第127話 アスワンダム幹部集合

「店長さん、チギラさん……でしたっけ。俺に捕まってて下さい。奴らから離れます。」

「え?ど、どういうことね?」

「あんたは……?」

「説明してる暇はありません。行きます。

 ──空間転移!!」

 俺は店長さんとチギラさんの体を、店長さんをお姫様だっこしているチギラさんごと、チギラさんのお腹を抱きかかえて、アシルさんたちのいる場所まで飛んだ。


 俺たちの姿が消える瞬間、すんでのところで気味が悪い肉塊が、体をひねってぶん回して来て、俺とチギラさんの髪の毛の先をかすめた。あっぶねえぇええ!!間一髪だった。

 チギラさんが店長さんを地面におろすと、アダムさんが、こちらに、と言って、店長さんを、ローマンさんが後ろにかばっている、金髪バンダナ男のところまで案内する。

「さて、どうしたもんかね。」

 とアシルさんが言った。


「狙われているのは、どうやら店長さんの弟さんみたいですが、かと言って、ここで俺たちを見逃すということもないでしょうから。

 ……ですが、かと言って、あれはボスが使われた、現代魔法スキル封じの魔道具です。

 普通に戦うのは不可能でしょうね。」

 前を向いたまま腕組みしているアシルさんに、同じく前を向いたまま、敵から目線を外さずに、カールさんが答えている。


 俺はてっきり、アスワンダムが俺たちを狙って、あの気味が悪い肉塊を送り込んできたのかと思ったけど、金髪の気の強そうな冷たい表情の美女の言葉だけを聞くと、どうやら狙いは俺たちじゃなく、店長さんの弟さんの体ということか。“まれびと”の中でも、魔族をも凌ぐステータスを持つ、能力が高くて最も強い体。魔法の媒体にする為には、弟さんの体は、これ以上ない素材なんだろう。


 あれだけの数のナガミミ族を殺しておいてなお、追いかけてまで店長さんの弟さんの体を欲しがるというのはそういうことだ。

 店長さんの弟のチギラさんの体を狙って、奴らがここまで来たってことは、チギラさんが奴らを追いかけていたかのように見せかけて、実際にはチギラさんは、奴らにここまでまんまと誘導されていたということか。そしてたまたまそこに俺たちがいたというだけ。


「ボスの姿はないみたいだね。けど、ついでだから、あいつの右腕をもいでおくか。」

 この暑いのに長袖を着た、涼しげな顔の水色の髪の男が、そう言ってアシルさんを見ると、地下闘技場でルドマス一家が使ってた、魔法スキル封じの巨大な魔道具のボタンを押して、その上からスタッと降りた。

 ロボットの正面の腹のあたりが光り、魔法禁止の魔道具が発動する。


 魔道具の腕は、エンリツィオがぶっ壊した時のままだったから、どうやらあいつらの仲間には、魔道具師がいないらしい。

 けど、腕がなくても自走は可能だし、魔法スキル封じの魔道具は、道具の内側に仕込まれてるから、今も有効なままだ。

 ただしルドマス一家の魔道具で封じられるのは現代魔法だけで、アスタロト王子の古代魔法なんかは封じることは出来ないけど。


 けど人間は基本、現代魔法しか使えない。

 エンリツィオ一家は現代魔法使いが中心のメンバー構成だ。そいつを封じられちまったら、みんな戦うことが出来ない。魔法以外のスキルもあるけど、戦闘に特化してるわけじゃない。強いて言えばアダムさんの間合い、蹴術、そして俺のやった強打が、近接戦闘に特化してるけど、アダムさんだって基本は火魔法で戦ってるから、近接戦闘が得意ってわけでもない。喧嘩はやっぱり場数なのだ。 


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 スライ

 27歳

 男

 人間族

 レベル 29

 HP 1052/1052

 MP 598/598

 攻撃力 572

 防御力 428

 俊敏性 356

 知力 287

 称号 〈同族殺し〉〈命を弄ぶもの〉

 魔法 

 スキル 身体強化 身体操作 武器化


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 涼しげな顔の水色の髪の男は、マリィさんと同じ身体強化持ちだったけど、エンリツィオに一目惚れしたバイク、つまり機械族であるアーディカと、おんなじように武器化がスキルにあった。固有スキルに武器化がある時は、倒したら武器に変わったけど、スキル一覧に武器化があると、どうなんのかなって思ってたけど、アーディカはそのスキルを使ってくれなかったから分からなかった。その答えは、どうやらコイツが持っているらしい。


