第136話 江野沢(本物)との再会
「──ならば直接本人と話してみるがいい。
この先に真実の泉がある。
そこは偽りを許さぬ聖域なのだ。
もともと人として生まれる筈であった者。
その泉に入れば、魂が姿を現そう。
どちらにするのか、お主たち自身で決めるのだ。選んだ選択に力を貸そう。」
「江野沢と……話が出来る……?」
今の姿のままじゃ、かなわないことだと思ってた。だけど、魂だけとはいえ、江野沢に会える。会って話が出来るんだ……!
「ただし、1つ気を付けよ。
肉体の結び付きを持とうとすれば、お主の魂が冥界に囚われ、命を落とそう。
本来関わってはならぬ存在。
心せよ。」
「それってどういう……?」
「幽霊とヤったら霊界に連れてかれて死ぬから抱くなってことじゃねえか?
俺たちが行った幽霊の出る温泉旅館で聞いたことあんだろ?そんなエピソード。」
と恭司が言った。
マジか──!!
聞いてなかったら、魂だけとはいえ、江野沢とヤろうとしないって言えねえわ、俺。
あっぶねー!
俺は妖精女王に教えて貰った真実の泉に、ユニフェイとともに向かうことにした。
「──ユニフェイ、あの泉の中に飛び込むんだ、……出来るか?」
俺は泉のふちにしゃがんで、ユニフェイを見下ろしていた。ユニフェイはちらりと俺を見上げると、ピョンと泉に飛び込んだ。
瞬間、真実の泉が真っ白く光る。
光がやがて薄まっていき、その中から、裸の江野沢が姿を現した。
真っ白い肌に、たわわなオッパイが丸見えだ。そのあまりのキレイさに、エロいと思うと同時に、思わず俺は感動してしまった。
──ってか、何で全裸なんだよ!
魂は裸だとか、聞いてねえぞ!?
いや、普段別にユニフェイに服着せてねえから、これが当たり前なのか!?
江野沢が俺を見上げて微笑んでいる。
……ああ。江野沢だ。
ヤクリディアと同じ位置に胸にホクロもあるけど、何ていうか、見たさとエロさと愛おしさと今すぐどうにかしたさが全然違う。
俺が見たいのも抱きたいのも、この体なのだと実感する。俺は思わず無意識に手を伸ばしてしまっていたらしい。気が付けば俺の右手が江野沢の左胸を貫通していた。
てか、触れねえのかよ!!
そっか、幽体だっけか。
そのことすっかり忘れてたわ。
江野沢が思わず手ブラ状態でオッパイを隠しながら、恥ずかしそうに、でも再会出来たことに嬉しそうな表情で、エッチ、と上目遣いで言ってくる。
──破壊力ヤバい。
ったく、恭司がサンディのことを、俺の為のカラダとか言うから、思わず思い出して意識しちまったじゃねえか。江野沢が年々俺好みの体に育っていったことを。
小柄なのに細過ぎないムチッとした体、大きいけど大き過ぎないオッパイとオシリ。
白くてなめらかな肌。俺の為にこんな風に育ってくれて本当にありがとう。
感謝と感動をこめて、なめまわすように全身を見てしまう。……ああ、抱きしめたら柔らかくて、気持ち良さそうな体だなあ。
おっと、そうだ、こんなことする為に呼び出したんじゃなかった。
「お前と話したいことがあってさ。
俺の話、聞いてくんねーか?」
江野沢はそのままの体勢で、上目遣いに見つめてきながら、こっくりと頷いた。
「お前が普段、魔物になってるのって、お前自身自覚はあんのか?」
「まあ……なんとなく?
でも、その時の記憶って、正直あんまりないと言えばないんだよね。
あたしの意識で見てる時もあるけど、基本自分じゃないものの中にいる感じ?あの子はあの子で考えがあるっていうか……。
匡宏と再会した時は、あたしの影響が強かったったけど、段々とあの子でいることが増えてる感じがする。」
やっぱそうなのか。なんとなくそんな気はしいてた。江野沢だけど江野沢じゃないみたいな、そんな感じがたまにしていたから。
例えば食べ物をねだってくる時とかな。
魂は江野沢でも体は江野沢じゃない。記憶喪失というより、別の生き物に転生してしまっているから、最早ほぼ別物なんだと思う。
今の江野沢は、1つの体に人格が2つあるかのような、そんな感じらしい。
完全に犬みたいな時は、きっとユニフェイなのだ。恭司も同じ筈なのに、あいつは恭司以外の何かに感じないのは、あいつが神獣だから特殊なんだろうか?それともあいつの中にも、神獣としての人格があんのかな?
