第135話 江野沢が人間に戻る為に必要なこと
「……ほう?
そこなおぬし、あれからついに出会ったのか、──“運命の番い”に。
それはとても良きことだ。
“運命の番い”はおぬしの為だけに生まれ、おぬしを助け、癒し、諭し、慰める者。」
そう言った妖精女王が見つめる先にいたのは、──アシルさんだった。
「え?
ぼ、僕?」
妖精女王から急にそんな話を振られて、困惑しているアシルさん。
「人の子はまれに、“運命の絆”を持つ者がおる。──それは親であったり、血を分けた兄弟であったり、時に伴侶として、生まれ変わるたびおぬしたちの前に現れる。
何度生まれ変わろうとも、どれだけ離れたところに生まれようとも、“運命の絆”は、やがておぬしたちの前に現れる。
おぬしたちはそれぞれ、“運命の番い”を持つ者たち。“運命の番い”は、“運命の絆”がおぬしたちの伴侶というさだめとして、生まれた場合のみ、特別にそう呼ばれるのだ。」
つまりエリスさんは、アシルさんの為だけに生まれた、特別な存在ってことか?
「“運命の絆”は守護者の如くおぬしたちを見守り、無条件に愛する者たち。おぬしたちを孤独にしない為だけに生まれた存在。
“運命の番い”すなわち“運命の絆”が伴侶として現れる場合は、おぬしたちの望む姿、かつおぬしたちの体に合った姿で現れるのだ。見た瞬間にすぐにそれと分かるであろう。」
仏教だかの思想にもあるよな、親兄弟や親友や結婚相手は、前世のそのまた前から、ずーっと関わりのある存在だって。
けど、望む姿で、ってのは初めて聞いた。
“運命の番い”ってのは、それだけ特別ってことなのか?確かにエリスさんは、アシルさんの理想の塊みたいな人って言ってたな。
「おぬしの伴侶は、おぬしの“運命の番い”。
何度生まれ変わろうとも、おぬしの前に何らかの姿で現れてきた。今回はそれがたまたま、伴侶であったというだけのこと。この世界に彼らが引き寄せられたのも、彼らが“運命の絆”あったからこそ。おぬしたちがこの世界に連れてこられたことで、“運命の絆”たちは、この世界にやって来た。」
「──え?
ちょ、ちょっと待って下さい。僕の妻は、もともとこの世界の人間です。」
アシルさんが慌ててそう言う。
「──否。
元はおぬしたちと同じ世界の人間。
おぬしたちがこの世界に無理やり連れてこられたのと同じくして、この世界に勇者召喚の儀式にて連れてこられた。
おぬしたちの召喚に巻き込まれたのだ。
離れたところに現れた為、おぬしたちとすぐには出会わなかったというだけのこと。」
エリスさんが、もともとは、俺たちと同じ世界の人間……?どういうことだ?
「この世界において、特殊なスキルを持ち合わせているのは、その殆どが異世界より舞い降りし者たち。おぬしたちの“運命の番い”もそうであろう。」
アシルさんは心当たりがあるのか、言葉もないまま、妖精女王を見つめていた。
「だ、だって……、僕たちがこの世界に召喚で連れてこられた10年前の頃は、まだエリスは11歳か12歳くらいの筈だよ?勇者召喚の対象年齢は、13歳から18歳だ。なのにエリスが勇者として呼ばれる筈が……。」
「──だから巻き込まれたと言っている。
“運命の番い”にとって、おぬしたちのいない世界は意味をなさない。
“運命の番い”はおぬしたちの為だけにある存在。心も、肉体も、……魂すらも。
遥か昔に、魂が絆で結ばれてしまった。
魂にその名を刻んで生まれてくるのだ。
それでも彼らがおぬしたちを愛するかどうかは、“運命の番い”次第なのだがな。
だが例外なく、何度生まれ変わろうとも、──おぬしたちに縛られることを望む。
それを繰り返し続けた結果、離れる事のできない縁が結ばれた。その縁が勇者召喚の際に影響を与えたのだ。」
俺は思わず俺たちの勇者召喚の時を思い出していた。休んで自宅にいたのに、無理やり勇者召喚に巻き込まれた篠原英祐のことを。
大量勇者召喚を成功させたうちの1人、マガの王族ジルベスタが以前こう言っていた。
「それと、大量に連れて来られるようになった事で、一部特殊な事象が発生するようになったわ。
子どもたちが集まる筈の日にその場に来なかった子どもも、勇者召喚に巻き込まれるようになったの。」──と。
離れた場所にいながら、勇者召喚に巻き込まれた子どもは、全員勇者召喚された子どもと縁のある子どもなのだと、アプリティオの王子──今は国王のドメールが言っていた。
“運命の番い”という強い縁が、離れた場所にいる、アシルさんと会ったこともないエリスさんを、呼び寄せたってことなのか!?