 漫画や映画なんかじゃ、ミュータントみたいな人種がそうだったりするけど、機械族のアーディカはともかく、人間が自分の体を武器化するなんて、普通は不可能なことだ。

 それを可能にしてるのが、身体操作のスキルなのだろう。つまり、あいつは全身武器人間ってことか。アスワンダムの実働部隊は幹部だけだとアシルさんが教えてくれた。以前にエンリツィオが捕まった時に動いてた奴らで、つまりこいつらは相当強いってことだ。


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 ミカディア

 25歳

 女

 人間族

 レベル 28

 HP 985/985

 MP 783/783

 攻撃力 358

 防御力 386

 俊敏性 401

 知力 757

 称号 〈同族殺し〉〈同族喰らい〉

 魔法 

 スキル 悪食 再構成 儀式


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 普通の人間は、そもそもステータスが3桁になるなんてことが殆どないのは、ニナンガの酒場で会ったアテアたちが教えてくれた。

 だから王族たちは勇者召喚をしてるのだ。

 つまり魔物としてはそうでもないけど、2人とも人間にしては、元勇者でもないのに、かなりステータスが高いと言える。

 これもマガの“なりそこない”の特徴なんだろうか。マガの王弟殿下であるジルベスタだって、人間にしちゃ、かなり強いほうだし。


 この、体のラインが出る、前開きのビスチェとかの、ボンテージファッションみたいな黒い服を着た、金髪に真っ赤な口紅の、ミカディアって冷たい表情した女、称号が〈同族殺し〉なのは犯罪集団だから分かるとして、スキルが悪食で、〈同族喰らい〉って、ひょっとして人間を食ってんのか?……オエ。

 人間の肉は、体に悪いものを食べてるせいで、大人になればなるほど不味くなるって聞いたことがある。特に男は不味いって。


 別に食べたからって、能力を取り込めるようなスキルじゃない筈だけど、なんでそれなのにわざわざ人間を食べるんだ?こいつは。

「本当にキレイな子がいるじゃない。いいわあ。あなたたち、とっても美味しそう。どうせ食べるなら、ああいうのがいいわよね。」

 ミカディアがそう言って、唇に人差し指と中指を当てて、まるで舌なめずりでもするみたいに、アダムさんとカールさんを見てる。


 こいつ、アダムさんとカールさんを、物理的に食おうってのか!?気ん持ち悪りぃ!

 そう言って見つめられて、アダムさんとカールさんが、冷や汗を流しながら引き気味にミカディアを見てる。能力が取り込めるわけでもないのに人間を食べるのは、単にあいつからしたら、人間の体が美味いからってことなのか?食人族は現代にもいたけど、そういう特殊な味覚の持ち主なんだろうか。


「……俺たちの顔と体目当てで寄って来る、気持ちの悪い女は星の数ほど見てきたけど、あんな目線を向けられたのは初めてだ。今まで出会った中で一番吐き気がするよ。」

「……同感だ。」

 エンリツィオ一家の中で、というか元の世界でもこの世界でも、他の追随を許さないレベルの顔面強者である、カールさんとアダムさんが、虫けらでも見てるみたいな目線をミカディアに向けている。


 悪食は、毒持ちだとか、食べたら身体にダメージを与える食べ物や生き物を食べても、ダメージを無効、または軽減させるスキルらしい。恐らくはそのスキルで、どんな生き物や人間をも、大勢食らってきたのだろう。再構成ってスキルは、複数の要素の組み合わせで成り立っている物を、再び構成し直すスキルらしい。言葉の意味そのまんまだな。


 けど、儀式ってスキルがよく分かんねえ。

 儀式ってアレだよな?宗教とかでやる、神事とかの別名だ。通過儀礼とかにも使われる事がある言葉だけど、ゲームだとモンスターの特殊召喚をする方法のひとつとして存在する。どちらかといえばそちらなんだろうか。

 心眼で確認してみたけど、スキル項目に詳しい説明が書かれてなくて分からない。


 ある人物をテレビに映してそれを写真にとり、さらにその写真をコピーしたとする。実物、テレビ、写真、コピーと、四つの異なる次元に存在するけど、どれもその人物の形相をとどめている限り、その人物と認知することができる。この形相の同一性を、行為で表現したものが儀式であり、物質で表現したものが象徴である、ともされているけど……。


