第137話 1つに繋がりたい心と、1つに繋がる真実

 思わず右手で前を隠すと、左手で下履きをずりあげて履き直し、

「ちょ、ちょっと待ってろ!」

 俺は離れた木の陰に隠れて因数分解を始めた。1回出しておさめるとなると、匂いが残るし、縮んでしまうから、それはあんまり見られたくない。なんとかおさめるしかない。大分時間がたってようやくおさめて戻ると、

「あの……さ、ちょっと、目えつむっててくんねーか?」

 と江野沢に頼んだ。


「分かった。」

 と言って、素直に目を閉じた江野沢の周りを、全身を眺めながらぐるぐると回る。

 白くてプリッとしたオシリが可愛い。

 前を隠すことで両側から腕に挟まれて強調されているオッパイ。裸のまま目を閉じているせいで無防備な唇。細部にいたるまで、すべてが俺好みの女の子。──江野沢のアソコがツルッとしていらっしゃるのも、それが俺の好みだからなんだろうな。……ごめんな、江野沢。生涯生えない体にしてしまって。


 全部がエロくて可愛いくてたまらんけど、なんとか反応しないでいられた。

 これなら大丈夫そうだ。俺は手早く服を脱いで地面にしゃがみ込んだ。

「……もういいぜ。」

 江野沢が再び目をあける。

「そんなジロジロ見んなよ。

 こっちが見辛れーだろ。」

 ちょっと恥ずかしくなってそっぽを向く。

 江野沢が穏やかな笑顔を浮かべる。


「話すの、久しぶりだね。」

「まあな……。」

「こんな格好でなんて、思わなかったけど。」

「お前が裸で出て来るからだろ?」

「普段の魔物の姿の時に、あたしに服着せてくれてれば、多分服着てたと思うよ?」

「犬に服着せねーだろ。

 おまけに殆ど暑い国ばっかだったのに。

 いくら魔物ったって、体温調節出来なくて死んじまわあ。」


「それもそうだね。」

 江野沢が屈託なく笑った。それが凄く可愛い。お互い裸でいることを忘れそうになる。

「ね、触ってもいい?」

 突然江野沢が無邪気に、笑顔で見つめてきながら、そんなことを言い出す。

「は?ど、どどど、どこをだよ?」

「え?腕とか?」

 動揺している俺に対して、特にエロいことを考えているわけではない江野沢は、不思議そうに首を傾げながら言う。


「す……好きに触ればいいだろ。

 そんかし、お前のも触るからな。」

「……いいよ?匡宏なら。」

 恥ずかしそうにしながらも、そう言ってくれる江野沢に、俺は思わず唾を飲み込む。

「そんなこと、気軽に言ってんじゃねえよ!

 俺が何するか、分かんねーだろ!」

「匡宏は別にあたしに酷いことしたりしないって、知ってるもん。」

 一瞬キョトンとした後で、そう言って目を細めて微笑む江野沢。


 こっちはお前の厚い信頼ぶち壊しそうなくらい、時折凶悪な自分が目を覚ましそうになるのを必死でおさえてるんだから、そこまで無条件に信用しないで欲しい。心が痛い。

 江野沢がよつん這いで近付いて来て、その瞬間、無防備なオッパイがユサッと揺れて、思わず再び俺の息子が反応してしまう。

「ま、待て!今はまずい!」

 俺が前をおさえて逃げようとすると、江野沢が俺の二の腕を掴んで引き止める。


「いーよ。

 あたしに反応してくれるの嬉しいから。

 だって匡宏、我慢するの無理でしょ?

