第133話 悩まされる情の切り方と、悩ましい情の交わし方。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「イザテルシア、随分と可愛がっているじゃあないか、その子のことを。」

 アザリュスティシアは、窓辺で野生の小鳥と戯れる、愛らしい妹を見て微笑んだ。

 薄い金髪、自分と同じ金色の目をした美しいハイエルフの少女は、夢見るようにうっとりと目を細めながら、自分の手のひらから餌を食べる、淡い黄色の羽をした小鳥を眺めていた。柔らかなドレープが風に揺れる。


 本来なら、人に懐くことのない野生の小鳥だったが、イザテルシアが長いこと時間をかけて、手に乗るほどに懐かせたのだった。

「羽の色がお前の髪色と似ているな。」

「ええ。とても。」

「名前はなんというんだ?」

「いいえ?つけていませんわ。」

「どうしてだ?可愛がっているんだろう?」

 アザリュスティシアは、少し感じた違和感を自分の気の所為だろうと胸の底に沈めた。


 イザテルシアがこの小鳥を可愛がって、もうすぐ1年になろうとしている。厳しい冬を越せるように、イザテルシアが窓辺に作った巣箱のおかげで、小鳥は安全に冬を越せ、こうしてまたイザテルシアのところに遊びに来ているのだ。名前くらいとっくにつけているかと思っていた。──突然その小鳥を、イザテルシアがグシャッと掴んで握りつぶした。

「ピッ……。」

「イザテルシア!何を……!」


 小鳥は苦しそうに、なぜ自分がこんな目にあっているのか分からないとでも訴えかけるかのように、黒目ばかりだった目の下の方に白目を見せて、イザテルシアを睨んでいる。

 イザテルシアは微笑みながら、掴んだ小鳥をそのまま、室内の床にグシャッと投げつけた。だが非力なイザテルシアの力では、掴むだけでは殺せなかったのだろう、小鳥は床には激突せずに、なんとか飛び上がると、イザテルシアから逃げ出そうとして羽ばたいた。


 一瞬だけイラついた表情を浮かべたイザテルシアは、ヨロヨロと羽ばたく小鳥を捕まえると、そのまま、──何度も、何度も、飛んで逃げようとしなくなるまで、黄色い小鳥を捕まえては、床の上に叩きつけ続けた。

「イ……、イザテルシア……。」

 幼いアザリュスティシアは恐怖に震えた。

 大人になった今であれば、何度も小鳥が床に打ち付けられる前に妹を止めただろう。

 だがその時は何も出来なかった。


「ああ、ようやく死んだみたいですね。

 意外としぶといものですね。」

 イザテルシアはそう言って、小鳥の死骸を拾って両手のひらの上に乗せて見つめた。

「な、なぜ、こんなことを……。」

「──なぜ?」

 イザテルシアは愛らしく小首を傾げて、不思議なことを聞くものだ、とでもいいたげな表情を浮かべてアザリュスティシアを見た。


「この日の為に懐かせていたんですもの。

 だからこうしましたのよ?

 ただそれだけのことですわ?」

 と、こともなげに言った。

 小さい子どもの頃は、命の価値も痛みも分からないから、無駄に生き物をいじめることはあるが、イザテルシアのこれは、それとは一線を画している気がした。

「おかげであんなにも絶望した顔が見れました。時間をかけたかいがありましたわ。」


 楽しそうに笑うイザテルシア。アザリュスティシアはこのことを両親に報告出来なかった。それからしばらくして、イザテルシアはすっかり落ち着いた大人の女性になり、好きな男も出来たようだった。アザリュスティシアはその頃既に結婚しており、両親は共に流行りの病で死んでいた。アザリュスティシアは妹の親代わりとして、国をあげて祝った自分の時ほどとまではいかなくとも、妹の結婚を盛大に祝ってやりたいと考えていた。