そう考えると、そんなことがあっても、おかしくないのかも知れない。
むしろそのこと自体が、エリスさんがアシルさんにとっての、“運命の番い”である証明ですらあるのかも知れなかった。
「“運命の番い”は、魂におぬしたちの名を刻んで生まれてくる。故に引き寄せられる。
声を聞かずとも、姿を見ずとも、自分の求める存在がどこにいるのかが分かる。
その気配が。波長が。
おぬしたちの存在そのものが。
魂に名を刻んだ相手だと気付かせる。
この世界に無理やり呼ばれたのが“運命の番い”のほうであれば、おぬしたちはこの世界に現れることはないであろうな。
だがおぬしたちの方が呼ばれたから、“運命の番い”はこの世界に引き寄せられた。
──おぬしの“運命の番い”も。」
妖精女王がそう言いつつ見つめていたのは──エンリツィオだった。
「……誰の話だ?」
エンリツィオは訝しげに妖精女王を睨む。
「おぬしは前回ここに来た時点で、既におぬしの“運命の番い”に出会っている。
そしてその愛を、信頼を、心を、体を、未来を、“運命の番い”のすべてを捧げられた。
おぬしは“運命の番い”を選ばなかった。
ただそれだけのこと。
おぬし自身に心当たりがあろう。」
「──マリィ!?マリィなのか!?」
アシルさんが声を上げる。
「待ってよ……。
マリィだって、僕らがこの世界に連れて来られた時は、まだ8歳くらいの筈だよ?
マリィはアプリティオ、エリスはチムチでそれぞれ暮らしてた。
僕らが呼ばれたのはニナンガで……。
こんな、外国ですらない場所に、そんな小さな女の子2人が、お互い1人ぼっちで召喚されたっていうのか!?
僕らがこの世界に、勇者として無理やり連れて来られたせいで……!?」
アシルさんは混乱したように、両手で頭を抱えて真っ青になっていた。
俺たちの頭の中に、見知らぬ大人ばかりの土地に、突如召喚された、小学生のエリスさんとマリィさんの姿が浮かぶ。……なんてことだ。高校生の俺だって周りにクラスメートがいてもなお、この世界が不安で恐ろしかったって言うのに。そんな小さな女の子たちがたった1人で知り合いもなく、どうやって今まで暮らしてきたんだろう。
エリスさんは弓聖、マリィさんは身体強化と神速持ちだけど、マリィさんも最初は神速のスキルを使いこなせていなかったと、アシルさんは言っていた。スキルがあるからっていきなり戦えるわけじゃない。2人と出会うまで無事だったことなんて、ただの奇跡だ。
「──そうか、なんで気付かなかったんだ。
普通に話してたから違和感なかったけど。
だって、だってドメール王子は、その為に但馬に通訳の仕事を頼んだんだ!」
「どういうこったよ!?」
恭司が俺に聞いてくる。
「──この世界の国は、すべて公用語と文字が異なる。俺たちは異世界転生勇者特典でそれが分かるけどさ。2人が現地の人間なら、マリィさんはアプリティオの、エリスさんはチムチの公用語しか話せない筈だ。」
「あ……。」
アシルさんもそれに気が付いた。
「昔エリスさんは、マリィさんと2人きりで普通に会話してて、料理とか教えて貰ってたらしいけど、そんなのおかしいんだよな。
元異世界転生勇者のエンリツィオの恋人ならともかく、通訳なしに2人が直接会話するなんてありえないんだ。
──マリィさんと、エリスさんのどちらかが、それか、どちらともが、……異世界召喚勇者か、異世界転生勇者でもない限り。」
俺がなんとなく感じていた違和感が、ここにきてストンストンと腑に落ちる。
「大量勇者召喚は絆の力が影響を及ぼす。
たとえどれだけ離れた場所にいようとも、絆の力が“運命の絆”をおぬしたちのもとへと呼び寄せる。“運命の番い”は、おぬしたちのそばにいなくてはならぬもの。
出会わずとも既に絆があるのだ。おぬしたちの“運命の番い”は、大量勇者召喚に巻き込まれた。おぬしたちとの絆の力によって。」
……やっぱりそうなのか。
修学旅行を自主欠席して、自宅にいた筈の英祐を呼び寄せた大量勇者召喚。
それと同じように絆を持つ“運命の番い”である2人が、離れたところから無理やり、大量勇者召喚に巻き込まれたのか!