 あたしずっと裸なんだもん。」

 ……確かにそれはそうだ。この刺激の強すぎる視界では、ちょっと何かされるたびに反応してしまうだろう。そのたび長時間江野沢を1人にしてしまう。おさめる努力をするより、このままにして隠した方がマシかも知れない。俺は服を引っ掴んで前を隠した。


「分かったよ。我慢すんのは諦める。」

 今おさめたとしても、裸の江野沢に触れられたら、それがどこであろうと、また反応してしまう気がするからな。

「触るよ?」

 江野沢が俺の腕に触れてくる。俺の体に触れてくる裸の江野沢とか、直視するとヤバそうだから、見たいけど目線を逸らしたにも関わらず、既に元気なのに、更にヘソが押されて体を押し戻そうとしてきて痛い。ヤバい。


「匡宏高校入ってから結構筋肉ついたよね。

 ……カッコいいな、触りたいなって思ってたけど、さすがに言えなくて。」

 江野沢が笑いながら、ちょっと舌を出す。

 そんなこと思ってたのか。まあ、俺も、日増しにオッパイとオシリがでっかくなるな、触りたいな、と思って見てたけど。

 というか日々お世話になってたけど。

 江野沢にカッコいいと思われていたことにドキドキする。触れられた部分に血液が集まっていくかのように熱い。江野沢が、他も触っていい?と聞いてくる。べ、別にいいぜ、と言うと、胸板を撫でてきたり、脇腹や薄っすら割れている腹筋を触ってきたりする。


 女の子って、男のそんなところが触りたいんだな。というか今、我が息子が腹筋を押している状態だから、腹筋を撫でるイコール、俺の息子にどんどんと近付いている状態で、そのまま触られるんじゃ!?という期待に、先端がもうダラッダラです。あんまり遠慮なく触らないで欲しい。耐えきれなくて俺の顔が天を向く。俺の息子も更に天を向く。布地にも染みてるだろうから、この服もうそのまま着れない。生活魔法でキレイにしねえと。

「はい、おしまい。

 次は匡宏の番ね。」

 と江野沢が笑顔で言う。……わかっちゃいたけど、息子は触ってくれなかった。


「は!?本気で言ってんのか?

 いいのか?ほんとにいいんだな?

 触るぞ?触っちまうんだぞ?」

 動揺しまくりで、自分でも何を言っているのか分からない。この状態で裸の江野沢に触れたりなんかしたら、何もしない保証が出来ない。凶悪な自分が目を覚ます気しかない。

「触りたくないなら、別にいーよ?」

「──触る。ぜってー触る。」

 反射のように本音が漏れる。江野沢がそれを聞いて無邪気にコロコロと笑う。

「痛くしないでね?

 匡宏、力強いからなあ。」


 確かにどこもかしこも柔らかくて、ちょっと触っただけで、潰してしまいそうで怖い。

 そっと。頬に触れる。そのまま耳たぶに触れ、首筋から肩を撫でる。柔らかくてスベスベしていて、それでいてしっとりと指に吸い付く肌。江野沢の体は、全部が気持ちのいい手触りで、エロいのに、なんか安心する不思議な感触だった。……つっと、脇の付け根を撫でると、ちょっとビクッとする。こんなとこ、もう殆どオッパイみたいなもんだ。


 けど、やっぱり直接オッパイを触るのは勇気がいった。心臓が飛び出そうなくらいドキドキして、息苦しくなってくる。

 俺が次にどこを触ろうとして逡巡しているのか分かったのだろう、江野沢が恥ずかしそうに頬を染めて目を逸らす。

 むしろそれを見て触りたくなった。そっとオッパイを撫でる。頬や肩より更に柔らかくて、皮膚が若干薄いように感じた。スクイーズと握力鍛える用のボールを足して2で割ったような、柔らかいのに力強く押し戻してくる感じ。あと思ったよりもかなり重たい。


 こんなのをクーパー靭帯とやらだけで支えてたら、そりゃあすぐ重みに耐えきれずに切れてしまうだろう。オッパイをブルンブルン揺らして走るグラビアアイドルを今後見る機会があったら、今後はエロい気持ちよりも先に、そこが心配になってしまう気がする。

 見られるのと触られるのじゃ大違いなのだろう。恥ずかしそうにしながら、羞恥に耐える江野沢の姿があった。俺の手の動きに逐一ビクッと反応をする江野沢。……エッロ。


「……気持ちいいのか?」

 思わず江野沢に聞いてしまう俺。

「ん、オッパイは別に、気持ちいいとかはないんだけど、なんか、変な感じがする。……触られてることにドキドキして、それが凄く恥ずかしい。──あっ!そ、そこは、その。

 ……んっ。き、気持ちいい、と、思う。」

 先端を優しく撫でているだけだけど、江野沢の体がビクンビクンと小さくはねる。

 ようするに、オッパイそのものは脂肪だから、触られて気持ちいいとかはないけど、触られてる事自体に興奮が高まってはくるっていうことか。……江野沢も俺に触られてることで、エッチな気持ちになってるんだ。