 ほどなくして2人は結婚し、大聖堂で愛を誓い合う幸せそうな2人の姿に、アザリュスティシアは夫ともに涙を流していた。

「イザテルシアさま!お幸せに!」

「おめでとうございます!」

 馬車に乗って新居へと移動する2人のことを、大勢の国民たちが祝ってくれる。たくさんの花が風に舞い、アザリュスティシアは、ようやく肩の荷がひとつ降りた気がした。

 その日は久しぶりに夫に抱かれ、幸せな気持ちで眠りについた。


 翌朝、寝過ごしたアザリュスティシアは、夫である騎士団長によって叩き起こされた。

 裸の肩を揺らす夫に、まだ昨日の続きと思って抱きつこうとした手を、そっと掴まれて止められる。夫は既に鎧を着ていた。

「どうしたんだ……?顔色が悪いぞ?」

「……。ちょっと来てくれ。」

 アザリュスティシアは夫に急かされて着替えると、ひと目につかないようにイザテルシアの新居へと連れて行かれた。

 イザテルシアは窓辺で外の景色を眺めてながら、椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「ああ、お姉さま、ようやくいらして下さったわ。お姉さまの旦那さまは話が分からなくて。──それ、片付けてもらえます?」

 それ、とイザテルシアが微笑んで指さした先には、ベッドの上で喉を掻きむしったような姿で、苦悶の表情を浮かべて死んでいる、イザテルシアの裸の夫の亡骸があった。

「イザテルシア……!これは、一体……。」

「もう、用は済みましたし。捨ててくださいな。私じゃ重くて運べないから、お義兄さまをお呼び立てしたんですけどねえ。」


「イザテルシア!!何を言っている!

 お前の夫が死んでいるんだぞ!?」

 アザリュスティシアは、イザテルシアの両方の二の腕を掴んで揺さぶった。

「……痛いです、お姉さま。」

 イザテルシアは嫌がって、アザリュスティシアの手を振り払おうとした。

「だから、もういいんですってば。

 彼の絶望した表情も見れましたし。」


「イザテルシア……、まさか、お前……?」

「お父さまとお母さまの時の薬を取っておいて良かったわ。かなり長いこと苦しんで、なかなか死なない薬だから、ゆっくりと彼と話も出来たんですよ?私を抱いて、幸せの最高潮という顔から、戸惑った彼の顔……!

 ああ、時間をかけたかいがあったわ。」

 両手を揃えて、夢見るように目線を上に向けて、少女のように微笑むイザテルシア。


「お前、まさかその為だけに、彼と……、クーリーと結婚したとでも言うのか……?」

 イザテルシアはキョトンとして、

「もちろんですわ?私を好きになって、夢中になってくれる殿方を、ずっと探していましたの。彼が愛おしげに私の名を呼んで……。私も甘く呼び返すたびに心が震えていたわ。

 私の頬に触れて目を細めて。あなた、あなたと呼びながら、もうすぐ私に殺されると分かった時、どんな顔をするのかしらって、彼のことばかり考えて幸せだったわ。」


「──もうやめてくれ!

 ……もう、やめてくれ……。」

 アザリュスティシアは床にへたり込んだ。

 騎士団長が無表情にスラリと剣を抜いた瞬間、アザリュスティシアはハッとしてその足にすがりつき、夫を制止しようとした。

「何をする気だ!」

「殺すしかないでしょう。」

「やめてくれ!」

「あなたのご両親を殺したんですよ!?

 国王さまと王妃さまを!それに……クーリーは、私の乳兄弟で大切な部下でした。」


 夫の言葉にアザリュスティシアは目線を落とした。夫の気持ちは痛いほどよく分かる。

 誰より国王夫婦を信望し、その娘たる自分を、女王としてたてる為に結婚してくれた、何よりも忠義に厚い男。それが自分の夫という人物なのだから。だがイザテルシアはたった1人残った肉親だった。アザリュスティシアは、妹を殺すことをためらい、夫に人知れずクーリーの死体を処理するよう懇願した。