「で、ですが、本来離れたところから大量勇者召喚に巻き込まれた人間は、一律ハズレスキルを付与される筈ですよね?
うちのエリスは弓聖持ちですよ!?
神スキルと言われる特別なスキルです。
なのにそんなわけが……。」
アシルさんはまだ納得がいかないのか、妖精女王に必至の形相で食い下がる。
確かに英祐はそれで、自爆、再生、転送という、ハズレスキルを手にしたんだ。
「それはおぬしたちを守る為。魔法使いとして転生したおぬしたちを、守るに適したスキルが付与されたまでのこと。勇者召喚の、ハズレと呼ばれるスキルを付与される条件よりも、おぬしたちを守る役目を持つ、“運命の番い”の及ぼす影響が大きかったのだ。」
確かに魔法使いからしたら、近くに近距離職や、後方や別角度から遠距離サポートしてくれる人間がいるのは心強い。ましてやエリスさんはバフやデバフをかけられるのだ。
弓聖ともなれば火力担当でもある。心強い味方かつ戦力であると言えるだろう。エンリツィオはもともと、転生前から近距離戦に慣れてて得意なヤツだから、肉弾戦になった時のことを考えても、パーティーを組むなら仲間は近接職のほうが戦いやすいだろう。
江野沢と恭司が魔物になったのも、この世界の双子を許さない
……つまりはそういうことなんだ。
だけどそんな相手がいるとも知らず、訳もわからず、小学生の女の子が、ある日突然1人ぼっちでこんな世界に連れて来られた。
それがどれだけ不安で恐ろしかったことだろうか。どうやって暮らして来たのだろう。
2人とも、そんな話をしなかったから、今までまったく知らなかった。本人たちはたった1人で突如転生してきたことで、今までそれを知らずに生きてきて、だからそういう話を誰にもしてこなかったんだろう。
もしも江野沢をそんな目に合わせることになるんだとしたら、そんな運命なんていらない。こっちの世界で出会えなくたっていい。
俺と繋がってさえいなければ、江野沢は家族と幸せに暮らせるのだから。
「──人の子よ。自分には無関係のような顔をしておるが、そこなおぬしにも、“運命の番い”は存在しておるぞ。」
妖精女王が俺を見てそう言う。
「俺の……“運命の番い”って……。」
俺にとって、“運命の番い”の条件に当てはまる存在は1人しかいなかった。
「“運命の絆”は人の子とは限らない。
なにせ先代の妖精女王は、人の子の“運命の番い”であったからな。
おぬしのそばにいるそこな娘、今は魔物の姿をしておるか。
それがおぬしの“運命の番い”だ。」
やっぱりそうか……。
「江野沢がこの世界に連れて来られたのも、俺がいたから……ですか?」
「いいや。
この娘はこの娘自身が呼ばれておる。」
江野沢は勇者召喚で呼ばれたってことか。
だけど俺だけが呼ばれていたとしても、江野沢もこっちの世界に引っ張られていただろうから、どちらにせよ同じことだろうけど。
「──おぬしたちは元は1つであった魂。
おぬしたちの魂が8つに分かれたことにより、“運命の絆”もその魂を分けた。
いわば魂の双子。
……いや、8つ子か。
おぬしたちの“運命の絆”は、元は1つの魂であったもの。1つであった時に、おぬしたちのそばに永遠に居続けることを誓った。
