第100話 地下闘技場への誘い
「地下闘技場?」
俺たちは、ルドマス一家から場所指定の手紙が来たと言われて、エンリツィオの部屋に集まっていた。
「そこで戦って勝てば、アンナを返すと言ってきてます。」
アダムさんが教えてくれた。
「メンバーは、俺、お前、アダム、カール、組織の人間以外の助っ人1人が必ず参戦。それと予備としてギュンターとなってるな。
俺をご指名とは強気なモンだ。」
エンリツィオは楽しげに、悪い笑顔を浮かべて笑う。
「この国の貴族たちや金持ちを中心に、集まった客たちが落とす金で運営される地下闘技場です。中には入れば何でもありの非合法地帯ですよ。
恐らく、勝った場合に、組織に対してなにがしかの要求をするつもりなんでしょうね。
そういう場にも使われてます。
代表戦と言ってますが、実質組織対組織の戦いですよ。
ただ、負けた場合向こうもこちらの要求を飲まざるをえません。その為の人質でしょうね。」
カールさんが言う。
「ですが……。確かにアンナはうちのシノギで仕事を与えてはいますが、組織にとって人質の価値はありません。
あるとすれば、匡宏さんだけです。
勝てる自信のあるメンバーを送り込んでくるつもりでしょうが、匡宏さんだけはここで確実に潰すつもりなのでしょう。」
アダムさんが言う。
「その為に、わざわざアンナを人質にとったってのか。
地下闘技場……。
行ってやろうじゃねえの!
けど、正直、なんでギュンターさんなんだ……?みんなは分かるけど、ギュンターさんは戦闘スキルを持ってないのに。
むしろ戦えないスキルの奴らをまとめて指名するとかなら、こっちはメンバーを選べないんだし、目的が明確で分かるけど。」
「確かに、俺もそれは謎です……。」
ギュンターさんも顎に拳の先をつけながら訝しがる。
ん?
俺は並んでいる、エンリツィオ、アダムさん、カールさん、ギュンターさんを見て、1つの共通点に気が付いた。
俺を指名したのはランドルだろうけど、戦えもしないギュンターさんを、この中に混ぜた理由って……。まさかな……。
「せっかくの晴れ舞台だ。
久々に白スーツでキメてくか。」
「お前そんなんも持ってんのか?」
「まあな。」
エンリツィオがニヤリとする。
「いや、てか、アニキの立場で、なおかつ握力自慢のアニキがそんなん着たら、なんか漫画のコスプレみたいに見えるっす……。
オマケに向かう場所が地下闘技場って。」
「──コスプレ?」
エンリツィオが不思議そうに首を傾げる。
「いるんだよ、現役ヤクザの組長で、握力自慢の、いっつも白スーツ着てる有名なキャラクターが……。
体重はお前の1.5倍以上あるけど、身長はおんなじくらいか、お前のがちょっと高いかな。」
「ホウ?そいつは面白いな。
どんなキャラクターだ?」
「握撃っつって、こう……、腕を端から血液集めるようにして、ねじることで、血管と筋肉と神経をねじ切って、皮膚をやぶって粉砕する技を持ってるキャラっすね。」
「──こうか?」
恭司の説明に、言うなりエンリツィオが、俺の腕の中心に血液を集めるかのように、絞ってねじってくる。
「いてててて!!
──痛い!痛い!痛い!痛い!」
「おっ、血管はいけるか?
筋肉もまあ、やりようによっちゃ、部分断裂させる程度なら……。
けど、神経までは無理じゃねえか?
そいつの握力、設定いくつだ?」
「公式発表ないんスよね。
本気で握ると自分の握力で自分の拳を潰しちまうレベルとしか……。」
「俺の!俺の抗議!!!」
俺を無視して恭司と喋るエンリツィオの腕を、パンパンパンパンパン!と連続でタップするも、そのままねじり続けられる。
「──あ。」
「お?」
「うわあああ!!!」
俺の腕の血管がドス黒い紫になって浮かび上がる。腕が痺れて痛い。
「やぶれる!やぶれる!本当にやぶれる!」
「いや、無理だな、さすがに。」
そう言ってエンリツィオが俺から手を離す。慌てて回復魔法を施す涙目の俺に、
「悪リィ、つい……。」
と眉を下げて困ったような表情を浮かべて苦笑するエンリツィオ。
「ついじゃねえわ!」
エンリツィオがじゃれているような空気だったので、普通に見守っていたユニフェイが、それを見た途端、俺の前に立ちはだかってエンリツィオに牙をむいて唸りだす。
普段はエンリツィオに懐いてるユニフェイだけど、俺に危害を加えたとなると、さすがに話が別だ。
「スマン……。わざとじゃねえんだ。」
「俺に謝れ!俺に!」
ユニフェイに謝るエンリツィオ。恭司に至っては、やっぱアニキすげー!と大興奮で、怪我した俺をガン無視ときた。
ユニフェイが心配そうに手を舐めてくれる。うう……。俺の味方はお前だけだ……。
エンリツィオは結局耐魔服を着ることになった。
俺たちは揃って地下闘技場へとやって来ると、入口で会場の護衛らしい人に止められ、入場前の説明を受けた。
「1度中に入ると出られません。
また、戦闘が始まりますと、外からの侵入も、魔道具による結界で拒まれます。
戦う予定の参加者は、この時点で全員揃っての入場をお願い致します。」
「え?
どうすんだ?