「……。──みこころのままに。」

 最終的に、夫は女王である自分の言葉に従った。だがこの日以来仮面夫婦となった。


 アザリュスティシアはこの日の出来事を、生涯後悔することとなる。自分たちとは相容れぬ、負の感情しか持たぬ、悪魔のような存在。他人が苦しむさまを、何よりも好み、喜びとする人種の存在を、長く生きるハイエルフとて、理解することは叶わなかった。

 表向きは平和で幸せな国を築いていた。冷え切った夫との関係も国民に気付かれることなく、自分のおさめる代は終わりを告げる筈であったのだ。だがそんな期待は淡い夢と消えた。他ならぬイザテルシアの手によって。


「──ね?逃げたでしょう?

 大切なら、簡単に殺したらつまらないよ?

 何度も、何度も何度も苦しめないと。

 もう一度信じさせて裏切るんだよ。

 人は心も体も脆いからね。自分の信じたいことのほうを信じる生き物なんだ。関係が深い相手ならなおさらだよねえ。」

「リンゼの言う通りでしたわ!わたくし、とてももったいないことをしていましたのね!

 お父さまお母さまも、クーリーだって、もっとたくさん楽しめましたのに!

 お姉さま、待っていらして。またすぐに参りますわ、あなたのイザテルシアが。」

 高台から燃える祖国を見下ろしながら、イザテルシアはリンゼと共に微笑んでいた。


 アザリュスティシアはベッドの上でハッと目を覚ました。どうやらうなされていたようだった。子どもの頃の夢を見たような気がしが、どうにも内容を思い出すことが出来ないでいた。嫌な夢だったのだろう。イザテルシアの声を聞いたような気もするが、とうに逃げ出している筈だ。こんなところにいる筈もなかった。アザリュスティシアはグッと拳を握りしめ、唇を強く噛み締めた。

「アザリュスティシア!

 客人を招いての宴会の準備が出来たぞ!

 さあ!めかしこもうではないか!」


 既に正装したアイシャルティアが、大勢の召使いを伴って部屋にやって来た。

 自分を救った客人の歓迎はもちろんのことだが、国を失い、国民を救えなかった女王たるアザリュスティシアを、なぐさめる為のものであることは、召使いが手にしている、アマゾネスエルフの国、ペシルミィフィア王国の女王であるアイシャルティアよりも、豪華なドレスと宝石により明らかだった。

 古い友人の心遣いに、いつまでもうつむいてばかりはいられない。

 アザリュスティシアは誰よりも美しく装うと、宴会の会場へと足を進めたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺と恭司は、先に通された宴会場にやって来た、2人の女王の美しさに見惚れていた。

 少し幼気な体つきに、抜けるように白い肌をした、黒髪で気の強そうな赤いツリ目、ツインテールのアイシャルティア女王。

 美しい銀髪ロング、一見冷たそうにも見える切れ長の金色の瞳をした、服の上からも分かるグラマラスなアザリュスティシア女王。

 さっきまでこの2人の痴態を眺めていたかと思うと、そんなこと興味ありませんけど?みたいなシレッとした態度が逆に燃える。


 黒檀のように黒く美しい、宴会場の中央に置かれた長いテーブルの端に、俺と恭司のカラトリーがきちんとセットされていた。

 その反対側に、アイシャルティア女王と、アザリュスティシア女王が優雅に腰掛けた。やっぱりマナーとかちゃんと学んでいるんだろうなあ。外側から使うってことくらいしか分からん。まあ、この国のマナーと、俺等の世界のマナーが同じかは分からんけれども。

 恭司は魔物なんだが、話せる魔物はエルフの間では格が高いらしく、ただの鳥だと思っていた時とは随分と扱いが違っていた。


 ちゃんとタイのようにスカーフを巻いて貰って、鳥の姿なりに正装をしている。それにしてもスカーフをとめてるピン、随分とデッカイ宝石だな……。国宝クラスとかじゃね?