だからこうして再びおぬしたちと出会い、おぬしたちを守ろうとし、そばにおる。それは未来永劫変わらぬ。おぬしたちに選ばれずとも、おぬしらを愛し守ろうとし続け、他の者を愛することが出来ぬ存在。望めば他の者を愛することが出来るが、“運命の絆”自身がそれを望まぬ限りそれはかなわぬ。」
「あの、おぬしたち、って、……誰と誰が、元は1つの魂だったのですか?」
アシルさんが妖精女王に聞く。
「──そこな、おぬしたち4人だ。」
今この場にいる人間は、俺、俺の“運命の番い”である江野沢を除けば、姿こそフェニックスという魔物に変わってはしまったが、恭司、エンリツィオ、アシルさんの4人だけだ。俺たちは互いに顔を見合わせる。
「僕と、エンリツィオと、タダヒロ君と、キョウジ君が、もともとは1つの魂……?」
イマイチ話が飲み込めない、という顔で、アシルさんが言う。
「人の子は、功なり罪をなした場合、その魂が分かれる生き物なのだ。
功をなした場合は、それを広める為。
罪をなした場合は、それを薄める為。
おぬしたちの元の魂は、はるか昔に罪をなしたのだ。魂が1つのままでは、何度生まれ変わろうとも、罪を浄化しきれない。
だから分かれたということだ。」
──罪?俺たちの前世の罪?そんなものの為に、みんなは縛られてるってのか?
「周囲に裏切られ陥れられ、その結果、大勢の人間を皆殺しにし、失意と孤独の中で、自らの命も落とした。
“運命の番い”の元の魂は、唯一最後までおぬしたちの元の魂に寄り添い、殉死したおぬしたちの飼い犬であった存在だ。
生まれ変わる際に、決して主人を孤独にさせず、そばで愛し続ける存在として、在ることだけを望んで死んだ。
伴侶を望むのであれば伴侶として。
家族を望むのであれば家族、友を望むのであれば友として。死ぬ前におぬしらが得たいと望んだ存在として、基本来世に現れる。」
恭司がそれを聞いた瞬間、ビクッとして何やら考え込み始めた。
「だから何度生まれ変わろうと、無条件におぬしたちを愛し、おぬしたちの幸せだけを望んで生きる。それが“運命の絆”の願いだ。
おぬしたちに魂がとらわれている。
輪廻の輪から離れることをこばみ、おぬしたちの輪廻に付き添いし、転生を繰り返す、いわばみずから呪われし魂。
“運命の絆”とは、ただ1人の魂の浄化を担うもの。愛する者の罪を洗い流す存在。
そばにいさえすれば、その魂が汚れることを防いでくれる。
人の子は愛で満たされれば魂が汚れない。
だから無償の愛を注ぐ。
その為におぬしたちの前に現れる。」
──だから全員、どこか犬っぽいのか?
俺はマリィさんの行動を見て、江野沢とヤクリディア王女は別人だと確信した。
マリィさんがあまりにも、前世の江野沢と似てたから。そうじゃないヤクリディアは、記憶を失った江野沢なんかじゃないと思えたんだ。そして実際記憶を失ってなお、やっぱり江野沢は江野沢としての行動を取った。
マリィさんが江野沢と、どこか似たところがあって当たり前なのだ。
だって、元は同じ魂だから。
「伴侶になる為に現れた“運命の絆”と、……結ばれなかった場合はどうなるんですか?」
妖精女王にそう聞くと、エンリツィオがチラリと俺を見てくる。エンリツィオはマリィさんを受け入れなかった。
俺は江野沢が魔物な限りは生涯結ばれようがない。その場合はどうなるのか?