助っ人まだ来てねえぞ?」
俺はエンリツィオを振り返る。
「ソイツは今ちょっと別の用事があってな。必ず出番がくりゃあ駆けつけるから心配すんな。」
エンリツィオがこともなげに言う。
地下闘技場はコロッセオのようなすり鉢状の座席で、VIP席と思われる飛び出た席があり、他に観客席の正面にも、広めのバルコニーみたいな、飛び出たスペースがあり、そこに1人の男が座っている。
男の前には何やら箱が置かれていて、男はそこに向けて声を張り上げた。
「それでは今回のルールを説明します!
司会はお馴染み、わたくし、マッカール・ラムセス!」
「司会者までいんのか、本格的だなー。
上がって来たわ!」
多分あれは声を大勢に届かせる魔道具なんだろう。それか、どっかにスピーカーでもあんのかな?俺は天井付近を見回すも、見つけることが出来なかった。
司会者が今回のバトルのルール説明を開始しますと言い、俺たちはそれに耳を傾けた。
「今回のルールは至ってシンプル!
勝ちぬき戦だ。
ルドマス一家とエンリツィオ一家の代表同士が対戦をして、3回勝利した方が勝ちとなります!
武器、スキル、魔道具の使用、なんでもあり!
負けた方は、この国における、お互いのシノギを差し出すと共に、この会場の観客にその肉体を差し出すという、鬼畜ルールが提案されています!」
──は?
司会者の言葉に観客席が一斉に、ヤラせろコールをしてくる。
はああああ!?
なんつー歓声だよ!
やっぱりこのメンバー、そういう意図があって選ばれたのか。アダムさんとカールさんが目立つけど、ギュンターさんだって、チムチにいるエンリツィオの部下の中じゃ相当カッコいいのだ。
みんな顔色が悪い。けと、エンリツィオは気にせずニヤついている。
「お前平気なのかよ。」
「好かれても迷惑ではあるが、人気がなかったら、それはそれで納得がいかねえからな。」
長年モテる男をしてるとそういう発想になんのか?まったく理解出来ない。
気持ちが悪くて吐きそうになってくる。これがこの国の貴族と金持ちの集まり?変態ジジイの集まりじゃねえか!
そもそも男の知り合いをそういう対象として見てくることが、いい気分な筈も無い。せめて女の知り合いだったら、そこに乗っかりたい気持ちになることもあるけどさ!
……まてよ。
こいつらが女だったらどうなんだ?
俺は自分自身の精神の安定の為に、このヤジを飛ばされている対象を、女の子で想像してみることにした。
ギュンターさんは、女の子だったら、絶対優しくて笑顔のかわいい純粋な子だよな。
独占素人!ショートカットの可愛い子を町でナンパして、恋人気分で初めてのイチャイチャ撮影!だな、うん。
アダムさんとカールさんは、そもそも女の子だったら、絶対身近に存在しない見た目なんだよなあ……。
有名モデルが万引きで捕まって、警備員に密室での秘密のオシオキ、黙っていて欲しければモデルの友達を紹介しろと言われて最後は友達と2人で……。だな。おお、いけるいける。
エンリツィオがなあ……。
こいつ女だとしても絶対地上最強だろ。ゴツくはないまでも……。
地上最強美人格闘家がアイアンクリ○ゾンシリーズに登場!!地べたに鉄パイプで完全固定させ、好き勝手に(以下略)。
おお!ハマんじやねーか!
声がハスキーで甘いから、どうしても女体化させると、楽器を持たないパンクバンドの、俺が好きなメンバーに近い感じで妄想しちゃうけど。髪色も近いし。
女ってどんだけ強くても、突っ込んじまえばこっちが優位に立てるのがいいとこだよなあ、などとゲスいことを考えていると、
「──何ニヤついてんだ、気持ち悪りぃな。」
妄想に勤しむあまり顔に出ていたらしい。エンリツィオが訝しげに眉を潜めて俺を呆れたように見てくる。
「な、なんでもない。」
「何でもねえって顔じゃねえだろ。
言えよ、正直に。」
言えるか!横でお前を女体化させて、アイアンクリ○ゾンしてました、なんてこと!
「あ。」
「ん?」
エンリツィオが、アダムさんたちと話す為に俺から離れた時、俺の深刻そうで深刻でない表情で上げた声に、恭司が振り返る。
「やっべ、今すっげ重要なこと思い出した……。」
「どした。」
「修学旅行行く前に抜いとこうと思って、父ちゃんのPCで、父ちゃんの趣味じゃねえ動画、うっかりお気に入りして、そのままお気に入り削除のするの忘れたわ。
うわー……。親に性癖がバレる……。」
「そいつはご愁傷さまだな。」
恭司がゲラゲラ笑う。
「対戦相手のステータスを見れるか?」
戻って来たエンリツィオが聞いてくる。
「ああ。右から、魔道具師、身体強化。
大剣使い、反射。
ランドルは知ってるよな。
けど、この場に3人しかいねえのは何でだ?
助っ人とやらが姿を現さないにしても、もう1人いなきゃおかしい筈だけど……。」
俺は首を傾げた。
「アシルさんなんじゃねえか?
アシルさんがルドマス一家の人間なら、戦力的に見てそうだろ。」
「かも知れねえけど……。
なんでこの場にいねえかなんだよ。」
「ちょっくら見てくるぜ。」
そう言って恭司は羽ばたいて行った。
その時アシルさんは、地下闘技場の裏の通路で、人と会っていた。
「君が自ら、僕に接触してくるとはね。
それで?何の用なのさ?
僕これから戦わなくちゃならなくて、忙しいんだよね。」
冷たい表情で微笑むアシルさん。
『あれは……!アニキに伝えねえと!』
それを目撃した恭司は、慌てて音もなくその場を飛び去った。
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