 思わず唇で触れる。いきなり直接先端を吸い上げる勇気が出なくて、触りながら首筋や肩、脇のあたりにキスしてたんだけど、それがむしろ良かったらしい。足をモジモジさせながら、江野沢の体が小刻みに震えている。

 こんな明るいところでハッキリと見られるのも、俺に体中キスされるのも、恥ずかしくてたまらないのだろう。江野沢の白い肌がどんどんと赤く染まっていく。入れても良かったら、こんなまだるっこしいこと、普段の俺ならしなかったと思う。女の子はゆっくり盛り上げてやったほうがいいと先輩が言ってたのは、なるほどこういうことかと納得する。


「匡宏……、見、見ないで。」

 江野沢が急に両手で顔を覆いだす。

「なんで?」

「なんか……、今あたし、変な気分になっちゃってるから。そんなとこ見られたくない。

 変な子だと思われちゃう。」

 俺は思わず両手でグイッと江野沢の腕を掴んで、顔から引っ剥がして見つめた。

「──あのな!男はみんな、エッチな女の子が大好きなの!俺がしたことでエッチな気分になってくれて、しかも俺としかそういうことしたくねえとか、最高じゃねーか!」


「そ、そうなの……?」

 不思議そうに目を丸くしながらも、少しホッとして俺を見上げて微笑んでいる江野沢。

 ああ、もう、お前のそういうとこ!

 なんにも分かっていない江野沢に、色々と分からせたくなってきてしまって困る。

 分からせるったって、俺はお前になんにも出来ねえのに。あんまり男を無駄に煽らんで欲しいわ。無自覚なのは分かってるけど。

 無自覚だからこそ、ほんとたまらない。


 江野沢も今、俺としたいとか、思ってくれてるんだろうか。だとしたらスゲー嬉しいのと同時に切なくなる。もっと早く江野沢に告白してれば。と言うかそもそもこんな世界に連れて来られなければ。今頃とっくに俺たちは、こういう関係になってただろうから。

 相手のほうも俺としたいと思ってくれていたとしても、抱いたらいけない女の子。恐らくつながった途端、俺が死んでしまう相手になってしまった。なんでこんなことになったんだろうって、悲しくもなっちまうから。