 恭司がちゃんとナイフとフォークを使えることにも、誰も驚いていない。こういうところは亜人種の国って感じだな。俺はむしろ逆に、最初恭司が字を書けることを知らなかったくらい、恭司がナイフとフォークを使っているところを見たことがない。普段は普通の鳥のフリして、人の手からご飯を貰っているところしか見たことがないからだった。

 なので、オイ、お前普通に食えんじゃねえかよ、と恭司のことを睨んでいた。


「今日は特別なお客さまがいらしているということで、特別な料理をお出しさせていただきます。先ほど手に入れたばかりの、角が飛び出た珍しい生き物です。」

 コックの白い制服と帽子らしきものを身に着けたエルフが、そう言ってうやうやしく、かつ誇らしげにお辞儀をしている。

「ほう、珍しい生き物とな。これは楽しい趣向だ。ぜひお客人にも楽しんで欲しい。」

 アイシャルティア女王が嬉しそうにそう言う。アザリュスティシア女王も、それは実に楽しみだ、と微笑んでいる。


 というか、角が飛び出た、ってどんな魔物肉なんだろ?角って普通飛び出てるもんじゃね?頭からなら、角が生えてる、だよな。

 体中に角がトゲみたく生えてるってことかな?普通なら硬くて食べにくい姿を想像するけど、内側の肉はその分柔らかくて食べやすいとか、そういう感じなのかもな。

「目の前で切り分けさせていただきます。」

 そう言った料理長が、銀色の楕円形の蓋を外したその下に、デンとあったものは。

「どうです?立派な角でしょう!!」

 どう見ても立派なチ●ポそのものです。

 本当にありがとうございました。


「ほう!珍しい形の角だな!美味そうだ!」

 アイシャルティア女王は実に無邪気に、嬉しそうに喜んだんだけど、困惑した様子のアザリュスティシア女王は、おそらくそれがなんであるのかを知っているのだろう。

 エルフの中でもアマゾネスなのはペシルミィフィア王国だけ。他のエルフの国には男性もいると言うから、女王ともなると、王配がいてもおかしくはない。つまりはアザリュスティシア女王は人妻というわけだな。人妻がビアンさんと5Pか……。ふむ、悪くない。

 生々しい男のモノを見せつけられて戸惑う美人妻と、意味が分からず無邪気に喜んでいるロリ美少女。どちらもオイシイです。


 などと喜んでいられたのは一瞬のこと。

 料理長がその立派なイチモツにナイフを入れようとした瞬間、俺と恭司がタマヒュンする。やめろやめろ!見てるだけで怖えぇ!!

 つか痛てえ!!しかし恭司が次に放った一言に、俺は再び驚愕することになる。

「な、なあ、さっき捕まえたって、あれ、俺らの仲間の誰かのじゃねえよな。アマゾネスエルフってあれだろ?人間の男を見たことがないから、食い物だと思ってんだろ?

 俺らは国賓扱いだけどよ、それを知らない奴らが、仲間の誰かを捕まえて、調理した、なんてこたあ、ねえ、よな……?」


「いや、あのデカさで人間ってことはねえだろ、さすがに!馬かなんかだろ!」

「ア、アニキは……?アニキもここに向かってんだろ?鎮守の森のあの迷路の中で、捕まった、なんてことは……ねえよな……?」

 そう言われて、俺はチムチのサウナで見たエンリツィオのイチモツを思い浮かべる。

 あれくらいはさすがに……、いや、あったかも知れん。──まさか、本当に人間の?

 いや、無理無理無理!イチモツってだけで無理なのに、人間のとか、しかも知り合いのかも知れんモンが食えるかあ!!!!!