「今のお前は、魔物の中の魂だけが実体化してる姿なんだ。お前と話す為に出て来て貰ったんだけど……。
俺たちは、別の世界に無理やり連れて来られて、元と同じ姿で転生したんだ。
だけどこの世界には、同じ姿を持つ人間が2人いることが許されない、双子の禁忌ってのがあってさ。この世界に、先にお前に似た奴がいたせいで、お前は人として生まれ直す事が出来なかった。」
江野沢は初めて聞くと言った表情で、じっと俺の話を聞いていた。
「今のお前は、俺の使役してる魔物なんだ。
この世界、魔物とか魔法とかあるんだぜ?
ホント、ファンタジーだよな。」
俺は思わず苦笑する。憧れていた世界だけど、こんな風に来るつもりなんてなかった。
「この世界には妖精もいて、妖精の女王さまがいてさ。その妖精女王に聞いたんだ。
お前は俺の“運命の番い”だって。
何度転生を繰り返しても、ずっと俺を追いかけて、俺の為だけに生まれてくる、特別な絆を持った存在なんだってさ。
家族だったり、親友だったり、生まれ方は様々なんだけど、伴侶として現れる時は、俺の理想の女の子の姿で現れるんだとさ。
そんで今は──、」
「──え?」
江野沢が話の途中で驚いた表情になる。
何をそんなに驚いてるんだろ。
どうした?と聞くと、
「えっと、つまり……。
あたしは匡宏の“運命の番い”で、匡宏にとって、あたしが理想の女の子ってこと?」
「ま……、まあ……。
そういうことになるかな……。」
改めて言われるとかなり恥ずかしい。
こんなの好きって言ってるようなものだ。
「伴侶として現れる場合はってことは、生まれた時から、あたしは匡宏のお嫁さんになることが決まってたの?」
「ま、まあ、お互いが選ばないこともあるから、そこは別にハッキリと決まってるってわけでもねーけど……。」
実際マリィさんは選ばれなかったしな。あんなにも似た者同士で、お似合いなのにな。
「あたしは決めてたよ?」
「え?なにをだ?」
江野沢の言葉に俺が聞き返す。
「匡宏を好きになった時から、匡宏に好かれたくて、匡宏に見合う女の子になりたくて、ずっと努力してきたんだもん。
匡宏に選ばれなくても、せめて素敵な女性になれますようにって。」
江野沢が胸に手を当てながらそう言う。
「江野沢……。
──ってか、お前努力し過ぎて、俺のこと追い越してんだろ!
……俺はそんな凄い奴じゃねえよ。」
そんなことを言ってくれる江野沢のいじらしさが、とにかく嬉しいし、大好きだと思うのと同時に、江野沢が凄くなり過ぎてて、正直突っ込まざるをえない。
「匡宏は世界一ステキだよ?」
何を言ってるのか分からない、という表情で、キョトンとしながら江野沢が言う。ああああ、もう!こいつのこういうとこ!
ムズ痒くなるって言うか、恥ずかし過ぎていたたまれなくなるって言うかさあ!思春期拗らせてる男子が告白し辛くなるんだよ!
「──お前が俺にそう思うのはさ、“運命の番い”の力に引っ張られてるからなんだ。
一番最初のお前は、俺の前世の飼い犬で、俺の為に生きることだけを願って死んだせいで、魂が俺に縛られちまったんだと。
“運命の番い”は、魂に俺の名前を刻んで生まれてくるんだとさ。」
「そうなの?」
江野沢はそう言うと腕を上げたり振り返ったりして、何やら自分の体を確認している。
「何してんだ?」
「だって今のあたしは魂だけなんでしょ?