 アスタロト王子が言っていた。マガの“なりそこない”は、おかしな体で産まれてくる代わりに、特殊なスキルやユニークスキル持ちが多いって。つまり、あれがそれってことか?──だとしたら欲しい。あのスキルが。

「アシルさん、あいつら、男の方は、身体強化、身体操作、武器化持ちの、たぶん全身武器人間です。女の方が、悪食、再構成、儀式です。俺、あの女のスキル、奪います。」


 どんな効果を持つのか分からねえけど、奪っておいて損はない筈だ。

「──やれるの?あいつら、エンリツィオが使われた、ルドマス一家の魔法スキル封じの魔道具を使って来てるよ。……この距離でも僕らの魔法スキルは封じられてる。

 僕の隠密は隠れることしか出来ない。ローマンの洗脳は、あのキメラみたいのに効くのか分からない。カールだって、物体操作の元になるものがなきゃ、戦えないでしょう?」


 とアシルさんが聞いてくる。アシルさんはどうにかこの場をやり過ごす算段を立てようとしてたみたいで、戦闘を望んだ俺の言葉に驚いて目を丸くしていた。

 確かに、今この場でまともに戦えるのは、俺と、アダムさんと、スキルがなくても牙で攻撃出来るユニフェイだけだ。

 巨大なフェンリルが協力してくれればいいんだけど、あいつは俺の言うことを聞かないから、戦力にカウント出来ない。


 ルドマス一家の魔道具に限らず、魔法スキル封じの魔道具じゃ、現代魔法は防げても、アスタロト王子の古代魔法や、俺のスキル強奪なんかの、スキル一覧の項目にあるスキルは防げない。エンリツィオが戦ってた時も、魔道具は発動しっぱなしだったけど、俺はエンリツィオに吹っ飛ばされた、イースラーのスキルを奪うことが出来たし、ライアーからもスキルを奪えたからな。

 それはチムチの地下闘技場で確認してる。


 つまり、スキル一覧の項目にある、聖職者や賢者なんかは、聖魔法だけど使えるかも知れないってことだ。けど、それらも一応現代魔法だから、それも封じられたら、魔法じゃ戦えないってことになる。だからそれをひとつひとつ試してみるしかない。

 俺も近接戦闘に特化したスキルはないし、あっても神速みたく、使いこなせなきゃ意味がないからな。今あるものの中で、使えるものを探すしかない。


 チギラさんは奴らを追いかけて来たくらいだから、たぶん戦えるとは思うけど、1番狙われてる立場だから、出来れば最前線に送り込みたくはない。だけど、みんなを守りながらってなると、正直やりにくいのは事実だ。