 俺たちがそう叫ぶ前に、アザリュスティシア女王が、すまない、これはちょっと、口にすることは出来ない。せっかくの料理を申し訳ないのだが……。と控えめに拒絶してくれる。そうか?君がそう言うのなら下げさせるか、とアイシャルティア女王が、料理長に料理を下げるよう命令した。料理長は自慢の料理を振る舞えなくて残念そうだったが、他の料理はどれも素晴らしいよ、とアザリュスティシア女王に言われてホッとしているようだった。アザリュスティシア女王がいてくれて良かったぜ……。お礼に振る舞われたものを拒絶するとか、失礼にあたるもんな。

 かと言って、食うのは無理。マジで無理。


 そこへ、

「ご歓談のところ失礼致します。

 女王に謁見願いが出ております。」

「──謁見願い?誰だ一体。

 客人をもてなし中だ。待たせておけ。」

 女王が話している最中は動けないのか、料理長はテーブルに伸ばした手を引っ込めた。

「それが……、そう申し伝えたのですが、国賓の知り合いと申す者たちでして。」

「──知り合い?」

「はい、かなり背の高い、目付きの悪い黒髪が、自身をニナンガ国王であると。

 細身の濁った金髪、美しい金髪などの護衛を、幾人か伴っております。」


「──それ!うちの国王です!

 俺たち、ニナンガ王国の人間なんです!」

 良かった!エンリツィオじゃなかった!

「ニナンガ王国は、人間の国の1つであったな。その昔この国を攻め、我が国の国民を大勢奪った国の国王が、今更なんの用だ。」

 アイシャルティア女王が眉をひそめる。

「その頃の国王とは、とっくに代替わりをしてるんだ!今の国王は、昔妖精女王に謁見をたまわったこともある人物なんです!」

「──妖精女王に?

 それが本当なら素晴らしいことだが……。

 我々は妖精女王を信仰しているが、我々とて、滅多にお目にかかれるものではない。」


「妖精女王に認められた人間か。

 ぜひ会ってみたいものだ。」

 アザリュスティシア女王もそう言ってくれる。身を清め、正装させて連れてまいれ、とアイシャルティア女王が配下に命じている。

 無事に受け入れて貰えることになり、しばらくは歓談しながら、みんなの到着を待っていたんだけど、そこに侍女が再び戻って来ると、約1名、奥さん以外にそんなとこ触らせるなんて、冗談じゃないよ!と騒いでおりますが……、と、アイシャルティア女王にコソコソッと耳打ちしているのが、部屋が静かなせいで漏れ聞こえてくる。アシルさんだな。


「好きにさせてやれ。」

 アイシャルティア女王がそう言うと、侍女はお辞儀をして宴会場を出て行き、しばらくすると、正装したエンリツィオたちが宴会場にやって来て、お招きにあずかり光栄です、ニナンガ王国を代表して、親愛なるペシルミィフィア王国女王に感謝の意を示します、とエンリツィオが丁寧に挨拶をしていた。

 俺の向かいがアイシャルティア女王で、その隣がアザリュスティシア女王、俺の隣が恭司という配置で座ってたんだけど、一応国王だけど国賓ではないということから、恭司の隣にエンリツィオが座ることになった。


「マジ無事で良かったぜ。俺たちお前が料理にされたんじゃねえかと焦ってたんだぜ?」

「──俺が料理?」

 コソコソッとエンリツィオに話しかけた俺を、訝しげに見るエンリツィオ。

「ほら、だって、アレさ……。」

 と、今まさに片付けられようとしていた、例のデッカイイチモツ料理を、俺は指さして見せた。俺の言わんとするところが分かったらしく、さすがにあんなにはネエわ!と、エンリツィオに小声でツッコまれた俺だった。

 さすがにあんなには、なかったかあ。

 あれ、ほぼ馬だもんな!テヘッ☆


 姿勢を正して上品に料理を平らげながら、妖精女王と会った時の話を聞いてくるアイシャルティア女王に受け答えをしている、エンリツィオとアシルさん。そんなエンリツィオを、なぜか熱い眼差しで見つめている、アザリュスティシア女王の姿。んんん〜???