 うちのひいばあちゃんが、今どき珍しいくらいの奥ゆかしい女の子と、最早実の孫よりも可愛がって、江野沢モンペと化すくらいには、江野沢は自己主張をしない。

 まずSNSをしない、そもそも自撮りすらもしない、たまにスカウトなんかもされるけど、芸能活動的なことに一切興味ナシ。

 俺の話を楽しそうに聞いていて、合わせてくれるけど、必要な時には叱ったり背中を押してくれたり、フォローしてくれる。

 甘えて欲しい時に甘えてくれる。

 江野沢はそんな女の子だ。


 そして本来なら江野沢は、この手のことを自分から求めたり、させたりはしない。

 本当に俺に触れたいと思ってたんだとしても、それを口にする女の子じゃない。

 多分、キスの時と同じで、俺が触れたがっていたのに気付いていたから。勇気の出ない俺の為に、その口実を作ってくれただけ。

 もう2度とこの姿では会えない。

 だからこんなことまでさせてくれるのだ。

 普段の江野沢なら絶対にありえない。

 俺は愛おしさで胸がいっぱいになった。


「江野沢……。」

 江野沢が上目遣いに俺を見上げる。

「キスして……いいか?」

 江野沢の唇が、

「やだ。」

 とハッキリ言った。

 俺は思わずショックを受ける。

「綾那って呼んでくんなきゃ、……やだ。」

 唇を尖らせてそっぽを向く。ドキドキし過ぎて、最早マトモに呼吸も出来ない。


「綾那……。」

 江野沢がビクッとする。

「キスしたい。」

「……あたしも、したい。」

 心臓が、ギュッと掴まれる。

 江野沢の両方の二の腕を軽く掴んで顔を寄せると、江野沢がそっと目を閉じた。

 久し振りに触れた江野沢の唇は、体のどこよりも気持ち良かった。そっと体を抱き寄せる。俺の胸に江野沢の胸が当たる。


 俺の心臓の鼓動が、江野沢への気持ちが、少しでも伝わるようにと思いながら、江野沢の体を強く抱き寄せた。

 江野沢の心臓の鼓動が伝わってくる。同じくらいドキドキしてるのが分かる。

 うっすら目を開けると、俺と同じくらい気持ちの良さそうな表情の江野沢がいた。

 ……どうしてこのまま抱いたらいけないんだろう。今お前が抱けるなら、死んだって別に構わないのに。


 けど、江野沢が絶対それを許さないだろう。

 自分を抱いて死ぬくらいなら、誰かと幸せになってとか、きっと言い出す。

 けど、俺はその言葉が聞きたくない。

 お前以外とそうなる未来なんて、今は考えたくもないから。

「綾那。

 ……綾那。

 ──綾那。」

 俺は名前を呼び、耳元や首筋にもキスを繰り返しながら江野沢を草の上に押し倒すと、江野沢の肌が更に真っ赤に染まってゆく。


「──生まれ変わったら、今度は俺がお前を探すから。

 絶対告白するから。

 それまでお預けで構わねーから。 

 その時に、返事聞かせてくれよ。

 ……待っててくれるか?」

 江野沢の体の脇に右手を付いて、俺の体を支えながら、左手を江野沢の右手に絡めて恋人繋ぎをする。江野沢をじっと見つめると、江野沢の目に涙が浮かんだ。

「……うん!」


 俺は横たわった江野沢の腰を浮かせて抱きしめながら、もう一度キスをした。

 押し付けた俺の熱が腹に触れることで、江野沢がビクッとする。

 こんなに反応するくらい、お前しか欲しくないってことを伝えたかった。

 きっと伝わる筈だと思った。

 ──いつの間にか寝ていたのか、俺が目を覚ますと、既にそこに江野沢はいなくて、全裸で横たわっている俺を、心配そうにユニフェイが見下ろしていた。

 起き上がってユニフェイの頭を撫でると、嬉しそうにその身を擦り寄せて来る。

「……来世でまた会おうな。綾那。」

 ユニフェイは不思議そうに首を傾げた。


「どうだった?江野沢。」

 服を着てみんなのところに戻ると、恭司が真っ先に心配して文字通り飛んでくる。

「来世まで、待っててくれるってさ。

 そん時告白して、返事聞かせて貰うことにした。」

「そうか。オマエらが決めたんなら、それでいい。」

 エンリツィオがそう言った。

「気が長いねえ。来世とか。」


 アシルさんは苦笑しながらも、特に俺たちの決定に異論を唱えるつもりはないみたいだった。アシルさんも奥さんを心から大切にしてるから、俺の気持ちがわかるんだろう。

 ──その時、ドーン!と何かが爆発したような音がして、地面がグラグラと揺れた。

「な、なんだ!?」

「……──どうやら心無き者が、この場所を無理やり破壊して、空間をつなげ、入り込もうとしているようだ。長き眠りの間に封印が緩んでいたようだな。妖精女王が管轄する区域に、ずいぶんとたわけた真似をしおる。」


 妖精女王がそう言って、左手に手にしていた、デッカイ宝石が先端に埋め込まれた、長い杖の先端をくるりと回しながら、

「──……ル・クマ・ヘイオ・スニナン・ガナル・ガラ。我は妖精女王。その名において命ずる。悪しき者を退けよ!!」

 杖の先端が光輝き、そこから光が広がってゆくと、さっきまで立て続けに続いていた、ドーン!という音がやんで静かになった。

「ル・クマ・ヘイオ・スニナン・ガナル・ガラは悪しきものを退ける封印の楔の呪文だ。

 これでもうここには近付けまいて。」


「……なあ、この言葉の順番、なんか聞き覚えがねーか?」

 と恭司が首をかしげている。

「なんかどこかで聞いたような響きだね?」

 とアシルさんも言った。

「バカ、ネクロマンサーが出てくるダンジョンの、移動ルートだろうが!