「──お前も手伝ってくんねーか?お前の魔族の魔法なら、あいつらの魔道具の影響うけねえだろ?現代魔法じゃねえんだから。」

 俺は英祐のハーレム6人衆の1人である、ほぼオッパイ丸出し女に一応聞いてみた。


 こいつは相当強いのだ。何より魔族の魔法は、あの魔道具でも封じることは出来ない。ことわりが違うから、魔法の発生元が変わるというのは、以前英祐が教えてくれた。

 火が燃える燃料ってのは色々あるけど、それが木なのか、ガスなのか、油なのか、ガソリンなのかでも、火事になった時の消し方が全然違うようなものなのだと。

 こいつが協力してくれたら、他を補ってあまりある戦力になる筈だ。


「……魔族?あの女が魔族だって言うの?」

「ほんとかなあ?見た目で分かる特徴を持ってないから、ちょっと信憑性に欠けるよね。

 でも、アプリティオでもチムチでも、奴らに魔族が協力したことは分かってるんだ。

 ひょっとしたら本当なのかもね。

 だとしたら、ちょっとやっかいだよねえ。

 魔族は1人でも僕らより強いからね。オマケにこの魔法封じの魔道具が効かない。

 どうする?少し様子を見ようか?」

 スライがミカディアに聞いている。


「はあ!?なんでだよ。逃げるってんなら助けてやんなくもないけど、戦うってんなら、あたしは英祐の頼みしか聞かねえぜ?」

 ほぼオッパイ丸出し女が、呆れたように眉間にシワを寄せて、片眉を上げて言う。

「ああ、そうかよ。そう言うと思ったぜ。」

 俺はそう言うと、英祐専用の通信具をアイテムボックスから取り出すと、さっそく英祐を呼び出した。通信が繋がって、通信具の映像を映す部分に、英祐の姿が浮かび上がる。


「匡宏!連絡くれて嬉しいよ。」

 英祐が嬉しそうに微笑んでいる。

「わりぃ、あんまゆっくり話してる暇ねーんだ。お前に頼みたいことがあってさ。」

「──頼みたいこと?どうしたの?」

「英祐!!会いたかったぜ!」

 ホログラムみたいに、魔道具に立体的に浮かび上がった英祐の姿に、ほぼオッパイ丸出し女が、俺の顔の前に顔を出して、目をキラキラさせて魔道具に食い付いて覗き込んでいる。おい、邪魔だ!見えねえだろ!こら!


「えっ、キャロエ!?

 なんで匡宏と一緒にいるの!?」

 英祐が驚愕をしている。

 ふーん、こいつ、キャロエって言うのな。俺には名前すら教えてくれなかったけど。

「英祐を追いかけて来たに決まってんだろ!なんでリシャだけ連れてったんだよ!

 ずりーぞリシャ!」

 キャロエが英祐とリシャに怒っている。

「別になんもずるくねえだろ、それにそういうのは、羨ましいって言うんだよ。」

 俺は呆れたようにキャロエに言った。


「そうですわよ?キャロエ。素直にわたくしが羨ましいって、言ってご覧なさいな。

 あなたには無理ですものね?あなたは料理どころか、戦うことしかできませんもの。」

「リシャあぁあああ!英祐から離れろ!」

 一緒にいたのか、リシャが英祐の隣に寄り添うようにして、キャロエをあおっている。

「なんでって、そりゃあ、まあ、リシャが1番料理がうまいから……。それに僕らの故郷の料理が食べたいってリクエストだったし、記憶から味を読み取って再現することの出来る、リシャにしか無理でしょう?」


 キャロエは困ったように英祐にそう言われて、ぐぬぬぬぬ、という表情で歯噛みした。

「あたしだって!英祐の役に立てる!」

「筋肉脳のあなたに何が出来るんですの?

 わたくし、あなたのことを、1番恋敵だと思っておりませんわよ。だってあなた、わたくしに勝てるところが、なーんにもありませんものね。わたくしが脅威に感じているのは他の面々だけですわ。あなたはハーレム6人衆の中でも最弱。力押ししか出来ない直情型の無能ですものね。英祐の役に立つ立場は、わたくしたちにお任せなさいな。」


 リシャがそう言って、胸に広げた5本の指だけを当てて、英祐に寄り添いながらキャロエをあおるのを見て、俺は心の中で、サンキュー、リシャ、思うツボだわと思っていた。

「なあ、英祐、頼みってのはそれなんだ。

 俺にキャロエを貸してくんねーか?」

「──キャロエを?」

「ああ。今、俺たちは、アスワンダムに襲われてんだ。現代魔法スキル封じの魔道具を使われて、アシルさんたちも戦えない。」


「アシルさんたちもそこにいるの!?」

「──ひさしぶり、英祐君。」

 自分が話題に出たところで、俺たちの様子を伺っていたアシルさんが、魔族専用の魔道具を覗き込んで微笑んだ。

「アシルさん!──みなさんの魔法スキルを封じられてるって、本当ですか!?」

「うん、残念ながら、本当だね。僕らは今、特定のスキル持ちしか戦えないよ。」

 アシルさんがそう言って眉を下げる。


「そんな……。

 キャロエ、お願いだよ、匡宏たちを助けてあげて!僕も今すぐそっちに向かうから!