「──何も。
何も変わらない。
近くでその愛を受けるより、浄化の力は衰えよう。だがどれだけ離れても、生涯おぬしたちの幸せを
生涯浄化の力を注いでくれよう。
もしもおぬしたちが天命以外で死にかけた場合も、“運命の絆”がおらぬ者たちよりも、生き残れる機会が増えるであろう。
──だがその存在を拒絶した場合。
結ばれずとも問題はないが、“運命の絆”が絶望し、幸せを祈らなくなった場合。
反動により災いが降りかかるであろう。
人の子は総じて運の総量がさほど変わらぬもの。それを捻じ曲げて守っていた分、揺り戻しが発生する。
滅多なことでは起こりえぬことゆえ、それが起こった場合は、惨たらしい死を迎えることになるであろう。」
怖……。
「オイ、妖精女王の姉ちゃんよ、俺もコイツらと同じ魂だったってことはよ、俺にもいるんだよな!?“運命の番い”ってヤツ!」
恭司が妖精女王に興奮気味に尋ねる。
お前、妖精女王相手にも遠慮がねえな。
だが妖精女王は特に気にした風もなく、
「いる。既におぬしは出会っている。おぬしの出会った中で、最もおぬしを愛し、おぬしの為だけに生まれたと分かる見た目の少女。
それがおぬしの“運命の番い”だ。」
と言った。
「やっぱそうだ。
サンディ!サンディが俺の……!
あのむしゃぶりつきたくなるようなムチムチの太もも、白くてたわわなオッパイ、プリップリのプリケツが、俺の為だけに生まれたカラダ……!」
「──カラダって言うな!
確かにそうだけど!」
俺の叫びに、思わずアシルさんが苦笑し、エンリツィオまでもが、オイ、という目で恭司を見た。深刻な空気が一気にどこかにいってしまう。
確かに俺たちは、自分たちが互いにどこか似ていると感じていた。アシルさんもそれは認めてた。俺はアシルさんとエンリツィオを足して2で割ったような存在だと。
──エンリツィオは。
女心に疎くてそもそも気にしない。
計算高くて不必要な争いをしない。
気にいると自分から行くタイプ。
疑り深くて友だちが出来にくい。
──アシルさんは。
女心を分からないまでも気遣う。
計算高くて不必要な争いをしない。
恋愛は受け身だが惚れると裏切らない。
疑り深くて友だちが出来にくい。
──俺は。
女心を分からないまでも気遣う。
ケンカっぱやくて後先考えない。
恋愛は受け身だが惚れると裏切らない。
基本誰とでもそこそこ仲良くしたい。
──恭司は。
女心に疎くてそもそも気にしない。
ケンカっぱやくて後先考えない。
気にいると自分から行くタイプ。
基本誰とでもそこそこ仲良くしたい。
考えると、こういう共通点があるのだ。
そして、お互いの“運命の番い”は、
エンリツィオとマリィさんは。
何を考えてるのかが分からない。
アシルさんとエリスさんは。
何を考えてるのか気取らせない。
俺と江野沢は。
何を考えてるのかを隠せない。
恭司とサンディは。
そもそもあまり深く考えない。
という共通点もあるのだ。
誰が誰のパートナーなのかが一目瞭然だ。
「けどよ、なんでだ?“運命の番い”の方がこっちに呼ばれても、俺が引っ張られることはねーんだろ?なのに、なんでサンディはこの世界の住人なんだ?」
確かに。恭司とサンディは、恭司が召喚されなきゃ、出会えなかったわけだよな。
「“運命の絆”は同じ国、同じ世界に生まれるとは限らない。おぬしの“運命の番い”は、たまたま今回この世界に生まれた。
元は同じ魂でも、輪廻を繰り返すたびに、結びつきの強さは異なってゆくもの。
そこな娘と、こ奴の結びつきが最も強い。
だから常に近くに生まれ、出会って愛されるまでが早いのだ。おぬしが最も弱い。
ただそれだけのこと。」
「マジかー。
会えて良かったぜ……。あんなドストライクの、スケベな体したカワイコチャンが、初対面から俺のことめちゃくちゃ大好きで、いつでも股開いてくれるってのに、出会えなかったらと思うと最悪だ。」
……お前、多分、そういうとこだぞ。
絆の結びつきが弱いのって。
サンディが、鳥だろうと魔物だろうと、恭司に惹かれた理由はそれだったのだ。フクロウの見た目の恭司に、あげてもいいなあ……とか言い出したサンディ。恭司に何をされても、笑って受け入れていたサンディ。
そんな特別な関係性でもなければ、鳥に抱かれてもいいとは、普通思わないよな。
──俺と江野沢の逆。江野沢が人間で、俺が魔物だったとしても、恭司とサンディのような関係になったということか。
「おぬしはいつも“運命の絆”を受け入れるのに時間がかかる。
前回の生では、おぬしの家族を殺した男の娘であった。そしておぬしの本当の母親でもあった。おぬしは“運命の絆”を信じることなく、その生を過ごした。しかし、いまわの際に“運命の絆”の愛を受け入れた。
それを繰り返すうちに、おぬしの“運命の絆”はおぬしを諦めだした。
今生でも出会う前より、出会ってからも、既に諦めていた。」
妖精女王はエンリツィオを見ながらそう言った。なせか最初から諦めた恋をしていたマリィさん。それが前世から続く“運命の絆”の呪いによるものだったってのか……!?