どこに匡宏の名前が書いてあるのかと思って……。ないなあ。自分じゃ見えないとこに書いてあるのかな。オシリとか?
ねえ、後ろに書いてある?」
そう言ってくるっと背中を向けて髪をかきあげ、うなじと背中を見せてくる。
俺は思わず、フハッと吹き出した。
「刻むって、具体的に書いてあるってことじゃねえんじゃね?
概念的な意味で、多分ホントにあるわけじゃねえよ。」
「なんだ。嬉しいからホントに書いてあるなら、見て貰おうと思ったのに。」
俺は嬉しそうに無邪気に、俺の名前が書いてあることを見せようとしてくる江野沢に、ホントにオシリや、それこそアソコに書かれてたらどーすんだ!そしたら見せて貰うけどな!絶対に!と思った。
……書いてあるか調べると言ったら、アソコだとしても見せてくれるだろうか。
書いてあることにすれば良かったかな。
思わず実際に調べることを具体的に妄想してしまい、ムズムズドキドキしてしまう。ホントに書いてあったらそれはそれで嬉しい。
多分写真撮って世界中に拡散してる。
もちろん背中とか腕とかならだけど。
見たいけど、見ているのを見られるのが恥ずかしい俺としては、理由と目的があれば、それを言い訳に、堂々と江野沢の体をじっくり見ることが出来たかも知れない。
ああ、全身くまなく顔を近付けて確かめたい。そう思うと、早々に否定すべきじゃなかったかな、と、ちょっと残念に思った。
「……“運命の番い”はさ。
声を聞かずとも、姿を見ずとも、自分の求める存在がどこにいるのかが分かんだと。
それ聞いて、お前と初めて会った時のことを思い出したよ。
お前は迷子になっててさ。」
江野沢がコックリうなずく。
「後ろに立ってた俺にびっくりしてたよな。
急に震えだして、真っ赤になって、涙目になって俺のことを振り返るなり、──……お母さん?って俺に言ってきてさ。
あん時ひょっとしてお前、俺の姿を見る前から、俺のこと好きだったんじゃねえか?」
ずっと気になっていたことを尋ねてみる。
江野沢は考え込むようにすると、
「……あの時、何でか、大好きな人が後ろに立ってる気がしたの。だからお母さんかな?って思って。でも振り返ったら知らない男の子が立ってて、それが匡宏だった……。」
江野沢もその時のことを思い出すように、不思議そうな表情をしながら言った。
「……やっぱな。
それが“運命の番い”の絆の力だ。
お前が俺を好きになったのも、絆の力に引きずられてただけってことか。」
俺は自嘲気味に笑った。
「姿も見てない、声も聞いてない相手を、好きになんてなるわけねーもんな、普通。」
俺は落ち込んだ。江野沢が俺に初対面で一目惚れした理由がずっと解せなかった。
これでようやく納得が出来た。
一目惚れですらなかった。
出会った時に、姿を見てすらない俺に、その“運命の番い”の絆の力とやらに縛られた江野沢が、引きずられただけのことだった。
落ち込む俺に江野沢が、
「──キッカケはね?
そうなのかも知んないけど。
あたしは、匡宏の、甘えん坊で寂しがりやで、素直で分かりやすくて可愛いところが、ずっと大好きなの。それは初対面では分からないとこでしょ?」
と首を傾げた。俺はそれでも江野沢が俺を好きだと言う言葉に納得がいかなかった。
自分の理想の塊みたいな女の子が、俺のことを好きになんてなる筈がなかった。
……泣きそうだ。
江野沢が俺のことを、“運命の番い”の絆がなければ好きじゃなかったなんて。
でもその方がずっと理解出来るのだ。
そんな俺に、呆れたようなため息をつきながら江野沢が言う。
「匡宏はさあ?
いっつも考え過ぎだよ?
始まりはそーかも知れないけど、選ぶ意思はあたしにあるんだよ?
確かに匡宏はあたしにとって、最初から特別だったし、世界一ステキだなって思う理由も、そこにあるのかも知れないけど。」
う……。
「もしもあたしの気持ちが、それにだけ引きずられてたら、嫌になったり、腹をたてるなんてこともないんじゃない?
