと?だとしたら、元に戻した時に体調に影響ないって言える?

 男性ホルモン注射した女の人の生理が、止まってるようなものじゃないの?」


「ああ……、そこは分かんないですね、実験したことないし……。

 見た目が他人に変わるだけの、スキルじゃなかったってのも今知ったし……。

 いずれは元に戻すわけだし、それならすぐにでも、元に戻した方がいっか……。」

 俺は遺伝子操作のスキルを使って、マリィさんを元の年齢に戻した。


 ──すると、子どもの体で着ていた服が、ちょっとずり落ちかけてたせいで、半脱ぎみたいな姿でマリィさんが元に戻ってしまう。

 エッロ!!!!!

 思わず凝視した俺から隠すように、エンリツィオが怒ったような表情で、俺からマリィさんを奪い取った。


 問題はその数日後にあった。

「お兄ちゃん……。体がなんかヘン……。」

 真っ赤な顔をして、モジモジと俺たちにそう言うマリィさん。エロい。なんかとてつもなくエロい。オスとして求められているかのように錯覚してしまう、濡れて潤んだ瞳。

 あー……。マリィさん、生理の後半に、発情期みたいになっちまうんだっけか。


「仕方ねえな……。俺がどうにかするか?

 別にしてやれるが、どうする?

 それとも我慢するか?」

「ん……。」

 マリィさんがこっくりとうなずく。

「別にしてやらなくても、自分でどうにか出来るだろ?って知らねえか、この年じゃ。」


「いや、マリィは元の歳でも知らねえよ。

 1度興味本位で、俺がいねえ時どうしてんだって聞いたら、キョトンとして、走ってます、って言ってきやがってよ。

 自分でしねえのかって聞いたら、真剣にやり方聞いてこられて焦ったぜ。」

 

 ああ、スポーツで解消してんのね。

 女の子は体液を出す必要がないしな。

「え?てか、お前それを教えたのか?

 まさか……、今の8歳のマリィさんに、それを教えてやらせる気じゃ……。」

「何ィ!?

 アニキ!御生だ、同席させてくれ!」

 恭司が思わず羽を逆立てて絶叫する。


「やり方教えたことも、目の前でさせたこともねえわ!」

 と、眉間にシワを寄せて言うエンリツィオに、ホントかよ?というジト目を、俺と恭司が向ける。女の子がはじめて自分でするところを、見たくない男がいんのか?しかもエンリツィオだろ?お前。


「別に愛人を開発するシュミはねえよ。

 お互い楽しんだらしまいだ。むこうがやりてえってんなら否定はしねえがな。」

 愛人には……。遊びの相手と本気の相手でやり方が違うってことね。だからマリィさんにはしなかったわけか。けど、──つまり恋人には積極的にしたんだな、開発。


「これ、どうにか出来るの?

 教えて、お兄ちゃん。」

 ──……教えて、お兄ちゃん……、お兄ちゃん……、お兄ちゃん……。

 マリィさんの声がリフレインする。

 マリィさんが潤んだ目で、俺に助けを求めてきて、思わず俺の手が伸びる。

 それをエンリツィオがすかさず掴んで、睨みながら力を込める。


「痛い!痛い!痛い!痛い!」

「──とりあえず、今回は俺がどうにかしてやる。そのうえで今後どうしたいか決めろ。

 選択肢はあった方がいいからな。」

「お前、8歳のマリィさんを抱く気か?」

「服の上から触るだけだ、心配すんな。」

「そんなんで気持ちよくなれんのかよ?」


 というか、それでイけんのか?解消してやらないとあの状態がおさまらないから、それをしようってのに、服の上から触るだけ?

「時間かけてする時は、最初は服の上から触るし、胸にも尻にも触らねえから、普段やってることと別になにも変わらねえよ。

 女は手のひらをさすってやるだけでも満足する生き物だからな。子どもの脳みそなら、なおの事それでじゅうぶんだろ。」


 それはそれでエロいな。

 てか、オッパイもオシリも触らないの?