 お前がナルガラで俺に教えたんだろ!」

 と俺が叫ぶ。あの時俺はダンジョンの中に閉じ込められて、ダンジョンごとニナンガから、ナルガラに運ばれちまったんだ。脱出出来ないかも知れないという恐怖とともに、あの記憶は忘れようったって忘れられない。イントネーションこそ違えど、同じ名前だ。


「……そうか、ルクマ、ヘイオス、ニナンガ、ナルガラ、あのダンジョンはこの国の順番で時計回りに移動してるんだったよな。」

 と恭司が納得している。

「……この世界の名前はすべからく意味を持つって、ドメール王子が言ってたよな。

 国王が代々同じ名を引き継ぐ決まりがあるのも、それが理由だって。つまりその順番で移動することによって、ダンジョンに何かを封印してるってことじゃねえか?」


「……それはありうるね。僕らは、……というか国王であるエンリツィオは、だけど。

 ルクマ、ヘイオス、ナルガラの3つの国に移動する時の、決まりごとがあってね。

 アプリティオ、マガ、チムチには直接行っても構わないけど、その3つの国に移動する時だけは、ダンジョンの移動ルートと同じ順番で移動しなくちゃいけないことになってるんだ。これは4つの国だけの決め事なのさ。

 おまけにニナンガからナルガラに、ニナンガ国王が訪問をしたら、ナルガラ国王は必ず30日以内にルクマに訪問しなくちゃならないんだ。だから先触れの他にも、どの国王が今どのルートを通っているのかを、それぞれの国に伝えなくちゃならないのさ。」


 だからあの国王選定の表敬訪問の時、遠いアプリティオから先に訪問したのか。他の国の国王の移動に合わせてたってことなんだ。

「つまり、国の名前を冠する国王が移動することで、ダンジョンの移動ルートに重ねて封印を施して、何かの封印がとけないようにしている可能性があるってこったな。

 ずいぶんと慎重で念入りな話だ。」

 とエンリツィオが言った。

「……確かにこの世界の名前には、すべからく意味があるからね。妖精女王が前回教えてくれたんだけど、僕らの得たスキルも、この世界での僕らの名前の意味と関係してたし。国の名前を代々の王の名前と定めることで、名前を呪文の一部としたんだろうね。」


「名前がスキルと関係してた?