でも、あたしにはそういうことが何度もあったもん。」
初耳だった。
「──俺が嫌になったり、腹がたったりしたことがあんのか?」
「しょっちゅうだよ、そんなの。
だって疑り深いから一緒にいて疲れるし、匡宏のことを喜ばせたくて、一生懸命お母さんの味付けの料理覚えたら怖がるし。
あれ、結構傷付いたんだよ?」
「ご、ごめん……。」
実際当時かなり怖がった俺に、江野沢がドン引きしていたことが記憶に新しい。
「でもね?
それを乗り越えて、今のあたしは匡宏が好きなの。
そういうとこも含めて、あたしだけは最後まで、匡宏の味方でいたいと思った。
それって絆の力なんかじゃない。
──あたしの意思だもん。」
江野沢はキッパリと、笑顔で自信満々に言った。……ああ、江野沢が可愛い。
「あたしは絆の力に囚われても、縛られてもないよ?
何ならそれを利用したから、匡宏を見つけることが出来たの。
利用することはあっても、利用されたりなんかしない。
あたしが匡宏を好きな気持ちは、絆にだって邪魔させない。
あたしはあたしの為に、匡宏が好きなの。
だからどんな姿になっても、匡宏のことを覚えてすらなくても、そばにいたくなっちゃうってだけだと思うよ?」
ああ、間違いなく江野沢だ。いつだって自信のなくなる俺の背中を押してくれて、根拠なく信じてくれる、そんな女の子。
「だから素直に喜んでればいいんだよ。
だって、匡宏にとっては、あたしが理想の女の子なんでしょ?
あたしは自分がそんな風に生まれることが出来て、それが絆のおかげなら、ただただ、ラッキーだな〜って思う。」
「そういうもんか?」
「好きな人の理想の姿で生まれることが出来るなんて、女の子にとっての夢だもん。
絆の力があたしと匡宏を引き寄せたとしたって、あたしだけが匡宏を好きになる可能性だって、あったわけでしょ?そこを理想の姿なんていうオプションまでくれたんだよ?
──そんなの、最高じゃん!
それに理想の相手から大好きって言われてるんだから、喜ぶ以外の選択肢なくない?」
「そ、そうなんだけどさ……。」
江野沢は、ほんとに仕方がないなあ、という表情で、むぅ、と唇を尖らせると、
「──匡宏の頭の中で、勝手にあたしの気持ちを想像してないで、今ここにいる、目の前のあたしをちゃんと見てよ。
匡宏には、あたしがどんな風に見えるの?
匡宏のことをどう思ってる?」
じっと俺を見てくる江野沢に、俺は段々とむず痒くなりながら、
「お、俺のことが……、その……。
大好き……、です。」
「はい、よく出来ました。」
江野沢が、俺が自分のそばにいてくれるというただそれだけのことが、嬉しくてたまらないのが丸出しの表情で、俺を見つめて微笑んだ。恥ずかしい。けど、すげえ嬉しい。
ああ、そうなんだよな……。江野沢はいつだって、俺を叱ってくれて、背中を押してくれて、無条件に信頼して、愛してくれる。
それを何度も実感させてくれるから、俺は段々と江野沢を好きになっていったんだ。
ただ、理想の姿を持つ可愛い女の子としてでなく、江野沢が特別になったのは、江野沢の努力の結果だ。
“運命の番い”は、拒絶されると絶望して離れて行くことがあると言ってたじゃないか。
なら今、江野沢が俺のそばにいて、好きでいてくれるのは、“運命の番い”の絆の力のなんかじゃない。
江野沢が俺を諦めなかった結果だ。こんな面倒な俺を、好きでい続けてくれたから。
なのにどうして俺って奴は、すぐに不安になっちまうんだろう。
勝手に想像して、勝手に不安になって、それを江野沢にぶつけちまう。好きな相手に疑われて、傷付かない訳がないのだ。
……──それなのに。
恭司と江野沢以外からは、なんでか分からないけど、いつも変わり者扱いされる俺は、どうしても対人関係において自信がない。
それが時折こうして顔を出す。
自分の自信のなさが情けなかった。
傷付きたくなくて、いつも江野沢から逃げ回ってた。
だけどまた、江野沢が自信をくれた。
俺はこの先、生涯、誰かに惹かれることがあっても、江野沢以外を選ばないだろう。
「匡宏のお母さんたちが、昔の映像見せてくれた時のこと、覚えてる?