 エンリツィオと目が合った瞬間、音がしそうなくらい瞬きをしている。いやもう、バレバレでんがな。さっきまで死にかけて、アイシャルティア女王と熱い行為をしていたっていうのに、まだ体が火照ってでもいるんだろうか?まあアイシャルティア女王と違って、アザリュスティシア女王は、男知ってそうだもんな、いろんな意味で。


「そうか。妖精女王に認めていただけるほどに、愛した相手を亡くされたのか……。

 私も連れ合いを亡くしたばかりだ。

 心中お察しする。」

 アザリュスティシア女王が、エンリツィオの恋人の死を悼む言葉を伝えた。

 アザリュスティシア女王は未亡人だったのか。国を滅ぼされたとアイシャルティア女王が言っていたから、その時に亡くしたのかも知れないな。切なげな表情を浮かべているのは、亡くした旦那さんを思い出しているんだろう。未亡人って憧れる響きだよな、ウン。

 しかし連れ合いを亡くして、国を失って、自らは四肢をもがれて、なお生き延びて。

 これから彼女はどうするんだろうな。


「それで、貴殿らは何をしにこの国に?」

 アイシャルティア女王が、ようやっと俺が聞きたかった本題に触れてくれる。

「この男は無理やりこの世界に召喚された元勇者です。恋人と共に来たんだが、この世界の禁忌に触れ、同じ見た目をした人間が既にいたことで、恋人が魔物として召喚されてしまった。妖精女王であれば、人間に戻せるかも知れないと聞き、訪ねて来た次第です。

 偉大なる女王よ、どうか我らに、御神木に入る許可をいただけないでしょうか?」

 エンリツィオの言葉に、アイシャルティア女王はすぐに首を横に振った。


「恩人の願いだ、叶えてやりたいのはやまやまなのだが、それは無理なことなのだ。」

「……なぜです?」

 エンリツィオの目がギラリと光る。

「妖精女王に通じる扉の鍵が、失われて久しいのだ。ニナンガ国王が当時通ったと思われる試練の扉は、妖精女王のきまぐれで開かれるもの。入ったとしても開くとは思えない。

 1度くぐったものが現れると、数百年は開かぬと言われる扉なのだ。

 ニナンガ国王がくぐってから、恐らくは数年程しか経っておらぬであろうよ。

 人の子に次の機会が待てるとも思えぬ。

 残念だが諦めたほうがよい。」

 ……そんな……!!


 俺は絶望のあまり、手にしていたスプーンを落としてしまった。スプーンが皿に落ちてガシャンと立てた音だけが、部屋の中に小さく響く。みんな静まり返って、一言も発さなかった。ここまで!ここまで来たってのに!

「──あの、ちょっと待って貰えませんか。

 その鍵って、一体どんなものですか?」

 静寂を破ったのはアシルさんだった。

「僕もその時、ニナンガ国王の旅に同行した者の1人なんですが、僕らの通った扉が試練の扉だとして、その横にあった扉の鍵のことをおっしゃっているんですか?女王。」

 アシルさんは何が知りたいんだ?


「ああそうだ。その扉のことだ。サクリファイスからしかドロップしない、無限のAランクの鍵なのだ。人の子に国が襲われた最中、そのドサクサに失われてしまったのだ。」

「サクリファイスの無限のAランクの鍵!?

 ──俺、それ、2つ持ってますけど……。

 ひとつ差し上げましょうか?」

 俺の言葉に、アイシャルティア女王が目を丸くしたのは言うまでもなかった。

 本命は無限のSランクの鍵だったから、ショートカットの為に、出来れば手に入れる、って程度に探してたサクリファイスの無限のAランクの鍵だけど、手に入ってて良かったああぁ〜!!まさかエンリツィオたちが入ったほうの扉が、数百年に1度しか開かない扉だったとは。運がいいな、エンリツィオも。


 本来なら、アマゾネスエルフたちの目を盗んで出し抜けて、御神木のダンジョンの中に入れたとしても、サクリファイスの無限のAランクの鍵がなければ、その奥に入ることは叶わなかった筈なんだから。