 ほんとにそれで女の子気持ちいいのかな?

 まあ、最終的には触るんだろうが。

 どんだけそれをするのか聞いたら、日によるがまあだいたい30分だな、と言われた。

 その間に誤射待ったなしじゃねえか!と言ったら、向こうが触ってこねえんだから出るわけねえだろ、と言われた。


「ほら、マリィ、部屋に行くぞ。」

「ん……。」

 熱に浮かされたようなマリィさんを抱き上げて、エンリツィオが部屋に引っ込んだ。

 俺と恭司がドアにビタッと耳をつけて中の様子を伺う。ここは古い建物だからか、鍵穴から向こうが覗ける仕様になっているのだ。


「ゆっくり服の上から触るだけだ、嫌だったらちゃんと言え。いつでもやめてやる。

 ……頬と首筋らへん撫でるぞ。」

「うん……。」

「どうだ?嫌か?ヘンな感じするか?」

「ん……。平気……。

 ヘンな感じは、する……。」

 ちくしょー、何をやってるんだああああ!


「お前の脳が追いつかないかも知れないからな。ゆっくりしてやるから安心しろ。」

「うん、わかった……。」

「ハッ。記憶をなくしてるほうが、反応が素直だな。いつもそうしてりゃいいのに。」

「──?

 私、お兄ちゃんと、いつもこういうことしてたの?」


「ああ。そうだな。……記憶をなくす前のお前は、いっつも素直じゃなくてな。

 ほぐすのに時間がかかって大変だった。」

 エンリツィオがクスリと笑う声がする。

「ごめんなさい……。

 いい子になるから、怒らないで?」

 マリィさんが上目遣いに謝っている。


「別に怒ってねえよ。お互いがよくなれねえなら、する意味ねえだろ。

 お前がモヤモヤするだけだろって、思ってたってだけだ。

 指で唇に触れるぞ。

 自分でも時々指を唇で挟んでみろ。」

「ん……。それ好き……。」

「へえ?これか?お前が自分からそういうこと言うの、はじめてだな。」


 俺と恭司は持てる知識を元に、妄想をフル回転させたが、鍵穴から切れ切れに見える光景だけだと、中で具体的に何が行われてるのが分からずモヤモヤする。

「いつもはどうしてたの?

 いつもみたく……して?」

 マリィさん、そんなこと言ったら、乱暴にされちゃいますって!


「さすがに駄目だ。まあ、真似事くらいならしてやるよ。ほら、起きろ。」

「ん……。」

「俺の膝に、そう。」

「これでいいの?何するの?」

 はじめて具体的な体勢が聞こえると同時に見えて、俺と恭司は大興奮である。


「いつもとおんなじことは、今のお前にゃ、さすがにな。出来てキスくらいだ。

 するか?」

「ん……。する……。したい……。」

「はは、ホントに素直だな。

 普段はオマエの口から言わせようとしても、絶対言わねえクセして。」

 エンリツィオが笑ってる。


 キスの音がドア越しに聞こえてくる。ヤバイ、金玉めっちゃ重たくなってきた。エンリツィオがマリィさんの太ももとか、オッパイの脇というか付け根のあたりなんかを、そっと優しく撫でてやっているのが見える。

「どうだ?」

「お兄ちゃんとキスするの……、好き……。

 お兄ちゃんも……、好き……。」

「……お前、いつもそうしてろよ。

 その方が可愛いからな。オマエの反応が良過ぎて、俺まで興奮してきやがる。」


「……?