匡宏とあたしが手を繋いで歩いててさ。」
「あったな、恥ずかったわ……。」
「あの頃は匡宏、素直に、綾那ちゃん大好きって言ってくれてたじゃない。」
「やめろ……。恥ずいんだって。」
「匡宏のお母さんが、匡宏に、キスして?って言ってキスして貰ってるの見て、あたしが真似しちゃったんだよね。
まさかそれが映像に記録されてるなんて、思ってもなかったけど。」
「てか、俺ら2人とも、自分らがそんなことしてたの、見るまで知らなかったしな。」
俺は思わず目をそらす。
その後江野沢を意識してしまい、キスしたいと思いながら家に送る時に、中学生の江野沢が小さい頃みたいに、匡宏キスして?と言ってきて、俺が思わずしてしまったことを思い出す。親にパブロフの犬として仕込まれたせいで、そう言われると瞬間反応してしまう俺は、キスしてしまったあとで気が付いて、思わず口元を隠しながら真っ赤になった。
相変わらずなんだね、と江野沢は笑ってたけど、俺をからかうというより、俺がキスしたいのに勇気が出せないのを見て、キッカケを作ってくれたのだ。
そうでもしないと、俺から出来るようになるまで、もっと時間がかかったと思う。
江野沢はいつだってそういう奴なのだ。
一回してしまったことで、距離を縮めることにハードルが下がったのだ。
うるせー、黙ってろよ、と言いながら、今度はちゃんと自分の意志で、江野沢にキスしたところを、──双方の両親に窓から見られてて、なんであんたたち、それで付き合ってないの?と母親から聞かれさえしなければ。
また、その後その話を恭司にしたら、おまえだけずっちーから、記憶塗り替えたる、と言われ、散々クラスの男子の前で、何度もキスして?と言ってくる恭司にキスさせられ、からかわれた挙げ句、──それをたまたま教室に戻って来た江野沢に、バッチリ目撃されるというオマケまでつかなければ。
俺の、大好きな女の子とのファーストキス(俺の中のカウントとして)は、自分の中学時代の、胸がじんわりあったかくなる、爽やかな思い出で終わり、黒歴史にカウントせずとも済んだのだが。
思い出してしまったことで、江野沢にキスしたくてソワソワする。というか裸の江野沢に触れたくて、抱きしめたくて仕方がない。
俺の為に生まれて来てくれた女の子。
俺の理想の見た目で、おまけに俺のことが大好きで、いつだって俺の気持ちを汲み取って、俺の為だけを考えて動いてくれる、そんな俺にとっても大切で、特別な女の子。
なのに、今日を最後に、もう会うこともかなわない。嫌だ。──絶対に嫌だ。
来世の約束を取り交わすことももちろんだけど、俺は江野沢に会ったら絶対に頼もうと思っていたことを、どう江野沢に切り出そうかと、さんざっぱら悩んでいた。
「てゆうか、久々にこの姿で会えて話が出来るのに、したい話はそれなの?
他にあるんじゃない?」
江野沢が首を傾げる。俺は思わず、
「江野沢の裸が見たい。」
とキッパリ言った。
「えー?」
江野沢がどうしよう、という表情になる。
「だってこちとら、この先、死ぬまでお前の裸が見れない、触れない、ヤれない、が確定してんだぞ?
──やだよ!