 つくづく持ってる奴である。

 俺はアイシャルティア女王に、サクリファイスの無限のAランクの鍵を手渡すと、無事に御神木の中へと入る許可を取り付けた。

 明日俺たちは、早速御神木の中へと入れることとなった。ゆっくり休め、と、それぞれに個室を用意して貰った。護衛のアダムさんも向かいの個室という贅沢さである。


 なにがあってもすぐに駆けつけられる距離だから、個室で休んでも問題ないね、とのアシルさんのお墨付きをいただき、この旅の道中で初めての豪華なベッドで休むこととなった。まあ、外にアイシャルティア女王が配置してくれた、アマゾネスエルフの護衛たちもいるから、万にひとつも危険はねえけど。

 俺と恭司は希望で同室だ。だから恭司の護衛のフランツさんも、アダムさんと同室だ。

 もともと貴人の護衛用の部屋らしい。

 ニナンガ国王ってことで、エンリツィオが俺の部屋の隣で、その反対側をエンリツィオの護衛のローマンさんが1人で使ってる。

 アシルさんとカールさんは、別の階でそれぞれ貴人用の個室と、護衛用の個室を貰って休んでるみたいだ。


 ひとしきり恭司とこの国の感想や、明日に向けての打ち合わせをしたあとで、さてそろそろ寝ようか、と話していた時だった。

 何やら隣の部屋から話し声がする。

「わ、私は、本来こんな女ではないのだ。

 夫を亡くしたばかりだと言うのに、なぜ、あなたにこんなにも惹かれてやまぬのだ。私に一体何をしたのだ、ニナンガ国王……。」

 ──アザリュスティシア女王!?

 エンリツィオの部屋を訪ねて来たのか?

「それで?来るのか?来ねえのか?

 オマエが選べよ、アザリュスティシア。」

 楽しげなエンリツィオの声がする。


「すべて分かっているくせに……!!

 意地の悪い男だ……。」

 ビタッと壁に張り付いて、耳をすませる俺と恭司。アザリュスティシア女王が着ていた服を、脱いで床に落としたような衣擦れの音がする。え?これ全裸?全裸だよね?

「──いい眺めだ。

 来いよ。そのまま。」

 足音が聞こえる。ここの床はベッドの周辺だけフカフカの絨毯で、それ以外は薄手の絨毯が引いてあるけど、靴を履いていればさすがに足音がする。──まさか全裸にヒール?

「あっ……。」

 ドサリとベッドに倒れ込む音。


「そんなあられもない格好で、わざわざ男の部屋を訪ねて来てくれた大胆な女にゃ、今まで誰にもされたことのネエような、恥ずかしい格好で楽しませてやらなくちゃな。

 ……優しくして貰えると思うなよ?」

「あっ……!そ、そんな体勢で!!

 わ、私は、国が失われたと言っても、一国の女王だぞ!その私を、こんな……!!」

「女王サマを抱くのは初めてじゃねえモンでな。そんな余計な肩書くっつけてる女ほど、自分が女だってことを、男に思い知らされてえ願望を抱えてやがるモンだ。

 ──ほらよ!!」

「あ……、駄目……!い、嫌……!!」


 嫌って言いながら、というか、嫌っていう体勢を取らされるたび、ヒンヒンアンアン鳴いていらっしゃるアザリュスティシア女王。

 恥こそ興奮のスパイスとは、非常によく言ったもので。アイシャルティア女王との5Pの際にもちょっと思ってたけど、ドМだったんですね、アザリュスティシア女王さま。

 ええ、もう、はかどりましたよ。

 音漏れだけで大変はかどりましたけども。

 こんなん、ひと晩中聞かされて、寝られるかあああぁ!クソボケがぁ!!!!!

 それにしてもエンリツィオのヤロウ。

 よくも、憧れの未亡人と〜!!


────────────────────


無事手術終わりました〜!!

全身麻酔による開腹手術で、思いのほかしんどく、入院中では書き終わりませんでした笑


月イチ自己ノルマなんとかアップです。


見てるよ〜という意味で、イイネいただけると励みになります。

今後ともよろしくお願いいたします。

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