 そういやドメール王子が言ってたな。お前の名前の意味って、なんだったんだ?」

 エンリツィオにそう尋ねると、苦虫を噛み潰したような顔をして、

「……言いたくねえ。」

 と言った。

「なんか日本のアニメ好きの奴らが、君の名前の意味を聞いてテンション上がってたね、そういえば。変わってるなとは思うけど。」

 とアシルさんが言った。なんか中2心をくすぐられるような名前だったんだろうか。


「アシルさんはなんだったんですか?」

「僕?僕は癒やしの大地だよ。」

「わあ!アシルさんにピッタリですね!」

「ふふ、そう?ありがとう。」

「……むしろコイツと真逆だろ。」

 とエンリツィオが突っ込んでいる。

「ちなみにエンリツィオの恋人は、魔眼の観察者だったね。それで俺は心眼と千里眼なのか、って、彼、妙に納得してたけど。」

 わあ、すっげえ中2臭い二つ名。


「俺の名前にも、なんか意味あんのかな?」

 俺がそう言うと、

「お主の場合、名前ではなく、文字だ。」

 と、妖精女王クローゼ様が言う。

「──文字?」

「この世界での文字……。お主らには見えぬであろうから、見えるようにしてやろう。」

 そう言って杖を振るうと、空中に俺の名前の一部〈国〉〈匡〉が光る文字で浮かんだ。

 この世界に漢字みたいな文字があんのか。確かに俺たちは転生勇者特典で自動翻訳があるから、この世界の文字がわからんのよな。


「この〈国〉という文字は、この世界では、世界そのものを表す。それに対して〈匡〉という文字は、破壊、略奪などの意味を持つ。

 文字を2つ合わせた時、それは〈すべてを奪う者〉という意味に変わる。お主の場合、スキルの由来は、名前の文字であろうな。」

「結構中2臭い意味だったな。」

 と恭司が言う。〈すべてを奪う者〉は俺の称号の1つだ。名前の文字からきてたのか。

「ちなみにお主の場合、〈恒久の愛〉だ。」

 と妖精女王が恭司に言う。

「こwww……、うwwwきゅwww……、んっふ、うwwwのwwwあwwwいwww」

 俺よりもっと、ヤベーやつ来たwww


「うっせー!笑うな!」

 と恭司がキレる。

「フェニックスは破壊と再生とともに、生命力と愛をつかさどる存在。また永遠の命の象徴でもある。お主がフェニックスになった理由はそれであろうな。人間世界の経典でも、フェニックスを神として崇めておる。」

「経典?この世界の宗教って、フェニックスを祀ってんのか?」

「そうだよ。マルタンや、アレクサンドルがいた教会はね、フェニックス信仰の宗教なんだ。フェニックスは魔物であると同時に、神聖な神の化身とされているね。」

 とアシルさんが教えてくれる。


「俺が神の化身……!」

 と、恭司は満更でもなさそうだ。

 マルタンや、アレクサンドル……。確かオロス祭司とラグナス祭司の本名だな。

「……そういえばさ、ネクロマンサーの後ろに、妙な祭壇みてーなのがあったんだ。

 ダンジョンに祭壇って、凝ったデザインだな、くらいにしか思ってなかったけど、もしも、あの下に何かがあるとしたら?

 そこにある何かを封印する為に、そもそも国の名前を付けたって考えらんねーかな?

 アダムさんたちが、帰還石が出なかったのなら、ネクロマンサーは中ボスで、本当のボスが奥にいる筈だって言ってたんだ。」


「……確かに、そう考えるほうが妥当だね。

 けど、一体そうまでして、あの場に何を封印してるんだろう?

 悪しき者を封じる呪文だ。

 魔物か何かを閉じ込めてるのは、間違いないだろうけど……。」

 アシルさんが首を傾げる。

「悪しき者っつーかさあ……。

 前にアスタロト王子が言ってたろ?

 古代魔法に現代魔法は殆ど通じない、魔族は古代魔法に弱い、って。

 覚えてるか?」


「ああ、地下闘技場の時だっけか?なんかそんなこと言ってたような気もするな。」

「ならダンジョンの地下に封印されてる存在が、魔族って可能性もなくねーかな?」

「なるほどね。確かに魔族の力は脅威だからね。万が一封印出来たとしたら、2重3重に念入りに封印したとしても無理はないね。

 ──けど、なんでそう思うの?」

「……英祐が言ってた、魔王の娘が家出して消えたってのは、いつの話だ?」

「確か時期までは言ってなかったんじゃねえか?俺は記憶にねえな。」


「獣人の国でメシ食った時にさ、世界1の美女を探したことがあったろ?」

「ああ、マリィさんだったやつな。」

 エンリツィオがピクリと反応する。

「そん時、魔族で1番の美女も探したろ?

 そんでエンダーさんが言ってたろ。俺は常々魔族一の美女は女王様だと思っていた、ってよ。魔王の娘なら女王の娘だ。女王と同じかそれ以上の美女でもおかしくねーだろ。もしもエンダーさんが魔王の娘の顔を見たことがなかったら?それよりはるか昔に家出をしていたら?千里眼の結果が示してたろ。──魔族1の美女は、海の中にいるって。それ、魔王の家出した娘なんじゃねえか?」


「魔族かも知れないけど、魔王の娘なんて強力な魔族を、人間ごときが封印出来るかな?