お前のが一番見たいのに!」
江野沢がちょっと頬を染める。
この先どんな女の子に出会っても、江野沢を選んだことを後悔しない為にも、江野沢の裸は見ておきたかった。
俺にとって江野沢以上の女の子なんていないのだと、実感する為にも。抱けないならせめて思い出せるように、隅々まで見ておきたい。それはもう隅々まで。
「……お前はもう、魔物のまま一生を終えるしかないんだとさ。1度死ぬことで、魔物の姿を手放して人間に生まれ変わることは出来るけど、それは俺の将来の子どもとして。
今のお前と俺は、……何をどうしたって、生涯結ばれることがねえんだと。」
俺のつたない説明を、江野沢が神妙な面持ちで真剣に聞いてくれている。
「だけど俺とお前が、お互いに会いたいと思ってれば、このまま死ぬまで誰とも結ばれずに生涯を終えるのなら、俺たちの記憶を残したままで、来世に人としてまた会わせてくれるって、妖精女王が言ってくれたんだ。
──俺はまた、絶対にお前に会いたい。
だからそれまで我慢する為に、お前の裸を見ておきたい。この姿のお前と会えるのも、今日が最後だから。」
江野沢はちょっと悩んでいたが、
「うーん……。じゃあ、匡宏のも見せてくれたらいいよ?」
「は!?お、俺の!?
てか、お前見たいのかよ!」
「そりゃあね?女の子だって、好きな人のは気になるよ?」
当たり前、という顔で言われる。
「まあ、カレシのでも見たくないって子も結構いるから、人によるとは思うけど。」
──お前は見たい派なのか。
普段はそんなことを言い出す奴じゃないので、俺は度肝を抜かれる。
「てか、普段お前の前で着替えてた時に、散々見てんじゃねーか!何を今更、」
「あれはあたしであって、あたしじゃないもん。覚えてないよ、そんなの。」
そうなのか。じゃあ気にせず着替えりゃ良かった。いや、駄目だ、俺が恥ずかしい。
いや……いいんだけど。
むしろいずれ見せ付けてやりたいと思ってたから、それは別にいいんだけど。
けど、俺は男だから、身体構造的に普通にしてるだけで全部丸見えになるわけだが、江野沢のはそうはいかないわけで。
肝心の部分をどう見せていただいたらいいのか。さすがに好きな子相手にこんな明るいところで、そんなところを見せてとか言ったら、変態扱いされて嫌われそうで怖い。
江野沢のは見れないのに、江野沢は頼まなくても俺のが見れるわけで。
ずるい。なんかずるい。
女の子は裸を見せるのが恥ずかしいから、基本電気消してすることを考えると、明るいところでハッキリ見れる日なんて、付き合ってても来ないのかも知れないけど。
モヤモヤと考えていたが、とりあえず了承することにした。見れるところだけでも、せめてしっかりバッチリ目に焼き付けたい。
「分かったから、水から上がって来いよ。」
うん、と頷いた江野沢だったが、すぐに、あれ?と言う表情になった。
「なんか……自力で出られないみたい。」
困ったような笑顔を浮かべる。
なんだとおおおお!?このままじゃオシリすら見れねえじゃねえか!
やだ!見る!絶対見る!
だがそうは言っても、掴めない江野沢を引っ張り上げることすら、ままならない。
「あ、そうだ。」
俺はふと、とあるスキルが使えないかと思い至った。
──霊媒師。
霊を探したり交信したり、戦うことも出来るスキルだ。だが、スキルを発動させても、江野沢が伸ばした手を素通りしてしまう。
……待てよ。
俺は霊媒師のスキルと、ネクロマンサーのスキルを合成してみることにした。普通に召喚しようとしたら、死んでない江野沢を使役は出来ない。というか、そもそもユニフェイとして既に使役してるしな。だけど霊媒師と合成することで、中の幽体にだけアクセス出来ないかと思ったんだ。俺のステータス画面の上で、スキルが反応する。──いける!
「──江野沢、もっかい手え伸ばせ。」
「う、うん。」
俺の両手が江野沢の右手を掴んだ。──今だ!俺は思い切り江野沢を引っ張った。
水中の江野沢が重たくて引っ張り辛い!