「2人の絆が切れつつある。
何より、おぬし自身が、“運命の番い”がそばにいることを望んでおらぬ。“運命の絆”は相手に迷惑がかかることを最も
おぬしの“運命の番い”は、来世はもうおぬしと出会うことも、愛することも望んではおらぬ。おぬし自身が求めぬ限り、今生でおぬしを求めることも、もうなかろうよ。
そして、来世はもう現れぬだろう。
今後揺り戻しに気をつけるがいい。」
エンリツィオは鋭い眼つきで、妖精女王を見据えていた。
出会った瞬間から恋を諦めていたマリィさん。だって彼が困るから、が口癖だったマリィさん。姿も見ずに、声も聞かずにエンリツィオに一目惚れしたというマリィさん。それも全部、彼女が“運命の番い”だったから。
前世に引っ張られて恋をして、前世に引っ張られたことで、初めからそれを諦めるくらいなら、2人の絆はもう切れてしまった方がいいと思う。エンリツィオへの恋に縛られ続けていたマリィさんは、ようやく自らの人生の為に歩みだしたということか。
その方がマリィさんが幸せになれるなら、きっといい機会なんだ。俺はそう思った。
だけど、揺り戻しによる惨たらしい死が、エンリツィオを襲うという予言は、無視できないものだった。
妖精女王は、この世界の
エンリツィオが他の人を愛してしまったことだって仕方のないことで、“運命の番い”を受け入れなかったから死ぬと言われても、それも理不尽な話だ。けど、“運命の番い”の法則に従うのなら、エンリツィオがマリィさんを求めない限り、マリィさんが側にいてくれても、解決する話じゃない。
気を付けるったってどうしたらいいんだ。自分が諦めたせいで相手が死ぬなんて、“運命の絆”自身が、最も望んでいないことだろうに。それを変えることは出来ないのか?
「ぼ、僕は!?僕はどうなんですか?」
アシルさんが食い気味に尋ねる。
「おぬしも大分疑り深い。
少し絆が弱くなっていたが、今回は早い段階で受け入れたことで、絆が深まった。
来世も間違いなくおぬしの元に現れよう。
“運命の絆”は、守護するものの伴侶の姿で現れる場合、おぬしたちが望みさえすれば、すぐに
絆が深まったことにより、近いうちに、新たな命を授かることになるであろう。」
「うわあ、ホントですか!?
頑張ろう……。」
両手で頬を挟みながら思わずニヤけるアシルさん。ずいぶんと嬉しそうだ。この先赤ちゃんが出来るなんてことまでも分かるのか。
“運命の番い”がいる俺たち4人の中で、幸せに結ばれたのはアシルさんだけ。
そういう存在がいるからって、必ずしも相手と結ばれるものとも限らないなら、──それって、必要なものなんだろうか。
俺と江野沢は元の世界にいれば、やがてはそうなったと思うけど。
出会う筈のなかった恭司。
別の人を選んだエンリツィオ。
なのにそばにいてもくれない人の幸せを、祈り続ける人生って、幸福なんだろうか。
俺だけが連れてこられて、生涯江野沢が俺と出会う事がなくても、お互いの存在も、自分が“運命の番い”だなんてことも知らずに生きているのだから、お互い普通に身近な誰かと恋をして、結婚して、死んでいくだけだ。
そういう存在がいたとしたって、大抵の人が出会わずに死んでいくと思う。出会えないからって苦しむことなんてない筈だ。
それなのに、無理やり知らない土地に連れてこられて、1人ぼっちにさせられて。
俺たちは来たくてこの世界に来たわけじゃないけど、本人たちも知らない絆とやらのせいで、それに巻き込ませてしまった。
知らなかったこととは言え、そこに責任を感じずにいられるかと言われたら難しい。
アシルさんは責任を感じるね、と言った。その分彼女を必ず幸せにするんだ、とも。
──俺が江野沢を縛ってた。
江野沢が俺を好きなのも、江野沢の意思じゃなく、その絆に縛られていたせいだった。
選ぶのは本人だからって言っても、後ろに立ってるだけなのに、ドキドキさせられる相手に運命を感じないでいられるかって言われたら、それは難しいと思う。
女の子ならなおの事だ。特別な存在なのだと思いこんでしまうだろう。俺は子どもの頃の出来事を思い出していた。
いつも俺を特別扱いしてきた江野沢の、態度の理由がようやく分かった気がした。
「あの……。
俺たちが1番結びつきが強いんですよね?