 キャロエにしか頼めないんだ!」

「──ホントか!?」

 英祐にそう言われて、キャロエが目をキラキラさせはじめる。

「あたしにしか出来ないんじゃあ、しょうがねえなあ。リシャにも無理だもんなあ。」

 キャロエは鼻の下を人差し指でこすりながら、照れて嬉しそうに、イシシ、と笑った。


「わたくしだって、近くにいたら助けられますわよ!たまたまあなたが最も近くにいるからというだけのことですわ!」

「言ってな。あたしが1番お前らの中で力が強いんだ。それは変わらねえ事実だぜ?」

 プリプリして不満をぶつけるリシャに、キャロエは自信を取り戻したかのように、凛々しい顔付きになってそう言った。

「──いいぜ。お前らを助けてやらあ。」

 そう言ってキャロエが俺に向きなおる。


「頼りにしてるぜ、キャロエ。さすがハーレム6人衆1番なだけのことはあるな。」

 俺がキャロエをそう持ち上げると、そ、そうか?と嬉しそうにしているキャロエ。

「ほんとに頼むね?キャロエ。君だけが頼りだよ。匡宏を、みんなを助けて!」

「任せとけよ!英祐の手助けが出来るのは、あたしだけだって教えてやる!」

 キャロエは左の手のひらに、パシン!と右手の拳をうちつけて気合を入れた。


「みんなにアイテムボックスの中に入って貰って、俺とアダムさんとユニフェイとキャロエでやります。いけるな?ユニフェイ。」

 ウォン!とユニフェイが吠える。

「──匡宏さん、俺に、なにか毒のスキルを貰えませんか。痺れでも、眠りでも構いません。魔法以外の状態異常が欲しいです。

 そうすれば俺も戦えます。」

 カールさんが俺にそう頼んで来た。


「状態異常?確かに猛毒はあるけど……。」

 けど、正直その意図が掴めない。毒攻撃の魔物から奪った猛毒スキルは、確かに魔法じゃないから有効だと思うけど、近距離攻撃しか出来ないんだ。後方から攻撃されないように、相手と距離を取って戦うのが、本来の魔法使いの戦闘スタイルだ。防御は圧倒的に弱いのだ。近接スキル持ちのアダムさんのように、カールさんが戦えるとは思えない。


 ましてやあのスライってのは、どう見ても近接職だ。ミカディアだって、たぶんそうだろう。それにもしカールさんがミカディアに近付いたら、カールさんの体を狙っているミカディアに食べられてしまうかも知れない。

「アシルさん、どうしましょう?渡せるスキルはもちろんありますけど……。」

「カールがそこまで言うってことは、何か考えがあるってことだよ。カールにスキルをあげて。僕はそれで構わない。」


「分かりました。カールさん、いきます。」

 俺はカールさんに猛毒のスキルを与えた。

「ありがとうございます。──これで俺も戦える。アダム、サポートするよ。」

「どうするんだ?」

「まあ、見てて。

 ──使えることは、今確認したから。

 アシルさんは、店長さんとローマンと一緒に、タダヒロさんのアイテムボックスの中に避難してらして下さい。」


「わかったよ。今は僕らがいても、足手まといだろうからね。」

 とアシルさんがうなずく。

 俺はアイテムボックスを開いた。足元に近い空中に、巨大な蓋のような物が表れて、勝手に持ちあがると、異空間の入口が開き、そこからアイテムボックスの中に入れるのだ。

 今はアイテムボックスレベル10を手に入れたから、中は相当広い筈だ。


 「店長さんから、俺のアイテムボックスに入って下さい、少なくとも安全ですから。」

「そんなとこ入ったことないよ、怖いね。」

 店長さんはそう言って怖がって、一向にアイテムボックスの中に入ろうとしなかった。

 気持ちは分かるんだけど、こっちは安全地帯なのが分かってるから、すんげー焦れる。

「カシナ姉さん、その方がいい。カシナ姉さんじゃ、あいつらとは戦えない。俺はこれ以上家族を失いたくない。頼むよ、姉さん。」


「……分かったね。」

 チギラさんにそう言われて、店長さんがアイテムボックスの中へと入ろうとする。

「チギラさんも中に入って下さい。あなたは誰よりも狙われている。万が一にも、僕たちはあなたを奪われるわけにはいきません。」

 アシルさんがチギラさんにそう言った。

「しかし……。もし奴らがどこにいるのか分からなくなったら?奴らを倒す機会は早々ない。申し訳ないが、それは承服しかねる。」


 チギラさんはそう言って、アイテムボックスの中に入るのを拒否した。

「……仕方ないね。ローマン。」

「はい。すみませんチギラさん。

 ──洗脳!!」

「くっ……!?」

 ローマンさんがチギラさんに洗脳スキルを発動させ、洗脳にとらわれたチギラさんは、自らアイテムボックスの中へと入って行く。


「──そうはさせるもんですか!