江野沢も痛そうにしている。
「お前、もうちょっと近付けるか?」
俺は靴と靴下を脱ぐと、裾をまくりあげて湖のふちに腰掛け、水に足を付けると、江野沢に両腕を伸ばした。
「体ごと引っ張り上げるから、ちょっと腕おろしてくんねーか?」
江野沢は恥ずかしそうにしながらも、両腕をおろしてくれた。江野沢のキレイなオッパイが丸見えになり、再び感動する。
真実の泉のふちギリギリまで近寄った江野沢の両脇に、前屈みで腕を突っ込む。
「せーの!!」
思い切り力を入れて後ろに体を倒す。
「キャッ!?」
江野沢が水から飛び出し重みで俺の上に倒れ込む。オッパイに俺の顔を挟んだ状態で。
真実の泉の中にいたのに、何故か濡れていなかった体は、江野沢のひんやりとした肌の心地よい感触を俺に伝えてくる。
俺の腕にスッポリとおさまる小さな体。
俺は思わず無意識に、そのまま江野沢の体を抱きしめてしまった。ちょっと息苦しいけど、いいや別に、このまま死んだって……。
「ちょっと、匡宏!
バカ、離して!
あたし鼻と口、塞いじゃってる!!」
江野沢に数回頭をはたかれて、ようやく抱きしめていた江野沢を解放した。
「……別にお前のオッパイに埋もれて死ねるなら、それでも良かったのに……。」
「いいわけないでしょ?
そんなんで死んだら怒るからね?」
俺の為にプリプリしてる江野沢可愛い。
いきなり抱きしめたことも、オッパイに顔を埋めたことも、どうだってよくて、俺が死ぬかも知れなかったことを怒る。
こういうところが江野沢だよなあ。
「もー。ホントバカ。」
プク顔でほっぺを膨らませて、口を尖らせた江野沢が、いつもの癖で、膝頭を閉じて裾が八の字に開いた状態で、体育座りをしながら、こっちを睨んでくる。
ちょ、おま、無防備過ぎるわ!
今、いつものキュロット履いてねーだろ!
と、口に出すより先に、俺はあぐらをかいた状態のまま、体を曲げて江野沢の足の間を覗き込んでいた。一瞬何をされているのか分からず、キョトンとする江野沢。
「──え?
キャッ!!」
思わずそのまま足を崩して、両足首をオシリの両脇に広げた状態で地面に膝をつけ、股の間を手で隠しながら、恥ずかしそうに睨んでくるけど、やっぱり怒ってはいない。そしてそのポーズはそのポーズでエロ可愛い。
言っとくけど、体育座り自体がエロ可愛いから、男は基本見てるからな?
男とは、相手が幼女だろうと老女であろうと、開いた股は本能的に見てしまう。
そしてそれが見たくなかった相手の場合、後で己の男としての本能を呪い、悲しみと切なさと虚しさを覚える生き物なのだ。
まあ、おかげで何と言って頼もうか、考えなくても、肝心なとこが見れたんだが……。
もっとじっくり見たかったなあ……。
と考えていたのが顔に出ていたらしい。
いつの間にか、よつん這いで近付いて来ていた江野沢に頭を小突かれる。
「痛ってえ!」
「──バカ。ほんとバカ。」
いつものやり取り。俺は痛みに頭をおさえながらも、思わず笑ってしまう。江野沢が裸というとこさえ除けば普段の俺たちだ。江野沢の揺れる乳房と前屈みポーズが悩ましい。
「はい、じゃあ、匡宏も脱いで?」
「お、おう……。
てかお前、結構積極的なのな。」
「あたしだけ裸とか、恥ずかしいの!」
江野沢がプク顔でプリプリしている。
まあ、それもそうか。
興味津々の江野沢に、じっと見られながら上から脱いでいく。
ヤベえな……。これ結構恥ずかしいぞ?
既に江野沢は全裸なワケで。
この状態で俺まで脱ぐとか、これからおっ始めますの疑似体験感が凄い。
息子がムズムズと反応してくる。今全部を脱ぐのは、なんかまずい気がする。けど、
「どしたの?」
と、江野沢にキョトンとされて、えーい、ままよ!とパンツごと下履きを下げた。
江野沢が目を丸くして、男の子って、こんなのついてるんだあ、という表情で見て来たから、まあたまらない。瞬間、息子が、パパぁ、僕元気〜!と、主張をしてしまった。
江野沢が更に驚いた顔になる。
やめて!こんなの初めて見るって表情、すげーエロい!おさまらなくなるから!
────────────────────
ここから、無自覚天然破壊神、江野沢ちゃんのターン。
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