 お兄ちゃん、しんどそう。

 汗いっぱいかいてる。なんで?」

「こういう時はな。男の方が負担がデケエんだ。我慢がいるからな。」

「私も何かする?どうすれば辛くない?」

「ばーか。子どもがつまんねえこと気にすんな。オマエはそうやって──」


 マリィさんの驚いたような声が聞こえる。

「俺の手に委ねてろ。

 ちゃんと楽にしてやるから。」

「う、うん……。」

「いつもは目線を合わせねえわ、体が跳ねるから絶対にイッたのがバレんのに、イく時ですら声も我慢しやがるクセして……。

 最初はこんなに素直だとはな。もっと早くに出会って教えこんどきゃ良かったぜ。」


「お兄ちゃん……、好き……。」

「ホントに好きか?俺だけか?」

「うん……。お兄ちゃんが好き……。」

「他の男とこういうことしねえな?」

「しない、お兄ちゃんとだけ……。」

「──もっと言って?」

 エンリツィオの甘い囁きが聞こえる。


 これ、ホントに入れてないんだよな?

 服着たまま体撫でてるだけなんだよな?

 キスしてるだけなんだよな?

 俺と恭司の頭ん中じゃ、完全に服パージからの、パイルダーオンなんだが?

 じゅうぶんエロいぞ?

 ……後で絶対使おう。


 ドアの鍵穴から覗くと、マリィさんをベッドの上に押し倒して、お腹を撫でていたエンリツィオが、マリィさんのお腹を小刻みにトントントントン、と手の付け根あたりでお腹を軽く押しながら、4本の指先で繰り返し小刻みに叩いている。やがてマリィさんの体がビクンビクンと跳ねだし、エンリツィオから逃げるように身を捩ると、足でマリィさんの体を捕まえて、今度は背中から腰のあたりを横からトントントントン。


 マリィさんのビクビク震える重なる体が、甘えるように開かれて力の抜けた足が、下で受け止めるエンリツィオの足に、欲しがるみたいに絡められて、まーあエッロイです。

 マリィさんの腰が浮いてくるのを、トントンしながら押し戻しているエンリツィオ。それ以外は全体的にフェザータッチというか。

 あれなにやってんの?

 あれでほんとに気持ちがいいの!?

 おい、俺にも見せろ!と、恭司が俺の頭を上から押して来て押しのける。


 しばらくして、エンリツィオがベッドから離れてどこかに行った。シャワーでも浴びに行ったのかな。一応この建物の中には、各部屋にシャワーと猫足のバスタブがあるのだ。

 湯上がりで上気した肌のエンリツィオが部屋から出て来ると、俺たちに気が付いて、終わったぜ、と言った。

「お、おう。」


「──何おったててんだ、テメエ。

 さては聞いてやがったな?」

 前屈みになっている俺を睨んでくる。

 部屋を覗くと、マリィさんはまだクタッとして、当然というか意外というか、ちゃんと服を着たままベッドに横になって、上気した顔で気持ちよさげに目を閉じていた。

 体感だけど30分くらいだったと思う。

 てことは、この30分、ほんとに服の上から体触っただけなのか?ほんとに?


 さすがに指くらい入れてんだろ、という、疑わしげな目線を向ける俺と恭司に、

「──気になるか?」

 と、見せてやらねえけどな、とでも言いたげに、エンリツィオは目を少し細めて、ちょっと色っぽいなと思う表情で、首を少し傾げて俺たちを見下ろした。


「お前、あんな反応するマリィさんを前にして、ほんとに服の上から撫でただけか?

 てか、男が最後までしねえで、我慢出来る訳がねえだろ。

 さすがに口でして貰ったりしたのか?」

「するか!まだ何されてるのかも、よくわかってねえ状態の女相手に!」

 不本意そうに眉間にシワを寄せた。


「テメエで処理したわ!

 ──まさかこの俺が、体撫でてやってるだけで出したくなるとは思わなかったがな。

 さすがに反応良過ぎだ、ありゃ。」

「普段は違うのか?」

「感じないように我慢する女だったからな。

 最初からああなら、俺も不満はなかったんだが。まあ、素直じゃない女を蕩かすのも、それはそれで面白かったけどな。」

 エンリツィオはニヤリとしながら言った。


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月イチ自己ノルマ更新です。

またしても1話が過去イチの文字数です笑

マリィさんはこの先も、主人公のエロ要員でもある為、ちょいちょいこういうシーンがある笑

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