 再構成、アラクネ!!」

 ミカディアがビスチェの腹を下からガバッと開くと、そこに巨大な口が現れた。

 なんだあれ!きめえ!!

 ミカディアの言葉ともに、そこからたくさんのアラクネが現れて、一斉に俺たちに、硬化した糸を放って来る。──あれが、再構成のスキル!あいつが食べて体内に取り込んだものを、再び取り出すことが出来るのか!!


「──店長さん!!危ない!!」

 アイテムボックスに入ろうとしていた店長さんは、同じく洗脳で操られて、自らアイテムボックスに入ろうとしていたチギラさんの近くにいたことで、硬化したアラクネの糸の射程範囲内にいた。店長さんの大ファンの金髪バンダナ男が、思わず店長さんに飛びついて、その体をアラクネの糸からそらした。

「きゃあっ!?」

「うあっ!!」

「うっ!!」


 だけど避けきれずに、チギラさんと、金髪バンダナ男の体を、アラクネの硬化した糸が切り裂いた。チギラさんは、洗脳で操られていたせいで、微動だにしないまま、思い切りアラクネの糸の餌食になってしまう。

「おい!だいじょうぶか!

 ……って、お前、三つ目……?」

 金髪バンダナ男のバンダナが切れて、その下の三つ目があらわになり、おまけにそれが深く傷つけられて血を流している。


「おい、目をやられてんじゃねえか!ちょっと待ってろ!──すみません、アラクネをお願いします!俺、2人を治さねえと!」

「分かった、頼んだよ!特にチギラさんは、僕たちが操ったせいで、自分でよけることも出来なかったんだ!」

 アシルさんがそう叫ぶ。

「逃げる隙は与えてくれなそうだな。」

「まあ、想定の範囲内だ。」

 カールさんとアダムさんが、俺たちの前に立つと、一歩前に出た。アラクネたちが攻撃の意志ありと見て、2人に視線を集中する。


「……くそっ!職業スキルも、聖魔法は全滅か!なんかないのか、なんか……!」

 職業スキルである聖職者も賢者も、現代魔法がすべて封じられてしまっている。

 ──待てよ?こいつ三つ目だよな。

 そもそも人間なのか?もしも人間じゃなかったら、再生が使えるんじゃねえか?

 人間以外はすべて核を持ってて、再生の対象になるって、確か英祐が言ってたしな!

 俺は金髪バンダナ男のステータスを見てみることにした。


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 ヴェルゼル

 21歳

 男

 三つ目族

 レベル 25

 HP 989/1306

 MP 1103/1103

 攻撃力 627

 防御力 565

 俊敏性 519

 知力 826

 称号 〈秘術を極めし者〉〈受け継ぎし者〉

 魔法 

 スキル 三つ目族の秘術 スキル複写 増幅


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 やっぱりそうだ。こいつ、人間じゃない。

 今は回復魔法が使えないから、魔族のアイバーさんの歯を治した時みたいに、他人にかけるやり方で再生することは出来ない。

 だけど再生そのものは使えるけど、再生単体を直接かけるには、俺にテイムされている必要がある。クソッ、この場に恭司がいりゃあな!いったんあいつのテイムを外して、金髪バンダナ男がテイム出来るか試すのに!

 この戦闘中に何があるか分からねえから、ユニフェイを外すわけにいかねえし……!


 ……待てよ。恭司?──そうか!!

 その手があったぜ!!

「──召喚魔法!!

 恭司……、じゃなくて、フェニックス!」

 俺は拳を天空に向けて突き上げた。

 俺の右手を覆って光が集まり、広がったかと思うと一瞬で集まって、1つの巨大な魔物の姿を形どると、それはやがて成体の不死鳥へと姿を変えた。俺はアドゥムブラリから奪った召喚魔法を使ったのだ。


 召喚魔法はスキル一覧にあり、なおかつ現代魔法とはことわりのことなるもの。

 奴らの魔法スキル封じの魔道具でも、封じることの出来ないものだ。

「おわああぁ!!なんじゃこりゃぁあ!!」

 いきなり成体の姿で呼び出されたことに、思いっ切り慌ててる恭司の叫ぶ声がする。

 召喚された奴の意識があるんだな。だからローマンさんの洗脳が効いたってことか?他の奴らとも、ひょっとして会話出来んのか?