江野沢を……人間に戻そうとした場合、それは可能ですか?
その……1度死んで、人間として生まれ直すなんてことは……。」
俺は1番知りたかった、今回の旅の目的を妖精女王にたずねた。
「──可能だ。」
──!!!!!
俺たちは妖精女王を一斉に見つめた。
「その為には、1度その肉体を手放す必要がある。だが伴侶として現れ、今生で結ばれることなく死をむかえた“運命の番い”は、来世で伴侶として現れることは殆どない。
現状人として生まれ直す場合最も可能性が高いのは、おぬしの未来の子どもとしてだ。
おぬしが今すぐ他の女と結ばれ、その女と子をなせば、自ずと人の姿を持ちて、その娘がおぬしの前に現れよう。
今生の生を終え、魔物の姿を手放させるだけであれば、我の力をもってすれば造作もないこと。望むのであればかなえてやろう。」
人として生まれ直すことは出来る。
だけどそれは俺の子どもとして。
つまりそれは、魔物の姿であっても、人間に戻っても、俺の今回の人生で、俺と江野沢が結ばれる未来はあり得ないということ。
「……!!」
打ちのめされた気分だった。
「──絆深き者よ。
おぬしらが結ばれぬのは、おぬしらの意思にあらず。ただ運命のいたずらによるもの。
なれば我も力を貸そう。だが実行するかどうかは、おぬしたち次第だ。互いの来世で、必ず伴侶として会えるよう、ほんの少し生まれ方に影響を与えるのは可能なことだ。」
「来世……?」
「──おぬしたちのどちらもが、誰とも結ばれずに生涯を全うして死ぬこと。
互いに思い合い、結ばれたがっているのに結ばれることの出来ない魂を、来世で結ばれさせる可能性を高めることは出来る。
──おぬしたちの記憶を残したままでな。
だが、魔物の姿で転生してしまったこの娘は、1000年はこの姿のままで生きよう。
──誰も愛さず。
──誰からも愛されず。
その時間を過ごす覚悟はあるか。」
その場にいた全員がシン、とする。
「──“運命の番い”よ。
おぬしはそれに耐えられよう。
だが、自分の想い人に、それを強いることをおぬしは望むか?
おぬしは誰よりも此奴の幸せを望む者。
生涯1人でいさせるなど、おぬしの望むところではあるまい。」
「江野沢……。」
ユニフェイはまばたきもせずに、じっと妖精女王を見上げていた。
「──望むワケねえだろ。
マリィなら、絶対他の相手とくっつけようとするだろうぜ。
アイツは何より俺が優先なんだ。」
「エリスも……多分そうかな……。
自分が先に死ぬことになったら、僕の世話をしてくれる、私より若い人と結婚してね?って昔言われたことがあるから……。」
「そんなん、本人に聞いてみなくちゃわからねーだろ!?決めつけんなって!」
エンリツィオとアシルさんの言葉に、恭司が反発する。俺はただ困惑していた。
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今月の月イチ自己ノルマ更新完了です。
伏線回収しまくりかつ、物語が佳境に入っております。
新たな伏線も散りばめられている4部。
引き続きお楽しみください。
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