 僕、そこにはちょっと懐疑的かな。」

 とアシルさんが言う。

「……俺が読んでた、“勇者とやさしいまものの子”って絵本、覚えてますか。」

「ああ、うん、ちらっとだけ読んだけど。」

「俺の師匠になってくれたノアが、やけにその絵本を気にしていたから、買って読んでみたんだけど、俺はまものの子と国王が、何かの暗喩だと思ったんです。

 そしてそこに出て来る勇者ってのが、──ノアなんじゃないのかなって。」


「──暗喩?」

「お前はこどもができぬよう、が同性愛者ばかりの国、チムチ。

 おまえはくるってしまえ、が異常性欲者ばかりの国、アプリティオ。

 おまえの子どもはまものにしてやる、が異形者の生まれる国、マガ。

 そういう暗喩なんじゃないかって。

 もしそうなら、そんな呪いをかけられる程の力を持つ存在は魔王か、その子どもくらいなんじゃないですか?」

「あ……。」

 アシルさんが声を漏らす。


「魔王の娘は、勇者だったノアについて行って家出をした。そこで強過ぎたノアは、封印の魔石に封じ込められた。──魔王がいると瘴気が高まることで、魔物を生み出す力を持ってる。それに魔族の力を高める力も。

 魔王の娘がそれを持っていても、少しもおかしくはない。魔王の娘に魔物を生み出させようとして、魔王の娘からノアを奪った。

 だけど悲しみのあまり、予想以上の力を発揮した魔王の娘に呪いをかけられてしまい、3つの国の王族の祖先は、そこから逃れられない体になってしまった……。」


 みんながそれを聞いて、シン……とする。

「……この世界って、もとは1つの大陸だったんですよ。ノアが持ってた昔の地図ではそうだった。今では地下ダンジョンになってしまった、魔王の娘が閉じ込められている場所も、恐らくもともとは地上にあったんだ。

 ──この世界は沈んでいるんだ。

 魔王の娘の力によって。

 ……ずっとおかしいと思ってたんだ。

 なんでニナンガ王国はあんな崖の上の、人の住みにくい場所にあるんだって。もともとの土地がどんどん沈んで、高いところに追いやられたってのなら、話は通じませんか?」


 アシルさんがため息をついた。

「……参ったな……。

 ──そうだよ。沈んでる。君たちに心配させるのもなんだから、黙っていたけどね。

 この世界は常に、地面が沈んでいってるんだ。原因は分からないとされていたけどね。

 もしも魔王の娘を閉じ込めて、恋人の勇者を奪ったことが原因で、魔王の娘の強大な呪いをかけられているんだとしたら、原因が分かったところで、人間はどうしようもない。

 魔王の一族のかけた呪いなんて、人間にとける筈もないんだから。」


「逆ですよ、アシルさん。」

「──逆?」

「だって、ノアは生きてる!

 ノアを失った悲しみから呪いをかけているのなら、ノアと引き合わせれば、呪いなんてとくんじゃないですか?」

「もしもそれが原因なのならね。」

「問題は封印の魔石に閉じ込められていた間の、ノアの記憶が失われてるってことなんですよね。魔王の娘のことも、覚えてないんじゃないかな。もしそうなら、引き合わせても余計に悲しくなるだけかもしんねえ……。」


「そこは、問題ないんじゃない?」

 と、アシルさんがチラリとエンリツィオのほうを流し見た。

「まあ、問題ねえな。」

 ──なんか方法でもあんのか?

「なら、ここから戻ったら、次の行き先はナルガラで決まりだな!2組のこともあるし、ナルガラなら、入口がランダムに移動する地下ダンジョンの、唯一固定された入口がある国だからな。あそこからなら確実に、地下ダンジョンに潜ることが出来るぜ。」

 と恭司が言った。


 ダンジョンの周囲を取り囲む聖水は、中ボスだったネクロマンサーを封じていたわけじゃなかったのは、この間のアダムさんたちとの会話で分かったけど、ダンジョンボスがなんなのかが、ずっと気になってたんだ。

 あれは魔王の娘を封じる目的で、しかれたものだったんだ!

 ──魔王の娘の居場所は、あのダンジョンの祭壇の下だ!!

 なら、英祐たち魔族の手も借りたほうがいいかも知れないな。ここを出たら連絡を取ってみよう。家出した魔王の娘の行方は、あっちの国でも気にしてるだろうからな。


────────────────────


ついに回収された第一部の伏線。


あんなに見直したのに誤字あった為修正(TдT)

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