「生命を司りし者の祝福!!」

 恭司──フェニックス──を呼び出したことで、スキルの中に表れた回復を選択する。

 回復対象は、死んでいない者。回復魔法では治せない、病気すらも治療対象とあった。

 ──こいつは凄え!

 いずれ医師のスキルを手に入れたいと思ってたけど、こいつがあれば、医者がいなくても大抵の怪我や病気を治すことが出来る!!


 恭司が羽ばたき、その光が粉のように、金髪バンダナ男と、チギラさんの体に降り注いで、その傷が跡形もなく塞がっていく。

 目の痛みに悶えていた金髪バンダナ男は、3つ目の目も、他の目と同時にパチクリと瞬きをして、驚いたように俺の方を見ていた。

 つか、別々に動かせねんだな。それ。

「なんで……俺を助けたんだ?」

「ん?駄目だったか?」

「いや、そういうわけじゃねえけど……。」


「──なにを余計なことをしているの。」

 ミカディアがそう言って睨んだのは、俺じゃなく──金髪バンダナ男のほうだった。

「ちょっと、はやく戻って来なさいよ。魔族がいるから、こっちが不利になっちゃったのよ。見て分からない?──ヴェルゼル。」

「ああ。すまん。」

 ヴェルゼルはそう言うと、腰に付けていたマジックバッグから、ヘアバンドを取り出して額に付けながら、俺の目の前を通り過ぎ、スライとミカディアの方へと歩いて行く。


「……お前……。」

「そういうことだ。……悪いな。」

「……、──お前……?」

 ヴェルゼルは、本当に、すまない、という表情で、俺の方を一瞬見つめた。だけど本当に一瞬で、さっきのことは俺の気の所為だったんじゃねえかと思えるほどだった。

 さっきまで後ろにかばっていたローマンさんも、目を丸くしてヴェルゼルを見ている。


 アスワンダムの幹部の顔を、全員が知ってるわけじゃなかったんだろう。むしろ知ってる人間のほうが少ないと思う。エンリツィオの顔だって、同じ業界でも知らない人間が多いし、一般人は名前すらも聞いたことない人間が殆どだと思う。フルネームを知られると呪術師に狙われることのあるこの世界じゃ、名前を知られて得することのが少ない。一般人向けにはニナンガ国王で通ってるしな。


 ローマンさんはエンリツィオ一家の幹部でもなければ、日頃はエンリツィオやアシルさんに、ついて回って護衛することすらない。

 今回エンリツィオの護衛についたことが大抜擢だったのだ。けど、教えられたり、見聞きする機会がなかったんだろう。カールさんやアダムさんたちが知っているのか気になるみたいで、2人の顔色を伺ってるみたいだ。前からアシルさんつきになることの多かったカールさんは、奴らの顔を知ってるぽいな。


 さすがナンバー2。アシルさんも当然奴らの顔を知ってるんだな。けど……だからか。

 あの時アシルさんが妙な反応をしたのは。

 エンリツィオの3つ目のスキルの話を、俺がヴェルゼルの前でしだしたから。俺も知らないボスのスキルを、敵に知られていいことなんてない。奴らは暗殺を生業としてる諜報組織。エンリツィオに与えた火の女神の加護は戦闘用スキル。──使っていれば、いずれはバレる。今は隠しながら使っていない俺のスキル強奪のことも、当然知られているだろうから、それは話すのを止めなかったんだ。


「そろそろ始めなーい?こっちの戦力も揃ったことだしね。どうせあんたたち、そいつを引き渡すつもりはないんでしょ?脅威なのは魔族だけ。すぐにかたをつけてあげるわ。」

 ミカディアがそう言って笑う。

「──奴らこそがアスワンダムの幹部。エンリツィオをとらえ、彼の恋人を殺し、僕らの仲間をも大勢殺した、王家の手先だよ。」

 アシルさんのその言葉にも、俺は釈然としない気持ちでヴェルゼルを見つめていた。



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月イチノルマ達成です。

まあ、1話の長さが過去最長になりましたね……。

ちなみにアスワンダムの響きは、

ア↓ス↑ワ↑ン↑ダ↑ム↓ではなく、

ア→ス↑ワ↑ン→ダ↓ム↑です。

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